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魂魄編:ペンダント
ユーリの熱狂的なファン
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雪がしんしんと降る中、アーサーとモニカはポントワーブへ戻って来た。
約1か月ぶりのふるさとは、特段変わったこともなく、町民が楽し気に町を歩いている。ただひとつ変わったことと言えば、ホットワインとホットチョコレートが屋台に並んでいたことくらいだった。
双子はさっそくホットチョコレートを啜り、あたたかくて甘い飲み物に顔を緩ませながら家へ帰った。
オリバ家の屋敷であてがわれた部屋は広く、ベッドが広かったが、双子はやはり自分たちの家の方が好きだった。
「あー!帰って来たねえ」
「やっぱりここが落ち着くねぇ」
「モニカ! 僕、久しぶりにモニカの手料理食べたいなあ」
アーサーのおねだりに、モニカはパッと顔を輝かせた。
「任せて! おいしいもの作ってあげる! 何が食べたい?」
「えっとね。バナ……」
「バナナ以外で!」
「それじゃあ……トマトスープと、肉の腸詰と、パン!」
「いいわねー! じゃあ、早速買い物に行きましょう!」
「あ、ついでにユーリの薬屋と商人ギルドに寄ろうよ。この一カ月で作ったエリクサーとか、トロワの子たちが作ったポーション売りたいし!」
「そうね! 賛成!」
アーサーとモニカは、エリクサーとポーションを別々のアイテムボックスに仕分け、ユーリの薬屋へ寄った。
相変わらずユーリの店は女性客が多い。アーサーはぼんやりと、健康そうに見えるのにどうして薬屋に来るんだろうと思った。一方モニカは、ニヤニヤしながらユーリの耳元で囁く。
「またファンが増えたんじゃない? ユーリ」
「うん……。あの人たち、僕の作ったポーションをやたらと購入してくれるんだけど、冒険者でもないのに消費量が凄まじいんだ」
「ちょっと変態めいてるわね……」
「そう。だからモニカも、あんまり僕に近寄らない方がいいよ。ほら、今も女性客に睨まれてる」
「はっ」
ユーリの言葉に、モニカはチラッと店内を見回した。女性客が歯ぎしりをしながらモニカを睨んでいる。モニカは笑ってごまかしながら、2,3歩あとずさった。
「あは、あはは。……ユーリも大変ね」
「まあ、ずっと見てくるだけだし大丈夫だよ。あとを付けられたりするけど」
「そ、それ、全然大丈夫じゃないよ!?」
「そうかな?」
男の子ってどうしてこんなに警戒心がないんだろう、とモニカは思った。ちらりと兄に目をやると、アーサーはボケーっと薬素材の瓶が並べられた棚を眺めている。彼もきっと、あとをつけられたくらいじゃ何とも思わないのだろう。そう考えると無性に腹が立ってきた。
(まったく! 仕方ないわね。アーサーとユーリはわたしが守ってあげなくちゃ)
「ユーリ。あとをつけてる女の人って、あの人?」
「あ、うん。その人もだね」
「何人かいるのね……」
モニカはため息をついたあと、キッと女性を睨みつけて、ズカズカと彼女に近づいた。目の前で仁王立ちするモニカに、女性は怪訝な目を向ける。
「な、なに」
「あなた。ユーリのこと好きなのはいいけど、迷惑なことはしちゃだめよ」
「なっ……、なんで、あなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
「ユーリはわたしの大切なひとだからよ!」
「た……大切な人ぉ!?」
「そう! いわば……弟ね!」
「な……。あ、あなた、ユーリ君のお姉ちゃん枠取ろうっていうの!?」
「ええ! だからユーリを困らせてるあなたに注意をさせてもらうわ! 薬屋に来るのはいいとして、あとをつけちゃだめ!」
「なにお姉ちゃんぶってぇ! 私がユーリ君のお姉ちゃんになりたかったのに!!」
「ユーリはわたしの弟だもん!!」
「私のよぉ!!」
意味の分からないケンカが始まってしまい、アーサーとユーリはオロオロと目を見合わせた。
「こ、これ、どういう状況?」
アーサーが尋ねたが、ユーリも首を横に振る。
「さ、さっぱり分からない。あの女の人、時々僕のあとをつけてるんだけどね、それをモニカに言ったら注意しに行ってくれたんだけど……。いつの間にか、どっちが僕のお姉さんかで言い争ってる」
