ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

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 お見合いファイルNo.7
 名前:大堂栄介だいどうえいすけ
 年齢:26歳
 身長:177cm
 職業:政治家

 時間になり姫子がお見合い会場のホールに向かうと、中には10人ほどの男性が飲み物を片手に立っていた。
 談笑する者あり、ひとり壁際に寄りかかる者あり、軽食を選ぶ者あり。その全員が姫子の登場に動きを止め、姫子に視線を向けた。

(注目されると緊張する……)

 どうにか口角を上げて会場に会釈をし、姫子は望月の案内に従って囲いがあるブース席に腰掛ける。
 男性陣の視線から逃れられて少しホッとしつつ、ニュースで見た大企業の一次面接みたいなやり方だなとブースの壁を見上げた。

「皆様、ご多用中お集まりいただきありがとうございます。それでは定刻となりましたので大蛇姫子さんとのお見合いをスタートいたします。番号順にこちらのブースまでおいでください。それ以外の方々はご歓談を」

 望月がマイクを通して伝えると、静まっていた会場に再び話し声が広がる。
 ブースの会話に聞き耳を立てるような雰囲気ではないことに安心していると、ブースを覗き込む人影が現れた。

「あ、すみません。もう入ってもいいですか?」

 やせ型の男性は姫子と目が合うと会釈しながらそう言った。

「大堂栄介様ですね。どうぞこちらにおかけください」

 望月の呼び名に姫子は背筋を伸ばした。
 来たぞ。父親が大物政治家で本人も若くして議員をやっているとかいうエリート2世の政治家だ。

「どうも。初めまして、姫子さん。大堂です」
「初めまして。お会いできて光栄です。まさか政治家の先生がいらっしゃるなんて驚きで」
「先生なんてやめてください。ただの七光りなので」

 大堂は何を考えているのかわからない表情だった。無表情とも違うが、無難に笑顔を浮かべるわけでもない。

(とはいえ、想像よりは柔らかそうな印象。癒し系というか)

 過剰に腰が低いか、こちらを見下した態度かの2択だと思っていたので、そのどちらでもない大堂に政治家らしさはなかった。掴みどころのない様子は、お坊ちゃんらしいと言えるかもしれない。

「普段はどんな1日を過ごされてるんですか」
「そんな大層なものじゃないです。平日は議会に出たり、挨拶回りをしたり──」

 大堂は考えるように目を伏せた。
 その沈黙は長考かと思ったが、(それにしては長くない?)という時間が流れ、姫子はとりあえずコーヒーを飲み気まずさを紛らわせようとした。
 カップを持って飲んでソーサーに戻すまでの動作をゆっくり行っても大堂は伏せた目を開けない。そろそろ沈黙の長さが異常になってきている。

「あの、大堂さん? すみません、そこまでお悩みになるとは……」
「……すー……」
「え?」

 明らかな寝息が聞こえてきて、姫子は耳を疑った。
 大堂の顔を覗き込むと、目を伏せているのではなくがっつり目を閉じており、電車で疲労困憊のサラリーマンのように眠りに落ちていた。

「だ、大堂さん! 大丈夫ですか!」

 姫子が驚きのままに肩を揺すると、大堂はハッとして目を開いた。

「ごめん、寝ちゃいました……」
「もしかして政治家って寝る暇もないんですか……?」
「最近忙しくて……いつも眠くて……でも元々、ロングスリーパー……っていうか……」

 姫子に答えながら再び寝落ちしそうになった大堂は、どうにか目を見開いてコーヒーを一気飲みしてる。

「あの、姫子さんに興味がないとかでは……ないんです」

 大堂の態度は申し訳なさそうというわけでもなく、淡々と柔らかい口調で不思議だった。

「目の覚める話ができればいいんですけど。えーっと……あ、そうだ。ヤクザさんってほんとに指詰めるんですか?」
「そ、それはどうでしょう? 実際どうなんですか、望月さん」

 お見合いとは思えない質問をまるっと望月に投げ渡すと、望月は両手を広げて見せた。

「俺の指は揃ってますが、失態のレベルによっては詰める奴も普通にいます」
「へえ。やっぱり怖い世界だ」
「でも指詰めは救済措置なんで命は助かりますからね。政界こそ邪魔者は死ぬだけじゃないですか?」
「不審死みたいな自殺は多い。権力者の権力ってホントにすごいので、盾ついてもいいことないのは確かです」

(いや、どういう会話……?)

 お見合いとは思えないやり取りを聞きながら、政治家がそんなダーティな業界だと知らなかった姫子は、日本の政治に失望していた。
 姫子の失望した顔を見た大堂は、少し悲しげに眉を寄せて頷く。

「お見合いなんてイヤですよね。俺もそうだからわかる。俺は父に『大手ヤクザの加護を獲得しろ』って言われてるだけで」

 お見合いがイヤで表情を失っていたわけではなかったが、大堂も親に言われて仕方なく参加しているとわかり、姫子は表情を取り戻した。

「大堂さんも……。お互い大変ですね、親が強いと」
「そうですね。せめて姫子さんは自我を通せるといいんですけど……。あ、1ついいことを思いついちゃった」

 理不尽な見合いに対して何か妙案を思いついたのかと見返すと、大堂は姫子の座る椅子を指差した。

「そっちで寝るのってありですか?」
「え?」
「結構目は覚めてきたんですけど、その椅子なら寝られそうだなって思って」

 姫子が座っているのは最大3人ほどが腰かけられるソファ型の椅子だった。
 大堂にふざけた様子はなく、会話をしながら寝られそうな場所を吟味していたらしい。

(不思議な人だ……)

 だが、嫌な気はしない。大堂のまとう雰囲気がこちらを脱力させてくる。

「席、交換しましょうか」
「いいですか? あ、姫子さんの膝枕で寝るっていうのは……」
「それはダメです」
「はい」

 望月が毅然とした態度で姫子への接触にNGを出し、大堂は素直に従って頷いた。
 そのまま姫子は大堂の席へ移動し、大堂は長椅子に横になる。見合いの場で横になる人が出るとは、と見つめていると、今にも目を閉じそうだった大堂が姫子に顔を向けた。

「姫子さん。もしどうしても結婚相手を見つけろって言われてるなら、俺を選んで。結婚しましょう」

 ものすごくさらりとプロポーズをされて、姫子は目を瞬いた。
 望月も驚いたのか視線が大堂に向いた。

「あの、でも大堂さんはそれでいいんですか」
「いいですよ。今まで会ったどの女性より、姫子さんはいい人そうだから」

 薄く微笑んで、大堂は目を瞑った。
 そして終了時間が来るまで本当に眠っていた。
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