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合宿編:最終日
シリル、クラリッサ、ライラvsカトリナ、リアーナ
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ふたたび休憩をはさんだあと、次の生徒vsS級の対戦が始まった。ずっとこの時を待っていた生徒たちは張り切って背中に炎を背負っている。カトリナとリアーナもずっと楽しみにしていたのかいつもより表情がニコニコしている。
「おまえらー!1か月の成長見せてくれよなー!!」
「もちろん!!」
「一か月前の僕たちとはちがいます!!」
「あらァ。それは楽しみねェ」
「私たちの特訓の成果、見てください!!」
シリル、ライラ、クラリッサは目を合わせて頷いた。ずっと温めていた作戦をとうとう披露するときがきた。試合開始の矢が地面に落ちると、3人は散り散りになり木の陰に隠れた。
「屋敷横の木にクラリッサ、門近くの木にシリル、森の入り口にライラだな」
「遠距離型の私たちと距離を取るなんてェ。どういう作戦なのかしら」
「とりあえずあたしらもバラけるか」
「そうね」
カトリナとリアーナが違う方向に歩き出した。二人の距離が10メートル離れたとき、クラリッサの土魔法が作動する。
「お?」
「あら」
二人はそれぞれ土魔法で作られたドームに閉じ込められた。リアーナはすぐに反属性魔法でドームを崩したが、崩した瞬間にライラの矢が飛んでくる。
「!」
リアーナは風魔法でいとも簡単に矢を落とした。だがいつの間にか背後に回っていたシリルの剣が彼女に襲い掛かる。チリ、とリアーナの首に一瞬触れたが、咄嗟に避けてシリルの横腹に蹴りをのめりこませた。
「ぐっ…!くそぉっ…!」
「ほー!!あたしらを分断させて一人ずつやろうって作戦かぁ?!やるじゃん!!」
リアーナは感心しながらカトリナを閉じ込めていた土魔法を崩した。ドームがあった中央でカトリナが弓を構えており、リアーナの前で膝をついているシリル、木の陰で隠れているライラとクラリッサに矢の雨をお見舞いする。カトリナの命中率は驚異的で心臓をきっちり狙ってくる。遠く離れていたライラとクラリッサには反応する余裕があった。ライラは2本の矢を肩に受けながらもかろうじで避けることができた。クラリッサは火魔法で矢を焼き尽くそうとしたが、リアーナに打ち消されてしまう。ゾッとした彼女は慌てて体をよじらせたが、4本全ての矢が体に突き刺さり口から血を吐いた。
距離が近かったシリルは反応が遅れたが、心臓に当たるのだけは免れた。矢の威力が凄まじく、吹き飛ばされて地面に倒れこむ。そこにリアーナの魔法とカトリナの矢が襲い掛かった。
(今だ!!)
「あらっ」
リアーナが攻撃魔法に切り替えた瞬間を狙い、クラリッサがカトリナの矢を火魔法で燃やした。構えている矢だけではなく、肩にかけている矢の束すべてを焼き尽くす。武器を失ったカトリナはクスっと笑いクラリッサを見た。
「特訓の成果が出てるわねェ。そうよ、アーチャーは魔法使いと相性が最悪。矢を燃やされてしまったら何もできないから」
「っておぉぉいっ!カトリナお前反魔法の矢は?!」
「使ってないわよォ?だってこの子たちがこの戦法を思いついたのに燃やせなかったら白けちゃうじゃない」
「かーーーっ!あめえなあ!!」
「大丈夫よォ。アイテムボックスの中に予備の矢はたくさんあるわ。アイテムボックスからわざわざ取り出さないといけないし、クラリッサに燃やされる前に矢を射ないといけないけど、問題ないわ」
「そうか!!じゃあ大丈夫だな!!ま、できるだけ燃やされないように打ち消すから!」
「ありがとう。頼もしいわァ」
(どうしてそんな余裕綽々なのっ…!予備の矢くらい持ってるとは思ってたけど、ちょっとくらいあのニコニコ顔崩せると思ってたのに!!)
