【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
320 / 718
初夏編:喜びの魔女

【339話】藍

しおりを挟む
杖の声が聞こえ、モニカとアーサーはわんわん泣きながら杖に頬ずりをした。

「杖ぇぇぇぇ!!!!会いたがったよぉぉぉっ!!!杖ッ、杖ぇぇぇぇッ!!!」

「杖の声が聞こえるぅぅぅっ!僕にもッ!僕にも聞こえるよ杖ぇぇぇっ!!!」

《ぐぅ…っ、騒がしいやつらめっ。少しは落ち着かんかっ。逆に我が冷静になってしまうではないか!》

「だっでぇっ!だっで杖が戻ってきてくれたんだもん~~っ!!ふえっ、ふぇぇぇんっ」

「戻ってきてくれてありがどうぅぅっ!ありがとう杖ぇぇぇ!!うわぁぁぁん」

《まったく…。…だが、元気そうだな。主、アーサー》

「うんっ…。杖がね、わたしたちを守ってくれたから…っ、助けてくれたからっ、二人とも、すっかり元気だよっひくっ、ひくっ」

「杖っ、あのときはっ、ぐすっ、無理させちゃってごめんねっ、ぐすっ」

杖が口を挟む暇もなく、双子は杖に各々話しかけた。二人同時に喋るものだから返事をすることもままならない。しばらく黙って聞いていた杖だったが、いつまで経っても終わりそうにないグスグスに、ついに大声をあげて双子を爆風でふっ飛ばした。

《ええい!!!少しは我の言葉に耳を傾けぬかぁっ!!》

「ふぎゃぁっ!!」

「むぎぃっ!」

ふっ飛ばされたアーサーとモニカは勢いよく地面に尻もちをついた。「御子に乱暴をしたねこの杖!!」とフーワが激怒していたが、シャナが力ずくで黙らせた。双子がおしりをさすりながらよろよろと起き上がると、ベッドに残された杖がパァっと光り輝いた。

《モニカ、アーサー。…そして、シャナ。たかが一本の杖のために大切なものを差し出すとは、とんだ変わり者だな》

「たかが一本なんて言い方やめてよっ」

「そうよ、杖はただの杖じゃないわ!私たちの家族なのよ!」

《…ふん。杖が家族とはおかしなことを言う。やはり主らは変わり者だな》

双子がむぅっと黙っていると、杖はボソボソと言葉を続けた。

《…我は我でありながら以前の我ではない。入れ物は似ているがちがうものだ。シャナが骨身を削り作り上げた最上級の杖に仕上がっている。そして、我の魔力はモニカとシャナのものが元となっている。主らの魔力の質の良さは言うまでもあるまい。なんとまあ…我にはもったいない代物に仕上がってしまったな》

「杖…?」

《以前の我は主のことを守ってやれなかった。アーサーのことも、守ってやれなかった。二人に辛い思いをさせてしまい、命の危険も伴った。杖は主の命を守るために在る。それなのに、主らを守ることができなかった》

「ううん。杖が守ってくれたから、僕たちふたりともこうして元気にいられてるんだよ」

杖はアーサーの言葉を無視して話を続ける。

《だが、今の我は以前の我ではない。主の魔力にそぐわず、主の力を発揮させてやれない杖ではない。最上級の入れ物に、最上級の魔力が備わったのが、今の我だ》

「う、うん…?」

《…だから、これからは主らを必ず守ると誓おう。もう二度とあのような目には遭わせない。それが今の我にはできる》

「杖…?」

《今の我は無理をせずとも主らを守ってやることができる。今の我は主にそぐわぬ杖ではない。今の我は力が有り余りこれほど光り輝いている。今の我は…》

「つ、杖。あなたが何を言いたいのか分からない。そんなこと分かってるし、杖が私にそぐわない杖だなんて、今の今まで思ったことないよ!」

《……》

必死に何かを訴えようとしている杖の意図を、モニカとアーサーは汲み取ることができなかった。杖は《ぬぅ、この分からずやめ…》と毒づき、ぷるぷる震えたあとさらにか細い声で呟いた。

《…だから、また我の主になれ、モニカ》

その言葉に双子はぽかんと口を開けた。間抜けな顔をを見合わせ、にっこり笑ってベッドへ飛び込み杖を二人で握る。

「あはは!杖はばかだなあ!」

「そのために呼び戻したのよ!」

杖が最期に見た双子は、呆けたモニカと正気を失ったアーサーだった。杖は悔しかった。自分にもっと力があれば。自分がただの木の棒でなければ、二人を助けてやれたかもしれない。それに…自分が人の姿だったなら、親からの愛情を知らない二人の親代わりになってあげられたかもしれなかったのに、と。

杖は双子に何もしれやれなかったと思っていた。無力な木の棒である自身に打ちひしがれていた。だが力を与えられ意思を取り戻した杖は、それでも双子の傍にいたいと思ってしまった。恥をかいてもいい、いつかモニカに愛想を尽かされたっていい。一秒でも長く、最愛の子どもたちと共に過ごしたいと思った。

何よりも大切なもの。その二人が今、満面の笑みを浮かべて杖に優しい視線を送っている。守ってやれなかったと後悔している杖に、なんの恨みもなく戻ってこいと言っている。その上アーサーとモニカは、ただの木の棒である杖を家族だと言ってくれた。

杖はポロポロと水滴を垂らした。夢の中で離れたくないと願った思いが今、ようやく叶えられた。杖は心の中でこう思う。もしも、もしももう一度、この二人と夢の中で会うことができたなら。このか弱く愛しい子どもたちを、今度は両腕でしっかり抱きしめようと。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。