101 / 165
第10章︰エーリ学院〜上級クラス〜
第94話
しおりを挟む
「降りろ。」
しばらく馬車に揺られた後、ライガに腕を掴まれて馬車から降ろされた。
外は既に暗くなっているようで、彼が手に持ったランタンの明かりが石造りの地面を照らした。
「ここ…イリスシティア?」
「口を開くな。聞かれた質問にだけ答えればいい。」
常に無愛想な物言いをする彼は、普段からさほど口調が変わらないように思えるが、今はその言葉1つ1つが意思のない冷たいものに感じた。
目の前にあった建物の中に入っていくと、薄暗い階段を下りていき地下へ向かった。通路を進み、1番奥にある鉄格子の扉を開いて中に入った。彼は私の方に身体を向けると、ローブを脱がせ始めた。両手首に付けられた拘束具を外し、その代わりに、壁に取り付けられた鎖で左足を拘束した。
「明日の朝、お前の処分を言い渡す。それまでは大人しく寝ていろ。」
「…。」
「何か質問があるなら受け付ける。」
「ミグを…側に置いておきたいん…ですけど、駄目ですか?」
「許可する。」
「あ、ありがとう…ございます…。」
「念の為言っておくが…もしも脱走する様な事があれば、命はないと思え。」
「…わかりました。」
彼は再びローブを身にまとうと扉に鍵をかけ、その場から立ち去って行った。
私は硬いベッドの端に腰を下ろすと、ミグの名前を呼んだ。身体の外に出てきた彼は、私の隣に腰を下ろした。
「ねぇミグ…あの男の人、私が殺したの…?」
「違う。…殺したのは俺だ。」
「どうして…」
「すまない…。頭が真っ白になって…気付いたら…もう……。」
「そっか…。」
「使い魔が主の足を引っ張るなんて…。こんな失態…俺はなんて事を…。」
「ミグのせいじゃないよ…。私がもっと…しっかりしてれば…。」
「身体は痛まないか…?」
「うん。それはもう大丈……っくしゅ!」
「寒いか?」
「ちょっと寒いけど…平気。」
ミグはその場に立ち上がると、私の身体に毛布をかけた。
「こんな事しかしてやれなくてごめんな…。」
「そんな事ない。ミグが一緒に居てくれるだけで安心するよ。」
「ルナ…。」
「ねぇ、前みたいに一緒に寝ようよ。その方が暖かそうだし。」
「そうだな。その方が俺も安心する。」
私はミグと背中を合わせ、同じベッドの上に横になった。目を閉じると、背中から彼の体温が伝わり、不安も恐怖も薄れていくような気がした。
「ルナソワレーヴェ。出ろ。」
翌朝、処分を言い渡しに来たライガが私を牢屋の外に連れ出した。再び両手首に拘束具が付けられ、黙って彼の後をついて行った。
通路の先にあった扉が開かれ、部屋の中に入って行くとソファーに座っているクレア様の姿があった。
「クレア様…。」
「ルナさん。まさかあなたとここで会うことになるとはねぇ…。」
後ろに立っていたライガが扉に鍵をかけると、私に付けられた拘束具を外し始めた。
「…そこに座れ。」
「はい…。」
クレア様の向かいのソファーに腰を下ろすと、彼もその隣に腰を下ろした。
「とても優秀だったそなたを失うのは、エーリにとってすごく残念な事だわ。」
「…申し訳ありません。」
「出来る事なら、これからもずっと活躍する姿を見続けたかった…。しかし、罪を犯したからには償うのが筋というもの。そなたにはこれからの人生を、意味のあるものにしてもらいたいのじゃ。わかっておくれ…。」
「はい…。クレア様のお言葉…ありがたく頂戴いたします。」
「ルナさん。あなたをエーリ学院から追放し、レジデンスで任務を行う幹部吸血鬼に任命します。」
「………ぇ?」
クレア様の言葉の意味を理解出来ず、口を開いたまま固まっていると、隣に座っていたライガが私の口に指を触れた。
「口を閉じろ。失礼だろ…。」
「ご、ごめんなさい…。あの…仰ってる意味が…わからないのですが…。」
「そのままの意味じゃ。」
「そのまま…?」
