君は私の心を揺らす〜SilkBlue〜【L】

坂田 零

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【1、窓際】

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 私には、 大学時代から10年も付き合っている人がいる。
 私の彼氏は、このチェーン店のイタリアンレストランの店長だけど…
 別に私は、彼に会いたくてここにいるんじゃない。
 彼が店長になる前から、私はここの常連だから…
 
 いつもの窓際の席に座って、なんとなく、外を見る。
 私の生活は、ある意味でとても安定してて、ちゃんとした仕事があって、ちゃんとした仕事を持っている彼氏がいて、周りから見たら、とても充実しているのかもしれない。
 だけどそれは、ある意味で変わり映えのしない、退屈な日々。

 なんとなく、ため息が出る。

 タブレットで見るネットニュースも、そんなに面白いものがある訳じゃないし、家に帰るのもなんとなくつまらない、だから気が向くとこのお店でコーヒーを飲んで時間を潰す。

 私の毎日は、だいたいそんな感じの、つまらない毎日。

 このまま、結婚して、子供を産んで、老け込んでいくのかな…?
 あたし…?

 そう思いながら、あまり人がいない店内を見回してみる。
  
 一際目立つ、赤い髪をしたアルバイトさんが、 ちょうどポーションミルクの補充をしているところ。

 彼は、まだこのお店に入って間もなくて、なんとなく雰囲気の変わった子だったから、すぐに名前、覚えちゃった…

 髪は赤いし、見た目は、男なんだか女なんだかわからないような男の子だし、それじゃくても目立つよね…

 音楽やってる子だって、信ちゃん情報。

 まだ若いし、きっと私とは、全然違う世界を見てる人なんだろうな。

 私は、一度彼から視線を外してコーヒーを飲む、そして、また彼の方をみた時、偶然なのか必然なのか、彼と目があった。

「……。」

「あ……」

 彼が一瞬、困ったような顔をしたから、私は、可笑しくなって思わず笑ってしまった。

菅谷すがやくん」

 バツが悪そうにしている彼を呼ぶと、 彼は不審そうな顔をして私を見る。

「っ…あ、はい」

 彼にしてみたら私なんて、不審なおばさんって感じなんだろうな~
 そう思ったら私は、またなんだか可笑しくなってしまった。
 彼は、私の座るテーブルの脇に立った。

「コーヒー、お代わりください」

「かしこまりま…」

菅谷 樹すがや いつきくん」

「えっ?」

 まるで、見ていけないものを見てしまったかのような表情をして、彼は私をまじまじと見る。
 
  本当に幽霊でも見たみたいな表情かおだったから、 私は可笑しくなってまた笑った

「 そんな顔しなくてもいいじゃない!
驚いた?フルネーム知ってて?」

 驚いて当然だよね。
 ネームプレートには苗字しか書いてないのに、 下の名前まで呼ばれたら『なんで知ってんのっ?』てなっちゃうよね。

「びっくりした…まじ…
なんで俺の名前知ってるんすか??」

「あたし、ここの常連だし!新人リサーチしといたんだ!」

「新人…リサーチ…??」

「このお店の新人さんには、不審な女と思われがちだから、あたし」

「は、はぁ…とりあえず、コーヒー追加で」

 そう言った彼は、逃げるようにテーブルを後にする。

 うん…逃げたくもなるか…
 
 お店の新人さんのフルネームを当てて、驚いてもらうのが趣味とか、確かに、不審だよね…

 そんなことしか楽しみないとか、正直、あたしの人生、干からびてるんじゃないかとも思う。

 付き合ったことあるのは、今の彼氏だけとか…そう言うのも、ちょっと痛いかなぁ…?

 私は、なんとなくため息がでた。
 
 ふと、カウンターを見ると、赤い髪の彼がコーヒーを淹れてくれながら、先輩バイトのミキちゃんと楽しそうに話てる。

 「……若いって…いいなぁ…」

 そんなことを思わず呟いて、あたしはもう一度、ため息をついた。

 ふと、窓の外を見ると、インディゴに煙る夕暮れの空がそこにあった。

 

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