【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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異国編:ジッピン前編:出会い

【267話】ともだち

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キヨハルの屋敷へ戻り、晩食を済ませたアーサーとモニカはウスユキに会いに行った。屋敷の中にはもうレンゲとムクゲはいなかった。ウスユキと一緒に待っているのだと思い、モニカはアーサーと二人で森の中へ入った。だが、いつもウスユキがいるところに誰もいなかった。

「あれぇ?ちょっと早く来すぎちゃったかなあ?」

「誰もいないねえ」

双子はキョロキョロとあたりをみまわした。やはり誰もいない。しばらく待っていたが、森の奥で獣の唸り声が聞こえた気がしたので慌てて屋敷へ戻った。

「残念。アーサーにウスユキを紹介するのはまたの機会だね」

「うん!楽しみにしてる!」

そのあと二人はヴァジーにことばを教えてもらいに行った。アーサーは「は行」と「た行」の発音の練習を、モニカは挨拶と簡単な日常会話を教えてもらった。二人ともまだまだ巧みにジッピンのことばを操るまでの道のりは遠そうだ。

「コニイワ ワアシ モニカ!ヨオシク! スキナ アベモオ ダシマキ!」

「うんうん。いいよモニカ。今日1日でずいぶん上達したんじゃないかな?」

「やったー!!サイコ!サイコ!」

「ノリスケに話し相手になってもらうといいよ」

「うん!」

「さて、アーサーはどのくらい上達したかな?」

「コンニチワ ボク アーサー。イマ ボクワ アナス レンシュウヲ シテイマス。 キョウ ボクワ モニカト ウキヨエヲ カイニイキマシア…マシタ。 オントウニ タノシカッタ デス!」

「おお。た行が発音できるようになったね」

「ちょっとだけコツを掴んだよ!ヴァジーが教えてくれたように、舌の先を上あごにつけてはじく感じで発音したらうまく話せる!」

「普通はことばで教えたってなかなか習得できないんだがね。すごいよアーサー」

「えへへ。でもまだ"は行"は発音できないや…むずかしいなあ」

「バンスティンのことばに"は行"なんてないからね。ゆっくり練習したらいい。君ならきっとすぐ発音できるようになるさ」

「がんばる!!」

客室へ戻ったあとも双子はジッピンのことばの練習をした。客室を掃除していたノリスケに話し相手になってもらったのだが、ノリスケはモニカの訛りあるジッピンのことばを聞くたびに「かわいい~」しか言わなくなるので、あまり聞き取りの練習にはならなかった。

◇◇◇
「起きて」

「起きて」

「んん…」

「ヌシサマ待ってる」

「待ってる」

ぐっすり眠っていたモニカの肩を、今日も少女二人が揺らして起こす。モニカは顔をしかめながらうめき声を出した。

「…レンゲとムクゲ…?うぅぅ…いま何時よぉ…」

「2時半」

「夜中じゃない…。それにしても、今晩はウスユキと会う約束してたのに、どうしてウスユキいなかったのぉ…?」

「私たちがいないと、ヌシサマに会えない」

「じゃあなんでいつもみたいに迎えに来てくれなかったの?」

「この子がいたから」

蓮華が眠っているアーサーを指さした。

「え?どうして?」

「来て」

「ヌシサマが待ってる」

「えっ、ちょっと、どうしてアーサーがいたらだめなの?」

モニカが何度尋ねても、レンゲとムクゲは答えてくれなかった。モニカの手を引っ張り布団から引きずり出し、ワキザシを持たせて森へ連れて行く。ウスユキが待っている場所へ到着したとき、モニカは頬を膨らませて不機嫌そうな顔をしていた。まだ会話もしていないのに怒っているモニカに、ウスユキは首を傾げる。

「モニカ。今日は一段と不機嫌ですね?」

「だって、今日の夜会いに来いって言ってたから会いに行ったのにウスユキいないし。また夜中に起こされるし。レンゲとムクゲは質問に答えてくれないんだもん」

「ああ。男の子と一緒に来ていましたね。あれがあなたのお兄さんかな」

「そうよ。っていうか見てたの?!」

「見ていましたよ。なるほど君によく似ている。でも…彼はあなたとは違うね」

「近くにいたならどうして声をかけてくれなかったの?」

「声をかけられなかったんです。あなたが蓮華と蕣を連れていなかったから」

「ん?どういうこと?レンゲとムクゲがいないとどうして声をかけられないの?」

「……」

モニカの問いにウスユキは沈黙した。レンゲとムクゲに目で合図すると、二人はモニカの元を離れてウスユキの隣に立つ。ウスユキは袖の中から扇子を取り出し、モニカに近づきそれで彼女の顎をくいと持ち上げた。目じりを下げた赤い瞳は、瞳孔が猫のように細い。モニカはそれに似た瞳を何度か見たことがあった。魔女、吸血鬼、淫魔…ヒト型魔物の瞳にそっくりだ。

「っ…!」

モニカはゾッとしてウスユキを突き飛ばした。杖を取り出しウスユキに向け、震える声を出す。

「あ…あなた、まさか魔物…?」

「ああ。あなたは本当に何も知らなかったんですね。だから私を助けてくれたのか。それで納得しました。でもモニカ。私は魔物ではありませんよ。物ノ怪でもない。そのようなモノと同じにしないで欲しいね」

「じゃあなんなの…?人じゃないでしょう」

「そうですね。ヒトでもない」

「わけわかんない…。人でもなくて、魔物でも物ノ怪でもない…?」

「ヒトは私のようなものをこう呼ぶ。あやかしと」

「アヤカシ…!」

「あやかしは普通ヒトの目には映らない。お兄さんの目にも映らないでしょう。だから彼はどの道私とは会えないんです。…モニカ、あやかしというモノは知っていますか?」

「あんまり知らないけど…。狩怪組の人たちがモノノケやアヤカシを狩るって言ってたのは覚えてる…。ってことはアヤカシもわるいやつなんでしょ…」

「確かにヒトに悪さをするあやかしもいるけれど…。ヒトを守るあやかしもいれば、ヒトに神と間違われているあやかしもいます」

「…?」

「おいでモニカ。少しゆっくり話をしよう。大丈夫。私はあなたにわるさはしないから」

「……」

「ヌシサマはわるいあやかしじゃない」

「信じて」

「わたしたち、わるいあやかしじゃない」

「お願い」

「っ…」

ウスユキの寂し気な目と、レンゲとムクゲの切実なお願いに、モニカはゆっくり杖を下ろした。本当は心の隅で気付いていた。この3人が普通ではないことを。レンゲとムクゲがアーサーたちの目に映っていないことを。それでも気付きたくなかったから考えないようにしていた。なぜなら彼らは、モニカが唯一言葉を交わせるジッピンのともだちだったから。
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