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#22
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近場の深夜営業のラーメン屋に入り、小上がりに座って、おしぼりのビニールを破って手を拭く。
「なんにする?」
「ん。普通のラーメンでいい。織部は?」
益子は顔と手を拭きながら、壁に貼られた品書きを見て言った。
「私も」
「ちょっと待て。その前に瓶ビールと餃子いこうぜ」
「嘘でしょ? あんた、さっき生ジョッキ五杯と焼酎ロックで四合瓶空けて、ハイボールジョッキで三杯飲んでなかった?」
「いちいち覚えてんのかよ。水分しか摂ってねーだろ。お前、食わねえの?」
「グラス一杯と餃子二個ならいける」
「オッケ。すみませーん」
益子は瓶ビールと餃子二枚とラーメンを二つ注文すると、手を顎の下で組んだ。
「つーかさ。真壁さんに織部の様子を見てきてくれって頼まれたんだけど、なんで? お前ら付き合ってねえの?」
「付き合えるわけないでしょ。落ちぶれて惰性で水商売してるような女だよ」
「うん。でも、それもわかってわざわざ探し当てて会いに来たんだよな? あの人」
「そうだよ。すごいよね」
「で、やったんだろ?」
「ま、まあ……。うん……」
「すげぇな。織部。」
「いや、すごいのは真壁さんだよ?」
「いやいや。そうじゃねーよ。でも、まあ、五年だもんな。そりゃ考え方も変わるよな。」
「なにが」
「あんなにベタ惚れしてた男をヤリ捨てするんだもんな。恐れ入ったわ。ほんっと変わるもんだなぁ」
予想しなかった言葉に衝撃を受けた。益子は笑っている。
「ヤリ捨て……って」
「あの頃の織部からじゃ想像もつかねーな。一回喰ったら満足したのか? それとも幻滅しての結果? それとも、復讐? まあ、吹っ切れた?」
栓の抜かれたビールとグラスが二つ食卓に置かれて、益子は両方に注ぎ、一つを私の前に置いた。
「なにいってんの? ふざけてんの? バカにしてんの?」
「は? なに切れてんの?」
「あんたがヤリ捨てとかひどい言い方するからじゃない」
「え。違うの? 自分から動かず、来た相手の好意に乗っかって美味しいとこだけ頂いてさよならしたんじゃねーの? 自分を捨てた男に復讐? やるじゃん、織部。策士だな。なんならもっと金引き出してやればよかったのに、いくらでも出すだろ」
「黙って。なんなの、あんた。」
「ビンタくらい飛んでくるかと思ったけど、冷静だな」
「していいならするけど?」
益子は軽く笑い飛ばして、首をかしげた。
「一通り食ってからにして」
私のグラスに自分のグラスを軽くぶつける。私は腹立ち紛れにグラスを空にした。焼きたての餃子が運ばれてきたので、瓶ビールを追加した。
「お。いくねぇ」
「ムカついてきたから炭酸飲みたい。なんなの、あんた。本当に。こっちの気も知らないくせに」
言わなくてもお代わりが注がれる。
「知らねーよ。知らねーから吐け。ゲロの始末は慣れてる」
「営業部長様も大変ね」
「労ってくれんの?」
「おちょくってんのよ」
「どこがだよ」
苦笑しながら、自分のグラスにも注ぎ足し、一気に呷る。
「いやマジでさ、俺、自分が言うとは思わなかった台詞があんだけど。」
「なに?」
餃子を口にいれたので短く応える。
「あの頃はよかった」
あまりのベタな台詞に餃子を噴きそうになった。益子も自分で言っておきながらゲラゲラ笑っている。
「だってさー。人の百倍仕事するのに無駄な干渉してこねー上司と、紅一点で仕事バリバリこなして、気の合う同期がいてさ、三つ巴でガンガン契約取って、お互い成績上げまくってんのに、負の感情なしでやっていけてさー、社内でも一目置かれて気持ちよかったじゃん。向かうところ敵なしで。なのに、真壁さんがいなくなった途端、全部崩れてさ、織部に対する周りの奴らの掌返しもすごかったよな。で、俺一人残って、織部も辛かっただろうけど、俺もキツかったんだぜ。仕事できねーくせに文句ばっか垂れる無能と俺の業績横取りするだけの阿保上司しかいねーの。ほんと、地獄だったわ」
