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ラッパ吹き

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僕の朝は誰よりも早い。

それが役目だから。

町で一番高い塔の階段をのぼる。

片手でラッパをしっかり握りながら。

ラッパの表面が陽の光で反射しない薄暗いうちに。

ヤホネ:「ルブルム、アスル、ウィリデ、ブルーノ、ヴァイス、アートルム……ご飯だよ」

塔の途中にもうけられた鳩小屋。

6羽の鳩達へ麻袋あさぶくろに詰まった穀類をすくい取り、あげてやります。

ヤホネ:「よし、それじゃあ行って来るね」

遠くの山々から、朝日が僕をつま先から照らし始める。

僕は代々受け継ぐ懐中時計で、ときを確認した。

時計の針は経年劣化けいねんれっかで少しズレている。

ヤホネ:「……いまだ」

マウスピースを口に軽く当てた。

ラッパを空に構えて勢いよく━━吹く!

僕が吹いたラッパの音は高くも低くもない。

その音に反応したように6羽の鳩は空へと飛び立つ。

同時に朝日が僕の全身を包み込む。

ラッパが陽光ようこうでキラキラ反射した。

朝が来たのだ。

みな平等におとずれる朝。

朝を知らせるのが、僕━━ラッパ吹きの役目。

朝風あさかぜが服のすそを優しく揺らした。

生まれた時から課せられた使命。

僕の父さんも爺ちゃんも……曾祖父ひいじいちゃんも。ずっっと、ラッパ吹きだ。

だから僕もラッパ吹き。

流行りやまいで父さんは死んだけれど、翌日から僕は一度も寝過ごすことなく、今日まで毎日ラッパを吹き続けた。

父さんが生きていた頃には吹くことができなかった金ピカのラッパも、僕の手に馴染なじみはじめている。

爺ちゃんが言うには、ラッパが僕を認めるまでは音は鳴らないそうで。

ヤホネ「……少しは認めてくれたのかな」

毎朝の日課であり日常に、余韻よいんは不要だ。

すぐに学校へ行かないと。

学校では、友人ではない同年代の少年に『ヤホネの家はラッパを吹くだけの役立たず』と笑われる。

騎士団長の息子には『お前みたいなヤツを護るために騎士団はあるんじゃない』と冷たい視線を向けられる。

ヤホネ:「学校なんて行きたくない。どうせ僕はラッパ吹きだ」

やりがいなどなくてもいい。嫌でも朝はやってくる。幼い頃、あんなにも目を輝かせた空気の澄んだ街を僕は思い出さない。

(間)

ヤホネ:「……起きないと」


起きないと……いけないのに。今日はいつもと違って、寝起きが悪かった。


ヤホネ:「風邪かな……?」


無理やり冷水を頭にぶっかけて、家の扉を開きました。


ヤホネ:「……今日は空が少し暗いなあ」


懐中時計をのぞくと、やっぱり時間に間違いはない。


鳩達が塔の入り口で僕を待っていました。


ヤホネ:「今日は皆んなでお迎えしてくれたの?」

5羽の鳩を肩と頭に乗せて、塔の階段を上って行きます。

鳩小屋の前で麻袋を開くと、一斉いっせいに鳩達が袋に飛んで行きます。

ヤホネ:「おい!やめ!はははははは!ちょっ……もぉ!」

バサバサと僕の眼前がんぜん、おかまいなしに翼を羽ばたかせ。

ヤホネ:「あれ、1羽いないよね?」

周囲を見回すと、塔のテッペンの階段に『ルブルム』が僕を眺めていた。

ヤホネ:「なんだ、そこにいたのか。ルブルムはご飯をもう食べたのかい?」

僕なんかお構いなしに、ルブルムは空で円をえがきます。

ヤホネ:「……吹こうかな」

ヤホネ:「朝日が……あがらない」

懐中時計の針はいつもと同じ……位置で。

ヤホネ:「……まっている」

聞き覚えのない声が頭で響いた。
『それでも、君はラッパを吹かないといけない』
ヤホネ:「え?」
『君は、ラッパ吹きだろう』

ヤホネ:「でも懐中時計が……」

吹かないといけないんだ。ラッパ吹きだから。

その言葉を受け入れて、ラッパを薄暗い紫空しくうに向かって構えた。

ラッパを━━吹く。

今までない━━カラダ全体から音が響く感覚。


突如とつじょ轟音ごうおんと共に僕は強風にあおがれた。

ヤホネ:「そうか……朝は。朝はもう来ないんだね」

燃えるような赤色のドラゴンが塔の真上を通り過ぎていく。

続くように5頭のそれぞれ色の異なるドラゴンが、続けて通過した。

もう動くことのない針を一瞥いちべつする。

ヤホネ:「僕の役目は、朝を告げることだけじゃ無かったんだね……」

本来の役割は、
世界の終末を告げることだったんだ。

心のどこかで気づいていながら、毎朝ラッパを吹くことしかできなかった。

地はゆっくり揺れ、空が音を鳴らして裂け始めた。

人々は何事なにごとかと、彼方かなたに目をらすのみだった。

(間)

誰も日常が終わり始めていることに気づかない。
僕を除いて。

END
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