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お見合いファイルNo.11
名前:羽場経
年齢:26歳
身長:179cm
職業:投資家
「あ~ぁ……はぁー……」
「お嬢、お疲れのようで。連中に出した手つかずの菓子でも食ってください」
脈ナシの滝が去り、姫子が傷心の吐息を吐いていると、望月が相手に出すお茶請けをドサドサと目の前に置いてくる。姫子が長年愛しているパティシエの作品だ。
「ありがとうございます……」
「ほんとに元気ないですね。全部食っていいんですよ」
「滝さん、今までで1番いいかもと思ったんですけど完全脈ナシだったから……」
ついぽろっと零すと、食い物でどうにか姫子を励まそうとしていた望月の動きが止まった。
姫子が見上げると、望月はスーツのジャケットを脱ぎ始める。
「俺が同意させますよ。ちょっと待っててください」
「待って待って! ヤクザパワー発揮しなくていいですから!」
「せっかくお嬢が気に入ったのに、脈なしとは生意気でしょう。今ヤクザを発揮しなくていつするってんですか」
「待ってくださいって!」
肩を振り回してブースを出ていこうとする望月を引き止めて(自然なタッチ成功!)とか姫子が思っていると、入口に男性が現れた。
「……取り込み中か?」
姫子と望月が立ち上がって騒いでいる様を、男性は怪訝な顔で見ている。
阿吽の呼吸で姫子と望月は騒ぐのをやめ、姫子はおしとやかに席に戻り、望月はジャケットを正しく着直して壁側に立った。
「羽場様ですね。どうぞ、おかけください」
「ああ……」
未だ眉を寄せながら、男性──羽場経は姫子の前に着席した。
切れ長の目に愛想はなく、生真面目な印象を与えてくる。羽場は投資家という、姫子にはあまり馴染みのない職業の男だった。
「羽場さんは投資家をされているんですよね。株や不動産なんかを取引しているってことですか。あまりよく知らなくて」
「ああ。毎日株価と睨み合って売買を繰り返している。不動産は一応やっているが、ほとんど遊びだな」
「投資だけで生計を立てるなんてすごいですね」
投資というと大損するか詐欺のイメージが強く、それで生活できるというのがよくわからない。
「少し判断を間違えれば借金まみれになるような仕事だ。世間的には胡散臭いと言われるし、実際投資家を名乗るやつは胡散臭いのが多い。素人が手を出すようなものじゃないが、搾取されたがる愚か者が後を絶たない」
言葉は厳しいが、愚か者が多いほうが儲かる立場でありながら投資を勧めてこないところを見るに、羽場は誠実な人柄なのかもしれない。
「俺があなたとの見合いに参加したのは、大蛇家に入れば資金繰りが容易になると思ったからだ。利用しようとしているだけで、あなたに興味はない」
そう言い切って、羽場は腕時計を見た。
言いたいことは言ったし、終了時間はまだかという雰囲気だ。
(誠実というか……正直過ぎる人……?)
とはいえ、打算的結婚もアリだと思い始めている姫子にとって羽場は悪くない相手だった。
先程の滝が空振りだった落胆を頭の隅に追いやりながら、姫子は羽場の性格をもう少し知ろうと質問を考える。
(スーツと時計は上等。ブランドの話題か、それとももう少し株の話を……)
などと、羽場を観察していると、羽場の視線がテーブルの上に向かっていることに気づいた。
視線の先にあるのはお茶請けのダコワーズだ。
「どうぞ、召し上がってください」
「いや」
姫子が勧めると羽場はサッとダコワーズから目をそらした。
「今日のお茶請け、実は私が好きなお菓子をお出ししてるんです。みなさんお茶ばかりで全然召し上がらなかったので、たくさん余っていて。よければ、ぜひ食べてみていただきたいです」
姫子は言いながら自分のダコワーズに手をつけた。何を作っても美味しい、素晴らしいパティシエの作品である。
姫子が食べ始めると、羽場もゆっくりと手を伸ばした。一口含んだ羽場の目が僅かに開かれる。
「これは……」
「どうですか? まだ日本に進出していないフランスのパティシエから、個人的に輸入してるんです」
「うまい。日本で流通しているのとは全く違うな」
羽場は関心したようにダコワーズを見つめてから、さらに食べていく。
羽場が日本で流通している味に詳しいのは意外だった。
「甘いもの、お好きなんですか」
「……別に、普通だが。これは気に入った」
若干の間がある回答をして、ダコワーズを完食する。
羽場は絶対甘い物が好きだと確信し、思わぬ共通点に嬉しくなっていると、ブースに人影が現れた。
口元にだけ笑みを浮かべている。
「あ、やっぱりそうだ。脱税の羽場さんじゃないですか。お久しぶりです」
『脱税の羽場』と呼んできた男を、羽場は思い切り眉を寄せて見上げた。
「金で買収される汚職警官に言われる筋合いはない」
そう言い返すと、羽場は立ち上がる。
「まだ少しお時間ありますが」
「いい。こいつが来たなら消える」
羽場は望月を手で制し、姫子に向き直った。
「あなたとの見合いに応じるのはグレーか真っ黒か、そんな男が多いだろうが、こいつはやめておけ。警官だが倫理観は地の底だ」
「ネガキャンやめてくださいよ、仲良くしてるでしょ俺たち」
