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第25話『クランノースへ』
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触媒の原料である幽鬼の石を手に入れるべく、エラフィンとレンリエッタは過酷な雪山のクランノース山へと向かう事に。しかしながらクランクスでも屈指の死地と名高い山へ何の準備も無しに向かえるはずもなく、二人は邸宅にて入念な支度を行う事となった。
帰って来るなりグリスへクランノース山へ行くと伝えれば、彼はもちろん止めた。
「なんですって!?クランノースへ向かうのですか!?危険過ぎます!」
「危険は承知よ、けど幽鬼の石を手に入れるにはそれ以外に方法は無いじゃないか。」
「で、ですが…ダメです!そんな危険なところへお嬢様を連れて行くなんて…」
「でも触媒を使う私が居ないと納得してくれないと思うよ。」
「うぅうう…そんなこと……あぁ!なんと悲しい…」
グリスは既にレンリエッタが亡き者になったと言わんばかりに悲しみ始めた。彼からすれば唯一の仕え先であるレンを失うと言うのは死ぬも同じことだが、こればかりはしょうがないのだ。
古代墓地を管理する一族は気難しい連中らしいので、触媒を使う本人が来ないなんて状況は認めないだろう。
「まぁ私が付いてるし、バッチOKよ。」
「確かにエラフィン様は大変腕のよろしい魔術師でございますが……し、心配です…やはり私も…」
「おっと!それだけは勘弁しておくれ!私ゃ別にレイシストじゃないが、アンタが居ると相手を刺激しかねないよ。鏡を見たことはあるのかい?」
「あぁ!そんな!ひど過ぎます!確かに私めは異形でございますが…そんな面と向かって言わなくとも…」
「グリス…大丈夫だよ、私きっと戻って来るから。」
レンリエッタはなんとかグリスを宥めると、部屋に戻って防寒着の準備を始めた。幸いにも一着だけ、それも尻尾用だったり翼用の穴が無い、ちゃんとした厚手の茶色いコートが残っていたので拝借する事にした。
埃を叩き落とし、ほつれた跡や穴を手早く塞げばあっという間に使える状態に……少し大きいが、大は小を兼ねるというので許容すべきだろう。羽織ってみると、なんだか滑稽に見えた。
「うーん……ちょっと動きにくいけど防寒着なんてそんなものだよね…」
姿見を眺めながら、レンリエッタは右へ左へ歩いてみると…どうにもぎこちない。今まで防寒着など着るような環境に居なかったのでもちろん着るのは今回が初めてだった。
春の温かさには少し厚すぎるコートのおかげで、少し経つとレンリエッタは汗ばんで来たので、コートを一旦脱いでベッドの上へ置いた。
すると、それと同じくらいのタイミングで邸宅内に声が響いた。
『レンリエッタ―!ちょっと来ておくれ!』
「うん?なんだろう……はーい!」
エラフィンに呼ばれたレンリエッタは元気よく返事をすると、慌てて広間へと向かった。一体何だと思いきや、向かってみると彼女は何やら古臭い長方形の紙切れを靡かせていた。
「先生、呼んだ?」
「あぁもちろんさ。アンタにお札を渡しておこうと思ってね。」
「おふだ?」
「簡単に言えば悪霊祓いの道具さ。古代墓地ともなると気味の悪い存在がうろついてるだろうし。」
エラフィンが渡して来たのは紙幣のような紙切れ数枚。紙にはややったらしいよく分からない文字やら記号が書かれているが、これは『お札』というものらしい。
これは衣服や道具に貼り付けると悪霊祓いの効果を発揮するもので、お祓い魔法の【ラハイオ】の魔術が込められている紙なのだ。幽霊が多い東の地、ソガ連邦で使われるものだがこれはエラフィンのお手製。
墓地という場所には外部から悪霊が集まっていたり、内部に侵入者を攻撃する霊的な傀儡が徘徊していることが多いので持っておいて損はないとのこと。
レンリエッタはそんなものが居ると知って、ガクガクと震え出した…
「そ、そんな…幽霊とか…い、居るの…?」
「なぁに言ってんだい、当たり前じゃないか。ああいう場所はおっそろしい怪物がうじゃうじゃと…」
「ひぇぇええ~!!」
「けどあくまで予防よ。古代墓地には古くから多くの奴等が入って出て来てるし、ほとんど先人がぶっ飛ばしてるかもね。万が一に残ってたとしてもほんの数匹でしょうよ。」
世にも恐ろしい怪物の類は生きている間に出会いたくなかったものだが、その願いはいよいよ砕かれそうである。レンリエッタは絶対にそんなものには会いたくないし、襲われたくないので受け取ったお札を大事そうに懐へ仕舞い込んだ。
「ところで防寒着の方は大丈夫かい?たしかコートが一枚残ってたと思うが…」
「うん、あったよ。もう直して着れるようにしてる。」
「そうかいそりゃ…随分と仕事が早いね。それと…帽子はこれを被って行きな、あったかいよ。ほら!」