「何度も言わせるな。お前は今日からレジデンスの幹部だ。これからすぐにエーリに向かい、荷物をまとめる。」
「えー!?な、なんで!?私、殺人の罪で捕まっ…」
彼は私の腕を掴むと、強引にその場に立ち上がらせた。
「その話は後だ!クレア様。お時間を頂き、ありがとうございました。後の事はお任せ下さい。」
「えぇ。道中気をつけて行きなさいねぇ。」
「クレア様もお気をつけて。…お先に失礼します。」
追い出されるような形で部屋から出ると、腕を引かれて建物の外へやって来た。
「ライガ…!そんなに強く掴まれたら痛いよ…!」
「わ、悪い…。」
彼は慌てて腕を離すと、私から目を逸らした。
「…エーリに行くんだよね?」
「あぁ。俺は1度レジデンスに戻る。荷物をまとめたら、門の前で待っていろ。」
「うん…わかった。」
「おかえりなさいルナ!」
「た、ただいま…エレナ。」
エーリから追放された私は、荷物をまとめてレジデンスに戻って来た。出迎えてくれたエレナの笑顔を見て、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになった。
そのままになっていた自分の部屋に足を踏み入れると、荷物を下ろしてベッドに横になった。
「はぁ~…。なんだかなぁ…。」
「どうした?嬉しくないのか?」
ミグが私の前に現れると、ベッドの端に腰を下ろした。
「うーん…。幹部になれたのは嬉しいけど…。素直に喜べないというか…これでいいのかなって…。」
「そうだな…。殺人の罪で捕まったはずなのに、功績として称えられるなんてな。」
「人間を殺す事が、幹部に昇格する条件だなんて…おかしいよ…。」
私はここに来るまでの間で、ライガに幹部への昇格理由を聞いていた。
幹部になる為には、上級吸血鬼である事やそれなりの実績がある事が最低条件なのだが、1番重要なのは人を殺せる程の技量があるかどうかだと言う。
今回、私(正確にはミグ)が人間を殺してしまった事で、吸血鬼の敵である人間を排除したという功績が認められ、それと同時に技量も充分だと判断された事で昇格が決まったそうだ。
「複雑な気持ちなのは俺も一緒だ…。あいつが誰かはわからなかったけど、アリサがあいつの事を騎士長と呼んでいたのが気になる…。」
「騎士長って事は…アリサと同じ国家騎士のトップって事だもんね…。私達も、会った事がある人だったのかも…。」
「俺の事…知っているような口ぶりだった。」
こちらに背を向けて座っていた彼の表情は見えないが、両手で顔を覆って項垂れる様子から彼の心情を察した。
「ルナー!おかえりー!」
机に座って本を読んでいると、部屋にやって来たレーガが私に抱きついた。
「わ!?びっくりしたぁ…。」
「ごめんごめん。嬉しくてつい。」
彼は私から離れると、部屋の中に足を踏み入れて床に置いてあったクッションの上に腰を下ろした。
「レーガは…フルリオに行ってないの?」
「僕とエレナは別の仕事を任されてるんだよね。こっちの仕事を疎かにする訳にもいかなくてさ~。」
「そうなんだ…。」
「ルナはフルリオに行ってたんだよね?…怪我したって聞いたけど…大丈夫?」
「大したことなかったんだけど、しばらくは部屋で大人しくしてろって。フルリオから戻って来てから仕事の話をしようって言ってたよ。」
「そっか~。ならルナの歓迎会は、みんな帰ってきてからだね。」
歓迎会と聞いて、上級吸血鬼に昇級した時にお祝いのパーティをした事を思い出した。
「レーガって、そういう催し物をするの好きだね…。」
「だって楽しいじゃん。みんなでワイワイするのもそうだけど、準備をしてる時間も好きなんだよね。なんかワクワクしない?」
「確かに楽しいけど…。」
「あーそうだ…!まだ仕事の報告してなかったっけ…。身体、ゆっくり休めてね。」
「うん。ありがとう…!」
「また後でね~。」
彼は手を振りながら笑顔で部屋を出ていった。
