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お見合いファイルNo.9
名前:リウ・スイ
年齢:27歳
身長:189cm
職業:モデル、セレブ
時間が来て三ノ輪がブースを去り、姫子はふーっと長く息を吐いた。
連続で見合いをするのはやはり疲れる。参加人数の多い婚活パーティーではこんなやり方もあると望月に説明されてはいたが、結婚願望のある世の女性はタフだなと思った。
「お嬢って好きなやついるんですか?」
「ゲホッ! え、ちょ、ゴホッ!」
僅かなインターバルでコーヒーを飲んでいた姫子はギリギリで吐き出す前に胃におさめながら、咳き込んだ。
「大丈夫ですか。ほら、水もありますよ」
「す、みません、ありがとうございます」
「で、好きなやついるんですか」
酷い咳き込みで話題はそれると思ったが、望月は追及をやめなかった。
こちらを見つめる瞳に、姫子はおろおろと目を泳がせる。
「えっと、いや、いないですよ? まず、お父様が許しませんし」
「許される環境なら、好きになってたやつはいるってことですか」
望月の言い方は『お嬢の恋愛事情をいじっちゃおう!』というような軽いものではなかった。
(まさか、お父様に探りを入れろと言われている……?)
真顔の望月を見て、思いつくのは逆らえない相手からの命令くらいだ。
「……お父様の指示ですか。お見合い相手以外に現を抜かしてないかって」
「え? いや、全然違いますよ。俺はただ──」
「Hello! Can I come in?」
望月の返答に被せて英語が聞こえ、高身長の男性がブースに現れた。次の見合い相手であるモデルのリウ・スイだ。
リウの顔はアジア系だが彫りが深く、大きい目を長いまつ毛が縁取っており、彫刻が動いているような容姿だった。
姫子が一瞬見惚れた隙に、望月が耳元に顔を寄せてくる。
「お嬢、英語喋れましたっけ。俺、学なしでまったくダメなんですが」
「えっ!? 海外モデルとは聞いてましたけど、英語オンリーなんですか!? お父様はどうやって交渉を!?」
「通訳でもいたんですかね。それか親父が実は英語得意とか」
「そんなわけないですよ、お父様はappleの綴りも書けないんですから」
「俺も書けません」
早口で囁き合っていると、首を傾げたリウが『座っていいか』とジェスチャーしてきて、姫子は作り笑顔で頷いた。
「I've been looking forward to today. I'm happy to meet you, Himeko.」
「あー、こちらこそ……じゃなくて、セ、センキューフォーカミング? Mr.リウ?」
「さすがお嬢。英語ペラペラじゃないですか」
片言の英語をどうにか返すと望月が褒めてきて、低レベルなやり取りに気恥ずかしくなる。リウはそんな2人を珍しいものを見る目で見てから「ああ!」と手を打った。
「ごめんごめん。英語が抜けてなかったね。日本語も喋れるよ。安心して」
訛りのない流ちょうな日本語が聞こえて、姫子は心底ホッとした。もう話せる英文は『This is a pen.』しかなかった。
「日本語お上手ですね。すごいです」
「父が日系でね、子供のころ日本に住んでたんだ。今は中国か欧米にいることが多くて日本は久しぶり」
「お仕事で海外にいることが多いから、そんなに話せるようになったんですか?」
「まぁそうかな。でもモデルは気づいたら仕事が増えてただけで、本職はセレブだよ」
(セレブって職業なんだ……)
職業欄にも『セレブ』と書いてあったが、てっきり龍吾がイメージしやすいように載せただけだと思っていた。
「姫子ちゃんもセレブだから、わざわざ言うほどのことじゃないけどね」
