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勉強の合間、集中出来ず…疲れてしんどくなった時、この間の面々の顔を脳裏に浮かべていた。
あの血の繋がりの無い不思議な家族達プラス仏頂面で助けてくれた美貌の塾講師……
辛くなると、あの異世界みたいな空間を漠然と思い出し…あの場に自分が居たら…みたいな妄想に取り憑かれた日々が過ぎた。
塾の帰りの寂しさの増す夕暮れ時、一度知ってしまった優しい世界に触れたくて、耐えきれずに……
頭では……行って、どうなるんだ…
なんて思う気持ちとは裏腹に…
俺は、今、円月家の玄関の前に立っている。
やっぱり、インターホンを押す事が出来ずに、踵を返そうと……
後ろを向いた…
その時、
「おお~、あれぇ?玲央じゃないかぁ~フハハッ」
月明かりに、顔を少し赤らめた一海さんは、千鳥足で、向こうから手を挙げやってくる。
「来てくれたんかぁ~入りな~よぅ」
と戸をガラガラと開けながら、招き入れてくれる。
お邪魔します……と小さな声で呟くと。
「カズミちゃ、おしゃけ、かえた?」
マスクをした詩が出迎えてくれた。
風邪でもひいたのかな?
手にしたビニール袋の中身、お酒が透けて見えた。
どうやら一海さんは、無くなったお酒の追加を買いに行ってたみたいだ。
「れお、にげるよ……」
逃げる?意味の分からない事を言われて首を傾げていると。
急に両頬を両手でグッと挟まれ……
一海さんの顔面が近付いて来た。
意味を理解する前に、すでに唇が重なっていて……
お酒の苦さとプラムみたいな甘い香りが俺の中に広がった。
驚いているのに全く動けず。
その上、プラム味の舌まで挿入されると…
思わず後ろに下がる俺の身体は、前に一海さん、背を壁に挟まれて身動きが、取れずにいた。
さすが、消防士だけあって……ビクともしないな……なんて呑気に考えていたら。
俺の手を力任せに引っぱったのは、拓真さんだった。
「あーあ、やっちまったのかよ……」
盛大に舌打ちしながら現れた美丈夫の塾講師。
「一海、酔うとキスするんだよ……1回だけ……どっかのタイミングで。なんだよ!俺じゃ無かったのかよ!チクショウッ!!」
めちゃくちゃ悔しがっている。
地団駄を踏む…とは、こういう事かと目の前の人を見て勉強した。
俺は今起きたばかりの出来事を見られていた事に対して、急に恥ずかしさが出てきた。
が、された事の衝撃よりも、俺は一海さんが心配になった。
「それって……外で飲んだら、かなり大変なんじゃ?」
「そう!だから!外では呑ませない!今日は、この間お前を助けた貸しの為の、宅呑みだったんだよ!作戦失敗じゃねぇかよ!」
って八つ当たりした後、サッサと居間に行ってしまった。
あー、それでか。
この間……家呑みを妙に躊躇していた一海さんを思い出し、合点がいった。
マスクを外しながら
「れお、ざんねんしょう」
詩が、下から憐れむような目で見てくる。
まぁ、キスされた事には、驚いたけど……
何の感情も持っていない相手とのキスは、事故みたいな感覚で。
それよりも、何故か……
悔しがっている拓真さんの事の方が、妙に気になって……
詩ちゃんが、手を引いてくれる。
居間には、ブスっとむくれ、美々しさ台無しの拓真さんと、マスクを外しながら俺をチラと見る凪くん、ニコニコと赤ら顔の楽しそうな一海さん。
「玲央くん、ご飯食べてきな~」
ユラユラと左右に揺れながら言う一海さんは、少し可愛らしかった。
「あいっ!ここ、すわてっ!」
満面の笑みの詩ちゃんは、横の座布団をポンと叩く。
座れって事だと解釈し、素直に着席した。なんだか、この子の押しには勝てない気がする。
箸を渡される。
目の前に並んだ料理を見ると、唐揚げにポテトサラダ、煮込みバンバーグと……子供が好きそうなメニューが、並んでいた。
「たくまちゃん、ごはん、じょうず」
