少年と白蛇

らる鳥

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 村に辿り着いた僕等は、驚く位に村人達に歓迎された。
 中級ランクの重みもあるだろうけど、多分本気で村人達はアタックボアに悩まされていたのだろう。
 確かに此方から近寄らなければアタックボア達は積極的に人を襲わない。
 けれどその分田畑に居座り、思うままに荒らして喰らう。
 追い払う事も出来ず、農作業をするにも危ない状態が続けば、やがて村は干上がる。
 村人達に詳しい状況を聞いた所、アタックボアの群れは早朝に畑へとやって来るそうだ。
 となればどうしても村で一泊する必要があるのだが、この小さな村にはなんと宿が無い。
 それどころか村長の家すらも他の村人の家と大差ないサイズなので、他所からの客人を泊めるのは到底不可能な状態だった。
 結局空き家を借りて其処で一泊する事に落ち着く。
 しかし、そう、空き家である。家は人が住まなくても誇りが溜まって汚れるのだ。
 どうせ一泊しかしないので最低限過ごせれば良いが、放置されていた家の掃除は決して容易い作業では無い。
 無論村人達も手伝ってはくれたのだが、掃除が終わる頃には辺りもすっかり暗くなっていた。
 村の中央の井戸から水を汲む。
 夕食は念の為に持ち込んでた保存食に、カリッサさんが手を加えて調理してくれるそうだ。
 カリッサさんの料理の腕なら、例え元が保存食でもそれなりの物にあり付けるだろう。
 でも僕も只ぼんやりと料理の完成を待ってる訳には行かなかった。
 アタックボア達がやって来る現場、田畑の状況の確認がまだ終わって無い。
 本来ならば日が出てる間にすべき事なのだけれども、カリッサさんや村人達が掃除してる最中に、ちょっと見に行ってきますと抜けるのはとても気まずかったから。
 ずるずると、ついつい言い出しそびれてこの様である。

 ランタンを翳し、地面の様子を確認して行く。
 アタックボアの物と思われる足跡は数多くあったが、どれも並の猪の物は大きく上回っていた。
 しかし思ったよりも足跡のサイズの種類、つまりは個体の数が多い。
 群れと言っても5~8頭位を想定していたのだが、此れは下手をしなくても10を上回る頭数を覚悟せねばならないだろう。
 普通の猪はあまり群れる獣では無いのだけれど、魔物に常識は通じないと再認識させられる。
 別にどれだけ群れの数が居た所で、カリッサさんも居るのだから、どう考えても負けようは無い。
 けれども戦力の大きさに甘え、工夫と準備を怠るのは、あまり良い事じゃ無いし主義でも無かった。
 足跡から推測される大きさなら、今から猪用の罠を作った所で、然して役には立たないと思われる。
 さて、どうしよう。
 田畑を覆う柵は役に立つ。アタックボアが柵を壊せない訳じゃ無いが、それは助走をつけた体当たりならばの話だ。
 つまり助走さえ許さなければ、柵は十二分に相手の動きを阻害してくれる筈。
 大事なのは明日の戦いで、アタックボアを一頭も逃がさない事。戦いの流れを予想しながら、自分とカリッサさんの配置を決めた。
 ……空を見れば、突きが昇り始めてる。
 そろそろ戻ろう。カリッサさんがご飯を作って待って……、待ってるかなぁ?
 我慢できずに食べてる可能性は、ちょっと否定出来ないかな。 


 季節的に早朝は、暗い。薄暗いじゃ無くて、まだ日が出ていないから普通に暗いのだ。
 そしてとても寒かった。カリッサさんは未だ少し眠そうだが、身体を少し動かしながら解し、武器を握る。
 ヨルムは、……うん、可哀想だから起こさない。今は僕の背中から、身体の中に入ってた。
「カリッサさん、昨日の話、覚えてる?」
 しかしヨルムは良くても、カリッサさんにはちゃんと起きて貰わなければならない。
 僕の問い掛けにカリッサさんは頷き、口を開く。
「大丈夫。1つ、叩き潰して殺さない。斬るならちゃんと斬らないと血を抜けなくて肉が不味くなる。2つ、逃がさないよう動く。退路を断つのはユー君だね」
 1、2と、カリッサさんはニッコリ笑って指を立てながら、昨日の話した事柄を上げて行く。
 うん、大丈夫そうだ。よし、そろそろ行こう。
 折角早起きしただから、アタックボア達が居る間に行かなければ意味が無い。

 額から、或いは肩口から、角を生やした猪達が畑を掘り返して漁ってる。
 けれどそこに、堂々と乗り込んだのはカリッサさんだ。
 僕と話して居る時の少し緩んだ雰囲気はどこかへ行き、凛とした空気を纏っていた。
 食餌の時間を邪魔されたアタックボア達は怒り、身体の角を剥けて突撃の準備に入る。
 並の冒険者なら、先ずは飛んで来る体当たりをどうにかして避ける事を考えるだろう。でもカリッサさんは違うのだ。
 回避などまるで考えない、足を大きく開いた重厚な構え。所持する大剣の大きさも相まって威圧感が凄まじい。
 知恵に乏しい魔物とて、その脅威は感じ取れるのだろう。
 警戒を露わに、すぐには突撃しなかった。
 僕にとってはとても好都合である。アタックボア達は、カリッサさんを警戒し、カリッサさんしか見てない。
 その隙に僕は気配を消して周り込み、アタックボア達の退路を断つ。
 そして僕が回り込んでしまえば、カリッサさんにアタックボア達との睨めっこを続ける理由は消える。
 カリッサさんは唇に笑みを浮かべ、大きく一歩前に出た。
 彼女の動きに、アタックボア達はまるで大きく引かれた弓から放たれる矢の様に、己が体の角を頼りに一斉に突撃を繰り出す。

 其れは力強いが、しかし決して力任せでは無い、とても綺麗な振り下ろしの斬撃。
 カリッサさんに突っ込んだアタックボアの一頭が、身体を縦に割られて絶命する。
 そして切り返しが閃き、次は横から突っ込んで来ていた一頭が、頭部を割られて横に倒れた。
 仲間を狩られた怒りと血の匂いに興奮して、アタックボア達の敵意は完全にカリッサさんに固定されたと言っても良い状況だ。
 もしかしたらもう、撤退を考える事すら出来ない状態になってる気すらする。
 だって僕も既に何度か矢を射ってアタックボアを倒したが、奴等は自分が死ぬ瞬間まで何処からか矢が来てると気付けてなかった。
 矢のダメージは受けてるのに、其の痛みに依って沸き上がる怒りは、カリッサさんに対してなのだ。
 まあアタックボアに無視された所で別に寂しくは無い。
 少し上手く物事が運び過ぎてる気がするので、油断せず、気を緩めずに最後まで狩りつくそう。
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