「あ、おかえりルナ。」
「ただいまールカ。今日も薬作ってるの?」
「うん。塗り薬を作ってるよ。」
「すごーい!いつの間に塗り薬なんて作れるようになったの?」
私はルカの隣に駆け寄ると、ソファーに座って彼の手元を眺めた。
「え、えっと…。作り始めたのは…最近だよ。」
「そっか~…。私は薬草の事もあんまり知らないし、薬を作るの得意じゃないからルカに教えてもら…」
彼の方を振り向くと、私の方を見ていた彼と目が合った。彼の顔がすぐそこに迫っていた事に驚き、私の思考は停止した。
彼は目をそらすことなく見つめ続け、顔を近づけ始めた。その距離が短くなるにつれて、心臓の鼓動が普段より激しさを増していく。全ての動きを止めたまま、私はそっと目を閉じた。
ーガタン
突然聞こえた物音に、ビクッと肩を震わせて私達はお互いにその場から離れた。
「ただ……い…ま…。」
「お、おか…おかえり…ミグ!」
「…大丈夫かルカ?なんか…顔引きつってるけど…。」
「え!?そ、そうかな?ちょ、ちょっと鏡を見てくる…!」
彼は顔を手で抑えながら慌ててソファーから立ち上がると、床に置いていた薬草の籠に足を引っかけ、盛大に転倒した。
「お、おい!大丈夫か!?」
「痛~っ……だ、大丈夫…大丈夫だからー!」
ルカは半ば叫び気味にその場から走り去ると、こちらに歩み寄ってきたミグが向かいのソファーに腰を下ろした。
「お前らキスしたの?」
「はぁ///!?」
「な、なんで怒ってるんだ…?したのか、してないのか聞いただけだろ?」
「っ~///ほんとミグってデリカシーなさすぎ///!!!」
私はその場から立ち上がって、2階へ向かう階段をのぼり始めた。
自室のベッドに横になると、大きく息を吸い込み、それをゆっくり吐き出しながら目を閉じた。激しく波打った心臓は、治まることなく動き続ける。
いつもはあっという間に覚めてしまう夢が、この日は異様に長く感じた。
しばらく馬車に揺られた後、ライガに腕を掴まれて馬車から降ろされた。
外は既に暗くなっているようで、彼が手に持ったランタンの明かりが石造りの地面を照らした。
「ここ…イリスシティア?」
「口を開くな。聞かれた質問にだけ答えればいい。」
常に無愛想な物言いをする彼は、普段からさほど口調が変わらないように思えるが、今はその言葉1つ1つが意思のない冷たいものに感じた。
目の前にあった建物の中に入っていくと、薄暗い階段を下りていき地下へ向かった。通路を進み、1番奥にある鉄格子の扉を開いて中に入った。彼は私の方に身体を向けると、ローブを脱がせ始めた。両手首に付けられた拘束具を外し、その代わりに、壁に取り付けられた鎖で左足を拘束した。
「明日の朝、お前の処分を言い渡す。それまでは大人しく寝ていろ。」
「…。」
「何か質問があるなら受け付ける。」
「ミグを…側に置いておきたいん…ですけど、駄目ですか?」
「許可する。」
「あ、ありがとう…ございます…。」
「念の為言っておくが…もしも脱走する様な事があれば、命はないと思え。」
「…わかりました。」
彼は再びローブを身にまとうと扉に鍵をかけ、その場から立ち去って行った。
私は硬いベッドの端に腰を下ろすと、ミグの名前を呼んだ。身体の外に出てきた彼は、私の隣に腰を下ろした。
「ねぇミグ…あの男の人、私が殺したの…?」
「違う。…殺したのは俺だ。」
「どうして…」
「すまない…。頭が真っ白になって…気付いたら…もう……。」
「そっか…。」
「使い魔が主の足を引っ張るなんて…。こんな失態…俺はなんて事を…。」
「ミグのせいじゃないよ…。私がもっと…しっかりしてれば…。」
「身体は痛まないか…?」
「うん。それはもう大丈……っくしゅ!」
「寒いか?」
「ちょっと寒いけど…平気。」
ミグはその場に立ち上がると、私の身体に毛布をかけた。
「こんな事しかしてやれなくてごめんな…。」