「……ごめん。謝っても、済むことじゃないけど、私、自分のことばかり……、ごめん。」
益子が、ふっと笑った。
「クソちょろいな。織部」
「な、なによ。益子のディスって上げようとする優しさなんかお見通しなんだからね! 私にも反省させてよ」
「痛み分けでいいんじゃね?」
「益子も真壁さんも優しすぎるんじゃない?」
「そりゃ、男だからな。涙とパンツ見せられたらそりゃもう、すーぐ許すよ」
と、食卓の下を覗きこむ。
「薄手の黒ストッキングってエロいよな。許してほしけりゃちょっと太ももで顔挟んでくんねえ?」
「一発でいいから殴らせて」
「え? 一発でいいからヤらせて? 猛獣じゃないですか織部さんヤダー。」
丸めたおしぼりを投げつけると、笑いながら呆気なくキャッチされた。
「キャッチすんなー!」
「元バスケ部ナメんなよ」
「そこは野球部じゃないの?」
「坊主なんか絶対やだ」
「女子受けツーブロックパーマだもんね。もー。すぐモテ意識するんだからー」
「私、この髪型にするようになって女子大生の彼女が出来ました。去年のクリスマスまでの半年でしたけど。」
「あらあらまんまとカモにされちゃって」
「まあ。半年間ムスコがお世話になったんでね。お歳暮くらいね」
「げっす! サイテー!」
ラーメンが来たのでくだらない会話を中断して食べることに集中した。
外に出ると、夜の冷気が火照った頬を撫でる。久しぶりに好き勝手に喋れたおかげで疲れも酔いも心地いい。また飲もうと約束して連絡先を交換した。タクシーを拾って、私の家まで回ってくれた。
「真壁さんとはより戻さねーの?」
「戻せるわけないでしょ」
「今度は織部から行けば問題ない」
「無理だって」
「なんでよ」
「色々あるの」
「よし。吐け」
「ちょっと、若いツバメが」
「はぁぁあ? マジかよ」
「そっちとはプラトニックな関係よ? 電話番号も知らない。けど、辛いとき彼の存在に救われたの。なのに、真壁さんがフラッと現れたらもうそっちのけ。忠犬メス公まっしぐら」
「言い方。つーか、なにが問題なわけ? 結婚してるわけでもねーのに」
「気持ちの問題。なんでそんなに益子が食い下がってくるわけ?」
「俺があの時無駄に介入したせいで、織部たちの仲を壊したんじゃないか」
「まさか、あんたそれずっと思ってたの?」
「織部だって思わなかったか?」
「益子は応援してくれたじゃない。私がちゃんと伝えなかったからだよ。」
「そうか……?」
「まさか、真壁さんに云われた?」
「あの人はそんなこと云わねーよ」
「だよね! よかった。でも、益子。ごめん。苦しめてごめんね。益子はなんにも悪くなかったよ」
「……織部だって優しすぎんじゃね?」
「いや、ほら、考えてみなよ。いい大人が自分の恋一つ儘ならないなんて。どうしちゃったの? いつものあんただったら、マシンガンみたいに、けちょんけちょんにディスってくるでしょ? さっきだって、なんだっけ、阪うぅん」
「阪上な。誤魔化せてねーよ。なんだよ、うぅんって。」
「阪上にまくし立てちゃって、なんてコイツ意地悪なんだろうってビックリしちゃった。」
「いや、なんか知らんけど、織部のことバカにしてるヤツがいたから、つい。でも相手が阪上でやりやすかったわー」
「やっさし~い。おかげで、スッとした。ありがとう」
「いや、別に。俺が勝手にやったことだし。つーか、若いツバメどーすんの」
「亡くなった友達の借金の連帯保証人になっちゃったんだって。彼、今不安で一杯で一人になりたくないんだって。それで、とても困ってたから、とりあえず貯金から五十万下ろして渡したの。」
「はぁぁあ? なんで金渡した? てか、まさか織部の部屋に居るのか?」
「ううん。私の部屋にあるのは愛した人の脱殻だけ」
「いや、なんそれ昭和歌謡? 寒いけど大丈夫? つーか、めっちゃ一人になってんじゃねーか。詐欺にしても杜撰すぎる」
「ねー。店にもこないし。明日は来ると思う。借金残り百万あるし。」
