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決戦編:裏S級との戦い
戦いの終わり
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「ジ……ル……?」
ジルの背中から魔物の腕が飛び出している。遠くにいたモニカでもそれが分かった。
洞窟に凍えるほどの吹雪が吹き荒れる。モニカはブルブル震え、見開いた目で杖を自身に向けた。
《モニカ……何を……?》
杖の声に、モニカは感情が死んだ声で答える。
「身体強化魔法」
《おい……それは……。自分にかけたことがないであろう……危険すぎる》
「構わない。今しないでいつするの? 身体強化魔法が成功したら、アサギリに持ち替えるわ。それであの魔物ニトドメを刺す」
杖が止める間もなく、モニカは歌を歌いながら杖を振った。結果は半分失敗、半分成功といったところか。身体強化魔法が強く入りすぎて、いくつかの内臓が痛んだ。
それでもモニカは表情一つ変えない。痛みを感じていないようだった。
モニカは、次はアサギリに杖を向けた。
《今度は何を……》
「アサギリに聖魔法をかける。アサギリの清い力と聖魔法が掛け合わされたら強くなるでしょ」
《主にそんな魔力残っておらんだろう……!》
「構わない。命を削ればいいだけよ」
モニカが再び歌を口ずさむ。心臓がキリキリ痛み、口からガボッと血を吐いた。それでもモニカは歌を止めない。
《モニカ……! やめるのだ……主まで命の危険が……》
「もう何人死んじゃったと思ってるの? 私がもっと……命を惜しまず戦ってたら……! こんなことにはならなかったかもしれないのに!! 遅すぎた……。遅すぎたんだよ……」
《……》
モニカは杖をしまい、アサギリを構えた。
「アサギリ」
《……おう》
「私の体がどうなったって構わない。あの魔物を殺すまで、止まらないで」
《……》
「お願い……!!」
《……。分かった……》
「ありがとう……」
カクン、とモニカの力が抜けた。そして次の瞬間、ジルの遺体の横に立っているシルヴェストルの前に詰め寄っていた。
「ガルゥゥゥァァアッ!!」
次の標的が現れ、シルヴェストルが襲いかかる。アサギリモニカの速さでも到底かなわない。だんだんと彼女の体に傷が増えていく。それでもアサギリモニカは、剣を振るうのを止めない。
「モニカ!! 僕も!」
「おいっ! アーサーやめろ!!」
シルヴェストルの背後にアーサーが現れた。聖魔法液で濡らした剣で、シルヴェストルの首を狙う。
ジルの死によりプツリと切れた双子は、死をも恐れない攻めの姿勢でシルヴェストルに剣を振った。
双子のあとを追おうとしたカミーユとマデリアの前には、歪な魔物たちが立ちはだかる。
「クソがぁっ! そこをどけぇぇぇっ!!」
「チッ……もうこんな魔物を一掃する魔力も残ってないだなんて……っ」
腕一本のカミーユと魔力が枯渇したマデリアは、顔を歪めて目の前の敵を戦わなければならなかった。
「戻ってこいアーサー……! 頼むっ……! お前まで死ぬな……! 頼むぅぅ……っ! クソッ……! クソッ!!」
体も精神もズタボロになったカミーユでは、リアーナを守りながら歪な魔物を相手するので精一杯だった。早くアーサーとモニカの元へ駆けつけたいのに、体が言うことを聞かない。カミーユにとって、ここまで自分の弱さを恨んだ日は初めてだった。
「俺は弱い……っ。俺は弱い……っ!! くそぉぉぉっ……! リアーナとアーサーを魔物にしちまって……クルドをこの手で殺し……ジルを失った……。なにがパーティリーダーだ……っ。守るべきものに守られてばかりだなんて……っ。くそぉ……っ。動けっ……動けよ俺の体ぁぁぁ……っ。くそぉぉぉぉ……っ!」
一方、魔力が切れたマデリアは歪な魔物に囲まれ痛めつけられていた。それでも彼女は、さらなる混乱を招かないよう声一つ上げなかった。
(私まで危険な目に遭っていると知ったら……今残ってるS級が……特にサンプソンがどんな行動をとるか分からない……。大丈夫……心臓さえ守っていれば、私は何をされたって死なない……。アーサー……モニカ……助けにいけなくてごめんなさい……)