「そんな事ない。ミグが一緒に居てくれるだけで安心するよ。」
「ルナ…。」
「ねぇ、前みたいに一緒に寝ようよ。その方が暖かそうだし。」
「そうだな。その方が俺も安心する。」
私はミグと背中を合わせ、同じベッドの上に横になった。目を閉じると、背中から彼の体温が伝わり、不安も恐怖も薄れていくような気がした。
「ルナソワレーヴェ。出ろ。」
翌朝、処分を言い渡しに来たライガが私を牢屋の外に連れ出した。再び両手首に拘束具が付けられ、黙って彼の後をついて行った。
通路の先にあった扉が開かれ、部屋の中に入って行くとソファーに座っているクレア様の姿があった。
「クレア様…。」
「ルナさん。まさかあなたとここで会うことになるとはねぇ…。」
後ろに立っていたライガが扉に鍵をかけると、私に付けられた拘束具を外し始めた。
「…そこに座れ。」
「はい…。」
クレア様の向かいのソファーに腰を下ろすと、彼もその隣に腰を下ろした。
「とても優秀だったそなたを失うのは、エーリにとってすごく残念な事だわ。」
「…申し訳ありません。」
「出来る事なら、これからもずっと活躍する姿を見続けたかった…。しかし、罪を犯したからには償うのが筋というもの。そなたにはこれからの人生を、意味のあるものにしてもらいたいのじゃ。わかっておくれ…。」
「はい…。クレア様のお言葉…ありがたく頂戴いたします。」
「ルナさん。あなたをエーリ学院から追放し、レジデンスで任務を行う幹部吸血鬼に任命します。」
「………ぇ?」
クレア様の言葉の意味を理解出来ず、口を開いたまま固まっていると、隣に座っていたライガが私の口に指を触れた。
「口を閉じろ。失礼だろ…。」
「ご、ごめんなさい…。あの…仰ってる意味が…わからないのですが…。」
「そのままの意味じゃ。」
「そのまま…?」
「何度も言わせるな。お前は今日からレジデンスの幹部だ。これからすぐにエーリに向かい、荷物をまとめる。」
「えー!?な、なんで!?私、殺人の罪で捕まっ…」
彼は私の腕を掴むと、強引にその場に立ち上がらせた。
「その話は後だ!クレア様。お時間を頂き、ありがとうございました。後の事はお任せ下さい。」
「えぇ。道中気をつけて行きなさいねぇ。」
「クレア様もお気をつけて。…お先に失礼します。」
追い出されるような形で部屋から出ると、腕を引かれて建物の外へやって来た。
「ライガ…!そんなに強く掴まれたら痛いよ…!」
「わ、悪い…。」
彼は慌てて腕を離すと、私から目を逸らした。
「…エーリに行くんだよね?」
「あぁ。俺は1度レジデンスに戻る。荷物をまとめたら、門の前で待っていろ。」
「うん…わかった。」
「おかえりなさいルナ!」
「た、ただいま…エレナ。」
エーリから追放された私は、荷物をまとめてレジデンスに戻って来た。出迎えてくれたエレナの笑顔を見て、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになった。
そのままになっていた自分の部屋に足を踏み入れると、荷物を下ろしてベッドに横になった。
「はぁ~…。なんだかなぁ…。」
「どうした?嬉しくないのか?」
ミグが私の前に現れると、ベッドの端に腰を下ろした。
「うーん…。幹部になれたのは嬉しいけど…。素直に喜べないというか…これでいいのかなって…。」
「そうだな…。殺人の罪で捕まったはずなのに、功績として称えられるなんてな。」
「人間を殺す事が、幹部に昇格する条件だなんて…おかしいよ…。」
私はここに来るまでの間で、ライガに幹部への昇格理由を聞いていた。
幹部になる為には、上級吸血鬼である事やそれなりの実績がある事が最低条件なのだが、1番重要なのは人を殺せる程の技量があるかどうかだと言う。
今回、私(正確にはミグ)が人間を殺してしまった事で、吸血鬼の敵である人間を排除したという功績が認められ、それと同時に技量も充分だと判断された事で昇格が決まったそうだ。