「……あ?」
「ん?」
「織部、あえて金渡した?」
「私、狡い女だったみたい」
「うるせえよ。昭和歌謡」
「ギリギリ昭和生まれですから。はぁぁあ。なんかもう自分が面倒くさくなっちゃった。あと腐れなく終わらせたいの。でも、救われたのは事実だから、なにもせずに別れるのは嫌だったの」
「それ義理堅いんじゃなくて、借りを作ったままでいるのが嫌なだけだろ」
「真壁さんが私にお金出すのすごい嫌なんだけど、私もおんなじことしてる。私はもっと悪質かも。」
「すべての悩みの大半は金で解決できるって昔の偉い人も言ってたぜ。まあ、こん中で一番金持ってる人が解決できない悩みを抱えてるんだけどな。どーすんの? 見殺し?」
ちょうどタクシーがアパートの前に着いた。財布から五千円出そうとすると、益子は支払いを済ませて、運転手に待っててもらうように告げて先に降りてしまった。
「なんで降りちゃうのよ」
慌てて背中を追いかける。
「話の途中だからだよ。どーすんのか訊いただろ」
「見殺しもなにも、私じゃ真壁さんの隣は歩けない」
「やっぱヤリ捨てすんじゃねーか。図星つかれて怒るなよ」
「ヤリ捨てじゃないって言ってんでしょ! バカ!」
「じゃあ、なんだよ? あの人は織部じゃなきゃだめなんだよ。わかってんだろ?」
「そんな、だって……」
「織部がそうしたんだよ。忠犬自称するなら、迷ってもちゃんとご主人様の元に帰れ。織部だって、あの人じゃないとだめなんだろ」
鼻の奥がつんとした。目頭が濡れていく。
益子の手がこっちへ伸びた。バチンと額に激痛。
「いった! なにすんのよ、あんた! 普通、ここでデコピンする!?」
「真壁さんに捨てられたら優しく慰めてやるよ。じゃあな。ツバメは適当に捨てとけ」
益子はニヤッと笑ってタクシーに戻っていった。
「そんな簡単にはいかないっつうの。」
Uターンをして、益子を乗せたタクシーが去っていく。いーっと歯を見せて見送った。
携帯が震えて、見てみると益子からのメールが来た。
『ブス』
「うっさいわ!」
なんだかやけに可笑しくなった。
「なんにする?」
「ん。普通のラーメンでいい。織部は?」
益子は顔と手を拭きながら、壁に貼られた品書きを見て言った。
「私も」
「ちょっと待て。その前に瓶ビールと餃子いこうぜ」
「嘘でしょ? あんた、さっき生ジョッキ五杯と焼酎ロックで四合瓶空けて、ハイボールジョッキで三杯飲んでなかった?」
「いちいち覚えてんのかよ。水分しか摂ってねーだろ。お前、食わねえの?」
「グラス一杯と餃子二個ならいける」
「オッケ。すみませーん」
益子は瓶ビールと餃子二枚とラーメンを二つ注文すると、手を顎の下で組んだ。
「つーかさ。真壁さんに織部の様子を見てきてくれって頼まれたんだけど、なんで? お前ら付き合ってねえの?」
「付き合えるわけないでしょ。落ちぶれて惰性で水商売してるような女だよ」
「うん。でも、それもわかってわざわざ探し当てて会いに来たんだよな? あの人」
「そうだよ。すごいよね」
「で、やったんだろ?」
「ま、まあ……。うん……」
「すげぇな。織部。」
「いや、すごいのは真壁さんだよ?」
「いやいや。そうじゃねーよ。でも、まあ、五年だもんな。そりゃ考え方も変わるよな。」
「なにが」
「あんなにベタ惚れしてた男をヤリ捨てするんだもんな。恐れ入ったわ。ほんっと変わるもんだなぁ」
予想しなかった言葉に衝撃を受けた。益子は笑っている。
「ヤリ捨て……って」
「あの頃の織部からじゃ想像もつかねーな。一回喰ったら満足したのか? それとも幻滅しての結果? それとも、復讐? まあ、吹っ切れた?」
栓の抜かれたビールとグラスが二つ食卓に置かれて、益子は両方に注ぎ、一つを私の前に置いた。
「なにいってんの? ふざけてんの? バカにしてんの?」
「は? なに切れてんの?」
「あんたがヤリ捨てとかひどい言い方するからじゃない」