「私はリウさんと比べたら全然です。日本から出たこともありませんし」
「じゃボクといろんなところ行こう。どこ行きたい? 初海外ならハワイとか……あ、中国だったらディープな観光地も案内できるよ」
にっこりと笑みを深めるリウは本気で言っているようで、姫子は反応に困った。
「嬉しいお誘いですが、婚前旅行は父が反対するかと思います」
「結婚するんだからいいじゃない。新婚旅行はさすがにOKでしょ? ボクが全額出すから安心して」
「まだどなたと結婚するかは、決められていませんので……」
姫子がやんわりと伝えると、リウは大きい目をさらに大きくした。
「えっボクと結婚しないの? 顔が良くて、スタイル抜群で、金もある。ボクより魅力的な男いる?」
「リウさんは素敵だと思いますが、私はあまり容姿と資産にこだわりがないので……」
「え~! 冗談じゃなくて?」
「はい、冗談ではなく本心で……」
「そんな人ホントにいるんだ、すごいな……。出家できるじゃん」
リウは心底驚いたのか、感嘆している。
「でもボクは完全にボクが選ばれると思って来ちゃってるよ。今日の面子で1番顔がいいのボクだし、資産も上位だし勝ったなと思ったのに」
それはそうなのかもしれないが、姫子はまた反応に困った。
(神崎さんとはまた違った方向で自信がすごい……)
リウは俺様気質の亜種だ。押しが強く、自己肯定感が富士山より高い。ある意味羨ましい性格である。
こういうタイプは元祖俺様キャラと被るので、姫子がやっていた乙女ゲームには出てこなかった。
「じゃあどんな人がいいの? 顔と金が関係ないなら性格重視ってこと?」
「そうですね、波長の合う方がいいなとは思っています」
「ボクは姫子ちゃんと波長も合ってると思うけどな~。この見合いの話を受けたのは姫子ちゃんの写真を見てビビッと来たからだし、絶対運命だよ」
「う、運命ですか。ロマンチックで光栄ですけれど……」
リウの言いたいことを真正面から否定もできない。なぜかと言えば、姫子自身も幼少期に望月を紹介されて『ビビッと』来ているからだ。
「じゃあさ~ボクとは仮交際ってことにして、他の男も見るのはどう? で、ボク以上のが出て来なければめでたく結婚!」
「それは、ルール的にどうなんでしょうか──」
姫子が助けを求めて望月の方を振り返ると、望月はブースの入口に目を向けていた。
「あの、まだですか。リウさん長すぎっすよ」
ローテンションでリウに注意をした青年は、そのまま臆することなくブースに入ってきた。
名前:リウ・スイ
年齢:27歳
身長:189cm
職業:モデル、セレブ
時間が来て三ノ輪がブースを去り、姫子はふーっと長く息を吐いた。
連続で見合いをするのはやはり疲れる。参加人数の多い婚活パーティーではこんなやり方もあると望月に説明されてはいたが、結婚願望のある世の女性はタフだなと思った。
「お嬢って好きなやついるんですか?」
「ゲホッ! え、ちょ、ゴホッ!」
僅かなインターバルでコーヒーを飲んでいた姫子はギリギリで吐き出す前に胃におさめながら、咳き込んだ。
「大丈夫ですか。ほら、水もありますよ」
「す、みません、ありがとうございます」
「で、好きなやついるんですか」
酷い咳き込みで話題はそれると思ったが、望月は追及をやめなかった。
こちらを見つめる瞳に、姫子はおろおろと目を泳がせる。
「えっと、いや、いないですよ? まず、お父様が許しませんし」
「許される環境なら、好きになってたやつはいるってことですか」
望月の言い方は『お嬢の恋愛事情をいじっちゃおう!』というような軽いものではなかった。
(まさか、お父様に探りを入れろと言われている……?)