「うーん、説明を聞いても全然分かんないなあ……。どっちもユーリのお姉ちゃんではないのにねえ」
「ねー……」
「と、とにかく止めてくるよ」
「あ、ありがとうアーサー」
訳が分からないまま、アーサーは仲裁に入ろうとした。口論に割って入ろうと思っても、二人は全く耳を貸さずに騒いでいる。アーサーはまた諦めモードに入りかけたが、ジュリアに叱られたことを思い出して自分の頬をペチペチ叩いた。
「もう! だからお姉ちゃんに必要なのは、母性とおっぱいなのよ!! 分かる!? ヒョロッヒョロのお嬢ちゃん!!」
女性はそう言って、得意げに自分の胸を掴んだ。モニカよりもボリュームがあり、柔らかそうでタプタプだ。
モニカもつられて、ムッとした顔で自分の胸をわしづかみする。
「なんですってぇ!? こ、これでもわたし、最近ちょっとふにふにしてきたんだからねぇ!! ふんわりした服着てるから分からないだけだもん!!」
「そうかしら? 仮にそうだとしても、そーんな細い腕と細い足じゃあ、膝枕も腕枕も満足にできないわねぇ!!」
「ほ、細くないもん!! よくアーサーにフニフニできもちいいって言われるもん!!」
「ねえさっきからなんの言い合いしてるの!?」
思わずアーサーがツッコんだ。ふたりの論点はどんどんとズレている。それに気付かず、二人はゴールのない言い合いをひたすら続けていた。
「お嬢ちゃん!! ちょっと可愛いからって調子乗るんじゃないよ!!」
「っ!」
意味のない口論の末、頭に血が上った女性が手を振り上げた。まったく動じないモニカは目を瞑ったり体をびくつかせたりしない。それがまた腹が立ち、勢いよく頬を叩こうとした。
「!!」
「お姉さん。すみません、僕の妹が失礼しました」
アーサーが女性の手首を軽やかに掴んだ。
女性はそのとき初めてアーサーの存在に気付いた。彼女は、アーサーの笑顔にポッと顔を赤らめた。
「モニカ。もういいでしょ? ユーリが困ってるよ」
「あ……ごめんなさい」
「うん。じゃあそろそろ出ようか。エリクサーは買い取ってもらったから」
「うん……」
モニカの肩を抱き、アーサーは薬屋をあとにした。
その日からその女性は、ちょくちょくアーサーのあとをつけてはニマニマしていたという。彼女曰く、他にもつけている人がいたので気付かれないようにするのが大変だったとか。
約1か月ぶりのふるさとは、特段変わったこともなく、町民が楽し気に町を歩いている。ただひとつ変わったことと言えば、ホットワインとホットチョコレートが屋台に並んでいたことくらいだった。
双子はさっそくホットチョコレートを啜り、あたたかくて甘い飲み物に顔を緩ませながら家へ帰った。
オリバ家の屋敷であてがわれた部屋は広く、ベッドが広かったが、双子はやはり自分たちの家の方が好きだった。
「あー!帰って来たねえ」
「やっぱりここが落ち着くねぇ」
「モニカ! 僕、久しぶりにモニカの手料理食べたいなあ」
アーサーのおねだりに、モニカはパッと顔を輝かせた。
「任せて! おいしいもの作ってあげる! 何が食べたい?」
「えっとね。バナ……」
「バナナ以外で!」
「それじゃあ……トマトスープと、肉の腸詰と、パン!」
「いいわねー! じゃあ、早速買い物に行きましょう!」
「あ、ついでにユーリの薬屋と商人ギルドに寄ろうよ。この一カ月で作ったエリクサーとか、トロワの子たちが作ったポーション売りたいし!」
「そうね! 賛成!」
アーサーとモニカは、エリクサーとポーションを別々のアイテムボックスに仕分け、ユーリの薬屋へ寄った。
相変わらずユーリの店は女性客が多い。アーサーはぼんやりと、健康そうに見えるのにどうして薬屋に来るんだろうと思った。一方モニカは、ニヤニヤしながらユーリの耳元で囁く。
「またファンが増えたんじゃない? ユーリ」
「うん……。あの人たち、僕の作ったポーションをやたらと購入してくれるんだけど、冒険者でもないのに消費量が凄まじいんだ」
「ちょっと変態めいてるわね……」
「そう。だからモニカも、あんまり僕に近寄らない方がいいよ。ほら、今も女性客に睨まれてる」
「はっ」
ユーリの言葉に、モニカはチラッと店内を見回した。女性客が歯ぎしりをしながらモニカを睨んでいる。モニカは笑ってごまかしながら、2,3歩あとずさった。
「あは、あはは。……ユーリも大変ね」
「まあ、ずっと見てくるだけだし大丈夫だよ。あとを付けられたりするけど」