「うわッ!?」
エラフィンは何処からかフワフワの帽子を手に取ると、それをレンリエッタの頭へズボッと被せた。チクチクとした感触がこそばゆく、レンリエッタは慌てて脱ぎ取った。
動物の尻尾がプラプラと揺れ動く、毛皮の帽子だ。…しかし、こんな動物は見た事が無い。
「ねぇこれ、なんの帽子?」
「タヌキよ」
「タ、タヌキ…?なにそれ…聞いたこと無いけど…」
「私もよく分からないけど、きっと珍獣みたいなものよ。とにかくそれは温かいし被っておきな。」
「う、うん……(タヌキってなんだろう…)」
タヌキなんて聞いた事も見たことも無いのでレンリエッタは首を傾げるばかりだが、ありがたく被っておく事にした。
防寒着に帽子と来れば靴も欲しいところだが、靴は除雪の魔法を掛けてくれるので用意せずとも大丈夫とのこと。どうせなら保温の呪文だとか、防寒の呪文も欲しかったが、そんな都合の良いものは無いらしい。
レンリエッタは絶対嘘だと思った。
「よーし!荷物はこれで充分だ!」
「一体あちらに何ヶ月滞在するおつもりですか…このような大荷物…」
「……ま!多いに越したことは無いでしょ?」
それから一、二時間ほどが経ち…エラフィンはクランノース遠征の荷物を纏め終えたところだった。しかしながらその量たるや、まるで夜逃げの様であった。
大人が丸々入りそうな大きなカバンが二つに、これまた巨大なリュックがひとつ…こんな大量の荷物をどうやって持ち運ぶのかと言えば、もちろん例の便利収納道具を使うのだ。
「さてグリス、密猟者の肩掛け鞄に仕舞うからちょっと手伝っておくれ。」
「ええ…ですが収まり切りますかね…?」
「アンタの帽子よりかはよっぽど広いわよ……あ、ちょっと待って…前の残りが…」
エラフィンは少し大きめの肩掛け鞄を持って来た。これは日常で使っているクライムポーチの超大容量版である。
一見、中は広くとも見た目が小さいので入らないのではと思うかもしれないが、これは引っ張る事で取り出し口を大きくできるのだ。
エラフィンはさっそく荷物を仕舞おうとしたが、ずっと前に使用した際に取り忘れていたものを回収した。普段から掃除していないので色々なものが出て来た。
「えっと…薬瓶2ダース分に、暗殺手帳…それからカジキ入りベーコンサンドイッチ…」
「食べ物まで入れてるのですか…最後に使用したのはいつですか…」
「細かい事はほっといておくれ!…おっと!こいつは誰だ……白骨死体が一体…」
「なんてことを!?」
ポンポンと色々な物が出て来るかと思いきや、最後には人型の白骨が丸々一体分出て来た。グリスはギョッとしてエラフィンへ疑いの目を向けたが…
「あっははははは!冗談だよ、こいつは模型!本物じゃないよ」
「は、はぁ…まったく……肝を冷やしましたよ…」
「もし本物ならとっくに薬で溶かしてるさ。」
「あははは…お、面白い冗談ですね…」
「………早く手伝っておくれ」
「はい…」
白骨は模型でも、彼女の恐ろしさは本物だと思うグリスであった。
それはそうと、二人は協力して全ての荷物をどうにか鞄の中へと押し込む事に成功した。いくら大容量でもやはり限界はあるようで、キャパシティはほとんどギリギリだった。
二人がハァーッと達成感を感じていると、上階から準備を済ませたレンリエッタが降りてきた。
「準備終わったよ。…なんか疲れてるけど何かあったの?」
「え、ええお嬢様…少しばかり力仕事を…」
「体力は付けておくべきだね…そうだレンリエッタ、サンドイッチ食べるかい?」
「え!サンドイッチ!食べる―!」
「あ、ああああ!お嬢様!!それは!!」
エラフィンは先ほどのカジキ入りサンドをレンリエッタへ投げ渡した。グリスは慌てて止めようとしたものの、思春期の食欲から来る速さには追い付けず、レンリエッタは包装を解いてガブッと一口食べてしまった。
いつから放置されているのか分からないサンドイッチを…
「うぅ~ん…!美味しい!これグリスが作ったの?ホカホカで出来立てだよ。」
「え、えぇ?出来立て…?」
「グリス、忘れたのかい?圧縮収納道具の一部は入れた物を完璧に保管できるのよ、何億倍にも経過する時間を遅めてね。」
「はぁ~…そうでした……私はなんと無知なことを…」
「……?」
またもやエラフィンに愚弄されるグリスはへにゃっと床へ座り込み、その様を見てレンリエッタはひたすらに首を傾げてサンドイッチを咀嚼した。そして部屋の隅で倒れ込む模型の白骨を見てブフッと吹き出すのだった…
さてレンリエッタ、エラフィン共に荷物の支度は済んだのでこのまま出発!…するほど余裕が無いわけではないので、出発は明日として今日は休むことにした。
もちろん休むと言っても何もしないわけではない、今のうちにレンリエッタはクランノース山について軽く調べておこうと書棚から本を取り出した。タイトルは『幽鬼山脈』、著者はモンド・リラヒー…生前は著名な登山家だったらしい。
