ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

文字の大きさ
20 / 30

8人目

しおりを挟む
 お見合いファイルNo.8
 名前:三ノ輪勝利みのわしょうり
 年齢:32歳
 身長:179cm
 職業:芸能事務所社長

 大堂が寝起きの目をこすってブースを出て行くのと入れ替わりに、次の見合い者がやってきた。
 髪をパーマで遊ばせて派手な紫のスーツを着た男性は、小綺麗な顔をしている。

「はじめまして。三ノ輪勝利です。勝利って呼んで」

 三ノ輪は爽やかな笑顔を浮かべた。さすがはアイドルグループに所属していた元芸能人だ。
 姫子は三ノ輪がアイドルとして活躍していた時代を知らないが、事前の調べによれば10年ほど前に芸能界を電撃引退し、その後若くして事務所を立ち上げたらしい。家庭環境含めて経歴は苦労人で、そのせいか微笑をたたえる三ノ輪の目は笑っていないように見えた。

「姫子ちゃん、すっごく可愛いね。驚いちゃった」
「いえ、私なんて全然です」
「お世辞じゃなくてホントにだよ。顔はもとよりスタイルのバランスもいいし逸材だ。どうしてどの事務所も姫子ちゃんのこと、見つけられてないんだろう。あんまり都会に遊びに行かない?」
「そうですね。父が過保護なので人混みにはあまり……」
「うわ、絶対そのせいだ。よかった、姫子ちゃんが箱入り娘で。じゃなきゃ今頃どこかからデビューしてたよ」
「いや、そんな……照れちゃいます」

 怒涛の褒め言葉に姫子は困りつつ笑った。照れてしまったのは本当だが、普段望月のことで頭がいっぱいで芸能人のことなど全く考えないのでいい返しが思い浮かばない。
 芸能事務所の社長になんと言えば失礼にならないのかと思っていると、ほほ笑んでいた三ノ輪が急に表情を消した。

「今の、どう思った?」
「……え?」

 無表情に輪をかけて、三ノ輪の瞳から光も消える。

「もし今ので芸能界入りたくなったなら、絶対オススメしないよ。適当な褒め言葉に惑わされすぎ」

 三ノ輪は冷たく言って脚を組むと、口元を歪めた。

「芸能界なんて極道より汚いからね。権力者のジジイに媚び売って食いつなぐ。求められればなんでも捧げて。それが無理なら憧れるのもやめた方がいい」

 完全に目が死んでいる。
 今まで会ってきたどの男性よりも三ノ輪の目は死んでいて、芸能界がどんなところなのかを物語っていた。

「な、なんでもは……怖いですね」
「まぁでも、姫子ちゃんは可愛いよ。興味があるならぜひウチに入ってほしいな」

 三ノ輪はまた急に切り替えて微笑を浮かべ、姫子に名刺を渡した。
 コロコロと表情が変わる様は、三ノ輪の感情をわからなくさせていて不気味だ。

「三ノ輪さん。今回はスカウトじゃなく見合いなんで」
「わかってる。でもウチは芸能事務所の中ではかなりマシなほうだよ。枕もゼロ」
「お嬢、芸能界デビューなんて絶対親父が許しませんよ。あと俺も嫌です」
「わ、私はそんな気ないですよ! 安心してください!」

(ちょっと待って、望月さんが嫌なのはなんで!?)

 望月が付け足した言葉に姫子の頭は混乱した。
 ヤクザの娘がデビューなんてしたら週刊誌にすっぱ抜かれるから?とか考えてはみたが、望月の表情から読み取れることはない。

「え~残念。芸能界に憧れない女の子の方が珍しいよ」
「すみません。私、あまりテレビも観ないので疎くて」
「すごいな、本当に箱入りなんだね。友達と好きな芸能人の話とかしないの? 恋バナとかの方が盛り上がるのかな」
「そうですね、恋バナの方が多いと思います」
「じゃあ、姫子ちゃんもほんとは好きな人いるんだ」
「え!? い、いないですよ!?」

 姫子は三ノ輪の指摘を、わざわざ望月を振り返って否定した。姫子の焦った視線を受けた望月は、きょとんと見返してくる。

「ほ、ほんとにいないです! ほんとに!」
「そこまで否定すると逆に怪しいよ。とにかく僕と結婚するなら汚い世界には触れさせない。ただ、僕のものにならないなら事務所にだけでも入ってほしいな」

 三ノ輪は姫子に好きな人がいるかどうかは別にどちらでもいいようで、さらりと流した。姫子だけ必死で滑稽である。

「……どうして、私と結婚したいと思うんですか」
「芸能界は元からヤクザと親密で、大蛇組は超有名どころだ。仲良くしといて損はない。君と見合いする男たちは大抵似たような理由なんじゃない?」
「それは、そうだったりそうじゃなかったり……ですね。父の押しに負けた方や親に言われて仕方なくって方もいらっしゃいます」
「へえ~、結構事情があるんだな。でも1番は姫子ちゃんが可愛いからってことだと思うけどね。だから今日もこんなに男が集まってるんだ」

 会場を指さして三ノ輪は笑う。
 爽やかだが、やはりその目は笑っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

君と暮らす事になる365日

家具付
恋愛
いつでもぎりぎりまで疲れている主人公、環依里(たまき より)は、自宅である築28年のアパートの扉の前に立っている、驚くべきスタイルの良さのイケメンを発見する。このイケメンには見覚えがあった。 何故ならば、大学卒業後音信不通になった、無駄に料理がうまい、変人の幼馴染だったのだから。 しかし環依里は、ヤツの職業を知っていた。 ヤツはメディアにすら顔を出すほどの、世間に知られた天才料理人だったのだ! 取扱説明書が必要な変人(世間では天才料理人!?)×どこにでもいる一般人OL(通訳)の、ボケとツッコミがぶつかりあうラブコメディ!(予定)

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

消えるはずだった予知の巫女は、今日もこの世界で生きている ――異端と呼ばれる騎士さんが、私には綺麗すぎる

豆腐と蜜柑と炬燵
恋愛
役目を終えれば、この世界から消えるはずだった。 予知の巫女・美桜は、力も特別な姿も失ったまま、 「生き続ける」という選択肢だけを与えられる。 もう誰かを守る存在でも、選ばれる存在でもない。 そう思い、偽名“ミオ”として宿屋で働きながら、 目立たない日常を送っていた。 ――二度と会わないと決めていた騎士と、再会するまでは。 彫りの深い顔立ちゆえに“異端”と呼ばれながらも、 誰よりも強く、誰よりも誠実な騎士・レイス。 巫女だった頃の自分を知る彼に、 今の姿で向き合う資格はないと分かっているのに、 想いは簡単には消えてくれない。 身分も立場も、守られる理由も失った少女と、 前に立ち、守ることしか知らなかった騎士。 過去と現在、選ばれなかった時間を抱えたまま、 二人はもう一度、距離を測り直していく。 これは、 消えるはずだった少女が、 “今の自分”で恋を選び直す物語。

国宝級イケメンとのキスは、最上級に甘いドルチェみたいに私をとろけさせます♡ 〈Dulcisシリーズ〉

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

処理中です...