真顔の望月を見て、思いつくのは逆らえない相手からの命令くらいだ。
「……お父様の指示ですか。お見合い相手以外に現を抜かしてないかって」
「え? いや、全然違いますよ。俺はただ──」
「Hello! Can I come in?」
望月の返答に被せて英語が聞こえ、高身長の男性がブースに現れた。次の見合い相手であるモデルのリウ・スイだ。
リウの顔はアジア系だが彫りが深く、大きい目を長いまつ毛が縁取っており、彫刻が動いているような容姿だった。
姫子が一瞬見惚れた隙に、望月が耳元に顔を寄せてくる。
「お嬢、英語喋れましたっけ。俺、学なしでまったくダメなんですが」
「えっ!? 海外モデルとは聞いてましたけど、英語オンリーなんですか!? お父様はどうやって交渉を!?」
「通訳でもいたんですかね。それか親父が実は英語得意とか」
「そんなわけないですよ、お父様はappleの綴りも書けないんですから」
「俺も書けません」
早口で囁き合っていると、首を傾げたリウが『座っていいか』とジェスチャーしてきて、姫子は作り笑顔で頷いた。
「I've been looking forward to today. I'm happy to meet you, Himeko.」
「あー、こちらこそ……じゃなくて、セ、センキューフォーカミング? Mr.リウ?」
「さすがお嬢。英語ペラペラじゃないですか」
片言の英語をどうにか返すと望月が褒めてきて、低レベルなやり取りに気恥ずかしくなる。リウはそんな2人を珍しいものを見る目で見てから「ああ!」と手を打った。
「ごめんごめん。英語が抜けてなかったね。日本語も喋れるよ。安心して」
訛りのない流ちょうな日本語が聞こえて、姫子は心底ホッとした。もう話せる英文は『This is a pen.』しかなかった。
「日本語お上手ですね。すごいです」
「父が日系でね、子供のころ日本に住んでたんだ。今は中国か欧米にいることが多くて日本は久しぶり」
「お仕事で海外にいることが多いから、そんなに話せるようになったんですか?」
「まぁそうかな。でもモデルは気づいたら仕事が増えてただけで、本職はセレブだよ」
(セレブって職業なんだ……)
職業欄にも『セレブ』と書いてあったが、てっきり龍吾がイメージしやすいように載せただけだと思っていた。
「姫子ちゃんもセレブだから、わざわざ言うほどのことじゃないけどね」
「私はリウさんと比べたら全然です。日本から出たこともありませんし」
「じゃボクといろんなところ行こう。どこ行きたい? 初海外ならハワイとか……あ、中国だったらディープな観光地も案内できるよ」
にっこりと笑みを深めるリウは本気で言っているようで、姫子は反応に困った。
「嬉しいお誘いですが、婚前旅行は父が反対するかと思います」
「結婚するんだからいいじゃない。新婚旅行はさすがにOKでしょ? ボクが全額出すから安心して」
「まだどなたと結婚するかは、決められていませんので……」
姫子がやんわりと伝えると、リウは大きい目をさらに大きくした。
「えっボクと結婚しないの? 顔が良くて、スタイル抜群で、金もある。ボクより魅力的な男いる?」
「リウさんは素敵だと思いますが、私はあまり容姿と資産にこだわりがないので……」
「え~! 冗談じゃなくて?」
「はい、冗談ではなく本心で……」
「そんな人ホントにいるんだ、すごいな……。出家できるじゃん」
リウは心底驚いたのか、感嘆している。
「でもボクは完全にボクが選ばれると思って来ちゃってるよ。今日の面子で1番顔がいいのボクだし、資産も上位だし勝ったなと思ったのに」
それはそうなのかもしれないが、姫子はまた反応に困った。
(神崎さんとはまた違った方向で自信がすごい……)
リウは俺様気質の亜種だ。押しが強く、自己肯定感が富士山より高い。ある意味羨ましい性格である。
こういうタイプは元祖俺様キャラと被るので、姫子がやっていた乙女ゲームには出てこなかった。
「じゃあどんな人がいいの? 顔と金が関係ないなら性格重視ってこと?」
「そうですね、波長の合う方がいいなとは思っています」
「ボクは姫子ちゃんと波長も合ってると思うけどな~。この見合いの話を受けたのは姫子ちゃんの写真を見てビビッと来たからだし、絶対運命だよ」
「う、運命ですか。ロマンチックで光栄ですけれど……」
リウの言いたいことを真正面から否定もできない。なぜかと言えば、姫子自身も幼少期に望月を紹介されて『ビビッと』来ているからだ。
「じゃあさ~ボクとは仮交際ってことにして、他の男も見るのはどう? で、ボク以上のが出て来なければめでたく結婚!」
「それは、ルール的にどうなんでしょうか──」
姫子が助けを求めて望月の方を振り返ると、望月はブースの入口に目を向けていた。
「あの、まだですか。リウさん長すぎっすよ」
ローテンションでリウに注意をした青年は、そのまま臆することなくブースに入ってきた。
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