羽場に指さされてヘラヘラしているのが、次の見合い相手である警察官の木内論だった。
名前:羽場経
年齢:26歳
身長:179cm
職業:投資家
「あ~ぁ……はぁー……」
「お嬢、お疲れのようで。連中に出した手つかずの菓子でも食ってください」
脈ナシの滝が去り、姫子が傷心の吐息を吐いていると、望月が相手に出すお茶請けをドサドサと目の前に置いてくる。姫子が長年愛しているパティシエの作品だ。
「ありがとうございます……」
「ほんとに元気ないですね。全部食っていいんですよ」
「滝さん、今までで1番いいかもと思ったんですけど完全脈ナシだったから……」
ついぽろっと零すと、食い物でどうにか姫子を励まそうとしていた望月の動きが止まった。
姫子が見上げると、望月はスーツのジャケットを脱ぎ始める。
「俺が同意させますよ。ちょっと待っててください」
「待って待って! ヤクザパワー発揮しなくていいですから!」
「せっかくお嬢が気に入ったのに、脈なしとは生意気でしょう。今ヤクザを発揮しなくていつするってんですか」
「待ってくださいって!」
肩を振り回してブースを出ていこうとする望月を引き止めて(自然なタッチ成功!)とか姫子が思っていると、入口に男性が現れた。
「……取り込み中か?」
姫子と望月が立ち上がって騒いでいる様を、男性は怪訝な顔で見ている。
阿吽の呼吸で姫子と望月は騒ぐのをやめ、姫子はおしとやかに席に戻り、望月はジャケットを正しく着直して壁側に立った。
「羽場様ですね。どうぞ、おかけください」
「ああ……」
未だ眉を寄せながら、男性──羽場経は姫子の前に着席した。
切れ長の目に愛想はなく、生真面目な印象を与えてくる。羽場は投資家という、姫子にはあまり馴染みのない職業の男だった。
「羽場さんは投資家をされているんですよね。株や不動産なんかを取引しているってことですか。あまりよく知らなくて」
「ああ。毎日株価と睨み合って売買を繰り返している。不動産は一応やっているが、ほとんど遊びだな」
「投資だけで生計を立てるなんてすごいですね」
投資というと大損するか詐欺のイメージが強く、それで生活できるというのがよくわからない。
「少し判断を間違えれば借金まみれになるような仕事だ。世間的には胡散臭いと言われるし、実際投資家を名乗るやつは胡散臭いのが多い。素人が手を出すようなものじゃないが、搾取されたがる愚か者が後を絶たない」
言葉は厳しいが、愚か者が多いほうが儲かる立場でありながら投資を勧めてこないところを見るに、羽場は誠実な人柄なのかもしれない。
「俺があなたとの見合いに参加したのは、大蛇家に入れば資金繰りが容易になると思ったからだ。利用しようとしているだけで、あなたに興味はない」
そう言い切って、羽場は腕時計を見た。
言いたいことは言ったし、終了時間はまだかという雰囲気だ。
(誠実というか……正直過ぎる人……?)
とはいえ、打算的結婚もアリだと思い始めている姫子にとって羽場は悪くない相手だった。
先程の滝が空振りだった落胆を頭の隅に追いやりながら、姫子は羽場の性格をもう少し知ろうと質問を考える。
(スーツと時計は上等。ブランドの話題か、それとももう少し株の話を……)
などと、羽場を観察していると、羽場の視線がテーブルの上に向かっていることに気づいた。
視線の先にあるのはお茶請けのダコワーズだ。
「どうぞ、召し上がってください」
「いや」
姫子が勧めると羽場はサッとダコワーズから目をそらした。
「今日のお茶請け、実は私が好きなお菓子をお出ししてるんです。みなさんお茶ばかりで全然召し上がらなかったので、たくさん余っていて。よければ、ぜひ食べてみていただきたいです」
姫子は言いながら自分のダコワーズに手をつけた。何を作っても美味しい、素晴らしいパティシエの作品である。
姫子が食べ始めると、羽場もゆっくりと手を伸ばした。一口含んだ羽場の目が僅かに開かれる。
「これは……」
「どうですか? まだ日本に進出していないフランスのパティシエから、個人的に輸入してるんです」
「うまい。日本で流通しているのとは全く違うな」
羽場は関心したようにダコワーズを見つめてから、さらに食べていく。
羽場が日本で流通している味に詳しいのは意外だった。
「甘いもの、お好きなんですか」
「……別に、普通だが。これは気に入った」
若干の間がある回答をして、ダコワーズを完食する。
羽場は絶対甘い物が好きだと確信し、思わぬ共通点に嬉しくなっていると、ブースに人影が現れた。
口元にだけ笑みを浮かべている。
「あ、やっぱりそうだ。脱税の羽場さんじゃないですか。お久しぶりです」
『脱税の羽場』と呼んできた男を、羽場は思い切り眉を寄せて見上げた。
「金で買収される汚職警官に言われる筋合いはない」
そう言い返すと、羽場は立ち上がる。
「まだ少しお時間ありますが」
「いい。こいつが来たなら消える」
羽場は望月を手で制し、姫子に向き直った。
「あなたとの見合いに応じるのはグレーか真っ黒か、そんな男が多いだろうが、こいつはやめておけ。警官だが倫理観は地の底だ」
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