「そ、それ、全然大丈夫じゃないよ!?」
「そうかな?」
男の子ってどうしてこんなに警戒心がないんだろう、とモニカは思った。ちらりと兄に目をやると、アーサーはボケーっと薬素材の瓶が並べられた棚を眺めている。彼もきっと、あとをつけられたくらいじゃ何とも思わないのだろう。そう考えると無性に腹が立ってきた。
(まったく! 仕方ないわね。アーサーとユーリはわたしが守ってあげなくちゃ)
「ユーリ。あとをつけてる女の人って、あの人?」
「あ、うん。その人もだね」
「何人かいるのね……」
モニカはため息をついたあと、キッと女性を睨みつけて、ズカズカと彼女に近づいた。目の前で仁王立ちするモニカに、女性は怪訝な目を向ける。
「な、なに」
「あなた。ユーリのこと好きなのはいいけど、迷惑なことはしちゃだめよ」
「なっ……、なんで、あなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
「ユーリはわたしの大切なひとだからよ!」
「た……大切な人ぉ!?」
「そう! いわば……弟ね!」
「な……。あ、あなた、ユーリ君のお姉ちゃん枠取ろうっていうの!?」
「ええ! だからユーリを困らせてるあなたに注意をさせてもらうわ! 薬屋に来るのはいいとして、あとをつけちゃだめ!」
「なにお姉ちゃんぶってぇ! 私がユーリ君のお姉ちゃんになりたかったのに!!」
「ユーリはわたしの弟だもん!!」
「私のよぉ!!」
意味の分からないケンカが始まってしまい、アーサーとユーリはオロオロと目を見合わせた。
「こ、これ、どういう状況?」
アーサーが尋ねたが、ユーリも首を横に振る。
「さ、さっぱり分からない。あの女の人、時々僕のあとをつけてるんだけどね、それをモニカに言ったら注意しに行ってくれたんだけど……。いつの間にか、どっちが僕のお姉さんかで言い争ってる」
「うーん、説明を聞いても全然分かんないなあ……。どっちもユーリのお姉ちゃんではないのにねえ」
「ねー……」
「と、とにかく止めてくるよ」
「あ、ありがとうアーサー」
訳が分からないまま、アーサーは仲裁に入ろうとした。口論に割って入ろうと思っても、二人は全く耳を貸さずに騒いでいる。アーサーはまた諦めモードに入りかけたが、ジュリアに叱られたことを思い出して自分の頬をペチペチ叩いた。
「もう! だからお姉ちゃんに必要なのは、母性とおっぱいなのよ!! 分かる!? ヒョロッヒョロのお嬢ちゃん!!」
女性はそう言って、得意げに自分の胸を掴んだ。モニカよりもボリュームがあり、柔らかそうでタプタプだ。
モニカもつられて、ムッとした顔で自分の胸をわしづかみする。
「なんですってぇ!? こ、これでもわたし、最近ちょっとふにふにしてきたんだからねぇ!! ふんわりした服着てるから分からないだけだもん!!」
「そうかしら? 仮にそうだとしても、そーんな細い腕と細い足じゃあ、膝枕も腕枕も満足にできないわねぇ!!」
「ほ、細くないもん!! よくアーサーにフニフニできもちいいって言われるもん!!」
「ねえさっきからなんの言い合いしてるの!?」
思わずアーサーがツッコんだ。ふたりの論点はどんどんとズレている。それに気付かず、二人はゴールのない言い合いをひたすら続けていた。
「お嬢ちゃん!! ちょっと可愛いからって調子乗るんじゃないよ!!」
「っ!」
意味のない口論の末、頭に血が上った女性が手を振り上げた。まったく動じないモニカは目を瞑ったり体をびくつかせたりしない。それがまた腹が立ち、勢いよく頬を叩こうとした。
「!!」
「お姉さん。すみません、僕の妹が失礼しました」
アーサーが女性の手首を軽やかに掴んだ。
女性はそのとき初めてアーサーの存在に気付いた。彼女は、アーサーの笑顔にポッと顔を赤らめた。
「モニカ。もういいでしょ? ユーリが困ってるよ」
「あ……ごめんなさい」
「うん。じゃあそろそろ出ようか。エリクサーは買い取ってもらったから」
「うん……」
モニカの肩を抱き、アーサーは薬屋をあとにした。
その日からその女性は、ちょくちょくアーサーのあとをつけてはニマニマしていたという。彼女曰く、他にもつけている人がいたので気付かれないようにするのが大変だったとか。
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