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代金は頂戴していますと云われ、私はお礼を告げてタクシーから降りた。寝損ねた身体は重いし、酔いざめからの長距離のせいか若干車酔いした。
全然駄目だ。私。あの人に対する忠犬メス公っぷりが骨身に染みてる。
思わず頭を抱えて立ち止まる。茶化して自責してみても、当然気は晴れない。足取りは鉛のように重く、車道を挟んですぐのファミレスまでが遠く感じた。
着くと、入口付近の窓際の席にいた真くんが私を見つけて、満面の笑みで手を振ってくれた。
「お疲れ様。顔色悪いけど、大丈夫?」
席につくとキラキラした瞳で見つめられ、テーブルにおいた手を両手で握られた。
「うん。大丈夫」
つい、肩に力が入ってしまう。
「そっか、なにか飲む?」
「……ううん。ちょうどお客さんが来てくれて、だいぶ飲んじゃったから、お水でいい」
「むりやり飲まされたの?」
「そんなことないよ」
真くんの目をまっすぐ見ることができない。ハンドバッグの中の戯れの慰謝料とか、噛みつかれた乳首とか、濡れてはりつく下着とか。なにより、この期に及んでホイホイ絆されている自分自身が最低すぎて。
「あの、ね。真くん。私、真くんの部屋には行けない」
「え?」
さっと彼の笑顔が強張る。
「え? え? どういうこと? あ、じゃあ、涼子さんの部屋ってこと? あ、そうだ。ちょっと事情があって、おれの部屋じゃなくて他のところにしてほしかったんだ」
「……事情? どうかしたの?」
「あっ。それは、その、またあとで話すよ。え。それより急にどうしたの? なんかあった? 客に嫌なことされた?」
「されてない。されてないけど、私、駄目なの」
本当に。駄目っていうか、屑だ。
「駄目って、あ、あの、おれそんなつもり、ない、……わけじゃない、けど、涼子さんの嫌がることはしない。しないから」
「ごめんなさい。そうじゃないの」
「謝らないで、涼子さん。ねぇ、このまま、おれを拒否するつもり? いきなり、おれを一人にする、の?」
真くんの目から涙がこぼれる。その瞬間、真壁さんとの再会に舞い上がっていた気持ちが冷えて、胸の中に重い罪悪感として沈んだ。夢から覚めたような浮遊感と自責の現実に愕然とした。
真壁さんのマンションの浴室で一人で泣いた自分と重なり、さらに胸が苦しくなった。真くんを一人にできない。一人残される辛さを知っていたはずなのに。
「嫌だよ、涼子さん」
真くんは震える声でいい、崩れるように突っ伏した。
「ごめんね、涼子さん」
ひとしきり泣いたあと真くんは目尻を拭い、小さく呟いた。
「ううん。私が悪いの」
「なんか、泣いたりして恥ずかしい。言わない方がいいこといっちゃった。引いたよね」
「ううん。そんなことないよ」
「でも……、なにかあった? 客に嫌がらせされたんじゃないの?」
「ちがうよ。そんなんじゃない……」
胸の中に大きな鉛が沈んだみたいに苦しい。私はなんて悪人なんだろう。私が思っていた以上に真くんは私を思ってくれていた。私は心のどこかで真くんを疑っていた。連絡先を教えてくれないのも、深入りされたくないからだと思っていた。
「そっか。よかった」
涙で濡れた赤い目を少しだけ細めて微笑む。
「ごめんね。真くん」
「謝られるの、怖いよ。涼子さん。きっとよくないことが起こってるんでしょ?」
真くんは私の手を握る。私は握り返すことも引き抜くこともできない。よくないこと。確かによくないことを私が起こしている。あの人を拒めないどころか、流されている。
「……ううん。ないよ。大丈夫」
「本当に? 涼子さんはそばにいてくれる?」
後ろめたさから答えられない。
「それより、真くんの方が辛そう。私の、せいだよね……。ごめんなさい」
「……ううん。涼子さんまで、いなくなっちゃったら……」
視線を下げ、心ここにあらずといった様子で呟く。