「クランノース山…別名皇帝の墓所……」
本にはクランノース山について基本的な情報が書かれていた。標高は約7800メートルあり、冬の最低気温は氷点下70度にまで下がり、13種の指定危険魔獣種が生息しているらしい。
エラフィンやカヴルの話していた管理者たちは二合目に村を作っているらしく、さらにその上…6合目あたりに古代墓地が存在すると書かれていた。
『墓地にて埋葬されているのはかつて王国にて戦果を挙げた古代の英雄たちである。私は彼等の中でも最も腕を振るった戦士ラディリア・オードゼンの遺体を拝見したが、とても興味深い事に彼の遺体は蒼き結晶と化していた。結晶化した理由は未だ判明していないが、その結晶こそが何よりも素晴らしい触媒の素材となる…』
「幽鬼の石…」
レンリエッタはそっと呟いた。
幽鬼の石とは古代の名高き戦士の遺体が結晶化したものだったのだ。なぜ、どうやって、なにが……その理屈はまるで分っていないが、錬成でも作成できない理由こそがそれだった。
「幽鬼の石って……遺体だったんだ…」
誰かの遺体を触媒として使用する事についてレンリエッタはドギマギとした感情を沸かせた。決して好奇心などではない、それどころか疑いに近い感情だった。
というのも魔術指南書にそれと似たようなものが少しだけ記載されていたからだ。レンリエッタは本を一旦開いたまま置くと、『簡易的な魔法解説入門編』をデスクから取って開いた。
『数多く存在する触媒の中でもタブー視されるものが存在する。それは人変触媒と呼ばれ、名の如く他人を触媒として加工したものである。制作過程において命を奪ったり、非道な呪いを使用するため人変触媒は禁忌とされ…作成、使用、所持した者は極めて重い罪に問われる。』
幽鬼の石はこの人変触媒に値するものではないかとレンリエッタは考えたが、あくまでも石は死後に変化したものであるために違う様だ。
しかし…レンリエッタは耐え切れず、広間へ降りるとエラフィンに聞いてみた。
「先生…ひとつ質問があるんだけど…」
「なんだい?悪いが年齢だとか体重ってのはナシだよ。」
「ううん、その…幽鬼の石って……誰かの死体が結晶化したものなんだよね…?」
「おっと…調べたのかい?」
レンリエッタは無言で頷いた。
するとエラフィンはソファの上で伸びしてから立ち上がると、レンリエッタへ言った。
「まぁおそらく…幽鬼の石がタブーなものだと思ってるんだろうね。けど幽鬼の石はそんなもんじゃない、古代の戦士が後世へ力を遺すために選んだ道なのさ。」
「選んだ道?」
「本には載ってないだろうが大昔には死後、自身に宿っていた魔力を結晶として残す儀式があったんだ。戦士は死す前、自ら望んで己の魔力を後世の戦士たちに託そうとしたのさ。」
遥か昔、王国で名を挙げた戦士は己に宿ったパワー…すなわち魔力を死した後も残そうとして、ある儀式を行った。その名は紡石の儀式…心臓に結晶茨の棘を埋め込み、心臓が停止した…すなわち死亡した瞬間から結晶茨の棘が遺体を養分として成長し、長い時間を掛けて肉体を結晶と化するのである。
結晶茨は死体に寄生する寄生植物であり、その結晶に秘められた純度と力は生前の実力に比例したと言われる。そのため生半可な者は結晶になれず、真に優れた戦士のみが結晶化するのである。
なおこの話から転じて『聖人の遺体は腐らない』という伝説が生まれたとされる…
―『禁忌の古代王国』より―
「だからこそアンタはその力を使うに相応しい魔法使いってことさ。」
「そっかぁ……分かった、じゃあ危ないものじゃないんだね?」
「もちろん!それと勉強熱心なのは感心するね、魔法のみならず知識は武器になるからよーく本を読んでおくように。」
「はーい!」
レンリエッタはすっかりモヤモヤが晴れた気分で部屋へと戻った。
古代の人間が勇ましい努力の果てに自分を選んでくれたのなら、それに応える事こそが最大の礼儀と言えよう。
「で、でも……怖いなぁ…」
しかし、それでも山に対する恐怖は晴れなかったのでレンリエッタは貰ったお札をペタペタとコート、帽子、ついでに杖へと貼り付けた。エラフィンの腕が確かならこれで悪霊の類は手出しできないはず…
レンリエッタはやっぱり臆病だった…
さぁ、それから一晩が経ち…いよいよ出発の時がやって来た。時刻は午前4時…まだ外は暗く、叩き起こされたレンリエッタは眠そうに目を擦りながらも着替え終えた。
「お嬢様、エラフィン様……分かっているとは思いますがくれぐれも無理だけは…」
「大丈夫大丈夫!かならず五体満足で戻るよ、早けりゃ今日中に…そうでなかったら明日か明後日には帰ってくるよ。」
「ふわぁ~……うん、私も出来るだけ無茶はしないようにするから。」
「ご無事を祈っております…どうかお気をつけて…」