これは、まさか…拓真さんの手作りなのか…
それに、メニューを見る所、子供に甘いのは…一海さんと実は変わらないんじゃ…
ものすごく驚いていると、凪くんからお皿を渡された。
「美味しいですよ、食べてください」
無表情で言われる事に、若干の親近感を覚えた。
俺も…こんな感じの小学生だったし…
残念ながら、過去形では無くて、今も感情の表現は乏しいと言われる。
皿を受け取って、目の前の、唐揚げを箸で掴むと口に運んだ。
「あ、美味しい……」
しっかりと味付けされた唐揚げは、歯触りの良い衣に中身はジューシーで
「お店のみたい」
思わず零れた言葉に、一海さんが、自分の事のように嬉しいそうに
「そうだろ?たくさん食べてって」
ポテトサラダも、隠し味に、粒マスタードを入れてるらしく、箸が止まらなかった。
手作りの食事を堪能していると、横に居た拓真さんと不意に目がった。
手作りの食事の御礼のつもりで、ペコリとお辞儀する。
が、1秒で目は逸らされた。
無視させれたり冷たくされる事が日常過ぎて、鈍感になってる俺は、不機嫌そうに、箸で唐揚げをつついている拓真さんに、会話のついでみたいに疑問を投げかけた。
「一海さんを、好きなんですよね?既婚者だけど、良いんですか?」
「あ?既婚者を好きでいるのがダメなのか?それとも、男が好きなのがダメなのか?」
若干睨まれたが…
疑問を解決したいだけの俺は、素直に口に出す。
「いや、そうじゃなくて……報われないのって……辛くないですか?」
結構真剣に聞いた俺に
「報われないって……決めつけんな!かれこれ……片思い歴8年を舐めんなよ」
「えっ、そんなにっ?……執念ですね…」
「お前、割と言うヤツだな……」
俺の言い方に虚をつかれたみたいで、少し柔らかい雰囲気に変わる。
苦笑いも……イケメンがすると……本当に様になるんだと気付いた。
夜の9時を回った頃……
既に、凪くんと詩ちゃんは、寝床に着いてしまい。
一海さんは、トイレに立っていた。
時計を見た俺もそろそろ帰らないとな……と思っていた。
「それより、返せ……」
「えっ?唐揚げですか?もう、食べてしまって……すいません……」
最後の1個を食べた事を言われたのだと思った。
「違うっ!」
顎をグイッと持ち上げられると、いきなり唇を吸われた。
同時に挿入してきた舌に、俺の舌が絡め取られ……
全くお酒の味はしない……
先程の一海さんのキスとは全く違う……
甘い痺れが、急激に身体の奥から沸き上がる。
なんか……これは、ヤバい気がする……
味わってはイケナイ、未知なる果実を口にしてしまったような……
ダメなのに、美味しくて…自分からは離せない…みたいな。
拓真さんにされるがままに任せて、いつの間にか…甘さを感じてしまっていた。
「何?ちょっと良かったわけ?」
艶やかにニヤっと笑われた事に、少しだけ腹が立った。
しかも、図星だっただけに…悔しい。
虚勢を張って答えた。
「別に……なんとも。こちらこそ、ご満足頂けましたか?」
「ああ、返してもらったし、御礼に送ってやるわ」
返して貰ったって……一海さんは、貴方のモノじゃないですけどねぇ……
拓真さんは、車のキーを持つと、強引に俺を立たさせる。
「じゃ、俺ら帰るな……一海、またな。」
トイレから戻った一海さんに一言だけで済ますと、俺を促して外に出た。
よく見ると、家の横には、白のセダンが停まっていた。
助手席のドアを開けて、押し込まれる。
「ほら、さっさとシートベルト!ちなみに酒は、全く呑んで無いからな!勝利の美酒を楽しむはずだったんだからな!」
分かってますよ……さっきのキスの時、一海さんとは違って、お酒の味しなかったし……とは言えず。
そうか、シラフで一海さんとキスしたかったって事か…
ガチじゃん…と理解した。
家の場所を言うとナビに検索かけ、発進する。
俺は窓の外…夜の街中を眺めていた。
2人きりの車内は……俺たちの沈黙と、ナビが指示を出す音のみ。
