恋の始め方間違えました。

森野きの子

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番外編

HAPPYBIRTHDAY2

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 そして、待ちに待った誕生日。私は明け方から起きて準備を始めた。
 まずは、マカロンの外側を作る。パステルカラーのピンクとブルーの二種類をハート型に十枚ずつ。生クリームに凍ったラズベリーを入れてホイップしてピンク色に。ローズシロップで香り付け。また別にラズベリーとストロベリーとブルーベリーを好きなだけ。カラフルなチョコスプレーとアラザンと小さな星とハート型のスプリンクル用意する。

 人生最高のスイーツを作り、ます!(十五代目ヘンゼル風に)

 恭一さんの朝食はプロテインとコーヒーで済むのであっという間。
「なんか甘い匂いする」
 楽しそうに鼻を鳴らす彼に申し訳なさが刺激される。が、ここで怯んでは私の願いは叶わない。
 勇気を出してお願いするのだ。交渉して掴め栄光。誕生日の特別なギフト。
 ダイニングテーブルに向かい合い、いざ、プレゼン開始。ファイッ! 私の頭のなかでゴングが鳴った。
「恭一さん」
「ん?」
「今日は私の誕生日です」
「そうだな。おめでとう」
「プレゼントの件ですが折り入ってご相談が」
「よし。聞こう」
 前向きな反応。さていつまで続くだろう。いや、弱気では駄目。いかなる相手でも説き伏せてきたじゃない。昔とった杵柄だけど。
 あれ? ちょっと待って。成功させるだけの相手のメリットが見当たらない。いや、怯むな、私。
「私はですね、真壁さん」
「うん? 真壁はお前もだよね」
 いけない。緊張の余り前のノリになってしまった。
「いや、そうなんですけど。それはさておき」
「はい」
「私の好きなものご存じですよね」
「甘いものと凝った下着と、ゴールドのアクセサリーと、服と、俺とセックス」
「ウワァァ改めて言われると生きてるのが恥ずかしいぃ」
「なんで。中世の貴族か姫君みたいな趣味じゃないか。それに俺は仕事と筋トレとお前とセックスだぞ。ほぼ変わらん」
「だって恭一さんは前半ストイックで硬派じゃないですか」
「関係ないだろ。好きなものが多いほど人生は充実する。素晴らしいことじゃないか。で?」
「そうそう。それでですね。今日は私の誕生日というわけで、全部まとめて頂こうかと」
 テーブルの下に置いておいた紙袋から、まず、下着をとりだして並べる。
「あれ? また黒? 薄ピンクのじゃないの?」
 次にパッションピンクのふわふわがついた手錠。
「……え?」
 手錠と私の顔をガン見する。見ないで!
「これを着けていただきたいんです」
「………うん? 俺が涼子に着せればいいの?」
「い・い・え。恭・一・さ・ん・に・! 着て欲しいんです」
「え。俺が? ……………え?」
 ほらドン引き。でもここで私まで引いちゃ駄目。押せ押せ。押すんだ、涼子。
「私、恭一さんの鍛え上げられた大胸筋と腹筋と前鋸筋と、いや腕も背中もお尻も、いや、眼も睫毛も鼻も唇も、あれ? 顎のラインも首も喉仏も鎖骨も、足もアキレス腱も……どうしましょう、言い出したらキリがない」
「うん。いいよ。聞くから続けて」
「とにかく全部に欲情するんです。あっ指も! 手の甲の骨とか筋とか、膝の形も好きです」
「どうもありがとう。それでどうして女物の下着を着けさせたいに繋がるんだ?」
「恭一さんの鍛えられた筋肉は芸術品でしょう? このランジェリーも肉体美を表現するために作られたものなわけで、合わない理由が見つからない訳です」
「うん。選考結果を言わせてもらうと、却下だ」
「やっぱり!」
「やっぱりってなんだやっぱりって。じゃあ、今から下剤と浣腸買ってくるから、スカトロファックしよう」
「……え?」
 なに言ってるの、この人。まさか、そんな趣味があったなんて。え、本気なんだろうか。でも、本気なら、恭一さんがどうしてもと云うなら、考えなくもないけど、どうしよう。いや、やっぱり、スカトロはやだな。
「あと、荒縄も用意するから縛っていい?」
「え、本気ですか?」
「どちらも純文学の題材になるような高尚な行為だろ? それなら涼子の提案も許可するよ」
「そんな……。いくら恭一さんの趣味でも無理です。本当に無理です」
 深い溜息。長い、盛大な。朝イチからお疲れ?
「俺の気持ちわかった?」
「ええ。痛いほど。というか私の提案スカトロレベルなんですか?」
「個人の趣味はそれぞれだ。女装癖もあるだろう。趣味は多いほど人生は退屈しない。結構なことだが、俺に女装癖はない」
「……そんな、じゃあ、この素敵なランジェリーはどうなるんですか? サイドタイはベルベットでオールシルクなのに。この上品なシルクから、窮屈そうに足掻く、屹立した恭一さんの男性を拝見したかったのに!」
「頭大丈夫か? アメリカ行く?」
「旅行以外に用はありません。治療なんていりませんから!」
「ちなみにいくらした?」
「手錠は一万しないくらいで、このサイドタイのは二万です」
「さん、え? さん、まん……?」
「そしてこれはセールになってて四万五千円でした」
「ほう」
 ロングガウンの前をはだけてリクエストだったベビードールを披露するといくらか表情が軟化した。
「涼子、一応聞いとく。台所の色とりどりの菓子は?」
「恭一さんに盛りつけて極上スイーツ男子にしたかったんです。甘いもの×男前なんて夢みたい。私の夢カワイイが夢幻の如くなり!!」
 泣き真似したけど本当に泣きたくなってきた。
「涼子」
 恭一さんの溜息が再び。
「ほら」
 自分の手首に手錠をかけて見せる。けれど手錠は女性向けなのか、微妙にかからない。
「ちょっと、手、貸してみ?」
 宥めるように優しい声に誘われ、両手を差し出す。カシャン、カシャンとすんなり掛かった。
「鍵は?」
「ガウンのポケットです」
「……馬鹿も休み休み言えよと思ったけど」
 恭一さんがふと呟く。
「馬鹿な子ほど可愛いって云うもんな」
 悪魔が来たりて獲物を嗤う。
「冗談……ですよね?」
 ことごとくマイプランを跳ね返された挙げ句、手錠をかけられた私の末路、これ如何に。

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