「え。違うの? 自分から動かず、来た相手の好意に乗っかって美味しいとこだけ頂いてさよならしたんじゃねーの? 自分を捨てた男に復讐? やるじゃん、織部。策士だな。なんならもっと金引き出してやればよかったのに、いくらでも出すだろ」
「黙って。なんなの、あんた。」
「ビンタくらい飛んでくるかと思ったけど、冷静だな」
「していいならするけど?」
益子は軽く笑い飛ばして、首をかしげた。
「一通り食ってからにして」
私のグラスに自分のグラスを軽くぶつける。私は腹立ち紛れにグラスを空にした。焼きたての餃子が運ばれてきたので、瓶ビールを追加した。
「お。いくねぇ」
「ムカついてきたから炭酸飲みたい。なんなの、あんた。本当に。こっちの気も知らないくせに」
言わなくてもお代わりが注がれる。
「知らねーよ。知らねーから吐け。ゲロの始末は慣れてる」
「営業部長様も大変ね」
「労ってくれんの?」
「おちょくってんのよ」
「どこがだよ」
苦笑しながら、自分のグラスにも注ぎ足し、一気に呷る。
「いやマジでさ、俺、自分が言うとは思わなかった台詞があんだけど。」
「なに?」
餃子を口にいれたので短く応える。
「あの頃はよかった」
あまりのベタな台詞に餃子を噴きそうになった。益子も自分で言っておきながらゲラゲラ笑っている。
「だってさー。人の百倍仕事するのに無駄な干渉してこねー上司と、紅一点で仕事バリバリこなして、気の合う同期がいてさ、三つ巴でガンガン契約取って、お互い成績上げまくってんのに、負の感情なしでやっていけてさー、社内でも一目置かれて気持ちよかったじゃん。向かうところ敵なしで。なのに、真壁さんがいなくなった途端、全部崩れてさ、織部に対する周りの奴らの掌返しもすごかったよな。で、俺一人残って、織部も辛かっただろうけど、俺もキツかったんだぜ。仕事できねーくせに文句ばっか垂れる無能と俺の業績横取りするだけの阿保上司しかいねーの。ほんと、地獄だったわ」
「……ごめん。謝っても、済むことじゃないけど、私、自分のことばかり……、ごめん。」
益子が、ふっと笑った。
「クソちょろいな。織部」
「な、なによ。益子のディスって上げようとする優しさなんかお見通しなんだからね! 私にも反省させてよ」
「痛み分けでいいんじゃね?」
「益子も真壁さんも優しすぎるんじゃない?」
「そりゃ、男だからな。涙とパンツ見せられたらそりゃもう、すーぐ許すよ」
と、食卓の下を覗きこむ。
「薄手の黒ストッキングってエロいよな。許してほしけりゃちょっと太ももで顔挟んでくんねえ?」
「一発でいいから殴らせて」
「え? 一発でいいからヤらせて? 猛獣じゃないですか織部さんヤダー。」
丸めたおしぼりを投げつけると、笑いながら呆気なくキャッチされた。
「キャッチすんなー!」
「元バスケ部ナメんなよ」
「そこは野球部じゃないの?」
「坊主なんか絶対やだ」
「女子受けツーブロックパーマだもんね。もー。すぐモテ意識するんだからー」
「私、この髪型にするようになって女子大生の彼女が出来ました。去年のクリスマスまでの半年でしたけど。」
「あらあらまんまとカモにされちゃって」
「まあ。半年間ムスコがお世話になったんでね。お歳暮くらいね」
「げっす! サイテー!」
ラーメンが来たのでくだらない会話を中断して食べることに集中した。
外に出ると、夜の冷気が火照った頬を撫でる。久しぶりに好き勝手に喋れたおかげで疲れも酔いも心地いい。また飲もうと約束して連絡先を交換した。タクシーを拾って、私の家まで回ってくれた。
「真壁さんとはより戻さねーの?」
「戻せるわけないでしょ」
「今度は織部から行けば問題ない」
「無理だって」
「なんでよ」
「色々あるの」
「よし。吐け」
「ちょっと、若いツバメが」
「はぁぁあ? マジかよ」
「そっちとはプラトニックな関係よ? 電話番号も知らない。けど、辛いとき彼の存在に救われたの。なのに、真壁さんがフラッと現れたらもうそっちのけ。忠犬メス公まっしぐら」
「言い方。つーか、なにが問題なわけ? 結婚してるわけでもねーのに」
「気持ちの問題。なんでそんなに益子が食い下がってくるわけ?」
