【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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決戦編:バンスティンダンジョン

休憩

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 双子とS級冒険者たちが二階の魔物を全て殲滅するまで、それほど長い時間はかからなかった。
 体力も魔力もそれほど消耗していなかったので、彼らはそのまま上へ上へとのぼっていく。遭遇した魔物にA級以上の魔物はおらず、ほとんどがB級以下だった。

「なーんか思ってたよりちょろいなあ?」
「だな。退屈なくらいだ」
「この調子で二十階まで行くか」
「おう。さっさと廃墟終わらせて、洞窟に潜ろうぜ」

 廃墟の十五階までの掃討を終え、メンバー全員で集まり打ち合わせをしていたとき、とうとうモニカが音を上げた。

「ご……ごめっ……みんなぁ……っ。もう、足が動かないよぉ……っ」

 そこでやっと、カミーユがハッとする。

「カトリナ、今何時だ?」
「六時ねェ」
「朝のか? 夜のか?」
「太陽が東にあるから、朝の六時よォ」
「何日後の朝だ?」
「分からないわァ」

 カミーユとカトリナの会話に、ジルが口を挟む。

「モニカの体力から考えて、まだ二日目の朝じゃないかな」
「そうか。良かった。三日も四日もこいつらにメシ食う時間も与えなかったなんてことがあったら、ヴィクス王子がキレちらかすからな」
「丸一日食事を与えてないし、ヴィクス王子を怒らせるには充分だよ」
「ったく。過保護のオカンかよあいつはよぉ」

 ブツクサ文句を垂れながら、カミーユがリアーナに合図をした。
 リアーナは頷き、今いる部屋に散らかっていた魔物の死体を一瞬にして灰にした。そして彼女が中央に焚火を作ると、ミントがその上に大きな鍋を吊り下げる。

「休憩の時間だよ~。アーサーとモニカは、しっかり休んで、しっかり眠ってね~」
「やっと休憩……」

 モニカはその場にへたりこみ、深いため息を吐いた。魔力はまだまだ溢れ出しそうなほど余っているのに、体力は限界で、杖を掴むことすら難しい。足なんてガクガクと震えていて、感覚がない。
 アーサーは妹の足に、疲労回復に効く薬草を貼ってあげた。

「酢漬けのマリオーナ草だよ。しばらくしたら効いてくるから。腕にも貼ってあげる」
「くさぁい……」
「うん……。しょっぱい匂いがするねぇ……」
「やだあ……香水持って来たらよかった……」
「余計くさくなりそう……。ちょっと待ってね、薬も作ってあげる」

 モニカに薬を調合して飲ませ終えたアーサーは、良いことを思いついたのでリアーナに話しかけた。

「リアーナ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
「おー、どうしたー?」
「この革袋に、きれいな水をたっぷり入れてくれない?」
「いいぞー」

 アーサーはその水に、乾燥させたハーブを落とし、レモンを絞った。
 早速酒盛りを始めようとしているS級冒険者のジョッキグラスに、それを注ぐ。

「あ? アーサー、なんだこれは」
「ちょっとだけ疲れが取れる水ー!」
「おー」
「飲んでー!」
「おー。ありがとなー」

 全員のジョッキに水を注いで回るアーサーに、サンプソンとカトリナはクスクス笑う。

「あはは、甲斐甲斐しいね」
「ええ。アーサーったら、張り切っちゃって」
「モニカはバテているけど、アーサーはまだまだ平気そうだね」
「あの子は五日間くらいなら、私たちと同じペースで進めると思うわァ」
「そうなのか。ヘロヘロだった時のアーサーとしかダンジョンに潜ったことがないから、驚いたよ」

 一方クルドは、アーサーの肩を抱き、ガシガシと頭を撫でた。

「かー! 薬師が仲間にいると助かるなあ! こんなにサポートが充実したダンジョンは初めてだぜ!」
「えへへ! 喜んでもらえてよかったー!」
「それにお前もモニカも、魔物をたっくさん倒したって聞いたぜ!」
「うん! モニカ、すっごかったんだよー! もうね、傍で見てて怖かったもん!」
「だははは! 頼りにしてるぜ!」