「もう着くぞ」
その低い声に、俺は拓真さんの方を見る……
夜のネオンを後ろにする横顔が、とんでもなく綺麗で驚いた。
切れ長の瞳に、滑る鼻筋と、薄く大きな唇、その整い過ぎた容姿を意図せず見入ってしまった。
夜の闇に紛れるように視線をうろつかせながら、俯いた。
「えっ?ここか?お前の家!」
車が停車すると、確かに自分の家の前で……
まぁ、豪邸とか何とか、言われ慣れてるので、
「はぁ、親の建てた家ですね…」
とだけ答えた。
ひとしきり驚かれた後、一瞬の沈黙が流れた。
「悪かった……」
「えっ?」
「大人げなかったわ……学生に強引にキスとか。まさか、初めてとかじゃ無いよな?」
「あー、安心してください。」
気まずそうに、髪をクシャリと掴む姿も、映画のワンシーンみたいにかっこいい。
「まぁ、あれだ……また、一海ん家、来い。」
「え?良いんですか?」
「俺ん家じゃないけどな。あの家の暖かさは、なんか分かるからな。玲央、お前……顔死んでる、たまに癒されに来い!」
初めての笑顔を向けられ、キュッと心が飛び跳ねた。
異次元レベルの美形の笑顔恐るべし。
そして。一海さんだけじゃなく……拓真さん、貴方も中々のお人好しですね……
口に出したらハタかれそうで、言えない言葉を飲み込んだ。
「じゃな」
なんか、別れ際……
蠱惑な笑みを向けられ、
一瞬、また唇を奪われるんじゃないか…なんて事が頭をよぎる自分に、俺は一体何考えてんだ!と叱りつける。
なんか、1日の内に2度も……しかも、違う相手とキスしたなんて奇抜な出来事。
そして、2つ目のキスを何度も何度も思い出し反芻してしまってる……
解けない問題を後回しにする罪悪感みたいなモノにかられながら……
先日燃やした答案、全国模試の結果が詳細なデータになり印刷された用紙が、手渡された。
志望校はB判定。
超難関国立大学の経済学部を目指してる俺は……
まぁ、目指してるのは、親なんだけど。
父親の会社を継ぐ事をレールに敷かれてる俺は、進路も親の希望通り。
特にやりたい事も無くて……
言われるままに生活してきた結果なんだけど。
数え切れない程の事柄に制限をかけられ、アレはダメだ…こればお前には必要無い…と雁字搦めの生活…
一度受け入れてしまうと…抵抗する前に諦めてしまうのが当たり前になる。
諦める事が一番楽で、傷つかなくて済むから。
最初から楽しさを知らなければ、他と比べて辛いとか、人と違うとか…思う事もなく。
俺にとって、親の言う通りに過ごすそれが、普通になっていたのだった。
俺は、ため息の出る結果を持って家に帰った。
母親は、見るなり。
結果を無言で破り捨てた。
目の前で、裂かれる紙の音に……
心までもが裂かれた感覚に陥る。
その感覚に支配されそうになると…俺は、翔太さんの甘いキスを脳裏に浮かべて…甘い果実の味を追憶する。
心のヒビが…少しだけ見えなくなった。
あの血の繋がりの無い不思議な家族達プラス仏頂面で助けてくれた美貌の塾講師……
辛くなると、あの異世界みたいな空間を漠然と思い出し…あの場に自分が居たら…みたいな妄想に取り憑かれた日々が過ぎた。
塾の帰りの寂しさの増す夕暮れ時、一度知ってしまった優しい世界に触れたくて、耐えきれずに……
頭では……行って、どうなるんだ…
なんて思う気持ちとは裏腹に…
俺は、今、円月家の玄関の前に立っている。
やっぱり、インターホンを押す事が出来ずに、踵を返そうと……
後ろを向いた…
その時、
「おお~、あれぇ?玲央じゃないかぁ~フハハッ」
月明かりに、顔を少し赤らめた一海さんは、千鳥足で、向こうから手を挙げやってくる。
「来てくれたんかぁ~入りな~よぅ」
と戸をガラガラと開けながら、招き入れてくれる。
お邪魔します……と小さな声で呟くと。
「カズミちゃ、おしゃけ、かえた?」
マスクをした詩が出迎えてくれた。
風邪でもひいたのかな?
