高司専務の憂鬱 (完)

白亜凛

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◆将を射んと欲せば

秘書のお仕事 14

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 あれこれ考えているうちに、新幹線は名古屋に到着した。

 無事タクシーにも乗ってすべて順調だ。次の関門は無事に伊東と会えるかどうかだったが、タクシーを降りて、コンベンションセンターの正面玄関に向かうと、伊東が歩いてくるのが見えて、ホッと胸を撫で下ろす。
 コンベンションセンターが見えてきたときに送ったメッセージを見て、すぐに来てくれたのだろう。

「すみませんね、樋口さん。急で大変だったでしょう?」
 申し訳なさそうに伊東は両手を合わせる。

「いいえ良かったです。無事届けられて。いい気分転換になりました。お疲れさまです」

 颯天の姿はなかった。
 会食がてらの会議中で、手が離せないらしい。この後もなんだかんだと二時間近くはかかりそうだというので、杏香はこのまま先に帰ることになった。

 せめて彼の顔だけでも見たい。後ろ髪をひかれる思いで振り返ってみたが、すでに伊東の姿もない。
 仕方なく気を取り直し、その場を離れる。

 会えなくてよかったのだ。会ってしまえばまた、心が動かされるのだから。

 ふとロビーの一角にカフェ見えた。今日はもう会社に戻る必要はない。以降は自由時間なので、カフェでひと休みする。カプチーノを頼み、課長に無事届けた旨のメッセージを送って、全ての任務は終了だ。

 やれやれと大きく息を吐く。

 せっかく名古屋まで来たのだし観光地に行く時間的余裕はあるが、そこで迷ってしまってアタフタする自分が容易に想像できて、とても行く気にはなれない。とりあえず駅まで行って切符を買い、安心できたところで、駅周辺でのんびりしようと決めた。

 ランチタイムなのでお腹も空いた。カフェに軽食はあるがせっかくならひつまぶしを食べたい。味噌煮込みうどんもいいな、などとわくわくしながら杏香はタクシーに乗った。

「名古屋駅までお願いします」
「はい。了解です」

 これで一安心と気を抜き過ぎたらしい。いつの間にか寝てしまっていたようで、「お客さん」と呼ばれて目を覚ました。

「あ、すみません」
「どうしましょう。この先で大きな事故があったみたいで、ご覧の通り渋滞なんですよ。もうすぐなので、歩いたほうが早いとは思いますけど、どうしましょう?」

 周りを見れば、前も後ろも動かない車が続いている。

「あ……。もうすぐですか?」

「はい、このまま道なりに、そうですねー、十分もかからないなぁ、五分も歩けば着きますね」

「道なりですね?」
「ええ」

 ギリギリまで迷ったが、運転手に勧められるまま結局タクシーを降りた。道なりならば心配ないだろうと思いつつ、念のためスマートフォンのナビをセットする。

 ところが、ナビが途中で左に曲がれという。

「え? 道なりじゃないの?」

 車と徒歩だと最短距離が違うということか?  勝手に納得しながらナビを頼りに歩いた結果。

「なんでこうなるの」
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