グリスは心底不安そうな声で二人を見送った。いくらエラフィンの様な魔術師が付いていたとしても、クランノース山は決して生易しい場所ではないのである…そんな死地へ見送る事しか出来ないのは辛い事だろう。
レンリエッタとエラフィンはなんとかグリスを宥めてから箒へ跨った。やはり空模様はまだ暗く、春と言えども薄ら寒さが肌をくすぶった。
「さぁ行くよ!いざ、クランノースへ!!」
「ほわぁッ!!い、行って来まーす!」
エラフィンは思い切り地面を蹴り上げ、バビュンッと杖は一気に上空へ飛び上がった。上昇の際に掛かる負担は相変わらず凄まじいものだったが、眺めは中々に良かった。
消え掛けの月明かりに照らされたクランクスの大地は神秘的であり、街の方を向けばキラキラとした明かりが見えた…このような時間でも街は活気がある様だ。
そして杖は目的地であるクランノース山を差し、ビューンと飛び始めた……恐ろしく高い山だ、ゴツゴツと尖っており、白い雪を深く被っている…
「ねぇ、このまま村まで行くの?」
「そうできたら楽なんだけどねぇ…山は飛行杖の使用が禁止されてるのさ。」
「ど、どうして…?」
「山の気流は不安定で飛行に適さないのよ、それにアイスクラウンっていうヤバイ飛竜が住み着いてるせいで飛んでる奴は良い餌さ。」
このまま飛んで村、さらには墓地まで行ければ楽なものだがそうともいかない。エラフィンはブーブー文句を垂れるように説明した。
山に吹き荒ぶ気流は不安定で流されやすく、アイスクラウン種の飛竜にとって飛行杖は格好の獲物、さらには山自体無断での立ち入りが禁止されているのでそんな事をしようなら、お縄である。
「だから地道に登るよ。」
「…ほんとに?」
「そーんなわけないでしょ!ちゃーんとイカサマ登山法はあるから安心しな。」
「うーん…嬉しいような、そうでもないような…」
立ちはだかった壁を正直に越えないのがエラフィンである。真面目に登山をするとなれば果てしない時間とリスクが掛かるのでイカサマを使うらしい。
それを聞いたレンリエッタは頼もしく思えば良いのか、それとも心配すれば良いのか分からなかった…しかし、期待通りではあった。
「……あ、まずい…杖に明かりを付けるのを忘れちまったよ…」
「明かりって?」
「安全のために暗い時は杖の先…まぁフックがあるんだけど、そこにランプだとか電灯だとか吊るさなきゃいけないの。」
「……こんなに空は広いのに明かりを点ける意味なんてあるの?」
「まぁね…下から花火を打ち上げられてドッカーン!なんて事もあり得なくは無い…けど亀が空から降って来るのと同じくらいあり得ない確率だね。だから付けないよ……どうせ持って無いし。」
どうでも良い話だが、夜間など暗い場所で飛行杖を使用する場合は必ずランプや電灯、瓶詰光源などを携帯しておく必要がある。もし怠ると『個人飛行法』違反となり、厳重警告あるいは罰金を科せられる。
エラフィンはいつも忘れてしまうので今回も前例と同じくパトロール隊に見つからないよう祈るのであった。
しばらく暗い中での飛行を楽しんでいると、やがて東から太陽が昇り、クランクスの大地と二人を照らし始めた。
レンリエッタは日の出を拝みながらギラリと輝く春の太陽がこのまま山の雪まで溶か尽くしてくれれば良いなと願ったが、神が聞き入れてくれるような事は無く、無慈悲にも雪は依然として積もったままである。
そしてもうしばらくしてから、二人は山の麓に位置する街へと降り立った。
「さーて、到着だ!すぅう……はぁー!空気が澄んでてうまいねぇ!」
「うーん…そうかな?……それにしても物騒な話ばっかり聞いて来たけどこんな街があったんだ…」
「そりゃそうさ、良くも悪くも此処はクランクスで一番の山だからね。怖いもの見たさの観光客だとか、命知らずの登山家に向けた商売人共がひしめき合ってるのさ。」
レンリエッタはぐるりとその場で一周しては街を眺めた。白いレンガで作られた建物の数々、少しばかり荒っぽいタイルの道、広場に立つ多くのテント…意外と賑やかであり、人の数も多かった。
なによりガチガチに装備を着込んだ登山家も居れば、軽い防寒着を着ただけの人々も居る…
この街『エルコンベドニア』は登山家と観光客に向けて造られたもので、準備やら宿泊などを助ける施設が揃っているのだ。素敵な風景にレンリエッタは観光してみたい気分に駆られたが、そんな場合ではないのは百も承知。
「良いところなんだけど…」
「悪いけど観光してる暇は無いよ。私達が行くのは山だよ、こんな踏み慣らされた甘っちょろい道じゃないんだ。」
「そうだよね。じゃあもうさっそく行くの?」
「あぁもちろん…だけどその前にちょーっぴり面倒な手続きが必要なの。」
「何処へ行くにしても面倒なのは変わらないんだね。」
「まったくよ」