それからもクラリッサは主に土魔法と炎魔法を多用してS級冒険者を阻害した。毎回土のドームを崩し、カトリナの矢が燃やされるのを打ち消さないといけないリアーナが徐々にイライラしてくる。カトリナも度々ドームに閉じ込められるのでペースを乱され戦いづらそうにしていた。さらにシリルを攻撃してもライラが回復させるのでなかなかにしぶとい。首輪や鎧を狙うも、阻害されながら素早いシリルの即死ポイントに当てるのは至難の業だった。彼に攻撃されているリアーナは徐々に小さな傷が増えていく。
「うぎゃー…。戦いづれぇ…っ!完全に対あたしとカトリナ用の作戦練ってきやがったなこいつらぁ…!」
シリルチームは、アーサーやモニカのようにガンガン攻めるタイプではなく、じわじわとストレスをかけながら追い込んでいくタイプ…ジルとカトリナの戦い方に似ていた。
何度目か分からない土魔法ドームに覆われ、リアーナはイライラと乱暴に杖を振った。自分のドームを崩し、次にカトリナのドームを崩す。カトリナの閉鎖された視界が開けた先には、今まさに弓を放ったライラがいた。
「っ!リアーナ後ろ!!」
「んあ!?」
カトリナが射落とそうと矢を射るもクラリッサに燃やされてしまう。リアーナは風魔法でライラの矢を落とそうとした。クラリッサの反属性魔法が放たれたが、リアーナの威力は弱まるだけで完全には相殺されなかった。
(だめっ!あの威力じゃ届かない!!)
ライラは握っていた矢を地面に落とし杖を握った。ぎこちない手つきで杖を振り、言い慣れない呪文を大声で叫んだ。杖は待ってましたと言わんばかりに強風を吹かせる。リアーナの風に飲まれた矢はライラの風に包まれ一気に加速した。
「ん"ぁっ…!」
魔法を放つことに必死だったライラはうしろにカトリナが迫っていることに気付かなかった。カトリナは彼女を横なぎに蹴り倒し、血を吐いて倒れたライラの心臓に矢を放った。
「っ…!」
「ライラ、リタイアよォ」
「う…っ、リ、リアーナさんは…っ」
「ちっ…」
リアーナはライラの矢を避けきれなかった。風魔法によりカトリナ以上の威力を持ったその矢は、腹に深々と刺さりリアーナの体を貫通した。よろけている彼女に背後からシリルの剣が勢いよく襲い掛かる。その剣は彼女の首輪へ直撃した。
「リアーナ、リタイアだ」
「くっそぉぉぉーーー!!やられちまったーーー!!」
リアーナは悔しそうに地団駄を踏み、「カトリナすまーーーーん!!」と謝った。
「いいのよォ。シリルをリタイアにしてくれたから充分」
カトリナは血だらけになって倒れているシリルを一瞥したあとクラリッサに狙いを定めた。首に攻撃を受ける直前、リアーナはそれに気付きシリルに全属性魔法を打ちこんでしまった。咄嗟のことで自衛心が働いてしまい手加減ができなかったようだ。シリルはすべての輪と鎧に攻撃を受け、それだけでなく体中に深い傷と状態異常を負っていた。首輪と鎧があったから良かったものの、それがなければ死んでしまっていただろう。リアーナは大慌てで彼をモニカの元へ連れて行き回復させた。リアーナが今までどれほど手を抜いて戦っていたのかが分かった瞬間だった。
(きっと…リアーナさんだけじゃなくてS級冒険者みんなあれくらい手を抜いているのよね…。カミーユパーティ、やっぱり恐ろしいほど強い…)
「あら、考え事かしらァ」
「っ!!」
リアーナの攻撃力に動揺していたクラリッサの背後には、いつの間にかカトリナが立っていた。
「クラリッサ。あなた、素晴らしい魔法使いになるわァ。さっきの阻害、とても良かった。あれはモニカではできない戦い方よ。あなたは魔法の活かし方をよく分かってる。きっとモニカに負けないくらい強い魔法使いになるわァ」
カトリナはそう言うと、弓ではなく体術を使ってクラリッサを追い込んだ。クラリッサも負けじと応戦するが、力と速さが到底かなわない。魔法を放つ暇なんてもちろん与えてもらえない。激しい攻防に体力を消耗する。一瞬のふらつきを見逃さなかったカトリナは、クラリッサの足元を蹴りで薙ぎ払い横転させた。素早く弓を構え両手の平に矢を打ち込んだ。暴れないよう腹に足を乗せ、鎧めがけて最後の矢を射る。これにて対戦は終了した。
