ブルージェリーフィッシュ

あさぎいろ

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「ちょっと座れ」
帰ってすぐ、挨拶の声を掛けたと同時に、ソファで、険しい顔で腕組みをしている父に呼び止められる。
なんだろう……
バイト後に円月家で話していたから、帰りが少し遅くなった事を咎められるのかな……程度に思いながら、前に座った。

眉間に皺を深く深く刻んだ父から、A4サイズの茶封筒を渡される。
見ろ……という事だと理解し、そっと中身を出してみた。

途端、胃液が上がってくるのを押しとどめながら、凝視した。
数枚の写真と、調査報告書…

「まさか、お前が男なんかと付き合ってるとはな……しかも、お前の行ってた塾の講師じゃないか?」
怒りに震える声で言われる。
写真には、ハッキリ拓真さんの顔が分かる物、俺と2人で寄り添う場面などが納められていた。
あまりの事に言葉が出ないのを肯定だと取っただろう父から発せられた言葉は一言だけ。

「別れろ」

更に……写真を渡される。
今度は、紗良さんのパン屋に、円月家のみんなと笑う俺の写真が、数枚。
「バイト先も……なんか余計な事をお前に教えこんでるみたいだしな……この店も、もう先は無いな……」
暗に、潰しにかかるぞ……と脅しているのだ。
拓真さんの事も、父なら情報を塾に撒いて、仕事先に居られないようにするだろう……
あんなに生徒に教える事を天職みたいにしてるのに。
他にも色々と手を回して、翔太さんや円月家のみんなを卑劣な手を使い、恐怖に陥れる事をやってのけると、容易に想像出来た。
父なら、やると……

震える手で写真を握りしめる。
俺と関わったばかりに、みんなに迷惑がかかる……
俺の中での選択肢は一択だった。

「分かりました……でも、せめて別れを言いに行かせてください」
返事は無いが、否定もされないので……
俺はこれから拓真さんの元へ、別れ話をしに行くしかない。


「それから、もう、お前は結婚したからな」
耳を疑うような事を決定事項として言い渡される。
「婚姻届は、私が出しておいた。相手はこの方だ、名家のお嬢さんで、身元の明るい人だ。」
写真を渡される。
静かに笑う綺麗な女性、見た事も会った事も無い人だった。


相手は3つ歳上で、卒業の学年だが、俺が学生だという事で、1週間後に両家の顔合わせのみで、俺の卒業を待って、結婚式と披露宴などをする…
もう既に、相手のご両親と本人には、了解済であると。
淡々と言われる事をぼんやりと頭の片隅に置いた。
もう、どうでもいい……と聞き流す。


「……はい」

もう、これ以上聞く事に意味が無い……
全ては決まっていて、俺はその通りに父の傀儡として……生きていくのが決まった瞬間だった。


俺は……
何の連絡もせずに、とにかく拓真さんの家に向かう。
今日は、もう、遅くなろうが、泊まろうが、最後の…
本当に最後の一夜になる事は間違いなかったから。

インターホンを鳴らす。
「あれ?連絡くれた?」
「すいません連絡無しで」
まぁ上がってよ……と、笑顔で招かれる。
今日は、両親共に急な出張だと…いう安易な嘘を…さっきここに来るまでに考えた通り話した。

それは…ゆっくり出来るな……と、本当に嬉しそうに笑う彼の顔を見て、涙が零れそうになるのを歯を食いしばって止めた。

俺は、最後、拓真さんとどうしても…身体の繋がりを持ちたかったのだ。
それだけを思い出に、生きていくつもりで。
幸せは、俺の方から手放してしまう事になってしまった。

拓真さんが色々話してくれる言葉を一つ一つ聞き逃すまいと…記憶しつつ、少しでも早く、触れ合って…今にも溢れてきそうな涙を、違う涙だと誤魔化したかった。
今日は、お泊まりの準備してきましたから……って、いかにも楽しそうな振りをしてパシャマを取り出すと、俺は急いで先にシャワーを借りる。
念入りに身体を洗い、これからする事を想像しながら出た。

「パジャマ姿、なんか可愛いな……」
上から下まで舐めるように見られてしまう。
ちょっとだけ待ってて…と、浴室に翔太さんが消える。

俺は待ってる間中、ずっと別れの言葉を考えていた。
どうやっても傷つけてしまうし、むしろ嫌われた方が、拓真さん自身、俺なんかへの未練が残らないで済むのだという結論が、すんなりと出た。
引き際は潔くあるべきだ。

拓真さんは、髪の毛をタオルで、拭きながら出てきて、上は裸で、下はズボンを履いていた。
なんてバランスの取れた身体だろう……と見蕩れる。
筋肉が程よく付いていて……これから、この身体に抱かれるのだと思うと、嬉しさで、震えそうだった。