「複雑な気持ちなのは俺も一緒だ…。あいつが誰かはわからなかったけど、アリサがあいつの事を騎士長と呼んでいたのが気になる…。」
「騎士長って事は…アリサと同じ国家騎士のトップって事だもんね…。私達も、会った事がある人だったのかも…。」
「俺の事…知っているような口ぶりだった。」
こちらに背を向けて座っていた彼の表情は見えないが、両手で顔を覆って項垂れる様子から彼の心情を察した。
「ルナー!おかえりー!」
机に座って本を読んでいると、部屋にやって来たレーガが私に抱きついた。
「わ!?びっくりしたぁ…。」
「ごめんごめん。嬉しくてつい。」
彼は私から離れると、部屋の中に足を踏み入れて床に置いてあったクッションの上に腰を下ろした。
「レーガは…フルリオに行ってないの?」
「僕とエレナは別の仕事を任されてるんだよね。こっちの仕事を疎かにする訳にもいかなくてさ~。」
「そうなんだ…。」
「ルナはフルリオに行ってたんだよね?…怪我したって聞いたけど…大丈夫?」
「大したことなかったんだけど、しばらくは部屋で大人しくしてろって。フルリオから戻って来てから仕事の話をしようって言ってたよ。」
「そっか~。ならルナの歓迎会は、みんな帰ってきてからだね。」
歓迎会と聞いて、上級吸血鬼に昇級した時にお祝いのパーティをした事を思い出した。
「レーガって、そういう催し物をするの好きだね…。」
「だって楽しいじゃん。みんなでワイワイするのもそうだけど、準備をしてる時間も好きなんだよね。なんかワクワクしない?」
「確かに楽しいけど…。」
「あーそうだ…!まだ仕事の報告してなかったっけ…。身体、ゆっくり休めてね。」
「うん。ありがとう…!」
「また後でね~。」
彼は手を振りながら笑顔で部屋を出ていった。
「あ、おかえりルナ。」
「ただいまールカ。今日も薬作ってるの?」
「うん。塗り薬を作ってるよ。」
「すごーい!いつの間に塗り薬なんて作れるようになったの?」
私はルカの隣に駆け寄ると、ソファーに座って彼の手元を眺めた。
「え、えっと…。作り始めたのは…最近だよ。」
「そっか~…。私は薬草の事もあんまり知らないし、薬を作るの得意じゃないからルカに教えてもら…」
彼の方を振り向くと、私の方を見ていた彼と目が合った。彼の顔がすぐそこに迫っていた事に驚き、私の思考は停止した。
彼は目をそらすことなく見つめ続け、顔を近づけ始めた。その距離が短くなるにつれて、心臓の鼓動が普段より激しさを増していく。全ての動きを止めたまま、私はそっと目を閉じた。
ーガタン
突然聞こえた物音に、ビクッと肩を震わせて私達はお互いにその場から離れた。
「ただ……い…ま…。」
「お、おか…おかえり…ミグ!」
「…大丈夫かルカ?なんか…顔引きつってるけど…。」
「え!?そ、そうかな?ちょ、ちょっと鏡を見てくる…!」
彼は顔を手で抑えながら慌ててソファーから立ち上がると、床に置いていた薬草の籠に足を引っかけ、盛大に転倒した。
「お、おい!大丈夫か!?」
「痛~っ……だ、大丈夫…大丈夫だからー!」
ルカは半ば叫び気味にその場から走り去ると、こちらに歩み寄ってきたミグが向かいのソファーに腰を下ろした。
「お前らキスしたの?」
「はぁ///!?」
「な、なんで怒ってるんだ…?したのか、してないのか聞いただけだろ?」
「っ~///ほんとミグってデリカシーなさすぎ///!!!」
私はその場から立ち上がって、2階へ向かう階段をのぼり始めた。
自室のベッドに横になると、大きく息を吸い込み、それをゆっくり吐き出しながら目を閉じた。激しく波打った心臓は、治まることなく動き続ける。
いつもはあっという間に覚めてしまう夢が、この日は異様に長く感じた。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる