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魂魄編:ピュトア泉
本当のさよなら(モニカ)
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「ロイ……。ごめんね。……ありがとう。私とアーサーを守ってくれて。本当に、ありがとう」
「君が強い子で良かった。ありがとうと言ってもらえて、ホッとした」
「わたしも、アーサーも、あなたとセルジュ先生のこと忘れない。ずっとずっと、覚えてるから」
「ありがとう」
モニカの頬に伝う涙を、ロイアーサーが指で拭う。その手はまた彼女の髪に触れ、彼はにっこりと笑った。
「長髪のモニカさんもきれいだったけど、短髪のモニカさんもかわいくて好きだよ」
「えへへ」
モニカは照れくさそうに笑うがどこかぎこちない。やはり、短髪になってしまったことを気にしているようだ。
「髪型がどうでも、君が泣いてても笑っても、怒ってるところですらかわいいよ。僕でもそう思うんだから、君のことを何よりも大切に想ってるアーサーが、短髪の君を気に入らないわけないよ。それにこの短髪は、君がアーサーを守った証でもある。なにも恥ずかしいことはないんだ」
「ありがとう。ロイ」
別れを惜しんでいるうちに、聖女が泉へ戻って来た。彼女はロイアーサーに手招きをして、泉に入るように合図をしている。ロイアーサーは頷き泉へ歩き出そうとした。
「ロイッ……!」
モニカは思わず彼の手を掴んでしまった。まだ別れたくない。二度と会えなくなる準備ができていない。
引き留めたはいいものの、言葉が出てこなかった。唇を噛んで必死に嗚咽を殺しているモニカを見て、ロイアーサーは優しく微笑む。
「モニカさん」
「……っ」
ロイアーサーはモニカの額にそっとキスをして、抱きしめる。
「魔物の魂魄である限り、僕は魔物としてしか生きられない。魂魄が消滅することで、もしかしたら僕は人として生まれ変われるかもしれない。吸血鬼として生きるのもいいけど、次はしあわせな人としての人生を歩んでみたいんだ。あたたかい家族に包まれた、しあわせな人生を」
「うん……っ」
「欲を言えば、君とアーサーが僕の両親だと嬉しいんだけど」
ロイアーサーの冗談に、モニカは泣きながら笑う。
「ふふ。それいいわね。言っとくけどアーサーがお母さんだからね。だってアーサーはわたしのお嫁さんになるんだから」
「ええ。じゃあモニカさんがお父さんなの? いろいろとむちゃくちゃだね」
最後の別れはお互いに笑うことができた。
ロイアーサーは、聖女に手を引かれて泉の中へ入っていく。
彼は最後に振り返り、モニカに手を振った。
「さようなら、モニカさん」
「さようなら、ロイ」
アブル町の貧しい家庭に生まれた少年、ロイ。
彼は貴族に白金貨1枚で買われ、数々の虐待を受け、戯れにチムシーを寄生させられた。
闇鑑賞会にて非道な貴族たちに囲まれて虐待を受けているとき、彼は一人の吸血鬼に助けられた。
ロイはその吸血鬼に愛情を注がれ、優しく無垢な少年のまま100年を過ごすこととなる。
100年が過ぎたとき、ロイはある少年と少女に出会った。
少年は彼を虐待していた貴族の血を受け継いでいた。そして彼もまた、ロイの体を傷つけて遊んだ。
少女は彼を救った吸血鬼の恋人の血を受け継いでいた。そして彼女もまた、一人の吸血鬼に恋をさせた。
人間を憎み、手を血に染めるロイ。
人間に恋し、頬を赤く染めるロイ。
どちらのロイも、間違いなくロイだった。
なぜなら彼は、元は心優しい人間だった、残虐非道な吸血鬼だったから。
「たまにいるんです」
聖魔法をかける前、聖女がぼそりと呟いた。
「魔物のはずなのに、好意を抱いてしまいそうになる自分が」
そして聖女が杖を振る。
泉の中で、魔物が悲痛なうめき声をあげた。
数々の尊き人間をその手で痛めつけ、血を吸い尽くしてきた非道な吸血鬼の魂魄は、
