エテルノ・レガーメ

りくあ

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第11章︰上に立つ者

第95話

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レジデンスの幹部になってから数日の間、私は薬草について書かれた本を読み漁っていた。

「あら?こんな所で読書ですの?」
「あ、エレナ。」
 
日差しがさんさんと降り注ぐ中庭のベンチで、私は本を広げていた。私を見つけたエレナが、こちらに歩み寄って隣に腰を下ろした。

「今日は仕事、お休みなの?」
「ええ。今日はいいお天気ですわね~。私は本を読むならいつも部屋の中ですけれど、ルナのように外で読むのも良さそうですわ。」
「なら一緒に読もう?」
「そうしたいのは山々ですけれど…。他にやる事が多くて、それどころではないのですわ。」
「そんなに大変なの…?私、手伝うよ!」
「それは駄目ですわ!ルナにはしっかり休んで貰わないと!」
「じゃ、じゃあ…ミグが手伝うのは?私は近くで大人しくしてるから!…それも駄目?」
「うーん…それくらいでしたら…。」
「わかった!何をしたらいい?ミグならなんでも出来るから任せて!」
「そうですわねぇ…。1番時間がかかる掃除をお願いしたいですわ。」
「わかった!行こっ…ミグ!」
「お、おい!走るな!」



少しでもエレナの役に立つ為、私達は物置になっている部屋の掃除を始めた。実際に掃除をするのはミグなのだが、私も何か手伝おうと思い、椅子に座って部屋の中を見回した。

「ミグ。そこ、まだホコリが残ってるよ?」
「そうか?わかった。」
「あ!そこにも残ってる!」
「あ…あぁ…。」
「あ、あそこ…」
「…。」
「ミグ、聞いてる?」
「お前は嫁をいびる姑か!?いいから黙って本を読んでろ!」
「…ご、ごめん。手伝おうと思って…。」

良かれと思って言ったことが裏目に出てしまい、私は膝の上にのせた本に視線を落とした。

「…俺にばっかり掃除をやらせて、悪いと思ってるんだろ?俺に負い目を感じる必要ないんだから気にするなよ。」
「ミグだからって訳じゃないよ。私の指示でこき使うみたいな事…誰にだってしたくない…。」
「そんな調子で大丈夫なのか?お前はもう幹部クラスになったんだから、誰かの上に立つ機会も増えるはずだ。エーリにいた時は、ララやユイは友達だったかもしれないけど、今じゃお前が手本となって引っ張っていくべき部下達だ。」
「部下だなんてそんな言い方…!」
「わ、悪い…言い方が良くなかったな…。…幹部よりも下の階級の吸血鬼にとって、幹部に対する礼儀は厳守すべきルールだ。それはお前もよく分かるだろ?」
「そうだけど…。」
「まあ…誰だって急には難しいもんだ。少しずつ頑張るしかないだろ。」
「…うん。」



その日の夜、フルリオから帰ってきたライガとフィーを交えて、食堂で歓迎会が開かれた。用意された料理の数々は、ミグの手伝いもあって、とても豪華なものが出来上がった。

「すごい豪華だね!これみんな、エレナが用意したの?」
「私だけではありませんわ。ミグにも手伝ってもらいましたの。」
「おいルナ…。身体を休めろと言っただろう。」
「私は休んだよ?手伝ったのは、ミグだけだから…。」
「使い魔を使役するのだって、多少なりと体力も魔力も使うものだ。全く…お前は大人しく休みも出来ないのか。」
「ご、ごめんなさい…。」
「それくらい大目に見てあげなよ~。そういう所は細かいよね~ライガって。」
「…余計なお世話だ。」
「せ、折角だから…冷めないうちに食べませんか…?」
「そうだねー。いただきまーす。」

私の隣にはレーガとエレナが座り、向かいにはフィーとライガが座っているが、そこにヴェラの姿がない事に気付いた。

「そういえば…ヴェラは?」
「あいつはまだフルリオに残っている。怪我人が思ったよりも多くて、あと2、3日は帰って来れないだろう。」
「そっか…。」
「フルリオの被害は相当なものですわね。」
「そうですね…。怪我人も多かったですけど…壊れた建物も多くて、元に戻るまでかなりかかると思います…。」
「明日からは、お前達に行ってもらうからな。」
「えー!?そんな話聞いてないよ!」
「今言ったからな。」
「ちょっとライガ!そういう事は、もう少し早く言ってもらわないと困りますわ。」
「そうだよ~。」
「ルナ、お前もだぞ。」
「え?私も?」
「ルナは1回行ったのに、また行くの?」
「これも幹部の仕事だ。」
「わ、わかった…。」
「ルナは病み上がりですから…無理しないようにしてくださいね…?」
「うん!ありがとうフィー。」



料理を食べ終わってしばらく雑談をしていると、ライガがテーブルに手をついて勢いよくその場に立ち上がった。

「ど、どうしたの?ライガ…」
「……少し風に当たってくる。」
「い、いってらっしゃい…。」

彼はゆっくりテーブルから離れると、右へ左へ蛇行しながら、扉を開けて廊下へ出て行った。

「なんかフラフラしてたけど大丈夫かなぁ…。」
「ねぇルナ~。今日は一緒に寝ようよ~。ね~?」
「明日からフルリオでしょ?1人で寝たほうも疲れがとれるよ。」
「やだやだ~!ルナと一緒じゃなきゃ嫌だ~!」

