君は私の心を揺らす〜SilkBlue〜【L】

【2、雨足】

  窓の外で雨の音がしてる。
  家について、お風呂に入って、リビングでテレビを観ていると、画面に現れる気象情報。

「大雨洪水警報……
 うーん、信ちゃん迎えにこいとか言いそう…
 あの人、雨の日に運転するの嫌いだからな…
 面倒くさい…」

 また、ため息が出た。
 最近、こんなことがしょっちゅう。

 10年も付き合ってると、熟年夫婦みたいになってきて、相手が何を考えてるかとか、何が必要とかわかってしまって、先回りしてそれをしてあげないととか思うことが、なんとなく億劫。

 付き合い長すぎて、もう２年もセックスレス。
 休みの日には、ネトゲ三昧の信ちゃん。
 私も、休みは一人か、仲良い友達誘って好きなことしてる。

 そもそも、付き合い出しから、私達は変だった。
 同じサークルにいた、私と彼氏。
 なんとなく仲良くなってはいたんだけど、付き合うとかそんな感じではなくて…
 ある日、「金払うの忘れて電気止められたから、電気かして！」って、大きなパソコンもって彼氏が訪ねてきたところから始まってる…
 
 この話をすると、友達はみんな笑う。

 デートらしいデートも、実はしたことなくて…
 映画も趣味が合わないって理由で、あんまり一緒に見に行ったことなくて…

 なんでそんな奴と付き合ってるの？！って、友達はこぞって言う。

 でも、信ちゃんはあれで優しくて、あまり人に興味のない私をほっといてくれたり、悩みがあると適切にアドバイスくれたり、頭がいい人なんだ…ただ、ゲームオタクなだけで。

 「ふぅ…お迎えいこう…」

 私は着替えて、バッグをもって、マンションの部屋を出た。


        ＊
 車を運転して、お店の前までたどり着いた時、裏口には、どしゃ降りの雨に途方にくれた、うちの彼氏と、そして、バイトの子が二人いた。

「あれ……？赤い髪の子…？
菅谷くんだ！今日は遅番だったんだね…」

 もう一人のバイトさんはミキちゃんだ。
 あの子、きっと、菅谷くんのこと気に入ってるよね…

 私はそんなことを思いつつ、裏口の前に車を停めると、助手席の窓を開けた。

「濡れちゃうよ！みんな乗りなよ！」

「あれ！里佳子？迎えにきてくれたんだ」

 私はこの時、バイトさん達を車の前まで送るつもりだったんだけど…


      ＊
 30分後、信ちゃんの「腹減った、おまえら奢るから、飯食いいこう」の一言で、私達はチェーン店の居酒屋にきてた。

 いい気になって飲むから、信ちゃんはもうグデグデになってる…
 もう、いい加減にしてよ…ってほんとに思う。

「だから居酒屋は嫌だって言ったのに…すぐ寝落ちちゃうんだもん！一人で歩いて部屋行ってよね！」

 なんかイラっとして強い口調になってしまう。
 だけど信ちゃんは、まるで聞いてない。

「わぁかってりゅ～わぁかってりゅ～」

 絶対わかってないし！ 

 そう思って、更にムッとした瞬間、向かいに座ってた菅谷くんと目があった。
 だけど彼は、ぱっと私から目を逸らす。

 ほんと猫みたいな子だな～…この子…
 愛想は悪くないのに、実は人が嫌いなのかも…

 そう思っても、なんだかふわふわ揺れる赤い髪が可愛く見えて、私は思わず笑った。
 こんな見た目でも男の子だし、信ちゃん運んでって言ったら、運んでくれるかな？

「ねぇねぇ、菅谷くん、帰りこいつを部屋まで連れていってもらっていい？」

 私が、一か八かそう聞いてみると、菅谷くんは一瞬驚いた顔をして私を見る。
 その反応が面白くて、私はつい追い討ちをかけた。

「あたし一人じゃ、この人引きずっていけないもん…ダメかな？」

「ダメじゃないっす…」

 内心、やったぁと思ってしまった私…

「わーい！」

「………」

  私は、なんだか意味不明に嬉しくて、困ったように烏龍茶を飲んでる菅谷くんを、変な笑い方をして見つめてしまった。