エテルノ・レガーメ

りくあ

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第15章︰夢のような時間

第140話

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「なー。やっぱり椅子の数、間違ってるんじゃないのか?」
「そんなはずないけどなぁ~。」

街灯の数、馬の数をそれぞれ数え直し、間違えた部分を修正したはずが、未だに解錠する事が出来ずにいた。

「そんなに気になるなら、スレイ1人で数えてくればいいじゃない!」
「だめだよ1人じゃ!こういうのは、みんなで納得するまでやらなきゃ。」
「けど…。」
「大丈夫。時間はかかっても、進めれば構わないから!もう少し…みんなの力を貸してくれないかな…?」
「ほーら、ソルティ。レヴィ。もう少しだから頑張ろう?」
「はぁい…。」
「歩き疲れたんなら、俺がおぶってやるよ。」
「い、いいわよそこまでしなくても…!」
「僕がおぶってもいいよ!」
「ルカさんまで…!」
「ふふふ。ソルティ大人気だね~。」 
「あ、もちろんレヴィでもいいよ?」
「さ、流石にそれは嫌です…!」
「あははー!嫌がられてやんのー!」

中々上手くいかず、焦りだしたソルティとレヴィをなだめながら、僕達は並んで診療所へと向かった。



「ねぇソルティ。あれから体調はどう?」
「あ、えと…普通です。」
「…そりゃそうだよね。そう簡単に良くなるものじゃないし…。」

彼女は、小さい頃から病気に苦しめられている。こうして普通でいられるのは、オズモールさんから薬をもらって服用しているおかげだ。しかし、今の現状では病気の進行を遅らせる事しか出来ない。少しずつではあるが、彼女は確実に病気に蝕まれている。

「良くならなくても、今の生活を続けられればそれでいいって思ってます!」
「…僕、少し前から薬の研究をしてるんだ。もっといっぱい勉強して、ソルティの病気を治せる薬を作ってみせるよ!」
「え…?」
「…時間はかかると思う。けどいつか、ソルティみたいに病気で苦しむ子を無くしたいんだ!」
「ルカさん…。」
「おーいルカ…って、えぇ!?ルカがソルティを泣かしてる!」
「え!?ち、違うよ…誤解だよ!」
「ごめんなさい…ちょっと…。」

彼女は涙を浮かべたまま、小走りで診療所を出て行った。

「なぁ…何の話してたの?」
「その…病気の話を…。」
「病気?え、誰が?まさかソルティが!?」
「えっ………と…。」
「こーら、スレイ!まだ数えてる途中でしょ?話してる場合じゃないよー?」
「ご、ごめんなさい先生!」

彼は後ろからやってきたオズモールさんに急かされ、元いた場所へ走って行った。

「ルカくんは素直だから、なんでも言いたくなるのは仕方ないけど…。あんまり病気の話、しないでくれるかな?」
「ご、ごめんなさい…。」
「新しい薬を作るのがどれだけ大変か、私はわかるから言わせてもらうけど…いつか作るからなんて簡単に言うもんじゃないよ?」
「そう…なんですか?」
「一生の内に、薬を作れる保証はない。君は長く生きられるかもしれないけど、ソルティは違うんだ。希望を持たせるのが悪いとは言わないけど、期待を裏切られた方は余計辛くなるだけだよ。」
「…以後、気をつけます。」
「うん。ルカくんの優しさは、ソルティに伝わったと思う。今はそっと、見守ってくれるといいかな。」
「…はい。」



「椅子の数、やっぱり合ってたみたいだね。」

全員で数を数え直した結果、やはり間違いは無い事がわかった。

「あと考えられるのは…。」
「え、俺が調べてきた…人と住居の数…?」
「そうなるね…。」
「おっかしいな~…。確かにそう書いてあったはずなのに…。」
「とにかく役場に行って、確認してみようよ。」

人気のない建物へ足を踏み入れ、奥へと歩みを進めた。

「こ、こんにちは~…。」
「何やってんだよレヴィ。誰もいないって。」
「で、でもなんか…泥棒に入ったみたいで、悪い事してる気分になるよぉ…。」
「大丈夫だよレヴィ…!誰も…居ないんだし…。」

とは言ったものの、正直僕も彼と同じ気持ちになっていた。普段、関係者しか立ち入らないような裏手に来たせいで、悪い事をしている気分になるのは当たり前だ。

「ところで、スレイが見たのはどの書類なの?」
「えっとね~。…あ、これこれ!ほら、カナ村住民録って書いてあるだろ?」

彼は多くの書類の中から、黄色い表紙の紙の束を机に置いた。

「えーっと…。人口は128人で…住宅数が47軒…。」
「ほら!合ってるだろ!?」
「ちょっと待ってスレイ。これ、何年の記録?」
「え?何年って…」
「これ、今年じゃなくて8年も前の物じゃない!」
「えぇー!?」

どうやら彼が見ていたのはかなり前の記録だったらしく、数字の記憶違いでは無かったが見ていた記録自体が違っている事が判明した。その後、手分けして1番新しい住民録を探す事にした。