 アーサー特製の水を飲み干したS級冒険者は、干し肉とスープで乾杯をした。
 アーサーとモニカはそこから少し離れた場所で、壁にもたれてパンと果物を頬張った。
 しばらくすると、ブランデーとグラス、そしてスープがたっぷり入った木製ボウルをふたつ手に持ったブルギーが、双子の傍で「よっこいせー」と勢いよく座る。

「なんだお前ら、そんなところでポツンと座って」
「モニカがちょっと疲れてて、カミーユとリアーナとクルドの大声が頭に響くんだってー」
「あー、あいつらの声は確かにうるさいよなあ」

 モニカは慌てて首を横に振った。

「で、でも、みんながワイワイしてるのを見るのが好きだから、ここで眺めてるの!」
「そうかそうか。今日は無理させて悪かったな、モニカ。ほら、ミント特製のスープだ。アーサーの分も持ってきた」
「わ! ありがとうー!」
「いただきます!」

 スープをおいしそうに飲む双子を見て、ブルギーは嬉しそうに目尻を下げた。彼はブランデーをクイッと飲みながら、小さく「かわいいなあ」と呟いた。

「そういやお前ら、俺のことあんま知らないだろ」
「う、うん。知らない」
「そうだと思った。そこまで話したことないもんな」
「うん」

 実は双子は、ブルギーのことをあまり知らない。というのも、あまりブルギーと行動を共にしたことがなく、世間話もそこまでする機会がなかったからだ。双子は彼が酒癖が悪い南部生まれのムキムキだということしか知らなかった。

「俺はな、クルドパーティの中でも一番まともなヤツだといわれているし、実際そうだ」
「そうだね! ブルギーとミントはまともだと思う!」
「ぶはっ。ミントがまとも? じゃあ、お前らはミントのことも知らねえな」
「そうなの?」
「ああ。ま、それはミントと話せば分かるさ。つまり、俺がまともだ。一番まとも」
「そっかー!」

 アーサーとモニカは内心思った。自分のことを「まとも」だと言い張る人で、「まとも」な人は今までいなかったな、と。

「ま、俺はまともだからな。他のやつらみたいに、過去にいろいろ抱えてるわけじゃない。すくすくと両親のもとで育ち、イノシシ狩りが得意だったからなんとなーく冒険者になって、そしたらハマッちまってどんどん魔物狩っていくうちにA級になった。それでクルドにスカウト……というか泣きつかれて、いやいやクルドパーティに入ったんだ。どうだ、まともすぎて退屈だろ?」

 ブルギーは「まとも」を「特徴がない」「面白みがない」に似た意味合いで使っていた。

「なんの苦労もせず、なんとなく生きてたらなんかS級になってた。それだけのまともな人間さ」

 つまるところ、彼は「恵まれた環境で育った天才」だった。
 何をしても一番になり、まわりがゼェゼェ言いながら歩いている隣をすいすいと追い越していく。
 苦しい環境に足を踏み入れたことがないブルギーにとって、彼の恵まれた人生はどこか負い目を感じてしまうものなのかもしれない。

「……だから、お前らの辛さとか、俺は分かってあげられねえが。ま、その分体張って戦うぜ」
「うん。ありがとう、ブルギー」
「じゃ、ゆっくり休めよ」

 ブルギーはそれだけ言って焚火の元へ戻って行った。
 残されたアーサーとモニカは、ぼうっとブルギーのうしろ姿を目で追った。

「どうしてブルギーは、ちょっとしょんぼりしてたんだろう」
「分からない。どうして気まずそうだったんだろうね」
「ねー。ブルギーは自分のことを〝まとも〟って……なんだか違う意味合いで言ってたけど。何の苦労もせずに、S級になんてなれるはずないし」
「恵まれた環境は、恥ずかしいことでもなんでもないのに」
「どうしてなんだろうねえ」
「ねー」
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