シリル、ライラ、クラリッサは悔し涙を浮かべていた。勝てるなんて思っていなかったはずだった。それでも思い通りに戦えているうちに、もしかしたら勝てるかもしれないとほんの少し思ってしまっていた。だから余計悔しかった。3人はぎゅーっと抱き合ってグスグス泣いた。リアーナとカトリナはそんな3人を微笑まし気に眺めていた。
「見てリアーナ。あなたを落としたのに泣いてるわ、悔しくて」
「ほんとになー!あたし落とせただけでもたいしたもんだっつーの!!」
「将来が楽しみねェ」
「おう!!あたし、こいつらと特訓できて良かった!!」
「私も」
「おまえらー!1か月の成長見せてくれよなー!!」
「もちろん!!」
「一か月前の僕たちとはちがいます!!」
「あらァ。それは楽しみねェ」
「私たちの特訓の成果、見てください!!」
シリル、ライラ、クラリッサは目を合わせて頷いた。ずっと温めていた作戦をとうとう披露するときがきた。試合開始の矢が地面に落ちると、3人は散り散りになり木の陰に隠れた。
「屋敷横の木にクラリッサ、門近くの木にシリル、森の入り口にライラだな」
「遠距離型の私たちと距離を取るなんてェ。どういう作戦なのかしら」
「とりあえずあたしらもバラけるか」
「そうね」
カトリナとリアーナが違う方向に歩き出した。二人の距離が10メートル離れたとき、クラリッサの土魔法が作動する。
「お?」
「あら」
二人はそれぞれ土魔法で作られたドームに閉じ込められた。リアーナはすぐに反属性魔法でドームを崩したが、崩した瞬間にライラの矢が飛んでくる。
「!」
リアーナは風魔法でいとも簡単に矢を落とした。だがいつの間にか背後に回っていたシリルの剣が彼女に襲い掛かる。チリ、とリアーナの首に一瞬触れたが、咄嗟に避けてシリルの横腹に蹴りをのめりこませた。
「ぐっ…!くそぉっ…!」
「ほー!!あたしらを分断させて一人ずつやろうって作戦かぁ?!やるじゃん!!」
リアーナは感心しながらカトリナを閉じ込めていた土魔法を崩した。ドームがあった中央でカトリナが弓を構えており、リアーナの前で膝をついているシリル、木の陰で隠れているライラとクラリッサに矢の雨をお見舞いする。カトリナの命中率は驚異的で心臓をきっちり狙ってくる。遠く離れていたライラとクラリッサには反応する余裕があった。ライラは2本の矢を肩に受けながらもかろうじで避けることができた。クラリッサは火魔法で矢を焼き尽くそうとしたが、リアーナに打ち消されてしまう。ゾッとした彼女は慌てて体をよじらせたが、4本全ての矢が体に突き刺さり口から血を吐いた。
距離が近かったシリルは反応が遅れたが、心臓に当たるのだけは免れた。矢の威力が凄まじく、吹き飛ばされて地面に倒れこむ。そこにリアーナの魔法とカトリナの矢が襲い掛かった。
(今だ!!)
「あらっ」
リアーナが攻撃魔法に切り替えた瞬間を狙い、クラリッサがカトリナの矢を火魔法で燃やした。構えている矢だけではなく、肩にかけている矢の束すべてを焼き尽くす。武器を失ったカトリナはクスっと笑いクラリッサを見た。
「特訓の成果が出てるわねェ。そうよ、アーチャーは魔法使いと相性が最悪。矢を燃やされてしまったら何もできないから」
「っておぉぉいっ!カトリナお前反魔法の矢は?!」
「使ってないわよォ?だってこの子たちがこの戦法を思いついたのに燃やせなかったら白けちゃうじゃない」
「かーーーっ!あめえなあ!!」
「大丈夫よォ。アイテムボックスの中に予備の矢はたくさんあるわ。アイテムボックスからわざわざ取り出さないといけないし、クラリッサに燃やされる前に矢を射ないといけないけど、問題ないわ」
「そうか!!じゃあ大丈夫だな!!ま、できるだけ燃やされないように打ち消すから!」
「ありがとう。頼もしいわァ」
(どうしてそんな余裕綽々なのっ…!予備の矢くらい持ってるとは思ってたけど、ちょっとくらいあのニコニコ顔崩せると思ってたのに!!)
