100均で始まる恋もある2

三森のらん

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6.ジャック・オー・ランタン

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 出向できた八巻さんは、ずいぶんと可愛らしいお嬢様だった。とても小柄で、まるで日本人形のような艶やかな黒髪を肩まで伸ばし、仕事で着るにしては随分と華やかな花柄のワンピースを着ていて、社内のカッチリとしたスーツを着ているのが多い女性陣とかなり差があった。彼女の格好と対抗できるのは、うちの小島くらいかもしれない。その小島は佐藤さんと丹野さんと、ひそひそと話している。
 楚々とした雰囲気で朝礼の挨拶で前に出てきた様子に、男どもはぽーっと見惚れている。その様子に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
 その彼女が出向の挨拶をしようとした時、遠藤の他、何人かがフロアに入ってきた。遠藤からは、事前に電車の遅延で出社が遅れると連絡がきていたので、他の連中は同じ路線を利用しているのだろう。申し訳なさそうに、こっそりと入ってきていたのに気づいた俺は、遠藤が頭を下げた時に、小さく頷いて見せた。その瞬間。

「巽君!!」

 聞いたことのない女性の甲高い声がフロアに響いた。何事だ? と思ったのは俺だけではない。周囲の連中も、びっくりした顔をしながらキョロキョロしていると、我々の目の前を、あのお嬢様が猛ダッシュで駆け抜けていく。その様子に唖然としていた俺たち。
 それ以上に、顔を引きつらせていたのは遠藤だった。

「会いたかった!」

 逃げ腰の遠藤に抱き着いた八巻さんの姿に、朝礼に集まってた者たちの冷ややかな視線が集中する。遠藤は顔を引きつらせながら、八巻さんを引きはがそうと必死。

「ちょ、ちょっと、なんで、ここにいんの」
「巽君に会いに来た!」

 その言葉で、彼女がここへの配属が決まっていた理由が見えてきた。しかし、なぜそんな配属が可能だったのか。それがわかったのは、朝礼が終わり、遠藤と打ち合わせの後だった。

「本当に、すみませんでした」

 互いにテーブルの上に広げていた資料を整理していたところで、遠藤が謝り始めた。

「いや……遠藤の下の名前が巽っていうのを、改めて思い出したよ」
「勘弁してくださいよ……」

 からかい気味に言ってやると、遠藤は困ったように頭を抱えている。

「しかし、あの八巻さんって何者?」

 すでに冷えてしまった缶コーヒーを一気に飲み干す。遠藤がチラリとフロアに視線を向けたのは、恐らく八巻さんの様子を伺ったのだろう。そして大きくため息をついた。

「八巻櫻子は、八巻グループの会長の孫娘です」
「……は?」

 八巻グループといえば、多くの電気機器関連の会社を傘下にしている大手企業だ。しかし、彼女の出向元はまったく業種が違う会社だったはず。

「たぶん、それは親戚か何かがやってる会社だと思います。あの家、本当に色々と手広くやってるんで」
 小笠原が彼女の名前に見覚えがあったのは、その八巻会長絡みのことなのだろうか。八巻会長ともなれば、業界紙あたりにでも名前が出ていてもおかしくはない。

「遠藤はなんで八巻さんと知り合いなんだ?」
「……幼馴染なんですよ。と言っても、俺も会うのは十年ぶりくらいなんですけどね」

 遠藤曰く、幼馴染といっても、八巻家の別荘が遠藤の実家の近くにあったことで、幼い頃、八巻さんの子守りを頼まれて小遣いをもらっていた、ということらしい。
 遠藤が実家から離れても、彼女の方はちょくちょく顔を出していたようで、毎年、実家から家族勢ぞろいの写真の中に、彼女の顔も含まれていたらしく、彼女の顔は覚えていたようだ。

「俺が大学進学と同時に一人暮らし始めたんで、それ以来会ってなかったんですけど。なんだってまた、うちの会社になんか」
「でも、お前に会いに来たとか言ってたが」
「……はぁ。とにかく、実家に連絡してみて、八巻のじいさんの連絡先聞いてみます。その上で詳しく聞いてみますよ」

 遠藤はげっそりとした顔をしながら立ち上がると、打ち合わせスペースを先に出ていった。俺のほうも、なんともやっかいな相手がやってきたな、と思わずにはいられなかった。
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