「俺があの時無駄に介入したせいで、織部たちの仲を壊したんじゃないか」
「まさか、あんたそれずっと思ってたの?」
「織部だって思わなかったか?」
「益子は応援してくれたじゃない。私がちゃんと伝えなかったからだよ。」
「そうか……?」
「まさか、真壁さんに云われた?」
「あの人はそんなこと云わねーよ」
「だよね! よかった。でも、益子。ごめん。苦しめてごめんね。益子はなんにも悪くなかったよ」
「……織部だって優しすぎんじゃね?」
「いや、ほら、考えてみなよ。いい大人が自分の恋一つ儘ならないなんて。どうしちゃったの? いつものあんただったら、マシンガンみたいに、けちょんけちょんにディスってくるでしょ? さっきだって、なんだっけ、阪うぅん」
「阪上な。誤魔化せてねーよ。なんだよ、うぅんって。」
「阪上にまくし立てちゃって、なんてコイツ意地悪なんだろうってビックリしちゃった。」
「いや、なんか知らんけど、織部のことバカにしてるヤツがいたから、つい。でも相手が阪上でやりやすかったわー」
「やっさし~い。おかげで、スッとした。ありがとう」
「いや、別に。俺が勝手にやったことだし。つーか、若いツバメどーすんの」
「亡くなった友達の借金の連帯保証人になっちゃったんだって。彼、今不安で一杯で一人になりたくないんだって。それで、とても困ってたから、とりあえず貯金から五十万下ろして渡したの。」
「はぁぁあ? なんで金渡した? てか、まさか織部の部屋に居るのか?」
「ううん。私の部屋にあるのは愛した人の脱殻だけ」
「いや、なんそれ昭和歌謡? 寒いけど大丈夫? つーか、めっちゃ一人になってんじゃねーか。詐欺にしても杜撰すぎる」
「ねー。店にもこないし。明日は来ると思う。借金残り百万あるし。」
「……あ?」
「ん?」
「織部、あえて金渡した?」
「私、狡い女だったみたい」
「うるせえよ。昭和歌謡」
「ギリギリ昭和生まれですから。はぁぁあ。なんかもう自分が面倒くさくなっちゃった。あと腐れなく終わらせたいの。でも、救われたのは事実だから、なにもせずに別れるのは嫌だったの」
「それ義理堅いんじゃなくて、借りを作ったままでいるのが嫌なだけだろ」
「真壁さんが私にお金出すのすごい嫌なんだけど、私もおんなじことしてる。私はもっと悪質かも。」
「すべての悩みの大半は金で解決できるって昔の偉い人も言ってたぜ。まあ、こん中で一番金持ってる人が解決できない悩みを抱えてるんだけどな。どーすんの? 見殺し?」
ちょうどタクシーがアパートの前に着いた。財布から五千円出そうとすると、益子は支払いを済ませて、運転手に待っててもらうように告げて先に降りてしまった。
「なんで降りちゃうのよ」
慌てて背中を追いかける。
「話の途中だからだよ。どーすんのか訊いただろ」
「見殺しもなにも、私じゃ真壁さんの隣は歩けない」
「やっぱヤリ捨てすんじゃねーか。図星つかれて怒るなよ」
「ヤリ捨てじゃないって言ってんでしょ! バカ!」
「じゃあ、なんだよ? あの人は織部じゃなきゃだめなんだよ。わかってんだろ?」
「そんな、だって……」
「織部がそうしたんだよ。忠犬自称するなら、迷ってもちゃんとご主人様の元に帰れ。織部だって、あの人じゃないとだめなんだろ」
鼻の奥がつんとした。目頭が濡れていく。
益子の手がこっちへ伸びた。バチンと額に激痛。
「いった! なにすんのよ、あんた! 普通、ここでデコピンする!?」
「真壁さんに捨てられたら優しく慰めてやるよ。じゃあな。ツバメは適当に捨てとけ」
益子はニヤッと笑ってタクシーに戻っていった。
「そんな簡単にはいかないっつうの。」
Uターンをして、益子を乗せたタクシーが去っていく。いーっと歯を見せて見送った。
携帯が震えて、見てみると益子からのメールが来た。
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なんだかやけに可笑しくなった。
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