ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

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1人目:俺様跡取りの神崎②

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 神崎一世かんざきいっせいはネイビーのスーツに身を包み、鋭い顔つきで姫子の前に現れた。
 愛想笑いもしない。写真の印象そのままだ。
 真顔の神崎に、姫子は愛想笑いを浮かべて挨拶をした。

「大蛇姫子と申します。本日はよろしくお願いします」
「神崎一世だ」

 沈黙。
 神崎はただ黙っているわけではなく、姫子を品定めするように見ている。不躾な視線に姫子は目を逸らした。

(気まずい……)

 早々に望月にヘルプを出したくなって、さすがに意気地なしすぎるかと思いとどまっていると、

「お二人とも緊張なさらずに。どうです、まずは好きな食べ物なんかをお話ししてみては」

 望月がタイミングをはかって進言した。
 立ち位置は姫子の斜め後ろだが、立場はもはや仲人である。

「そうですね。では、私から。私はチョコレートが好きで、海外からもよくお取り寄せしてます。日本で流通してないものも結構あって、最近はスペイン産が気に入っていて──」

 神崎は姫子の話を聞いているのかいないのか、出されたお茶を飲んで足を組んだ。

「大蛇組長の娘というからどんな化け物が出てくるのかと思ったら、なんとも箱入りなお嬢様だな」
「はぁ、そうでしょうか」

 文句なのかと思ったが、神崎の口角は上がっている。

「これから先、何人の男と会うのか知らないが、正直誰でもいいんじゃないのか。父親に言われて渋々夫を探しているんだろ」
「いえ、そんなことは……。私なりに、きちんと波長の合う方と一緒になれたらと思っています」
「箱入り娘に、1時間会った男の何がわかる?」

 言い方はさておき、神崎の言い分は確かにと思わせられてしまった。ヤクザのことしか知らない自分に、結婚相手を選ぶ審美眼があるのだろうか?
 などと思っているうちに神崎は尊大に顎を上げた。

「選ぶ手間を省いてやる。俺と結婚しろ」

 姫子はその宣言に、何か答えるより先に口をポカンと開けてしまった。

(すごい……この人、めちゃくちゃ俺様だ……)

 絵に描いたような俺様だ。
 姫子は龍吾に内緒でこっそり遊んでいた乙女ゲーム『ときめき♡学園王子』、通称とき学を思い返していた。一応攻略したがハマらなかった俺様キャラに、神崎はよく似ている。
 姫子が「ハイ、喜んで!」と居酒屋店員のように快諾すると信じてやまない神崎に向かって、首を横に振った。

「申し訳ないですが、即決することはできません」

 姫子の拒否に神崎の片眉が上がる。
 怒らせたかと思ったが、あと24人も候補はいるのだ。神崎に嫌われても問題ないだろうと姫子は呼吸を整えた。

「俺の何が不満だ」
「何がって、まぁ、その……。まず神崎さんの態度が不満です。高圧的すぎます。そういう性格に惹かれる女性もいるかもしれませんが、私は結婚生活を想像できないので惹かれません。神崎さんはもっと尽くすのがお好きな女性が合っているのではと思いました」

 刺々しい口調は極力避けながら言いたいことを言い切る。
 望月も姫子を諌めることなく、それどころか若干笑っている気がした。望月にウケたなら万々歳だと思っていると、なぜか目の前の神崎も笑い始めた。

「……いいな」
「え?」
「自分の意見を言える女は嫌いじゃない。権力者である父親の操り人形かと思っていたが違うらしいな」
「いえ、あのですね、私たちは合わないのではないかと申し上げているのですが……」
「そこまではっきり言うとは。ますます気に入った。姫子、俺と結婚しろ」

 姫子が否定的なことを言えば言うほど神崎の表情が明るくなっていき、姫子は困惑で頭が痛くなってきた。

(俺様って本当に『おもしれー女』が好きなんだ……)

 とき学の俺様も反発する選択肢を選ぶと好感度が上がる。現実でもそうなるとは思わず、駆け引きの難しさに頭を痛めるしかない。

「神崎さん。お嬢は中学から女子校で、その上恋愛禁止で男慣れしてないんです。そんなに迫られると怖いと思うので、ほどほどにしてもらっても」

 見かねた望月がやんわりと割って入ると、神崎は姫子を見たまま目を大きくした。

「恋愛禁止でいきなり見合いか? ずいぶんと理不尽な古風さだな」
「はい……。なので、こうして初対面の男性と向き合って話すのも初めてで」

 神崎に同情が見え、今だ!とばかりに姫子は憔悴した顔で受け答える。

「……そうか。わかった。これ以上無理に迫るのはやめる。だが、いろんな男と会うのが苦痛なら俺を選べ。そもそも俺は結婚に前向きだった。姫子がどんな女でも、だ。そして今は、絶対に結婚したいと思っている。いつでも連絡しろ」
「あ、ありがとうございます……」

 神崎が姫子の手元に名刺を滑らせた。
 分厚い高級紙に、光沢のあるインクで名前と連絡先が書かれている。

「俺は大抵本社にいる。いつでも来ていい。婚約者として社内には通達しておく」

 冗談抜きに気に入られてしまっているらしい。
 婚約者と流布される破格の対応を断れず、姫子は愛想笑いで神崎の押しを受け流し続けた。
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