「どうかしたの? なにかあったの? 真くん」
真くんはうつむいたまま、実は、と震える声で切り出した。
「最近、友達が、死んじゃったんだ」
「えぇ?」
「すごく仲がよかったやつで、今通ってる資格の専門学校で知り合って……。なかなか試験に受からないから、なんか、ノイローゼみたいになっちゃって、アルコール中毒にもなってて、普段はとてもイイヤツなんだけど、いつの間にか借金とか作ってて……」
真くんは大きく息を吐き出すと両手で顔を覆った。
「……名前だけって約束で、おれ、保証人になっちゃったんだ……」
サァーッと血の気が引いた。自分のことじゃないけれど、結構なショックだった。
「えっ、いくら?」
「百、百五十万……。言ったら、涼子さんに軽蔑されそうで言わなかったけど、おれんち、母子家庭で親には頼れないし、おれもまだバイトで実家から学校に行ってるし……」
「軽蔑するわけ、ないじゃない」
真くんは顔をあげて私を見る。
「母さんも夜の仕事でおれを育ててくれたんだ」
「ご苦労なさったのね。私なんかとは大違い」
「そうだね。涼子さんみたいにきれいじゃなかった」
真くんはうっすら涙の滲んだ目を細めて、くしゃっと笑った。
「上手ね」
つられて少し笑う。
「実は、部屋に取り立てが来てて、できれば涼子さんの部屋にいけないかな?」
「え。私の部屋?」
「……だめ、だよね。こんなやつと関わったら、涼子さんの部屋も危なくなっちゃうもんね」
私の貯金が七十万と少し。あとーー。ふとハンドバッグの中を思い出したけれど、やっぱり、真壁さんのお金を真くんに使うのはさすがに気が咎める。
「真くん、あの、少しなら私、協力できるよ」
家賃や光熱費の引き落としを考えたら貯金を全額とはいかないけれど、一部なら出してもいい。私は、認めたくない事実だけれど、後ろめたさをお金で誤魔化そうとしている。真くんに救われていたくせに、真壁さんを忘れられなかった自分の愚かさを。言い出せない卑怯さも、お金で誤魔化そうとしているにすぎない。
そんなことも知らず、真くんは子犬のような眼差しを不思議そうに向けた。
「え、どうして?」
「どうしてって、だ、だって、真くん、困ってるんだよね?」
「いやだ。いらない」
「でも……」
「そんなことより、不安なんだ。涼子さん。このままバイバイは嫌だよ。一緒に、横に寝てくれるだけでいい。どこかで、朝まで一緒にいて」
真壁さんに揺れてるくせに。そんな中途半端な自分が嫌で真くんから離れようとしたくせに。
でも放っておけない。そうだ。真壁さんは身を引いてくれた。いつまでも過去に囚われてうだうだしてちゃだめ。
「涼子さん?」
「……ごめんなさい」
駄目だとわかっているのに、私には真壁さんを見限ることも、真くんを見捨てることもできない。
「涼子さん。どうしちゃったの?」
「ちょっと、待っててくれる?」
「ど、どこかにいくの?」
「トイレ。実は急にアレになっちゃったみたいで。コンビニで買ってきたいの。すぐ戻るから」
「え。あ、う、うん」
バッグを持って席を立つ。真くんは面食らって、呆然と私を見送った。
ギリギリ。本当にギリギリだった。約五分前の滑り込みセーフで私はコンビニのATMで五十万を下ろしていた。備え付けの封筒にごわついた札束を入れて周りを気にしながら、コンビニをでた。
また、小雨が降りだしていた。
濡れた闇に浮かび上がるファミレスに頬杖をついて携帯電話を操作する真くんが見えた。ひとりぼっちをもて余してふて腐れているみたいだ。もしかしたら、私といるときに携帯電話を出さないのは、彼の気遣いだったかもしれない。
真壁さんがいなくなって、職も失って、自分自身にも失望しながら、しぶとく生きてきた。砂を噛むような日々に現れたオアシスが、真くんだった。それなのに、私ときたら。
「ごめんね。お待たせ」
小雨に濡れたせいで、空調の効いた店内が少し肌寒い。真くんは私の姿にハッとして、携帯電話をしまった。
