ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ

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 お見合いファイルNo.12
 名前:木内論きうちろん 
 年齢:29歳
 身長:182cm
 職業:警察官

 羽場は木内を睨みながら余っていたお茶請けを2つ選び、「縁があればまた」と姫子に告げてブースを去った。
 選んだ菓子を大層気に入ってもらえたようで、姫子は内心口角が上がる。

(とはいえ、羽場さん脱税してるのか……)

 滝に続いて違法職ではなく、意外とお菓子好きで姫子の趣味に理解のあるところが結婚相手にはいいかもしれないと思っていただけに、姫子は浅く息を吐いた。
 脱税とはいえ、犯罪は犯罪である。
 そして今、姫子の目の前に座って微笑みかけてくる男は、汚職警官と呼ばれていた。公権力側にいながら犯罪に手を染めるタイプは、ただの犯罪者より結婚したくないのが本音である。

「警察がヤクザの娘と結婚なんて、大丈夫なんですか」
「全然平気ですよ。羽場さんの言う通り、僕は汚職警官ですから。ここにいる皆さんが今日何をしても、金さえもらえれば通報も逮捕もしません。羽場さんの脱税も見逃してあげてますし」
「……なるほど。では、羽場さんは前科者ではないということなんですね」

 うっすらと笑みを浮かべて平然と罪を暴露してくる木内は、確かに倫理観が微塵もなさそうだった。

(この人との結婚はないだろうし、早めに終わらせようかな……)

 姫子本人はもちろん、望月やその他関係者をでっちあげで逮捕でもされては困る。
 姫子は自ら話題を振って盛り上げるようなことをせず、木内と同じくうっすらと笑みを浮かべるにとどめた。
 すると木内は姫子から視線をそらし、背後にいる望月を見始める。

「そちらは、姫子さんのボディガードの方ですか」
「はい。望月といいます。お邪魔でしたら、もう少し離れますが」
「いやいてください。ヤクザさんですよね? いいなぁ。僕、ヤクザ好きなんです。カッコいい」
「はぁ、ありがとうございます……?」

 望月が若干怪しんだ様子で礼を返す。
 汚職警官の言う『ヤクザ好き』の意味を警戒しているのだ。自らすり寄ってくる警察は、ヤクザの手に余る。

「望月さんは、下の名前なんていうんですか」
「……大和やまとですが」
「大和さんか。いい名前ですね、似合ってます。僕は論です。気軽にロンって呼んでください」
「はぁ……」

 望月は警戒の上に気色悪さも乗った声を出している。
 姫子も木内を警戒して観察していたが、このやり取りに直感がギュルギュルと動き出すのを感じた。

(この人、まさか……)

 姫子はまさかとは思いながらも、木内から目が離せなかった。
 姫子だからこそわかる。ライバルセンサーがビンビンに反応している。
 木内の視線には、好奇心には収まりきらない率直な好意が多分に含まれていた。

「俺のことはどうでもいいので。お嬢とおふたりで会話をしていただきたいです」
「大和さんも一緒に喋りましょうよ。シマのどの辺担当されてます? 僕の管轄なら超優遇しますよ。みかじめ上乗せさせることにも協力するし、他の組の情報も流します。代わりに僕と定期的に会ってくれれば、ですけどね」

 木内は望月の制止をまったく聞かない。
 姫子の見合い相手を殴って解決するわけにもいかず、望月は「お嬢……」と姫子に判断を仰いだ。

(望月さんに頼られちゃった!)

 と、前向きに捉えた姫子は、望月だけに見えるように親指を立て、コホンと咳払いをして木内の注目を引く。

「木内さん。もしかして、うちの望月が目当てでこのお見合いに参加されたんですか。随分と興味がおありのようですが」
「わー、いきなり大胆な質問ですね。本人の前で言うのも恥ずかしいですが、実際そうです」
「なんでだよ……」

 望月の小さな呟きが聞こえる。
 木内は全然恥ずかしくなさそうに望月に歯を見せた。

「巡回中に大和さんのこと、見たことあって。真顔でシャバいチンピラを蹴り飛ばしてたんです。その時からずーっと気になっちゃって。カッコいいじゃないですか、大和さん」
「まぁ、それはわかりますが。暴行と冷静の差がいいんですよね」
「そうです。わかってますね、姫子さんも。ヤクザの若頭に若くして上り詰めてるのもプラスです」
「結局、人は才能に惹かれますからね」
「お嬢。変なとこで意気投合しないでください」

 望月に囁かれ(急接近、いただきました)と小さくガッツポーズをすると、終始にこやかだった木内の目がきゅっと冷たくなった。

「おふたり、仲いいですよね。ただのヤクザとお嬢様の関係じゃないっていうか」
「……もう何年もお嬢の世話役なので、俺は」
「ふうん、そうですか」

 納得したのかしていないのかよくわからない反応をして、木内は目の冷たさを消すと姫子に向き直った。

「姫子さん。僕と結婚してくれますか」
「いや、どうしてこの流れで結婚になると思ったんですか。私じゃなくて望月が好きなんですよね?」

 姫子は思わず冷静に突っ込んでしまった。
 望月が好き、と言葉にされて、望月は背後でほとんど舌打ちの息を吐いている。

「そうです。でも、姫子さんと結婚すれば毎日大和さんにも会えますから。僕の世話役にもなってほしいな。姫子さんの夫には若頭も逆らえないですよね」

 笑みを深める木内は本気の目をしていた。

「あんた、いい加減にしてくれ。これ以上ふざけたこと抜かすなら痛い目見てもらうぞ」
「え、いいんですか? 楽しみだなぁ。トイレでも行きます?」

 威嚇で凄んだ望月に、木内は声を弾ませる。
 木内が望月に構ってもらえるのを本気で喜んでいるのが姫子にはわかったが、望月はナメられたと思ったのか、人を殴るための準備運動を始めた。

「ダメですよ、望月さん」
「……ちょっとトイレに行くだけですよ」
「ダメです。あと木内さんはもう出て行っていただけますか」
「まだあと少し時間あるんで終わるまでいたいんですけど」
「残り3分で死体を増やしたくないので、ダメです」

 姫子は殺傷事件の発生を防ぐため、望月を制しながら木内をブースから追い出すことに全力を注いだのだった。
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