297 / 718
初夏編:初夏のポントワーブ
【316話】初夏のポントワーブ
しおりを挟む
「んー!!おいしーー!!!」
ポントワーブへ帰ってきたアーサーとモニカは、3日ほどだらだらと家で過ごして疲れを癒した。久しぶりに飛び込んだふかふかのベッドは最高に気持ち良く、トイレとシャワーと食事の時以外はベッドに潜り込んだ。
ウスユキとキヨハルにもらった枝と簪は、約束通り同じ花瓶に挿して窓際に飾った。また、葛餅白菜とヒデマロのウキヨエを壁に飾る。まだ2週間しか経っていないのに、ジッピンでの生活が遠い昔のように感じた。
自堕落な数日を過ごしたあと、やっと普段の生活に戻った。お気に入りの服を着て、モニカは化粧をして髪を兄に結わってもらう。アーサーも久しぶりに髪を念入りにセットした。
アーサーとモニカは懐かしいポントワーブの町を散歩した。初夏のポントワーブにはさっぱりとしたそよ風が吹いていて気持ちがいい。すれ違う町民が、約2か月ぶりに顔を見る双子に嬉しそうに挨拶をし、お菓子や果物を持たせてくれた。それをつまみ食いしながら町を歩く。懐かしい景色と温かい人たちにほっこりとした。
双子はまずシャナの家を訪ねた。サクラの枝を渡そうとしたのだが、どうやら留守のようで誰もいない。杖屋も閉まっており、店内は明かりが消えており人の気配がない。
次にボルーノの薬屋を訪ねたが、そこも店が閉まっていた。通りすがりの人に尋ねると、どうやら1週間前から休業しているらしい。
冒険者ギルドへ行っても、カミーユはもちろんベニートたちもいなかった。受付嬢によると、カミーユたちは最後に双子が会った日からポントワーブへ戻ってきていないようだった。ベニートたちは4日前に町を出たらしい。
宿屋のおばあさんもいなかった。代わりに店番をしていた人に聞くと、おばあさんは友人と西の町へ小旅行をしているらしい。
仲の良い人たちがおらず、アーサーとモニカは少ししょんぼりした。せっかく帰ってきたのに嬉しさが半減だ。落ち込んでいるモニカの機嫌を直すため、アーサーは妹の手を引いていつものカフェに入った。フレンチトーストをテーブルの上に置かれると、モニカはキラキラと目を輝かせてフレンチトーストを頬張った。アーサーも懐かしい大好きな味に幸せそうにため息をつく。
「わぁー。これを食べたらポントワーブに帰ってきたって感じがするねえ」
「うん!!ここのフレンチトーストはポントワーブの名物にしていいと思う!!」
「そいつぁ光栄だねえ。ありがとさん」
カフェの店主がまんざらでもなさそうに鼻を掻いた。褒められて良い気分になったのか、店主はジュースを持ってきてテーブルへ置く。
「あれ?僕たちが頼んだのはオレンジジュースだよ?」
「グレープジュースじゃないわ、お兄さん」
「ちゃぁんとオレンジジュースも持ってくるよ。これは俺からのサービスだ。メニューには載ってないとっておきのグレープジュース。特別にお前らに飲ませてやろうと思ってな」
「えー!!いいのぉ?!」
「今日だけだぞー?」
「ありがとうー!!」
特別なグレープジュースと聞き、アーサーとモニカは嬉しそうにゴクゴク飲んだ。濃厚でとてもおいしく、すぐに飲み干して「ぷはーー!!」とお酒を一気飲みした時のような声を出している。そんな双子を見て笑いながら店主はしばらく二人と雑談した。
「まーたポントワーブから姿を消してたな。どこ行ってたんだー?」
「ジッピンに行ってたの!」
「ジッピン?ジッピンってあの異国の?」
「うん!」
「これまたなんでそんなところに」
「冒険者としての指定依頼を受けたの~!」
「冒険者らしいことちょっとしかしなかったけど!」
「そう言えば私たち、カユボティとヴァジーの護衛として行ったはずなのに、ほとんど遊んですごしちゃったね!」
「ねー!時々町に迷い込んだ小さいモノノケを倒したりしてたけど、ほんとにそれだけだったねえ」
「へー。指定依頼か。お前らも成長したんだな」
「うん!この指定依頼を受けて、私たちE級冒険者になったんだよ!」
「おいおい、やっとかよ。お前ら5年くらいずっとFだったろー。さてはサボってたな?」
「ううう…」
「ま、エリクサー作りとかで大変だろうし、仕方ないか」
「ま、まあねー!」
カフェの店主と久しぶりにおしゃべりをして、アーサーもモニカも少しだけ元気が出た。モニカは今まで我慢していた分を取り戻すかのようにフレンチトーストを5皿もおかわりした。アーサーは3皿だけにとどめ、帰り道に果物屋へ寄ってバナナを50本買い込んだ。
バナナを頬張りながら帰り道を歩いていると、モニカが兄の顔を指さした。
「アーサー、鼻血」
「え?」
「鼻血出てるよ」
「うそ」
アーサーは指で鼻をこすった。どろりとした鼻血が付着している。
「わ、」