「だ、大丈夫? 涼子さん」
「うん。あのね、真くん」
私は手に持っていた封筒をテーブルに置いた。
「これ。足りないけど、少しでも足しにして? 今夜はどこかビジネスホテルでも泊まってゆっくりして」
「え……。涼子さんは……?」
「私は、ほら、アレだし、外泊は心許ないから……、ごめんね」
「そんな……」
「あの。私ね、この仕事始める前に色々あって、本当に何もかもうまくいかなくて辛かったの。そんなとき、真くんに出会って、あなたの優しさに救われたの。だから、そのお礼」
私は真くんに封筒を握らせる。卑怯にも、肝心なことを濁したまま。
「涼子さん……」
真くんは俯いたまま、小さく頷く。
「ね。私にできることをさせて?」
「じゃあ、尚更受け取れない。これを受け取ったら、僕は涼子さんへの気持ちを売ったことになる。こんなものの為にあの時貴女に声を掛けた訳じゃない」
胸がいっぱいになって、涙が込み上げてきた。そうだ。何を血迷っていたんだろう。
「ごめんなさい……。真くん。ごめんなさい……」
真壁さんは何でも持っている。あの人がその気になれば、孤独を癒してくれる相応の相手が見つかるはずだ。でも、真くんは、そうじゃない。
「涼子さんが謝ることなんてないよ」
「ううん。私、最低だ。ねえ真くん。やっぱりこれは受け取って。頑張って二人で借金返そう。私でよければ力になるから」
「涼子さん……」
「お母さんにも心配かけちゃだめだよ」
「……涼子さん」
真くんは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「大丈夫……?」
真くんの肩が震えている。鼻をすすると、息を吐くように言った。
「ありがとう、涼子さん。本当にありがとう」
「泣かないで、真くん」
「ごめん。涼子さんの気持ちが嬉しくて」
「喜んでもらえてよかった」
前を向かなきゃ。少しずつでも。借金だって、二人で頑張れば、すぐに返せる。その頃には私と真くんの関係も少しは形作られているかもしれない。
全然駄目だ。私。あの人に対する忠犬メス公っぷりが骨身に染みてる。
思わず頭を抱えて立ち止まる。茶化して自責してみても、当然気は晴れない。足取りは鉛のように重く、車道を挟んですぐのファミレスまでが遠く感じた。
着くと、入口付近の窓際の席にいた真くんが私を見つけて、満面の笑みで手を振ってくれた。
「お疲れ様。顔色悪いけど、大丈夫?」
席につくとキラキラした瞳で見つめられ、テーブルにおいた手を両手で握られた。
「うん。大丈夫」
つい、肩に力が入ってしまう。
「そっか、なにか飲む?」
「……ううん。ちょうどお客さんが来てくれて、だいぶ飲んじゃったから、お水でいい」
「むりやり飲まされたの?」
「そんなことないよ」
真くんの目をまっすぐ見ることができない。ハンドバッグの中の戯れの慰謝料とか、噛みつかれた乳首とか、濡れてはりつく下着とか。なにより、この期に及んでホイホイ絆されている自分自身が最低すぎて。
「あの、ね。真くん。私、真くんの部屋には行けない」
「え?」
さっと彼の笑顔が強張る。
「え? え? どういうこと? あ、じゃあ、涼子さんの部屋ってこと? あ、そうだ。ちょっと事情があって、おれの部屋じゃなくて他のところにしてほしかったんだ」
「……事情? どうかしたの?」
「あっ。それは、その、またあとで話すよ。え。それより急にどうしたの? なんかあった? 客に嫌なことされた?」
「されてない。されてないけど、私、駄目なの」
本当に。駄目っていうか、屑だ。
「駄目って、あ、あの、おれそんなつもり、ない、……わけじゃない、けど、涼子さんの嫌がることはしない。しないから」
「ごめんなさい。そうじゃないの」
「謝らないで、涼子さん。ねぇ、このまま、おれを拒否するつもり? いきなり、おれを一人にする、の?」