既に、拓真さんの眼は、色情的な光を放っていた。
「おいで」
絡ませた手を引かれるままに、ベットまで付いていく。

「覚悟は良い?」
コクンと頷く。

この間とは違い、あっという間にボタンが外された上の布は、ベット下に落とされる。
優しい口付けから始まった行為は、段々と密度を増し…
注がれる唾液を、1滴すら零す事など無いよう受け止め、ゴクリと飲み干す。
甘い味がして……もっと欲しくなり、せがむように、自ら舌を差し出す。
「今日は、偉く積極的だな……」
どこもかしこも、触って欲しくて…
最後だからと……大胆になる自分をどうにも止めらそうにない。

艶然な笑みの翔太さんから
「理性切れそうなくらい……玲央エロいわ」
その言葉に、更に、感度を増す身体。

下も剥ぎ取られ、裸身を見られる事に、少しだけ躊躇する。
こんな身体で、やりたいと……本当に思って貰えるかが、急に不安になって。
思わず抱きついた。

「どうした?怖い?」
甘い甘い声で、心配気に聞いて来られてしまい。
「どこもかしこも……気持ち良くて……困ります……でも、拓真さんは?気持ち良いですか?」
正直に告げる。

俺の手を持ち、下へ降ろす。
翔太さんの硬く滾るモノに触れた。
耳元では、呟かれる。
「どうだと思う?むしろ、こんなに我慢してる事、褒めてくれない?」
答えを身体で示してくれた。

身体を返され、四つん這いの姿勢にされると、一点に視線を感じる。
窄まりを晒す事よりも、もっと深い所で繋がりたくて、自分で両尻を高く上げてしまう。 
「ごめんなさいっ」
あまりに卑猥になる自分を謝ってしまう。
「なんで?最高なんだけど?」
いきなり窄まりに暖かい物が触れる。
ピチャピチャとわざと音を出すように舐められて。
「やっ、まっ……て、それ、ダメぇ」
「ダメじゃなくて、もっとでしょ?」
柔らかくなるまで舐めあげられ、やっと解放されたかと思うと、そのまま、窄まりに、スルリと指が挿入された。
ゆっくりと解されると、時々、どこか、これまで感じた事の無い快感が与えられる場所を指が掠めた。
「あっ、ンンン…んぁっ」
俺の反応を汲み取り、探り当てたとばかりに、同じ場所を行き来する指。
目の前がチカチカと光る。
快楽に口は半開きのままで、閉じられず……涎がポトリと落ちていく。

「もう、限界……挿れる」
拓真さんからの言葉に、期待が高まる。
腰をグッと持たれ、ゆっくりと硬い物が侵入してくる。
圧迫感と、ピリピリとした痛みに、大きく息を吐く。
「大丈夫…?」
耳元で聞かれ、コクコクと頷いた。

ゆっくりから……徐々に激しくグラインドされるソレを身体で受け止めていると、時々当たる場所に反応してして声が漏れ出る。
「あああ、んんっ、はぁん、やっ」
適応力の塊の拓真さんは、俺の弱い所をドンドン攻めてくる。
あっという間に俺は達してしまったのに…
まだまだ、解放してくれない彼から盛れる吐息を聞くと、感じてくれている事に……更に、いやらしい気分になる。
出したばかりなのに、再び持ち上がるモノを拓真さんが握り、煽るように擦り上げてくる。
前と後ろの刺激で……
失神しそうな程、快楽に溺れた。
口からは、喘ぎ声が絶え間なく漏れ、掠れる声は…拓真さんの情欲を煽るみたいで、より激しく突かれる。
「うっ、出すよ…」

拓真さんの体液が俺の中に出される感覚を全身で受け止め……
この上無い幸せを感じた。
全てを覚えておこう。
そして、この恋も終わってしまった事を思い、相反するどうしようも無い哀しみが、広がった。


俺は……朝、こっそりと起き上がり、隣で寝息を立てる愛しい人をみた。
自分の身体の赤い痕を指でなぞる、その内、跡形もなく消えてしまう痕に。

やはり、正面切って別れを告げる勇気が出ない、情けない自分。
ダメだ。顔を見て別れ話なんて……俺には到底無理だ。
鈍い痛みの走る腰を抑え、そっとベットを抜け出す。
俺は最後に手紙を残す事にした。


『俺、貴方と女性に、二股をかけてました。その女性の方がやっぱり好きなので、別れてください。もう連絡しないで。最後に、やらせてあげたので、チャラにしてください。     玲央』

血の味がした。
書いてる間、ずっと唇を噛み締めていたみたいで。
涙を我慢する為に…

もう、これで…良い。
諦めと納得が共存していた。
拓真さんは、次の恋をして、幸せになってくれるだろう……
俺が相手じゃ無い事は、仕方ないんだ……
元のように……何も考えずに生きていく感覚が……戻ってきた。
諦めという友達が側にやって来た。

さようなら、ありがとう。
本当に本当に愛してました。

無理矢理、過去形にして、心の中で独白する。
そして、スマホを取り出すと、連絡先を全消去する。拓真さんのも円月家のみんなのも……そう、全てだ。


俺は……
扉を開けて出ると、思い切り走り出した。途中何度かもつれては、転けながら…
早朝の爽やかな朝日を受けても…ドロドロになる心は、闇に飲み込まれていく。

零れる涙をそのままに。
もう、存分に泣いてもいいから…
と自分を慰めながら…立ち上がり走った。

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