「アーサー大丈夫?どこかしんどいの?」
「ううん全然。なんともないんだけどなあ」
「バナナ食べすぎちゃったんじゃない?」
「えー?僕、バナナいっぱい食べて鼻血出たことないよ」
「確かにそうねえ。一応エリクサー飲んだ方が良いわ。病気じゃなきゃいいけど…」
「大丈夫だよ。だってなんともないもん」
「鼻血が出てるじゃない。帰ったら念のため回復魔法をかけてあげる」
「ありがと、モニカ」
家へ帰るまでアーサーの鼻血は止まらなかったが、エリクサーとモニカの回復魔法をかけてもらいピタリと止まった。モニカは兄の鼻をタオルで拭いながらむずかしい顔で話しかけた。
「…アーサー。回復魔法をかけてて分かったんだけど…。あなた、すごく強い毒にかかってたわよ…」
「ええ?!うそ!!」
「私の毒よりは強くないけど…それでもかなり強い毒だった」
「ちょっと待って?!じゃあ僕かなり強い毒でも鼻血出るだけの体になっちゃったの?!えーーー!!!」
「問題はそこじゃないの!なんでアーサーが毒にかかってたかっていうのが問題なのよ!気分が悪くなったりしなかったわけ?!」
「え…全然…」
「なんでよもう…」
「いつ毒にかかったのか全然分かんない…」
「今日はいろんなところでいっぱい食べたもんね…。でもポントワーブの人たちがアーサーに毒を食べさせるなんて考えられないわ」
「きっとその人も毒が入ってるって気付いてなかったんだよ」
「そうだといいけど…」
「…モニカ、毎日マーニャ様の指輪を忘れず身に付けてね。念のために」
「うん…」
「モニカは忘れっぽいからすぐつけ忘れそうだなあ」
「そんなことないもん!」
「うーん…。これからはまずは僕が毒見するよ。指輪を疑ってるわけじゃないけど、それでもモニカに毒を口にさせるのはいやだから」
「…またあの時みたいなことを言うのね、アーサー」
「なんのことかさっぱり分かんない」
「アーサーのうそつき。忘れることなんてできないくせに」
「ほら、お風呂に入ろうモニカ。今日は泡風呂入ろうよ!」
アーサーはムスッとしているモニカを抱っこして浴室へ向かった。浴室へ着いてもモニカは兄にしがみついて離れない。
「モニカ?ついたよ。お風呂はいろ」
「私だってアーサー守るもん」
「僕はずっとモニカに守ってもらってるよ」
「もっと守るもん」
「うん、ありがと」
ポントワーブへ帰ってきたアーサーとモニカは、3日ほどだらだらと家で過ごして疲れを癒した。久しぶりに飛び込んだふかふかのベッドは最高に気持ち良く、トイレとシャワーと食事の時以外はベッドに潜り込んだ。
ウスユキとキヨハルにもらった枝と簪は、約束通り同じ花瓶に挿して窓際に飾った。また、葛餅白菜とヒデマロのウキヨエを壁に飾る。まだ2週間しか経っていないのに、ジッピンでの生活が遠い昔のように感じた。
自堕落な数日を過ごしたあと、やっと普段の生活に戻った。お気に入りの服を着て、モニカは化粧をして髪を兄に結わってもらう。アーサーも久しぶりに髪を念入りにセットした。
アーサーとモニカは懐かしいポントワーブの町を散歩した。初夏のポントワーブにはさっぱりとしたそよ風が吹いていて気持ちがいい。すれ違う町民が、約2か月ぶりに顔を見る双子に嬉しそうに挨拶をし、お菓子や果物を持たせてくれた。それをつまみ食いしながら町を歩く。懐かしい景色と温かい人たちにほっこりとした。
双子はまずシャナの家を訪ねた。サクラの枝を渡そうとしたのだが、どうやら留守のようで誰もいない。杖屋も閉まっており、店内は明かりが消えており人の気配がない。
次にボルーノの薬屋を訪ねたが、そこも店が閉まっていた。通りすがりの人に尋ねると、どうやら1週間前から休業しているらしい。
冒険者ギルドへ行っても、カミーユはもちろんベニートたちもいなかった。受付嬢によると、カミーユたちは最後に双子が会った日からポントワーブへ戻ってきていないようだった。ベニートたちは4日前に町を出たらしい。
宿屋のおばあさんもいなかった。代わりに店番をしていた人に聞くと、おばあさんは友人と西の町へ小旅行をしているらしい。
仲の良い人たちがおらず、アーサーとモニカは少ししょんぼりした。せっかく帰ってきたのに嬉しさが半減だ。落ち込んでいるモニカの機嫌を直すため、アーサーは妹の手を引いていつものカフェに入った。フレンチトーストをテーブルの上に置かれると、モニカはキラキラと目を輝かせてフレンチトーストを頬張った。アーサーも懐かしい大好きな味に幸せそうにため息をつく。
「わぁー。これを食べたらポントワーブに帰ってきたって感じがするねえ」
「うん!!ここのフレンチトーストはポントワーブの名物にしていいと思う!!」
「そいつぁ光栄だねえ。ありがとさん」
カフェの店主がまんざらでもなさそうに鼻を掻いた。褒められて良い気分になったのか、店主はジュースを持ってきてテーブルへ置く。