古代墓地へアタックする前には面倒な手続きが必要なので、二人は街を進んで『登山客向け窓口』へと向かって行った。見上げれば恐ろしい山が佇むこの場所で、レンリエッタは怖気付きながらも足を踏み進める勇気を振り絞るのであったとさ…
つづく…
帰って来るなりグリスへクランノース山へ行くと伝えれば、彼はもちろん止めた。
「なんですって!?クランノースへ向かうのですか!?危険過ぎます!」
「危険は承知よ、けど幽鬼の石を手に入れるにはそれ以外に方法は無いじゃないか。」
「で、ですが…ダメです!そんな危険なところへお嬢様を連れて行くなんて…」
「でも触媒を使う私が居ないと納得してくれないと思うよ。」
「うぅうう…そんなこと……あぁ!なんと悲しい…」
グリスは既にレンリエッタが亡き者になったと言わんばかりに悲しみ始めた。彼からすれば唯一の仕え先であるレンを失うと言うのは死ぬも同じことだが、こればかりはしょうがないのだ。
古代墓地を管理する一族は気難しい連中らしいので、触媒を使う本人が来ないなんて状況は認めないだろう。
「まぁ私が付いてるし、バッチOKよ。」
「確かにエラフィン様は大変腕のよろしい魔術師でございますが……し、心配です…やはり私も…」
「おっと!それだけは勘弁しておくれ!私ゃ別にレイシストじゃないが、アンタが居ると相手を刺激しかねないよ。鏡を見たことはあるのかい?」
「あぁ!そんな!ひど過ぎます!確かに私めは異形でございますが…そんな面と向かって言わなくとも…」
「グリス…大丈夫だよ、私きっと戻って来るから。」
レンリエッタはなんとかグリスを宥めると、部屋に戻って防寒着の準備を始めた。幸いにも一着だけ、それも尻尾用だったり翼用の穴が無い、ちゃんとした厚手の茶色いコートが残っていたので拝借する事にした。
埃を叩き落とし、ほつれた跡や穴を手早く塞げばあっという間に使える状態に……少し大きいが、大は小を兼ねるというので許容すべきだろう。羽織ってみると、なんだか滑稽に見えた。
「うーん……ちょっと動きにくいけど防寒着なんてそんなものだよね…」
姿見を眺めながら、レンリエッタは右へ左へ歩いてみると…どうにもぎこちない。今まで防寒着など着るような環境に居なかったのでもちろん着るのは今回が初めてだった。
春の温かさには少し厚すぎるコートのおかげで、少し経つとレンリエッタは汗ばんで来たので、コートを一旦脱いでベッドの上へ置いた。
すると、それと同じくらいのタイミングで邸宅内に声が響いた。
『レンリエッタ―!ちょっと来ておくれ!』
「うん?なんだろう……はーい!」
エラフィンに呼ばれたレンリエッタは元気よく返事をすると、慌てて広間へと向かった。一体何だと思いきや、向かってみると彼女は何やら古臭い長方形の紙切れを靡かせていた。
「先生、呼んだ?」
「あぁもちろんさ。アンタにお札を渡しておこうと思ってね。」
「おふだ?」
「簡単に言えば悪霊祓いの道具さ。古代墓地ともなると気味の悪い存在がうろついてるだろうし。」
エラフィンが渡して来たのは紙幣のような紙切れ数枚。紙にはややったらしいよく分からない文字やら記号が書かれているが、これは『お札』というものらしい。
これは衣服や道具に貼り付けると悪霊祓いの効果を発揮するもので、お祓い魔法の【ラハイオ】の魔術が込められている紙なのだ。幽霊が多い東の地、ソガ連邦で使われるものだがこれはエラフィンのお手製。
墓地という場所には外部から悪霊が集まっていたり、内部に侵入者を攻撃する霊的な傀儡が徘徊していることが多いので持っておいて損はないとのこと。
レンリエッタはそんなものが居ると知って、ガクガクと震え出した…
「そ、そんな…幽霊とか…い、居るの…?」
「なぁに言ってんだい、当たり前じゃないか。ああいう場所はおっそろしい怪物がうじゃうじゃと…」
「ひぇぇええ~!!」
「けどあくまで予防よ。古代墓地には古くから多くの奴等が入って出て来てるし、ほとんど先人がぶっ飛ばしてるかもね。万が一に残ってたとしてもほんの数匹でしょうよ。」
世にも恐ろしい怪物の類は生きている間に出会いたくなかったものだが、その願いはいよいよ砕かれそうである。レンリエッタは絶対にそんなものには会いたくないし、襲われたくないので受け取ったお札を大事そうに懐へ仕舞い込んだ。
「ところで防寒着の方は大丈夫かい?たしかコートが一枚残ってたと思うが…」
「うん、あったよ。もう直して着れるようにしてる。」
「そうかいそりゃ…随分と仕事が早いね。それと…帽子はこれを被って行きな、あったかいよ。ほら!」
「うわッ!?」
エラフィンは何処からかフワフワの帽子を手に取ると、それをレンリエッタの頭へズボッと被せた。チクチクとした感触がこそばゆく、レンリエッタは慌てて脱ぎ取った。
動物の尻尾がプラプラと揺れ動く、毛皮の帽子だ。…しかし、こんな動物は見た事が無い。