「んー…。」

少し離れた場所で、本棚と睨み合っているレヴィが唸り声をあげていた。

「レヴィ…どうかした?」
「あ、えっと…。ちょっと目が疲れたなと思って…。」
「休憩してもいいんだよ?みんなで探してるんだし。これだけ沢山あったら、探すのに時間かかると思うから…。」
「だ、大丈夫です!」
「そうだ!ねぇレヴィ。ちょっとマッサージしてあげる。」
「え?でも…。」
「いいからいいから!そこに座って!」
「は、はい…。」

半ば強引に近くの椅子に座らせると、顔にそっと手を触れ、目の周りをほぐし始めた。

「見おう見まねだけど…目が疲れた時はこうすると良くなるんだよ。」
「へぇ…。そうなんですね…。…ルカさんって色んな事知ってますよね。」
「え?あぁ…わからない事があるとなんでも気になっちゃうタイプだから、色々と調べてる内に…ね。」
「その気持ちわかります…!わからなかったことがわかるようになるのって、すごく面白いですよね!」
「うんうん!」
「あら?2人共何してるの?」
「あ、ソルティ…!」
「今、ルカさんに目をマッサージしてもらったんだ…。すごく気持ちから、ソルティもしてもらいなよ…!」
「え?い、いいんですか…?」
「もちろん!じゃあこっちに座って。」

ソルティにも同じ様にマッサージをしていると、さらにオズモールさんとスレイもやって来て、最終的に4人全員にマッサージをする事になっていた。目的を忘れ、こうして楽しく話をしていると、マッサージを教わっていてよかったと心からそう思った。



「あったよ!これが今年の住民録みたい!」

僕は見つけた書類を机の上に広げ、人口が書かれている部分を指さした。

「人口は116人。住宅の数は42軒だね。」
「えっと…1160と42で…」
「1202?全部足すと…1257かな?」
「よし!もう1回それで試してみよう!」



役場を出て家へ向かう途中、最後尾を歩いていたソルティが突然地面に膝をついた。

「ソルティ…!」

一目散に彼女の元へ駆け寄ると、彼女を挟んで反対側にオズモールさんがしゃがみ込んだ。

「大丈夫?どこか痛む所は?」
「…ない……です。」
「となると…薬が切れたのかもしれないね。ひとまず診療所へ行こう。スレイ!レヴィ!ソルティをお願い!」
「は、はい…!」

突然訪れた緊急事態に、家に戻る事を諦めて診療所へと向かう事になった。



「なぁルカ…。ソルティが病気だって話…やっぱり本当なの?」
「え…?」

オズモールさんが彼女を診ている間、長椅子に腰を下ろしたスレイが俯いたままぽつりと言葉を呟いた。

「その…オズモールさんからその話はするなって…」
「なんでだよ!ソルティは家族なんだ!オズモール先生やルカは知ってるのに、ずっと昔から一緒だった俺等はどうして聞いたらいけないんだよ!」

彼は声を荒らげ、椅子から勢いよく立ち上がった。

「兄さん…!落ち着いて…」

隣に座っていたレヴィがそれに合わせて立ち上がり、彼の腕を掴んだ。2人はしばらく顔を見合わせ、落ち着きを取り戻したスレイは再び椅子に腰を下ろした。

「昔から…人より体力が無くて、身体が弱いだけだって思ってた…。毎回診察にいくのは、身体の調子を診てもらうだけだって…あいつ言ってたのに…。」
「ルカさんは病気の事、いつ知ったんですか…?」
「プラニナタに行った時だよ。僕が薬を作れる事を知って、病気について知ってる事を聞きたかったみたい。」
「そう…ですか…。」
「ソルティの奴…なんで…。」

彼は眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めて悔しそうな表情を浮かべている。そんな彼にそっと手を触れ、背中を摩った。
すると、目の前の扉がゆっくりと開き、オズモールさんが姿を現した。

「先生…!ソルティは…」
「大丈夫。薬を飲ませたから今は落ち着いてるよ。」
「よかったぁ…。」
「オズモールさん…。スレイとレヴィの2人にも、病気の事を話すべきだと思います。その…余計なお世話かもしれないですけど…」
「…ううん。もっと前に話すべきだったよね。ソルティが目を覚ますまでの間、病気についてちゃんと説明するね。」
「わかりました。ところで…ルカさんは、この後どうするんですか?」
「そうだよ…!ルカは上に進まないとだろ?もう4桁の数字もわかったんだし…」

ソルティが倒れた事ばかり気にしていて、本来の目的をすっかり忘れていた。

「私達の事は気にせず、ルカくんは先に進んで。ここはもう大丈夫だから。」
「わ、わかりました…。みんな、協力してくれてありがとう…!」
「こちらこそ…お役に立てて良かったです…!」
「この先どうなってるか知らないけど…頑張れよ!」
「ありがとう2人共。ソルティにも、ありがとうって伝えて下さい。」
「うん。わかった。…それじゃあ気を付けてね。」
「はい!」

診療所で3人と別れ、次の階へ進む為の扉があるスレイ達の家へ向かった。
導き出した4桁の数字を元に盤を動かすと、扉を固く閉ざしていた鍵はいとも簡単に外れ、足元に転がり落ちた。次の階への不安と期待を胸に、扉の向こうへゆっくりと足を踏み出した。
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