手にしたビニール袋の中身、お酒が透けて見えた。
どうやら一海さんは、無くなったお酒の追加を買いに行ってたみたいだ。
「れお、にげるよ……」
逃げる?意味の分からない事を言われて首を傾げていると。
急に両頬を両手でグッと挟まれ……
一海さんの顔面が近付いて来た。
意味を理解する前に、すでに唇が重なっていて……
お酒の苦さとプラムみたいな甘い香りが俺の中に広がった。
驚いているのに全く動けず。
その上、プラム味の舌まで挿入されると…
思わず後ろに下がる俺の身体は、前に一海さん、背を壁に挟まれて身動きが、取れずにいた。
さすが、消防士だけあって……ビクともしないな……なんて呑気に考えていたら。
俺の手を力任せに引っぱったのは、拓真さんだった。
「あーあ、やっちまったのかよ……」
盛大に舌打ちしながら現れた美丈夫の塾講師。
「一海、酔うとキスするんだよ……1回だけ……どっかのタイミングで。なんだよ!俺じゃ無かったのかよ!チクショウッ!!」
めちゃくちゃ悔しがっている。
地団駄を踏む…とは、こういう事かと目の前の人を見て勉強した。
俺は今起きたばかりの出来事を見られていた事に対して、急に恥ずかしさが出てきた。
が、された事の衝撃よりも、俺は一海さんが心配になった。
「それって……外で飲んだら、かなり大変なんじゃ?」
「そう!だから!外では呑ませない!今日は、この間お前を助けた貸しの為の、宅呑みだったんだよ!作戦失敗じゃねぇかよ!」
って八つ当たりした後、サッサと居間に行ってしまった。
あー、それでか。
この間……家呑みを妙に躊躇していた一海さんを思い出し、合点がいった。
マスクを外しながら
「れお、ざんねんしょう」
詩が、下から憐れむような目で見てくる。
まぁ、キスされた事には、驚いたけど……
何の感情も持っていない相手とのキスは、事故みたいな感覚で。
それよりも、何故か……
悔しがっている拓真さんの事の方が、妙に気になって……
詩ちゃんが、手を引いてくれる。
居間には、ブスっとむくれ、美々しさ台無しの拓真さんと、マスクを外しながら俺をチラと見る凪くん、ニコニコと赤ら顔の楽しそうな一海さん。
「玲央くん、ご飯食べてきな~」
ユラユラと左右に揺れながら言う一海さんは、少し可愛らしかった。
「あいっ!ここ、すわてっ!」
満面の笑みの詩ちゃんは、横の座布団をポンと叩く。
座れって事だと解釈し、素直に着席した。なんだか、この子の押しには勝てない気がする。
箸を渡される。
目の前に並んだ料理を見ると、唐揚げにポテトサラダ、煮込みバンバーグと……子供が好きそうなメニューが、並んでいた。
「たくまちゃん、ごはん、じょうず」
これは、まさか…拓真さんの手作りなのか…
それに、メニューを見る所、子供に甘いのは…一海さんと実は変わらないんじゃ…
ものすごく驚いていると、凪くんからお皿を渡された。
「美味しいですよ、食べてください」
無表情で言われる事に、若干の親近感を覚えた。
俺も…こんな感じの小学生だったし…
残念ながら、過去形では無くて、今も感情の表現は乏しいと言われる。
皿を受け取って、目の前の、唐揚げを箸で掴むと口に運んだ。
「あ、美味しい……」
しっかりと味付けされた唐揚げは、歯触りの良い衣に中身はジューシーで
「お店のみたい」
思わず零れた言葉に、一海さんが、自分の事のように嬉しいそうに
「そうだろ?たくさん食べてって」
ポテトサラダも、隠し味に、粒マスタードを入れてるらしく、箸が止まらなかった。
手作りの食事を堪能していると、横に居た拓真さんと不意に目がった。
手作りの食事の御礼のつもりで、ペコリとお辞儀する。
が、1秒で目は逸らされた。
無視させれたり冷たくされる事が日常過ぎて、鈍感になってる俺は、不機嫌そうに、箸で唐揚げをつついている拓真さんに、会話のついでみたいに疑問を投げかけた。
「一海さんを、好きなんですよね?既婚者だけど、良いんですか?」
「あ?既婚者を好きでいるのがダメなのか?それとも、男が好きなのがダメなのか?」
若干睨まれたが…
疑問を解決したいだけの俺は、素直に口に出す。
「いや、そうじゃなくて……報われないのって……辛くないですか?」
結構真剣に聞いた俺に
「報われないって……決めつけんな!かれこれ……片思い歴8年を舐めんなよ」
「えっ、そんなにっ?……執念ですね…」
「お前、割と言うヤツだな……」
俺の言い方に虚をつかれたみたいで、少し柔らかい雰囲気に変わる。
苦笑いも……イケメンがすると……本当に様になるんだと気付いた。
夜の9時を回った頃……
既に、凪くんと詩ちゃんは、寝床に着いてしまい。
一海さんは、トイレに立っていた。
時計を見た俺もそろそろ帰らないとな……と思っていた。