レーガに抱きつかれて腕を拘束され、身動きが取れなくなってしまった。脱出を試みるが思いのほか腕の力が強く、離れる様子もなかった。

「エ、エレナ~助けて~!」

調理場で片付けをしていたエレナに助けを求めると、エプロン姿の彼女が駆け足でこちらにやって来た。

「ちょっとレーガ!飲み過ぎですわよ!」
「そんなに飲んでないよ~。まだまだ飲めるも~ん。」
「飲めるかどうかは聞いていませんわ!ほら、部屋に戻りますわよ。」
「嫌だ~!ルナと一緒に寝る~!」
「いいから離れなさい!」

エレナは彼の襟首を掴んで私から引き離すと、腕を引っ張って食堂から出ていった。エレナと共に片付けをしていたフィーが、奥の調理場から姿を現した。

「レーガお酒を飲むと、ああなってしまうんですよね…。」
「お酒って何?」
「アルコールが含まれている飲み物の事です…。以前…ルナが飲んだ物ですよ?」
「ああ、あの時の…。」
「それにしても…ライガ、帰って来ないですね。もう部屋に戻ってしまったかもしれません…。」
「私もそろそろ戻ろうかな。ごめんね…2人に片付け任せちゃって…。」
「大丈夫ですよ…!もうすぐ終わりますから…。…おやすみなさいルナ。」

自室に戻っている途中、廊下の真ん中に横たわる黒い塊を見つけた。恐る恐るそれに近づいて手を触れると、その感触を確かめた。硬さはなく温かみがあり、微かに寝息のような音が聞こえてきた。

「もしかして…ライガ?ライガ~…こんな所で寝てないで、部屋に戻って寝た方がいいよ~?」

身体を揺らしながら声をかけたものの、一向に起きる気配はなかった。

「どうしよう…完全に寝ちゃってる…。そうだ!ミグ~。」
「なんでライガ様はこんな所で寝てるんだ…?」
「それはわからないけど…とにかく、部屋に運ぶの手伝ってくれない?こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ。」
「俺1人でもさすがに無理だ。そっちの肩を持ってくれるか?」
「うん。わかった。」

私とミグで両肩を支え、彼の部屋を目指して歩き出した。なんとかベッドの側まで連れて来ると、突然ミグが姿を消してしまった。

「うわぁ!?」

1人で支えきれなくなり、私はバランスを崩した。彼の全体重が私にのしかかり、ベッドの上に押し倒されてしまった。

「ライガ…く、苦しい…。」

彼に押しつぶされて動けないでいると、彼の腕が私の背中に回され、両腕で包み込まれた。

「ルナ……ごめん…な…。」
「えっ…!どうしたの…?ライガ…。」
「怖かった…だろ……あんな風に…冷たく…接して……。」
「そ、それは…。」

私は数日前、地下牢に入れられた時の事を思い出した。あの時の彼は普段と違うと分かっていても、恐怖を感じる程に冷酷な態度だった。

「お前に……嫌われたい…わけじゃ…ない……。ただ…」
「大丈夫…ちゃんと分かってるつもりだよ…。」

私は腕を伸ばし彼の頭を撫でた。これ程までに弱り切った彼を見るのは初めての事だった。
いつも凛としていて、時に厳しく時に優しく、そうやって私達を引っ張って来た。そんな彼が初めて見せる涙を、私は黙って受け止めた。



「ん…。」

翌朝、私はライガの部屋のベッドの上で目を覚ました。身体を起こして辺りを見回すが、そこに彼の姿は見当たらない。
階段を降りて食堂へ向かうと、朝食を食べているライガとフィーの姿があった。

「あ、おはようございます…ルナ。」
「お、おはようフィー。」
「やっと起きたのか。」
「ライガ…おはよう…。」

彼は昨日の事を覚えていないのか、いつもと変わらない様子だった。むしろ、私が遅く起きてきた事に苛立っている様にも見える。

「ルナもご飯…食べますよね?持ってきます…。」
「あ、いいよ!自分で…」
「お前はそこに座れ。話がある。」
「は、はい…。」

フィーと入れ替わるようにして席につくと、ライガは隣の椅子に置いていた白い箱を私の前に差し出した。

「これは?」
「開けてみろ。」

箱を開けると、黒いローブと赤い宝石が埋め込まれたネックレスが入っていた。

「昨日渡しそびれた、幹部の昇格祝いだ。」
「あ、ありがとう…!」
「外に出る時は、そのローブとネックレスを身につけるようにな。」
「何か意味があるの?」
「ローブは幹部の証みたいなものだ。特に意味は無いが、色々と役に立つだろう。ネックレスは、レジデンスに出入りする為に必要なもので…通行証みたいなものだな。」
「通行証?」
「レジデンスの周囲には、魔法の結界が張ってあるんだ。魔法の力で空間がねじ曲げられていて、そのネックレスがないと辿り着けないようになっている。」
「へ~!それは知らなかったなぁ。」
「私達、みんなつけてますよ…。」

お盆に料理を乗せて、フィーがこちらに戻って来た。

「あっ!ありがとうフィー。」
「これでルナも、私達の仲間入り…ですね。」
「エレナとレーガは既に現地へ向かった。お前もさっさと朝食を済ませて、フルリオに向かってくれ。」
「わ、わかった…!」

食事を終えて部屋に戻ると、ライガから受け取ったローブとネックレスを身につけた。狼の姿になったミグの背中に乗って、私はフルリオへ向かった。
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