大切な人間を守るため、魂魄を削り、自ら聖水の中へ入る吸血鬼の魂魄は、
聖水と聖女の清き力の元で、苦しみながら消滅した。
「君が強い子で良かった。ありがとうと言ってもらえて、ホッとした」
「わたしも、アーサーも、あなたとセルジュ先生のこと忘れない。ずっとずっと、覚えてるから」
「ありがとう」
モニカの頬に伝う涙を、ロイアーサーが指で拭う。その手はまた彼女の髪に触れ、彼はにっこりと笑った。
「長髪のモニカさんもきれいだったけど、短髪のモニカさんもかわいくて好きだよ」
「えへへ」
モニカは照れくさそうに笑うがどこかぎこちない。やはり、短髪になってしまったことを気にしているようだ。
「髪型がどうでも、君が泣いてても笑っても、怒ってるところですらかわいいよ。僕でもそう思うんだから、君のことを何よりも大切に想ってるアーサーが、短髪の君を気に入らないわけないよ。それにこの短髪は、君がアーサーを守った証でもある。なにも恥ずかしいことはないんだ」
「ありがとう。ロイ」
別れを惜しんでいるうちに、聖女が泉へ戻って来た。彼女はロイアーサーに手招きをして、泉に入るように合図をしている。ロイアーサーは頷き泉へ歩き出そうとした。
「ロイッ……!」
モニカは思わず彼の手を掴んでしまった。まだ別れたくない。二度と会えなくなる準備ができていない。
引き留めたはいいものの、言葉が出てこなかった。唇を噛んで必死に嗚咽を殺しているモニカを見て、ロイアーサーは優しく微笑む。
「モニカさん」
「……っ」
ロイアーサーはモニカの額にそっとキスをして、抱きしめる。
「魔物の魂魄である限り、僕は魔物としてしか生きられない。魂魄が消滅することで、もしかしたら僕は人として生まれ変われるかもしれない。吸血鬼として生きるのもいいけど、次はしあわせな人としての人生を歩んでみたいんだ。あたたかい家族に包まれた、しあわせな人生を」
「うん……っ」
「欲を言えば、君とアーサーが僕の両親だと嬉しいんだけど」
ロイアーサーの冗談に、モニカは泣きながら笑う。
「ふふ。それいいわね。言っとくけどアーサーがお母さんだからね。だってアーサーはわたしのお嫁さんになるんだから」
「ええ。じゃあモニカさんがお父さんなの? いろいろとむちゃくちゃだね」
最後の別れはお互いに笑うことができた。
ロイアーサーは、聖女に手を引かれて泉の中へ入っていく。
彼は最後に振り返り、モニカに手を振った。
「さようなら、モニカさん」
「さようなら、ロイ」
アブル町の貧しい家庭に生まれた少年、ロイ。
彼は貴族に白金貨1枚で買われ、数々の虐待を受け、戯れにチムシーを寄生させられた。
闇鑑賞会にて非道な貴族たちに囲まれて虐待を受けているとき、彼は一人の吸血鬼に助けられた。
ロイはその吸血鬼に愛情を注がれ、優しく無垢な少年のまま100年を過ごすこととなる。
100年が過ぎたとき、ロイはある少年と少女に出会った。
少年は彼を虐待していた貴族の血を受け継いでいた。そして彼もまた、ロイの体を傷つけて遊んだ。
少女は彼を救った吸血鬼の恋人の血を受け継いでいた。そして彼女もまた、一人の吸血鬼に恋をさせた。
人間を憎み、手を血に染めるロイ。
人間に恋し、頬を赤く染めるロイ。
どちらのロイも、間違いなくロイだった。
なぜなら彼は、元は心優しい人間だった、残虐非道な吸血鬼だったから。
「たまにいるんです」
聖魔法をかける前、聖女がぼそりと呟いた。
「魔物のはずなのに、好意を抱いてしまいそうになる自分が」
そして聖女が杖を振る。
泉の中で、魔物が悲痛なうめき声をあげた。
数々の尊き人間をその手で痛めつけ、血を吸い尽くしてきた非道な吸血鬼の魂魄は、
大切な人間を守るため、魂魄を削り、自ら聖水の中へ入る吸血鬼の魂魄は、
聖水と聖女の清き力の元で、苦しみながら消滅した。
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