「あれ?僕たちが頼んだのはオレンジジュースだよ?」
「グレープジュースじゃないわ、お兄さん」
「ちゃぁんとオレンジジュースも持ってくるよ。これは俺からのサービスだ。メニューには載ってないとっておきのグレープジュース。特別にお前らに飲ませてやろうと思ってな」
「えー!!いいのぉ?!」
「今日だけだぞー?」
「ありがとうー!!」
特別なグレープジュースと聞き、アーサーとモニカは嬉しそうにゴクゴク飲んだ。濃厚でとてもおいしく、すぐに飲み干して「ぷはーー!!」とお酒を一気飲みした時のような声を出している。そんな双子を見て笑いながら店主はしばらく二人と雑談した。
「まーたポントワーブから姿を消してたな。どこ行ってたんだー?」
「ジッピンに行ってたの!」
「ジッピン?ジッピンってあの異国の?」
「うん!」
「これまたなんでそんなところに」
「冒険者としての指定依頼を受けたの~!」
「冒険者らしいことちょっとしかしなかったけど!」
「そう言えば私たち、カユボティとヴァジーの護衛として行ったはずなのに、ほとんど遊んですごしちゃったね!」
「ねー!時々町に迷い込んだ小さいモノノケを倒したりしてたけど、ほんとにそれだけだったねえ」
「へー。指定依頼か。お前らも成長したんだな」
「うん!この指定依頼を受けて、私たちE級冒険者になったんだよ!」
「おいおい、やっとかよ。お前ら5年くらいずっとFだったろー。さてはサボってたな?」
「ううう…」
「ま、エリクサー作りとかで大変だろうし、仕方ないか」
「ま、まあねー!」
カフェの店主と久しぶりにおしゃべりをして、アーサーもモニカも少しだけ元気が出た。モニカは今まで我慢していた分を取り戻すかのようにフレンチトーストを5皿もおかわりした。アーサーは3皿だけにとどめ、帰り道に果物屋へ寄ってバナナを50本買い込んだ。
バナナを頬張りながら帰り道を歩いていると、モニカが兄の顔を指さした。
「アーサー、鼻血」
「え?」
「鼻血出てるよ」
「うそ」
アーサーは指で鼻をこすった。どろりとした鼻血が付着している。
「わ、」
「アーサー大丈夫?どこかしんどいの?」
「ううん全然。なんともないんだけどなあ」
「バナナ食べすぎちゃったんじゃない?」
「えー?僕、バナナいっぱい食べて鼻血出たことないよ」
「確かにそうねえ。一応エリクサー飲んだ方が良いわ。病気じゃなきゃいいけど…」
「大丈夫だよ。だってなんともないもん」
「鼻血が出てるじゃない。帰ったら念のため回復魔法をかけてあげる」
「ありがと、モニカ」
家へ帰るまでアーサーの鼻血は止まらなかったが、エリクサーとモニカの回復魔法をかけてもらいピタリと止まった。モニカは兄の鼻をタオルで拭いながらむずかしい顔で話しかけた。
「…アーサー。回復魔法をかけてて分かったんだけど…。あなた、すごく強い毒にかかってたわよ…」
「ええ?!うそ!!」
「私の毒よりは強くないけど…それでもかなり強い毒だった」
「ちょっと待って?!じゃあ僕かなり強い毒でも鼻血出るだけの体になっちゃったの?!えーーー!!!」
「問題はそこじゃないの!なんでアーサーが毒にかかってたかっていうのが問題なのよ!気分が悪くなったりしなかったわけ?!」
「え…全然…」
「なんでよもう…」
「いつ毒にかかったのか全然分かんない…」
「今日はいろんなところでいっぱい食べたもんね…。でもポントワーブの人たちがアーサーに毒を食べさせるなんて考えられないわ」
「きっとその人も毒が入ってるって気付いてなかったんだよ」
「そうだといいけど…」
「…モニカ、毎日マーニャ様の指輪を忘れず身に付けてね。念のために」
「うん…」
「モニカは忘れっぽいからすぐつけ忘れそうだなあ」
「そんなことないもん!」
「うーん…。これからはまずは僕が毒見するよ。指輪を疑ってるわけじゃないけど、それでもモニカに毒を口にさせるのはいやだから」
「…またあの時みたいなことを言うのね、アーサー」
「なんのことかさっぱり分かんない」
「アーサーのうそつき。忘れることなんてできないくせに」
「ほら、お風呂に入ろうモニカ。今日は泡風呂入ろうよ!」
アーサーはムスッとしているモニカを抱っこして浴室へ向かった。浴室へ着いてもモニカは兄にしがみついて離れない。
「モニカ?ついたよ。お風呂はいろ」
「私だってアーサー守るもん」
「僕はずっとモニカに守ってもらってるよ」
「もっと守るもん」
「うん、ありがと」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,348
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。