君は私の心を揺らす〜SilkBlue〜【L】

坂田 零

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【4、歓喜】

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 彼のライブの当日。
 
 ここは、この辺り界隈では老舗のMusicBarらしい。
 こんなとこ初めて来るんで、多少緊張…
 とりあえず、今日は口紅もしてみたし、ネイルもしてみたし、なんとかなるかな…

 私は、少し奥まったBarカウンターの隅の方に座ってみた。
 バーテンにノンアルコールのカクテルを頼んで、とりあえず、彼を待つ。

 ギタリストが出て来て、ギュインと音を鳴らして何かを調整してる。
 
 この変なドキドキ感は、とあるアイドルのコンサートに行った以来だよね…

 ステージの方に赤い髪が見えた。
 目立つ~!
だからあの髪の色…
なんだかしみじみ納得してしまった。

彼がこっちを見た。
思わず手を振る。
彼は、珍しくニコッと笑った。

バンドの演奏が始まる。
音の大きさに圧倒される。
そこに彼の歌が乗る。

「歌、こんなに上手だったんだ…
なんか、カッコいい…」

 なんだか、胸がぎゅっとした。
 今、自分がどんな顔してるかわからないけど、気分は、憧れの先輩の部活風景を見る女子高生的な何かなような気がする。



        *
 ライブ後。
 人通りもまばらな歩道を、私と彼は、駐車場に向かって歩いていた。
 私は、間髪入れず彼に言う。

「菅谷くんて、ほんとはカッコよかったんだね!?」 

「ほんとは……って……
あの、すいません、それ褒めてんすか?けなしてんすか?」

 そう言って彼はムッとする。
 ちょっと気難しいところがあるのは、なんとなくわかってきた、でも、私は負けない。 
 私は笑った。
 
「違う違う!そういう意味じゃなくて!男か女かわかんないような見た目だから、なんか可愛い印象だったんだけど…
歌ってると可愛いがカッコ良いになるんだなって」

「……それ、褒められてるように聞こえないんすが…」

「えー!すっごい褒めてるよ!
バイトしてる時の顔と、歌ってる時の顔全然違うし…ほんとに歌好きなんだね」

 「ほんとは…歌って食っていけるのが理想なんだけど、世の中に歌が上手い奴なんて腐るほどいるし…
俺の歌、ちゃんと聞いてくれるヤツがどれぐらいいんのか、わかんないから…」 

 随分と卑屈なモノの言い方する。
 彼の言葉を聞いて、私はそう思った。
 彼には彼なりのコンプレックスや理想があるのかもしれないけど、それに届かないからって卑屈になるのはきっと何か間違ってる。
 真面目にそう思った私は、ぱっと彼の真正面に立った。
 そして、少し戸惑ったような彼の目を、真正面からじっと見つめる。
 グリーンのカラーコンタクトを入れた瞳が、きょとんと私を見つめていた。
 今夜、実際に感じたことを、私が伝えれば、彼は少しはわかってくれるだろうか?

「あたし、音楽ぎょーかいの事とか全然知らないし、菅谷くんが歌で稼いでいけるとも、いけないとも言えないけど。
あたしは菅谷くんの歌『イイっ!』って思った。
ちゃんと聞いてくれない人もいるかもしれないけど、あたしみたいに、ちゃんと聞いて感動する人間もいる。
それ、わかってる?」

 思ったより口調が強くなっちゃった…
 でも、彼は、ちょっと驚いた顔をしただけで、私から視線を逸らさない。
 きっと、私の気持ちは、彼に伝わる…はず。

「………。」
 
 「評価なんか、1つじゃないじゃない?
誰かが『良くない』って言っても、他の誰かは『良い!』って言ってくれるかもしれない、わかる?」

「……な、なんとなく」

「あたしは、菅谷くんより7年は長く生きてる。
 7年分の経験値を舐めたらいけない、お姉さんの言うことは信用すること。
だから、菅谷くんの歌は『イイ』!」

「……………あ、ありがとう」

 素直な人。
 なんか、やっぱり可愛い。
 私は、つい変な笑い方をしてしまった。
 目の前でふわふわ揺れてる赤い髪。
 ほんと猫みたい。
 私は思わず、そんな彼の髪に手を伸ばして撫でてしまった。
  彼が、驚いたみたいにまじまじと私を見る。
  でも、ふいっと視線逸らせて拗ねたように彼は言った。

「俺は犬かよ…っ!」

「犬っていうより猫っぽいよね。
あ…お姉さんじゃなくてばばあだろ?とか思ったでしょ!?」

「思ってないよ」

「その不満そうな顔は絶対思ったよ!」

「思ってないって!」

「ほんと?!」

「ほんとだよ…」

「よし!満足した!」

「は??」

 きょとんとする彼の顔が、なんだか可愛い。
 なんだろこの人。
 ほっとけないって言うか、危なっかしいというか。
 とにかく、彼はまるで信ちゃんとは違う、別世界の人種であるのはよくわかった。
 
 なんだか嬉しいし楽しい。
 この人と一緒にいると、今までと違う世界が見れそう…

 この時私は、ついぼんやりとそんなことを考えていた…
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