「ねぇこれ、なんの帽子?」
「タヌキよ」
「タ、タヌキ…?なにそれ…聞いたこと無いけど…」
「私もよく分からないけど、きっと珍獣みたいなものよ。とにかくそれは温かいし被っておきな。」
「う、うん……(タヌキってなんだろう…)」
タヌキなんて聞いた事も見たことも無いのでレンリエッタは首を傾げるばかりだが、ありがたく被っておく事にした。
防寒着に帽子と来れば靴も欲しいところだが、靴は除雪の魔法を掛けてくれるので用意せずとも大丈夫とのこと。どうせなら保温の呪文だとか、防寒の呪文も欲しかったが、そんな都合の良いものは無いらしい。
レンリエッタは絶対嘘だと思った。
「よーし!荷物はこれで充分だ!」
「一体あちらに何ヶ月滞在するおつもりですか…このような大荷物…」
「……ま!多いに越したことは無いでしょ?」
それから一、二時間ほどが経ち…エラフィンはクランノース遠征の荷物を纏め終えたところだった。しかしながらその量たるや、まるで夜逃げの様であった。
大人が丸々入りそうな大きなカバンが二つに、これまた巨大なリュックがひとつ…こんな大量の荷物をどうやって持ち運ぶのかと言えば、もちろん例の便利収納道具を使うのだ。
「さてグリス、密猟者の肩掛け鞄に仕舞うからちょっと手伝っておくれ。」
「ええ…ですが収まり切りますかね…?」
「アンタの帽子よりかはよっぽど広いわよ……あ、ちょっと待って…前の残りが…」
エラフィンは少し大きめの肩掛け鞄を持って来た。これは日常で使っているクライムポーチの超大容量版である。
一見、中は広くとも見た目が小さいので入らないのではと思うかもしれないが、これは引っ張る事で取り出し口を大きくできるのだ。
エラフィンはさっそく荷物を仕舞おうとしたが、ずっと前に使用した際に取り忘れていたものを回収した。普段から掃除していないので色々なものが出て来た。
「えっと…薬瓶2ダース分に、暗殺手帳…それからカジキ入りベーコンサンドイッチ…」
「食べ物まで入れてるのですか…最後に使用したのはいつですか…」
「細かい事はほっといておくれ!…おっと!こいつは誰だ……白骨死体が一体…」
「なんてことを!?」
ポンポンと色々な物が出て来るかと思いきや、最後には人型の白骨が丸々一体分出て来た。グリスはギョッとしてエラフィンへ疑いの目を向けたが…
「あっははははは!冗談だよ、こいつは模型!本物じゃないよ」
「は、はぁ…まったく……肝を冷やしましたよ…」
「もし本物ならとっくに薬で溶かしてるさ。」
「あははは…お、面白い冗談ですね…」
「………早く手伝っておくれ」
「はい…」
白骨は模型でも、彼女の恐ろしさは本物だと思うグリスであった。
それはそうと、二人は協力して全ての荷物をどうにか鞄の中へと押し込む事に成功した。いくら大容量でもやはり限界はあるようで、キャパシティはほとんどギリギリだった。
二人がハァーッと達成感を感じていると、上階から準備を済ませたレンリエッタが降りてきた。
「準備終わったよ。…なんか疲れてるけど何かあったの?」
「え、ええお嬢様…少しばかり力仕事を…」
「体力は付けておくべきだね…そうだレンリエッタ、サンドイッチ食べるかい?」
「え!サンドイッチ!食べる―!」
「あ、ああああ!お嬢様!!それは!!」
エラフィンは先ほどのカジキ入りサンドをレンリエッタへ投げ渡した。グリスは慌てて止めようとしたものの、思春期の食欲から来る速さには追い付けず、レンリエッタは包装を解いてガブッと一口食べてしまった。
いつから放置されているのか分からないサンドイッチを…
「うぅ~ん…!美味しい!これグリスが作ったの?ホカホカで出来立てだよ。」
「え、えぇ?出来立て…?」
「グリス、忘れたのかい?圧縮収納道具の一部は入れた物を完璧に保管できるのよ、何億倍にも経過する時間を遅めてね。」
「はぁ~…そうでした……私はなんと無知なことを…」
「……?」
またもやエラフィンに愚弄されるグリスはへにゃっと床へ座り込み、その様を見てレンリエッタはひたすらに首を傾げてサンドイッチを咀嚼した。そして部屋の隅で倒れ込む模型の白骨を見てブフッと吹き出すのだった…
さてレンリエッタ、エラフィン共に荷物の支度は済んだのでこのまま出発!…するほど余裕が無いわけではないので、出発は明日として今日は休むことにした。
もちろん休むと言っても何もしないわけではない、今のうちにレンリエッタはクランノース山について軽く調べておこうと書棚から本を取り出した。タイトルは『幽鬼山脈』、著者はモンド・リラヒー…生前は著名な登山家だったらしい。
「クランノース山…別名皇帝の墓所……」
本にはクランノース山について基本的な情報が書かれていた。標高は約7800メートルあり、冬の最低気温は氷点下70度にまで下がり、13種の指定危険魔獣種が生息しているらしい。