それからもクラリッサは主に土魔法と炎魔法を多用してS級冒険者を阻害した。毎回土のドームを崩し、カトリナの矢が燃やされるのを打ち消さないといけないリアーナが徐々にイライラしてくる。カトリナも度々ドームに閉じ込められるのでペースを乱され戦いづらそうにしていた。さらにシリルを攻撃してもライラが回復させるのでなかなかにしぶとい。首輪や鎧を狙うも、阻害されながら素早いシリルの即死ポイントに当てるのは至難の業だった。彼に攻撃されているリアーナは徐々に小さな傷が増えていく。
「うぎゃー…。戦いづれぇ…っ!完全に対あたしとカトリナ用の作戦練ってきやがったなこいつらぁ…!」
シリルチームは、アーサーやモニカのようにガンガン攻めるタイプではなく、じわじわとストレスをかけながら追い込んでいくタイプ…ジルとカトリナの戦い方に似ていた。
何度目か分からない土魔法ドームに覆われ、リアーナはイライラと乱暴に杖を振った。自分のドームを崩し、次にカトリナのドームを崩す。カトリナの閉鎖された視界が開けた先には、今まさに弓を放ったライラがいた。
「っ!リアーナ後ろ!!」
「んあ!?」
カトリナが射落とそうと矢を射るもクラリッサに燃やされてしまう。リアーナは風魔法でライラの矢を落とそうとした。クラリッサの反属性魔法が放たれたが、リアーナの威力は弱まるだけで完全には相殺されなかった。
(だめっ!あの威力じゃ届かない!!)
ライラは握っていた矢を地面に落とし杖を握った。ぎこちない手つきで杖を振り、言い慣れない呪文を大声で叫んだ。杖は待ってましたと言わんばかりに強風を吹かせる。リアーナの風に飲まれた矢はライラの風に包まれ一気に加速した。
「ん"ぁっ…!」
魔法を放つことに必死だったライラはうしろにカトリナが迫っていることに気付かなかった。カトリナは彼女を横なぎに蹴り倒し、血を吐いて倒れたライラの心臓に矢を放った。
「っ…!」
「ライラ、リタイアよォ」
「う…っ、リ、リアーナさんは…っ」
「ちっ…」
リアーナはライラの矢を避けきれなかった。風魔法によりカトリナ以上の威力を持ったその矢は、腹に深々と刺さりリアーナの体を貫通した。よろけている彼女に背後からシリルの剣が勢いよく襲い掛かる。その剣は彼女の首輪へ直撃した。
「リアーナ、リタイアだ」
「くっそぉぉぉーーー!!やられちまったーーー!!」
リアーナは悔しそうに地団駄を踏み、「カトリナすまーーーーん!!」と謝った。
「いいのよォ。シリルをリタイアにしてくれたから充分」
カトリナは血だらけになって倒れているシリルを一瞥したあとクラリッサに狙いを定めた。首に攻撃を受ける直前、リアーナはそれに気付きシリルに全属性魔法を打ちこんでしまった。咄嗟のことで自衛心が働いてしまい手加減ができなかったようだ。シリルはすべての輪と鎧に攻撃を受け、それだけでなく体中に深い傷と状態異常を負っていた。首輪と鎧があったから良かったものの、それがなければ死んでしまっていただろう。リアーナは大慌てで彼をモニカの元へ連れて行き回復させた。リアーナが今までどれほど手を抜いて戦っていたのかが分かった瞬間だった。
(きっと…リアーナさんだけじゃなくてS級冒険者みんなあれくらい手を抜いているのよね…。カミーユパーティ、やっぱり恐ろしいほど強い…)
「あら、考え事かしらァ」
「っ!!」
リアーナの攻撃力に動揺していたクラリッサの背後には、いつの間にかカトリナが立っていた。
「クラリッサ。あなた、素晴らしい魔法使いになるわァ。さっきの阻害、とても良かった。あれはモニカではできない戦い方よ。あなたは魔法の活かし方をよく分かってる。きっとモニカに負けないくらい強い魔法使いになるわァ」
カトリナはそう言うと、弓ではなく体術を使ってクラリッサを追い込んだ。クラリッサも負けじと応戦するが、力と速さが到底かなわない。魔法を放つ暇なんてもちろん与えてもらえない。激しい攻防に体力を消耗する。一瞬のふらつきを見逃さなかったカトリナは、クラリッサの足元を蹴りで薙ぎ払い横転させた。素早く弓を構え両手の平に矢を打ち込んだ。暴れないよう腹に足を乗せ、鎧めがけて最後の矢を射る。これにて対戦は終了した。
シリル、ライラ、クラリッサは悔し涙を浮かべていた。勝てるなんて思っていなかったはずだった。それでも思い通りに戦えているうちに、もしかしたら勝てるかもしれないとほんの少し思ってしまっていた。だから余計悔しかった。3人はぎゅーっと抱き合ってグスグス泣いた。リアーナとカトリナはそんな3人を微笑まし気に眺めていた。
「見てリアーナ。あなたを落としたのに泣いてるわ、悔しくて」
「ほんとになー!あたし落とせただけでもたいしたもんだっつーの!!」
「将来が楽しみねェ」
「おう!!あたし、こいつらと特訓できて良かった!!」
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