【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
632 / 718
決戦編:カトリナ

マデリア※

しおりを挟む
「サンプソン!! 出てくるんだ!! サンプソン!!」

サンプソンの寝室のドアを、大公が乱暴に叩いた。声色からして怒っているようだ。

「なんて自分勝手なことをするんだ! 〝それ〟はもうお前だけのものじゃないんだぞ! 家族みんなのものなんだ!」

ドアを叩かれる度、少女が体を震わせる。サンプソンは彼女を抱きしめ、「大丈夫だよ」と優しく声をかけた。

「絶対に君を渡さないから」
「……」

サンプソンは少女を布団にくるみ、ベッドの上に座らせてからドアを開けた。

「父さん。話がある」
「わしだってお前に話がある! はやく〝あれ〟を返しなさい!!」
「……」

ごくりと生唾を飲み、サンプソンは無理矢理笑顔を作った。

「あのさ、父さん! 僕、〝あれ〟をすごく気に入っちゃってね。どうしても欲しいんだ。お願い。ほら、僕の誕生日、近いでしょ? 〝あれ〟をプレゼントしてよ!」

大公は目をしばたき、へらっと頬を緩める。

「なんだ! お前も気に入ったのか! てっきり家から逃がすのかと」
「そんなわけないじゃないか。僕の部屋で飼おうと思ってね。今まで内緒にしてたけど、僕、普通の人間よりちょっとああいう、魔物っぽいのが好きでさー」
「はっはっは! まさかお前にそんな嗜好があったなんてなあ~!」
「だからさ、お願い! 〝あれ〟を僕にちょうだい?」

大公はうーんと考え込んでから、ニッコリ笑う。

「仕方がないなあ! ま、次の素材も直に届くだろうしな! 魔術師にもうまく言っておく!」
「……わーい、ありがとう父さん」

言いくるめられた大公は、上機嫌で自室に戻って行った。
サンプソンは安堵のため息を漏らす間もなく、次の悩みにぶち当たる。

(まずいな。次は男の子が実験台にされてしまう……)

きっと次来る少年を助けても、また次の〝素材〟を大公は用意するだろう。このままでは根本的な解決にならない。

(あの魔術師を追い出さないと……)

「……あの」
「!」

ドアの前で唸っていたサンプソンに、少女が小さな声で話しかけた。

「なんだい?」
「……助けてくれて、ありがとう……」
「……」

彼女の一言で、サンプソンは心臓をひねり潰されたような感覚になった。彼はゆっくりとベッドに上がり、少女と向かい合って座る。

「お礼を言われることなんて、なにひとつしてないよ」
「でも、助けてくれた……」
「ひどいことをしたのは僕の家族だ。本当に、すまない……」
「あなたは何もしてない」
「……」

サンプソンが黙り込むと、少女はベッドに横になった。

「眠い? 眠っていいよ」
「?」
「どうしたの?」
「好きなんでしょ? 魔物っぽいの」
「いや、あれは……」
「いいよ。好きにして。助けてくれたんだから、これからずっと私のこと好きにしていいよ」

無表情でそんなことを言う少女に、サンプソンは涙が止まらなくなった。

「……? どうしたの?」
「すまない……。すまない……っ! 僕が……一年前に君を預かっていれば……君はこんなことにはならなかったのに……」
「……ああ、そういえば。私はあなたのために買われたんだった。でも、あなたがいらないって言うから、おじさんとか、あなたと年が変わらない人に好き勝手されて、それで、最近になって体をノコギリで切り落とされて、魔物の一部をくっつけられて……」

少女が淡々とこれまでの経験を話すごとに、サンプソンの嗚咽は大きくなっていく。少女は困ったように目を泳がせ、泣いているサンプソンの頭を撫でた。

「でも、あなたは私にひどいことを一度もしなかったし、私を助けてくれたのはあなただし。だからやっぱり、ありがとう」
「……」

サンプソンは目をこすり、横たわる少女にもう一度布団をかぶせた。

「君、名前は?」
「……マデリア」
「マデリア。僕はサンプソン。もうこれ以上は、君にひどい目に遭わせないから」
「うん。ありがとう」
「……お願い。僕にありがとうって言うのはやめて」
「……分かった」

それからサンプソンは、マデリアを自室に住まわせた。しっかりと食事を与え、身なりを整え、ストレスがかからないようできるだけ好きに過ごさせた。

魔法が得意だと言うマデリアのために、サンプソンは杖職人を呼んで杖を作らせた。サンプソンの自室から出られない彼女は派手な魔法を使うことができなかったので、状態異常魔法を好んで練習していた。

マデリアとすっかり仲良くなったサンプソンは、彼女が杖を降るのを眺めながら口を開く。

「不思議だな」
「なにが?」
「どうして移植された魔物の手を動かすことができるんだい?」
「あのサイコパスな魔術師、かなり腕が良かったんじゃない? なんの違和感もないのよね」
「うーん。複雑だ」
「不幸中の幸いというやつね」

マデリアは、サンプソンに向けてひょいと杖を振った。

「……今、何をしたんだい?」
「状態異常、誘惑」
「嘘だろう?」
「サンプソン、早く私を好きにしなさいよ」
「悪いけど、僕には婚約者がいるんでね」
「誘惑をかけられても、そう言っていられるかしら」
「やめてくれ。頼む。お願いします」
「ふふ。するわけないでしょう」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。