エラフィンやカヴルの話していた管理者たちは二合目に村を作っているらしく、さらにその上…6合目あたりに古代墓地が存在すると書かれていた。
『墓地にて埋葬されているのはかつて王国にて戦果を挙げた古代の英雄たちである。私は彼等の中でも最も腕を振るった戦士ラディリア・オードゼンの遺体を拝見したが、とても興味深い事に彼の遺体は蒼き結晶と化していた。結晶化した理由は未だ判明していないが、その結晶こそが何よりも素晴らしい触媒の素材となる…』
「幽鬼の石…」
レンリエッタはそっと呟いた。
幽鬼の石とは古代の名高き戦士の遺体が結晶化したものだったのだ。なぜ、どうやって、なにが……その理屈はまるで分っていないが、錬成でも作成できない理由こそがそれだった。
「幽鬼の石って……遺体だったんだ…」
誰かの遺体を触媒として使用する事についてレンリエッタはドギマギとした感情を沸かせた。決して好奇心などではない、それどころか疑いに近い感情だった。
というのも魔術指南書にそれと似たようなものが少しだけ記載されていたからだ。レンリエッタは本を一旦開いたまま置くと、『簡易的な魔法解説入門編』をデスクから取って開いた。
『数多く存在する触媒の中でもタブー視されるものが存在する。それは人変触媒と呼ばれ、名の如く他人を触媒として加工したものである。制作過程において命を奪ったり、非道な呪いを使用するため人変触媒は禁忌とされ…作成、使用、所持した者は極めて重い罪に問われる。』
幽鬼の石はこの人変触媒に値するものではないかとレンリエッタは考えたが、あくまでも石は死後に変化したものであるために違う様だ。
しかし…レンリエッタは耐え切れず、広間へ降りるとエラフィンに聞いてみた。
「先生…ひとつ質問があるんだけど…」
「なんだい?悪いが年齢だとか体重ってのはナシだよ。」
「ううん、その…幽鬼の石って……誰かの死体が結晶化したものなんだよね…?」
「おっと…調べたのかい?」
レンリエッタは無言で頷いた。
するとエラフィンはソファの上で伸びしてから立ち上がると、レンリエッタへ言った。
「まぁおそらく…幽鬼の石がタブーなものだと思ってるんだろうね。けど幽鬼の石はそんなもんじゃない、古代の戦士が後世へ力を遺すために選んだ道なのさ。」
「選んだ道?」
「本には載ってないだろうが大昔には死後、自身に宿っていた魔力を結晶として残す儀式があったんだ。戦士は死す前、自ら望んで己の魔力を後世の戦士たちに託そうとしたのさ。」
遥か昔、王国で名を挙げた戦士は己に宿ったパワー…すなわち魔力を死した後も残そうとして、ある儀式を行った。その名は紡石の儀式…心臓に結晶茨の棘を埋め込み、心臓が停止した…すなわち死亡した瞬間から結晶茨の棘が遺体を養分として成長し、長い時間を掛けて肉体を結晶と化するのである。
結晶茨は死体に寄生する寄生植物であり、その結晶に秘められた純度と力は生前の実力に比例したと言われる。そのため生半可な者は結晶になれず、真に優れた戦士のみが結晶化するのである。
なおこの話から転じて『聖人の遺体は腐らない』という伝説が生まれたとされる…
―『禁忌の古代王国』より―
「だからこそアンタはその力を使うに相応しい魔法使いってことさ。」
「そっかぁ……分かった、じゃあ危ないものじゃないんだね?」
「もちろん!それと勉強熱心なのは感心するね、魔法のみならず知識は武器になるからよーく本を読んでおくように。」
「はーい!」
レンリエッタはすっかりモヤモヤが晴れた気分で部屋へと戻った。
古代の人間が勇ましい努力の果てに自分を選んでくれたのなら、それに応える事こそが最大の礼儀と言えよう。
「で、でも……怖いなぁ…」
しかし、それでも山に対する恐怖は晴れなかったのでレンリエッタは貰ったお札をペタペタとコート、帽子、ついでに杖へと貼り付けた。エラフィンの腕が確かならこれで悪霊の類は手出しできないはず…
レンリエッタはやっぱり臆病だった…
さぁ、それから一晩が経ち…いよいよ出発の時がやって来た。時刻は午前4時…まだ外は暗く、叩き起こされたレンリエッタは眠そうに目を擦りながらも着替え終えた。
「お嬢様、エラフィン様……分かっているとは思いますがくれぐれも無理だけは…」
「大丈夫大丈夫!かならず五体満足で戻るよ、早けりゃ今日中に…そうでなかったら明日か明後日には帰ってくるよ。」
「ふわぁ~……うん、私も出来るだけ無茶はしないようにするから。」
「ご無事を祈っております…どうかお気をつけて…」
グリスは心底不安そうな声で二人を見送った。いくらエラフィンの様な魔術師が付いていたとしても、クランノース山は決して生易しい場所ではないのである…そんな死地へ見送る事しか出来ないのは辛い事だろう。
レンリエッタとエラフィンはなんとかグリスを宥めてから箒へ跨った。やはり空模様はまだ暗く、春と言えども薄ら寒さが肌をくすぶった。