「ガゥァァァッ! ウアァァァッ!!」
シルヴェストルの鋭い爪がアーサーに襲いかかる。アーサーはあえて避けず、腹に穴を開けさせた。内臓に毒がいきわたり、アーサーが血を吐く。
その瞬間、シルヴェストルの動きが鈍った。禍々しく光る彼の目がアーサーを捉え、「ア……」と小さく呻いた。
アーサーは、シルヴェストルの腕が腹から抜けないよう力を入れてアサギリに合図する。
「アサギリ!! 首を!!」
「分かってらぁぁぁっ! ぶっ飛ばしてやるよぉっ!!」
しかし、シルヴェストルがアサギリモニカを蹴り飛ばし、攻撃を防いだ。地面に叩きつけられたアサギリモニカは血を吐き出し、すぐに起き上がる。
「くっそー! モニカの骨柔らけえからすぐ折れちまう……! 内臓も弱ぇなオイ……もうボロボロだぜ……!」
「やめないでアサギリ! シルヴェストルを倒すまで……!!」
「分かってる……っ!!」
二度目、三度目とアサギリモニカの攻撃は防がれる。
四度目の攻撃が入る直前、シルヴェストルがアーサーの顔を真っすぐ見た。
「ア……ウ……ス……」
「っ!」
シルヴェストルはぽろっと一粒涙を落とし、自身の胸にアーサーの剣先を当てた。
「シンゾウ……ココ……」
「……ありがとう」
「ゴメン……ネ……」
アサギリの刃がシルヴェストルの首に触れた。同時にアーサーが彼の胸に剣を勢いよく差し込む。
「グァアァアアァァア……ッ」
魔物が断末魔をあげた瞬間、その体は灰となった。
「倒した……か……?」
アサギリモニカの声に、アーサーが頷く。
「うん……。終わったよ……」
「そう……か……」
モニカの手からアサギリが離れた。モニカはふらっとよろけ、頭から地面に倒れる。
アーサーは霞んだ目であたりを見回した。
歪な魔物によって痛めつけられ瀕死状態のサンプソンとマデリア。
全身の骨が折れ、内臓を損傷したモニカ。
魔物の血と魔力を与えられ、ヒトではなくなってしまったアーサー。
左腕を失ったカミーユ、失明したカトリナ、魔物となったリアーナ。
命を失った、ブルギー、ミント、クルド……そしてジル。
凄惨な被害と光景に痛めつけられすぎた心は、もはや何も感じられなかった。
ジルの背中から魔物の腕が飛び出している。遠くにいたモニカでもそれが分かった。
洞窟に凍えるほどの吹雪が吹き荒れる。モニカはブルブル震え、見開いた目で杖を自身に向けた。
《モニカ……何を……?》
杖の声に、モニカは感情が死んだ声で答える。
「身体強化魔法」
《おい……それは……。自分にかけたことがないであろう……危険すぎる》
「構わない。今しないでいつするの? 身体強化魔法が成功したら、アサギリに持ち替えるわ。それであの魔物ニトドメを刺す」
杖が止める間もなく、モニカは歌を歌いながら杖を振った。結果は半分失敗、半分成功といったところか。身体強化魔法が強く入りすぎて、いくつかの内臓が痛んだ。
それでもモニカは表情一つ変えない。痛みを感じていないようだった。
モニカは、次はアサギリに杖を向けた。
《今度は何を……》
「アサギリに聖魔法をかける。アサギリの清い力と聖魔法が掛け合わされたら強くなるでしょ」
《主にそんな魔力残っておらんだろう……!》
「構わない。命を削ればいいだけよ」
モニカが再び歌を口ずさむ。心臓がキリキリ痛み、口からガボッと血を吐いた。それでもモニカは歌を止めない。
《モニカ……! やめるのだ……主まで命の危険が……》
「もう何人死んじゃったと思ってるの? 私がもっと……命を惜しまず戦ってたら……! こんなことにはならなかったかもしれないのに!! 遅すぎた……。遅すぎたんだよ……」
《……》
モニカは杖をしまい、アサギリを構えた。
「アサギリ」
《……おう》
「私の体がどうなったって構わない。あの魔物を殺すまで、止まらないで」
《……》
「お願い……!!」
《……。分かった……》
「ありがとう……」
カクン、とモニカの力が抜けた。そして次の瞬間、ジルの遺体の横に立っているシルヴェストルの前に詰め寄っていた。
「ガルゥゥゥァァアッ!!」
次の標的が現れ、シルヴェストルが襲いかかる。アサギリモニカの速さでも到底かなわない。だんだんと彼女の体に傷が増えていく。それでもアサギリモニカは、剣を振るうのを止めない。
