君は私の心を揺らす〜SilkBlue〜【L】

坂田 零

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【13、誤差】

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 映画を見終わった私は、恐怖に震えていた。
 違うの…
 この恐怖は樹くんに対する感情云々じゃなくて、ほんとに映画が怖かったの!

「もぉぉぉぉ!怖かった!!
見るんじゃなかったあの映画!!」

「俺もしばらく、家の押し入れ開けらんねーわ」

 さすがの樹くんも、こう言って怯えるレベルの怖さだったんだから、私なんかもっと怖い。

 「だよね!もぉ、一人で部屋にいたくない…!」

 そう言った時、私の目と樹くんの目が合った。   私はつい、また変な笑いかたをしてこう聞いてしまう。

「…今夜、うちに泊まる?」

「……なにそれ、怖いから?」

 それもあるけど… 
 それだけじゃなくて…
 一緒にいたいの…
 だけどそれは、言えないし、言ったらいけない気がする…

「う、うん…」

「小学生かよ!」

「だって怖いものは怖いんだもん!!」

 そう言ったら、優しい彼は、呆れながらも泊まるよって言ってくれた。
 嫌な女だな、私。
 でも、嬉しい…

 部屋に戻って、コーヒーを淹れて、私は、ソファーに座る彼の隣に座った。
  そんな私の顔を、彼が複雑な表情で覗きこんでくる。

「俺、泊まってもいいの?まじ?」

「なんで?」

「なんでって…色々バレたら困るんだろ?」

  そう聞かれて、私の心がズキンッと痛んだ。
  バレたら困る、だけど、樹くんとは一緒にいたい。
 信ちゃんと過ごした10年を、捨てる勇気もないくせに、樹くんとも一緒にいたいとか、私、いくらなんでも自分勝手過ぎる…

 「あたし…ずるいよね…
 自分で何してるんだろって思う…
 前に言ったかもしれないけど、信ちゃんと付き合って10年。
 樹くんとこうやって出かける感じみたいな、デートぽいっ事、ほんと全然したことなくて。
 信ちゃんは自分の行きたいとこに、好きなように行くし。
 映画の趣味も合わないから、映画とかも行ったことなかった…
 だから、樹くんと居ると楽しくて…」

「里佳子さんはさ…」

「……ん?」

 私の目の前で、樹くんの顔が、傷ついたように険しい表情に変わる。

「里佳子さんは、俺が都合いい存在だから一緒にいんの?」

 彼のその言葉で、私は、自分が言った言葉がどれだけ傲慢な言葉だったか、初めて気がついた。
 何故、彼が怒ったのか察している私は、慌てて否定する。
 
「それは違うよ!」

「じゃあ、なんで、こうしてんの?」

「それは…っ!」

「うん」

「それは……」

 樹くんが好きだから!

 私はそう言いたかった。
 だけど、これを言ったら、信ちゃんと別れる決意すらできないのに、この言葉だけを放ったら、私はますます嫌な女だ。

 「あたしがこれを言ったら…
多分、もっとずるくなっちゃう…
だから、言えない……」

「………」

 彼は大きなため息をついた。
 そして、テーブルに置きっぱだった車のキーと財布を持って、ソファーを立つ。

「俺、帰るわ」

「え?」

「帰るよ」

 吐き捨てるようなその言葉に、心が凍りつく思いがした。

「樹くん!」

 ここで離れてしまったら、二度と戻れない気がした。
 玄関へと歩く彼を追いかけて、私はその腕を掴んだ。

 「待って樹くん!あたし、こういうの嫌!」

 泣きそうになって私は必死に彼の腕に抱きつく。

「どうせ帰っちゃうなら、ちゃんと話て、ごめんねって言ってからにして!
こういうの嫌なの…っ」

 険しかった彼の顔が、一瞬、ひどく悲しそうな表情になった。
 彼に、こんな顔させてしまうなんて、あたし、一体なにやってんだろう…
 彼は、いつもストレートに気持ちをぶつけてくれるのに、私は、こんな風に中途半端にしか彼と向き合えない。 

 私、ほんとにずくるて汚い…

 そんな私の腕を、彼が強引に掴んだ。
 その勢いで、彼は私を力一杯抱き締める。

 「どうして…っ」

 切羽詰まったような声。
 息が詰まるほど、彼の気持ちが私に伝わってくる。
 抱き締める力が強すぎて、腕が痛い。

 「樹くん…っ、痛いっ」
 
 そう言った私の唇に、彼は強引にキスをする。
 首筋にも顎にも、滴るように繰り返される乱暴なキス。 
 不意に服の中に手が滑り込んで、強く胸を掴まれる。

  痛い…っ

 だけど、きっとこれが彼の今の気持ちなんだ。
 私が受け止めるべき痛みなら、私は全部受け止める。
 痛いと感じたのに…
 何故か私の体は敏感に反応して、じんっと体の奥が熱くなった。


  
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