「さぁ行くよ!いざ、クランノースへ!!」
「ほわぁッ!!い、行って来まーす!」
エラフィンは思い切り地面を蹴り上げ、バビュンッと杖は一気に上空へ飛び上がった。上昇の際に掛かる負担は相変わらず凄まじいものだったが、眺めは中々に良かった。
消え掛けの月明かりに照らされたクランクスの大地は神秘的であり、街の方を向けばキラキラとした明かりが見えた…このような時間でも街は活気がある様だ。
そして杖は目的地であるクランノース山を差し、ビューンと飛び始めた……恐ろしく高い山だ、ゴツゴツと尖っており、白い雪を深く被っている…
「ねぇ、このまま村まで行くの?」
「そうできたら楽なんだけどねぇ…山は飛行杖の使用が禁止されてるのさ。」
「ど、どうして…?」
「山の気流は不安定で飛行に適さないのよ、それにアイスクラウンっていうヤバイ飛竜が住み着いてるせいで飛んでる奴は良い餌さ。」
このまま飛んで村、さらには墓地まで行ければ楽なものだがそうともいかない。エラフィンはブーブー文句を垂れるように説明した。
山に吹き荒ぶ気流は不安定で流されやすく、アイスクラウン種の飛竜にとって飛行杖は格好の獲物、さらには山自体無断での立ち入りが禁止されているのでそんな事をしようなら、お縄である。
「だから地道に登るよ。」
「…ほんとに?」
「そーんなわけないでしょ!ちゃーんとイカサマ登山法はあるから安心しな。」
「うーん…嬉しいような、そうでもないような…」
立ちはだかった壁を正直に越えないのがエラフィンである。真面目に登山をするとなれば果てしない時間とリスクが掛かるのでイカサマを使うらしい。
それを聞いたレンリエッタは頼もしく思えば良いのか、それとも心配すれば良いのか分からなかった…しかし、期待通りではあった。
「……あ、まずい…杖に明かりを付けるのを忘れちまったよ…」
「明かりって?」
「安全のために暗い時は杖の先…まぁフックがあるんだけど、そこにランプだとか電灯だとか吊るさなきゃいけないの。」
「……こんなに空は広いのに明かりを点ける意味なんてあるの?」
「まぁね…下から花火を打ち上げられてドッカーン!なんて事もあり得なくは無い…けど亀が空から降って来るのと同じくらいあり得ない確率だね。だから付けないよ……どうせ持って無いし。」
どうでも良い話だが、夜間など暗い場所で飛行杖を使用する場合は必ずランプや電灯、瓶詰光源などを携帯しておく必要がある。もし怠ると『個人飛行法』違反となり、厳重警告あるいは罰金を科せられる。
エラフィンはいつも忘れてしまうので今回も前例と同じくパトロール隊に見つからないよう祈るのであった。
しばらく暗い中での飛行を楽しんでいると、やがて東から太陽が昇り、クランクスの大地と二人を照らし始めた。
レンリエッタは日の出を拝みながらギラリと輝く春の太陽がこのまま山の雪まで溶か尽くしてくれれば良いなと願ったが、神が聞き入れてくれるような事は無く、無慈悲にも雪は依然として積もったままである。
そしてもうしばらくしてから、二人は山の麓に位置する街へと降り立った。
「さーて、到着だ!すぅう……はぁー!空気が澄んでてうまいねぇ!」
「うーん…そうかな?……それにしても物騒な話ばっかり聞いて来たけどこんな街があったんだ…」
「そりゃそうさ、良くも悪くも此処はクランクスで一番の山だからね。怖いもの見たさの観光客だとか、命知らずの登山家に向けた商売人共がひしめき合ってるのさ。」
レンリエッタはぐるりとその場で一周しては街を眺めた。白いレンガで作られた建物の数々、少しばかり荒っぽいタイルの道、広場に立つ多くのテント…意外と賑やかであり、人の数も多かった。
なによりガチガチに装備を着込んだ登山家も居れば、軽い防寒着を着ただけの人々も居る…
この街『エルコンベドニア』は登山家と観光客に向けて造られたもので、準備やら宿泊などを助ける施設が揃っているのだ。素敵な風景にレンリエッタは観光してみたい気分に駆られたが、そんな場合ではないのは百も承知。
「良いところなんだけど…」
「悪いけど観光してる暇は無いよ。私達が行くのは山だよ、こんな踏み慣らされた甘っちょろい道じゃないんだ。」
「そうだよね。じゃあもうさっそく行くの?」
「あぁもちろん…だけどその前にちょーっぴり面倒な手続きが必要なの。」
「何処へ行くにしても面倒なのは変わらないんだね。」
「まったくよ」
古代墓地へアタックする前には面倒な手続きが必要なので、二人は街を進んで『登山客向け窓口』へと向かって行った。見上げれば恐ろしい山が佇むこの場所で、レンリエッタは怖気付きながらも足を踏み進める勇気を振り絞るのであったとさ…
つづく…
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