半濁音の響く日々

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 試合後、真琴と話し込む優弥。二人は試合を通して話したいことが多く見つかったようで和気藹々としたものである。
 他の一年はそうもいかない。
 いくら優弥が負けたとはいえ、まだ納得はいっていない。
「神楽坂先輩、強さは本物だし、あの態度も別に飾ってないんだろうけど… 」
「うん、悪い人じゃないんだろうけど…だからって納得はいかねぇよな… 」
「うーん… 」
「なんだ、一年は真琴に不満があったのか? 」
「あ…部長」
 いつの間にか近くまで来ていた部長が話を聞いていた。
「なーんかおかしいなーって思ってたんだけどな、確証が得られなかったから静観してたんだ」
「感づいてたんですか… 」
「そりゃな、中条はいきなり試合したいとか言い出すタイプじゃないし。で、試合けしかけてどうしようって思いだったんだ?怒るわけじゃないから参考までに」
 一年達は部長に思いの丈をぶつけた。部長は聞き入れてくれた。
「んー…なるほどな。やっぱ真琴の態度改めなきゃこうなるよなぁ」
「部長達はわかってて放置してたんですか? 」
「放置って言われたらなんも返せないなぁ。
 そりゃ最初はあれは良くねぇなって思ってたさ。去年の入部当初から真琴は変わってないんだ。良くも悪くも、人によって態度変えるタイプじゃないんだってことが上級生の中では共通認識になっててな。実力も部内で一番だし、真琴の目標聞いたらあのくらいの態度も許せるんだよ」
「神楽坂先輩の目標…? 」
「うん、まぁそれは本人から聞いてみなよ。コミュニケーション深めるのも大事だしさ、多分中条は今から聞かされるだろうけど」


 優弥は気になったことがある。何故これだけ強いのに乾山に?
 何故これだけ強いのに中学時代名を聞かなかったのか?
 様々気になることはあったが、どの程度踏み込んで良いものかわからない。何せついさっき試合を通して初めて話をしたようなものだ。
 しかし、真琴はそんな気まずさを一切感じていなかった。
「ユウ!やるじゃんかよ!久しぶりに新しい逸材発見!って感じだぜ」
「いえ…先輩にはまるで太刀打ち出来ませんでした」
「そりゃ俺が強いからだが、他校の選手になら余裕で勝てるだろ! 」
「余裕はないですけど…まぁいいところまではいけるかと」
「控えめだなー!ユウは何を目標にうちの卓球部入ったんだ? 」
「そうですね…真琴先輩がこの学校にいると知ったからです」
「なんだ、追っかけか?!さすが俺だなー!
 しかしよく俺の試合見たことあったな? 」
「たまたまです。高校生の試合を見て勉強しようと思って、その時試合していたのが真琴先輩でした」
「よく覚えてたもんだ!いやー、まだデータ取られてないと思ってたんだが、もしかしたらばっちり研究してくる学校あるかねー」
「いやいや!先輩はもう一年も公式戦出てるんだから研究されてて当然でしょう」
「あーそか、もう情報アドはないと思うしかねーのか」
「そもそも先輩程の実力なら中学時代から注目されていてもおかしくないですよね」
 自然な流れで疑問をぶつけられた。返ってきた回答は意外なものであった。
「俺中学時代公式戦出てねぇんだわ」
「え? 」
「なーんか、情報取らせたくねぇって親父の意向でな、部活にも所属してなかった」
 衝撃的だった。試合に出ないだけでなく、部活にも所属させなかったとは。
「そんで自宅でガッツリ練習してたんだわ。目標は毎日叩き込まれてたな」
「目標…ですか」
「さっきユウに聞いたけどよ、ありゃ入ったキッカケだろ?
 目標はなんだ? 」
「…団体戦で全国制覇したいですね」
 おそらく一番難しく、達成感もある目標である。普通なら十分な目標だ。
 だが、真琴からしたらそれもまだ通過点でしかなかった。

「全国制覇なんざ当たり前だろー!
 俺がちっさい頃から叩き込まれた目標は世界ランク一位になって中国ぶちのめすことだぜ! 」

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