真くんの目から涙がこぼれる。その瞬間、真壁さんとの再会に舞い上がっていた気持ちが冷えて、胸の中に重い罪悪感として沈んだ。夢から覚めたような浮遊感と自責の現実に愕然とした。
真壁さんのマンションの浴室で一人で泣いた自分と重なり、さらに胸が苦しくなった。真くんを一人にできない。一人残される辛さを知っていたはずなのに。
「嫌だよ、涼子さん」
真くんは震える声でいい、崩れるように突っ伏した。
「ごめんね、涼子さん」
ひとしきり泣いたあと真くんは目尻を拭い、小さく呟いた。
「ううん。私が悪いの」
「なんか、泣いたりして恥ずかしい。言わない方がいいこといっちゃった。引いたよね」
「ううん。そんなことないよ」
「でも……、なにかあった? 客に嫌がらせされたんじゃないの?」
「ちがうよ。そんなんじゃない……」
胸の中に大きな鉛が沈んだみたいに苦しい。私はなんて悪人なんだろう。私が思っていた以上に真くんは私を思ってくれていた。私は心のどこかで真くんを疑っていた。連絡先を教えてくれないのも、深入りされたくないからだと思っていた。
「そっか。よかった」
涙で濡れた赤い目を少しだけ細めて微笑む。
「ごめんね。真くん」
「謝られるの、怖いよ。涼子さん。きっとよくないことが起こってるんでしょ?」
真くんは私の手を握る。私は握り返すことも引き抜くこともできない。よくないこと。確かによくないことを私が起こしている。あの人を拒めないどころか、流されている。
「……ううん。ないよ。大丈夫」
「本当に? 涼子さんはそばにいてくれる?」
後ろめたさから答えられない。
「それより、真くんの方が辛そう。私の、せいだよね……。ごめんなさい」
「……ううん。涼子さんまで、いなくなっちゃったら……」
視線を下げ、心ここにあらずといった様子で呟く。
「どうかしたの? なにかあったの? 真くん」
真くんはうつむいたまま、実は、と震える声で切り出した。
「最近、友達が、死んじゃったんだ」
「えぇ?」
「すごく仲がよかったやつで、今通ってる資格の専門学校で知り合って……。なかなか試験に受からないから、なんか、ノイローゼみたいになっちゃって、アルコール中毒にもなってて、普段はとてもイイヤツなんだけど、いつの間にか借金とか作ってて……」
真くんは大きく息を吐き出すと両手で顔を覆った。
「……名前だけって約束で、おれ、保証人になっちゃったんだ……」
サァーッと血の気が引いた。自分のことじゃないけれど、結構なショックだった。
「えっ、いくら?」
「百、百五十万……。言ったら、涼子さんに軽蔑されそうで言わなかったけど、おれんち、母子家庭で親には頼れないし、おれもまだバイトで実家から学校に行ってるし……」
「軽蔑するわけ、ないじゃない」
真くんは顔をあげて私を見る。
「母さんも夜の仕事でおれを育ててくれたんだ」
「ご苦労なさったのね。私なんかとは大違い」
「そうだね。涼子さんみたいにきれいじゃなかった」
真くんはうっすら涙の滲んだ目を細めて、くしゃっと笑った。
「上手ね」
つられて少し笑う。
「実は、部屋に取り立てが来てて、できれば涼子さんの部屋にいけないかな?」
「え。私の部屋?」
「……だめ、だよね。こんなやつと関わったら、涼子さんの部屋も危なくなっちゃうもんね」
私の貯金が七十万と少し。あとーー。ふとハンドバッグの中を思い出したけれど、やっぱり、真壁さんのお金を真くんに使うのはさすがに気が咎める。
「真くん、あの、少しなら私、協力できるよ」
家賃や光熱費の引き落としを考えたら貯金を全額とはいかないけれど、一部なら出してもいい。私は、認めたくない事実だけれど、後ろめたさをお金で誤魔化そうとしている。真くんに救われていたくせに、真壁さんを忘れられなかった自分の愚かさを。言い出せない卑怯さも、お金で誤魔化そうとしているにすぎない。
そんなことも知らず、真くんは子犬のような眼差しを不思議そうに向けた。
「え、どうして?」
「どうしてって、だ、だって、真くん、困ってるんだよね?」