「それより、返せ……」
「えっ?唐揚げですか?もう、食べてしまって……すいません……」
最後の1個を食べた事を言われたのだと思った。
「違うっ!」
顎をグイッと持ち上げられると、いきなり唇を吸われた。
同時に挿入してきた舌に、俺の舌が絡め取られ……
全くお酒の味はしない……
先程の一海さんのキスとは全く違う……
甘い痺れが、急激に身体の奥から沸き上がる。
なんか……これは、ヤバい気がする……
味わってはイケナイ、未知なる果実を口にしてしまったような……
ダメなのに、美味しくて…自分からは離せない…みたいな。
拓真さんにされるがままに任せて、いつの間にか…甘さを感じてしまっていた。
「何?ちょっと良かったわけ?」
艶やかにニヤっと笑われた事に、少しだけ腹が立った。
しかも、図星だっただけに…悔しい。
虚勢を張って答えた。
「別に……なんとも。こちらこそ、ご満足頂けましたか?」
「ああ、返してもらったし、御礼に送ってやるわ」
返して貰ったって……一海さんは、貴方のモノじゃないですけどねぇ……
拓真さんは、車のキーを持つと、強引に俺を立たさせる。
「じゃ、俺ら帰るな……一海、またな。」
トイレから戻った一海さんに一言だけで済ますと、俺を促して外に出た。
よく見ると、家の横には、白のセダンが停まっていた。
助手席のドアを開けて、押し込まれる。
「ほら、さっさとシートベルト!ちなみに酒は、全く呑んで無いからな!勝利の美酒を楽しむはずだったんだからな!」
分かってますよ……さっきのキスの時、一海さんとは違って、お酒の味しなかったし……とは言えず。
そうか、シラフで一海さんとキスしたかったって事か…
ガチじゃん…と理解した。
家の場所を言うとナビに検索かけ、発進する。
俺は窓の外…夜の街中を眺めていた。
2人きりの車内は……俺たちの沈黙と、ナビが指示を出す音のみ。
「もう着くぞ」
その低い声に、俺は拓真さんの方を見る……
夜のネオンを後ろにする横顔が、とんでもなく綺麗で驚いた。
切れ長の瞳に、滑る鼻筋と、薄く大きな唇、その整い過ぎた容姿を意図せず見入ってしまった。
夜の闇に紛れるように視線をうろつかせながら、俯いた。
「えっ?ここか?お前の家!」
車が停車すると、確かに自分の家の前で……
まぁ、豪邸とか何とか、言われ慣れてるので、
「はぁ、親の建てた家ですね…」
とだけ答えた。
ひとしきり驚かれた後、一瞬の沈黙が流れた。
「悪かった……」
「えっ?」
「大人げなかったわ……学生に強引にキスとか。まさか、初めてとかじゃ無いよな?」
「あー、安心してください。」
気まずそうに、髪をクシャリと掴む姿も、映画のワンシーンみたいにかっこいい。
「まぁ、あれだ……また、一海ん家、来い。」
「え?良いんですか?」
「俺ん家じゃないけどな。あの家の暖かさは、なんか分かるからな。玲央、お前……顔死んでる、たまに癒されに来い!」
初めての笑顔を向けられ、キュッと心が飛び跳ねた。
異次元レベルの美形の笑顔恐るべし。
そして。一海さんだけじゃなく……拓真さん、貴方も中々のお人好しですね……
口に出したらハタかれそうで、言えない言葉を飲み込んだ。
「じゃな」
なんか、別れ際……
蠱惑な笑みを向けられ、
一瞬、また唇を奪われるんじゃないか…なんて事が頭をよぎる自分に、俺は一体何考えてんだ!と叱りつける。
なんか、1日の内に2度も……しかも、違う相手とキスしたなんて奇抜な出来事。
そして、2つ目のキスを何度も何度も思い出し反芻してしまってる……
解けない問題を後回しにする罪悪感みたいなモノにかられながら……
先日燃やした答案、全国模試の結果が詳細なデータになり印刷された用紙が、手渡された。
志望校はB判定。
超難関国立大学の経済学部を目指してる俺は……
まぁ、目指してるのは、親なんだけど。
父親の会社を継ぐ事をレールに敷かれてる俺は、進路も親の希望通り。
特にやりたい事も無くて……
言われるままに生活してきた結果なんだけど。
数え切れない程の事柄に制限をかけられ、アレはダメだ…こればお前には必要無い…と雁字搦めの生活…
一度受け入れてしまうと…抵抗する前に諦めてしまうのが当たり前になる。
諦める事が一番楽で、傷つかなくて済むから。
最初から楽しさを知らなければ、他と比べて辛いとか、人と違うとか…思う事もなく。
俺にとって、親の言う通りに過ごすそれが、普通になっていたのだった。
俺は、ため息の出る結果を持って家に帰った。
母親は、見るなり。
結果を無言で破り捨てた。
目の前で、裂かれる紙の音に……
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