不死鳥と救世使~異世界冒険記~

紅葉 楓

文字の大きさ
5 / 15
第一章

4 剣に選ばれし者

しおりを挟む
俺は今一人、応接室のようなところで熱い紅茶を頂いている。イワンさんが気をきかせて一人にしてくれたのだ。この部屋に来る途中、簡単に世界のことを教えてもらった。

この世界の名は“リューズ”。2つの大陸、ウエストリア大陸とイーストラス大陸に分かれていて、ここはウエストリア大陸の北、ヴェルメリオ王国・王都セントフレア。なんと王城の中らしい。どうりで広いわけだよ。窓から見えた風景は、高い壁に周囲を囲まれ、中世のヨーロッパの雰囲気を感じさせる街並みだった。

これは夢じゃない。熱い紅茶が俺にそう感じさせる。

「救世使に黒の病か……」

異世界に召喚された。小説でもよくあることだ。そこを疑うのはひとまず止めておこう。けれど救世使と呼ばれることには納得がいかない。黒の病だなんて俺にどうにかできる問題じゃないだろう!?やはり間違いじゃないのか……
なんてことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

「アキラ様、失礼致します」

入ってきたのはイワンさんと、白シャツがよく似合う金髪碧眼のダンディーなおじさん。それと端正な顔立ちの、茶色の長い髪をひとつの三つ編みでまとめた青い瞳をした女性。全体的に色素が薄い。こちらはイワンさんの服を簡素にした感じのものを着ている。あとは扉の近くに執事のような男性が立っている。

「私はこの国の国王、ウィリアム・ヴァン・ヴェルメリオと申す」

ダンディーなおじさんはなんと王様だった!慌てて俺も立ち上がる。

「アキラ殿、勝手は重々承知している。だが我々はもはや伝承に頼るしか手立てがないのだ。召喚の儀は成功しアキラ殿がここにいる。伝承の通りならば、そなたにはこの世界を救う力があるはず。どうか救世使となり力を貸してほしい」

王様は俺に向かって頭を下げた。もう誰も彼も頭を下げるのはやめてほしい。俺は一般人なんだ!

「ちょっと待ってください!俺には何の力もありません。なぜ俺が救世使なんですか?」

「それは私が説明致します」

イワンさんが話し始めた。

「剣をこちらへ」

三つ編みの女性がイワンさんに手渡す。

「宝剣クラウ・ソラス。アキラ様の召喚の媒体とした剣です。強い光の力を秘め、“光の剣”と呼ばれております」

光の剣。たしかさっきも聞いたような。

「アキラ様、刀身をご覧になってみてください」

イワンさんから剣を渡される。こんな大層な剣を俺に渡していいのか?剣は細身で不思議と思っていたほどの重さはなかった。柄も鞘も鍔も白銀の綺麗な剣。よく見ると細やかな装飾が施してある。俺はゆっくりと鞘から少し引き抜いた。刀身も白銀。これはカタナだ。炎が揺らめくような刃紋がとても美しい。

「その剣は持ち主を選びます。剣に選ばれた者にしか鞘から抜くことはできず、またその力を十分に扱うことはできません。実は私たちもその剣の刀身は今初めて見ました」

え?マジで?普通に抜けたんですけど……
イワンさんがそう言うと、王様も三つ編みの女性もやはりといった顔で俺と剣を見ている。

「剣の導きにより召喚され、剣に選ばれたあなたこそ救世使です」

なんだかもう避けられない気がしてきた。異世界召喚なんていうトンデモなことが起こってるんだ。もういっそ救世使でもなんでも引き受けてやるよ!

「……俺はまず何をすればいいんですか?」

俺は諦めたようにそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。 従属せよ。 これを拒否すれば、戦争である。 追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。 そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るため。 サナリア王が下した決断は。 第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。 王が、帝国の人質として選んだのである。 しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。 伝説の英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

処理中です...