「いやだ。いらない」
「でも……」
「そんなことより、不安なんだ。涼子さん。このままバイバイは嫌だよ。一緒に、横に寝てくれるだけでいい。どこかで、朝まで一緒にいて」
真壁さんに揺れてるくせに。そんな中途半端な自分が嫌で真くんから離れようとしたくせに。
でも放っておけない。そうだ。真壁さんは身を引いてくれた。いつまでも過去に囚われてうだうだしてちゃだめ。
「涼子さん?」
「……ごめんなさい」
駄目だとわかっているのに、私には真壁さんを見限ることも、真くんを見捨てることもできない。
「涼子さん。どうしちゃったの?」
「ちょっと、待っててくれる?」
「ど、どこかにいくの?」
「トイレ。実は急にアレになっちゃったみたいで。コンビニで買ってきたいの。すぐ戻るから」
「え。あ、う、うん」
バッグを持って席を立つ。真くんは面食らって、呆然と私を見送った。
ギリギリ。本当にギリギリだった。約五分前の滑り込みセーフで私はコンビニのATMで五十万を下ろしていた。備え付けの封筒にごわついた札束を入れて周りを気にしながら、コンビニをでた。
また、小雨が降りだしていた。
濡れた闇に浮かび上がるファミレスに頬杖をついて携帯電話を操作する真くんが見えた。ひとりぼっちをもて余してふて腐れているみたいだ。もしかしたら、私といるときに携帯電話を出さないのは、彼の気遣いだったかもしれない。
真壁さんがいなくなって、職も失って、自分自身にも失望しながら、しぶとく生きてきた。砂を噛むような日々に現れたオアシスが、真くんだった。それなのに、私ときたら。
「ごめんね。お待たせ」
小雨に濡れたせいで、空調の効いた店内が少し肌寒い。真くんは私の姿にハッとして、携帯電話をしまった。
「だ、大丈夫? 涼子さん」
「うん。あのね、真くん」
私は手に持っていた封筒をテーブルに置いた。
「これ。足りないけど、少しでも足しにして? 今夜はどこかビジネスホテルでも泊まってゆっくりして」
「え……。涼子さんは……?」
「私は、ほら、アレだし、外泊は心許ないから……、ごめんね」
「そんな……」
「あの。私ね、この仕事始める前に色々あって、本当に何もかもうまくいかなくて辛かったの。そんなとき、真くんに出会って、あなたの優しさに救われたの。だから、そのお礼」
私は真くんに封筒を握らせる。卑怯にも、肝心なことを濁したまま。
「涼子さん……」
真くんは俯いたまま、小さく頷く。
「ね。私にできることをさせて?」
「じゃあ、尚更受け取れない。これを受け取ったら、僕は涼子さんへの気持ちを売ったことになる。こんなものの為にあの時貴女に声を掛けた訳じゃない」
胸がいっぱいになって、涙が込み上げてきた。そうだ。何を血迷っていたんだろう。
「ごめんなさい……。真くん。ごめんなさい……」
真壁さんは何でも持っている。あの人がその気になれば、孤独を癒してくれる相応の相手が見つかるはずだ。でも、真くんは、そうじゃない。
「涼子さんが謝ることなんてないよ」
「ううん。私、最低だ。ねえ真くん。やっぱりこれは受け取って。頑張って二人で借金返そう。私でよければ力になるから」
「涼子さん……」
「お母さんにも心配かけちゃだめだよ」
「……涼子さん」
真くんは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「大丈夫……?」
真くんの肩が震えている。鼻をすすると、息を吐くように言った。
「ありがとう、涼子さん。本当にありがとう」
「泣かないで、真くん」
「ごめん。涼子さんの気持ちが嬉しくて」
「喜んでもらえてよかった」
前を向かなきゃ。少しずつでも。借金だって、二人で頑張れば、すぐに返せる。その頃には私と真くんの関係も少しは形作られているかもしれない。
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