「モニカ!! 僕も!」
「おいっ! アーサーやめろ!!」
シルヴェストルの背後にアーサーが現れた。聖魔法液で濡らした剣で、シルヴェストルの首を狙う。
ジルの死によりプツリと切れた双子は、死をも恐れない攻めの姿勢でシルヴェストルに剣を振った。
双子のあとを追おうとしたカミーユとマデリアの前には、歪な魔物たちが立ちはだかる。
「クソがぁっ! そこをどけぇぇぇっ!!」
「チッ……もうこんな魔物を一掃する魔力も残ってないだなんて……っ」
腕一本のカミーユと魔力が枯渇したマデリアは、顔を歪めて目の前の敵を戦わなければならなかった。
「戻ってこいアーサー……! 頼むっ……! お前まで死ぬな……! 頼むぅぅ……っ! クソッ……! クソッ!!」
体も精神もズタボロになったカミーユでは、リアーナを守りながら歪な魔物を相手するので精一杯だった。早くアーサーとモニカの元へ駆けつけたいのに、体が言うことを聞かない。カミーユにとって、ここまで自分の弱さを恨んだ日は初めてだった。
「俺は弱い……っ。俺は弱い……っ!! くそぉぉぉっ……! リアーナとアーサーを魔物にしちまって……クルドをこの手で殺し……ジルを失った……。なにがパーティリーダーだ……っ。守るべきものに守られてばかりだなんて……っ。くそぉ……っ。動けっ……動けよ俺の体ぁぁぁ……っ。くそぉぉぉぉ……っ!」
一方、魔力が切れたマデリアは歪な魔物に囲まれ痛めつけられていた。それでも彼女は、さらなる混乱を招かないよう声一つ上げなかった。
(私まで危険な目に遭っていると知ったら……今残ってるS級が……特にサンプソンがどんな行動をとるか分からない……。大丈夫……心臓さえ守っていれば、私は何をされたって死なない……。アーサー……モニカ……助けにいけなくてごめんなさい……)
「ガゥァァァッ! ウアァァァッ!!」
シルヴェストルの鋭い爪がアーサーに襲いかかる。アーサーはあえて避けず、腹に穴を開けさせた。内臓に毒がいきわたり、アーサーが血を吐く。
その瞬間、シルヴェストルの動きが鈍った。禍々しく光る彼の目がアーサーを捉え、「ア……」と小さく呻いた。
アーサーは、シルヴェストルの腕が腹から抜けないよう力を入れてアサギリに合図する。
「アサギリ!! 首を!!」
「分かってらぁぁぁっ! ぶっ飛ばしてやるよぉっ!!」
しかし、シルヴェストルがアサギリモニカを蹴り飛ばし、攻撃を防いだ。地面に叩きつけられたアサギリモニカは血を吐き出し、すぐに起き上がる。
「くっそー! モニカの骨柔らけえからすぐ折れちまう……! 内臓も弱ぇなオイ……もうボロボロだぜ……!」
「やめないでアサギリ! シルヴェストルを倒すまで……!!」
「分かってる……っ!!」
二度目、三度目とアサギリモニカの攻撃は防がれる。
四度目の攻撃が入る直前、シルヴェストルがアーサーの顔を真っすぐ見た。
「ア……ウ……ス……」
「っ!」
シルヴェストルはぽろっと一粒涙を落とし、自身の胸にアーサーの剣先を当てた。
「シンゾウ……ココ……」
「……ありがとう」
「ゴメン……ネ……」
アサギリの刃がシルヴェストルの首に触れた。同時にアーサーが彼の胸に剣を勢いよく差し込む。
「グァアァアアァァア……ッ」
魔物が断末魔をあげた瞬間、その体は灰となった。
「倒した……か……?」
アサギリモニカの声に、アーサーが頷く。
「うん……。終わったよ……」
「そう……か……」
モニカの手からアサギリが離れた。モニカはふらっとよろけ、頭から地面に倒れる。
アーサーは霞んだ目であたりを見回した。
歪な魔物によって痛めつけられ瀕死状態のサンプソンとマデリア。
全身の骨が折れ、内臓を損傷したモニカ。
魔物の血と魔力を与えられ、ヒトではなくなってしまったアーサー。
左腕を失ったカミーユ、失明したカトリナ、魔物となったリアーナ。
命を失った、ブルギー、ミント、クルド……そしてジル。
凄惨な被害と光景に痛めつけられすぎた心は、もはや何も感じられなかった。
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