63 / 113
63
しおりを挟む村に辿り着いた僕等は、驚く位に村人達に歓迎された。
中級ランクの重みもあるだろうけど、多分本気で村人達はアタックボアに悩まされていたのだろう。
確かに此方から近寄らなければアタックボア達は積極的に人を襲わない。
けれどその分田畑に居座り、思うままに荒らして喰らう。
追い払う事も出来ず、農作業をするにも危ない状態が続けば、やがて村は干上がる。
村人達に詳しい状況を聞いた所、アタックボアの群れは早朝に畑へとやって来るそうだ。
となればどうしても村で一泊する必要があるのだが、この小さな村にはなんと宿が無い。
それどころか村長の家すらも他の村人の家と大差ないサイズなので、他所からの客人を泊めるのは到底不可能な状態だった。
結局空き家を借りて其処で一泊する事に落ち着く。
しかし、そう、空き家である。家は人が住まなくても誇りが溜まって汚れるのだ。
どうせ一泊しかしないので最低限過ごせれば良いが、放置されていた家の掃除は決して容易い作業では無い。
無論村人達も手伝ってはくれたのだが、掃除が終わる頃には辺りもすっかり暗くなっていた。
村の中央の井戸から水を汲む。
夕食は念の為に持ち込んでた保存食に、カリッサさんが手を加えて調理してくれるそうだ。
カリッサさんの料理の腕なら、例え元が保存食でもそれなりの物にあり付けるだろう。
でも僕も只ぼんやりと料理の完成を待ってる訳には行かなかった。
アタックボア達がやって来る現場、田畑の状況の確認がまだ終わって無い。
本来ならば日が出てる間にすべき事なのだけれども、カリッサさんや村人達が掃除してる最中に、ちょっと見に行ってきますと抜けるのはとても気まずかったから。
ずるずると、ついつい言い出しそびれてこの様である。
ランタンを翳し、地面の様子を確認して行く。
アタックボアの物と思われる足跡は数多くあったが、どれも並の猪の物は大きく上回っていた。
しかし思ったよりも足跡のサイズの種類、つまりは個体の数が多い。
群れと言っても5~8頭位を想定していたのだが、此れは下手をしなくても10を上回る頭数を覚悟せねばならないだろう。
普通の猪はあまり群れる獣では無いのだけれど、魔物に常識は通じないと再認識させられる。
別にどれだけ群れの数が居た所で、カリッサさんも居るのだから、どう考えても負けようは無い。
けれども戦力の大きさに甘え、工夫と準備を怠るのは、あまり良い事じゃ無いし主義でも無かった。
足跡から推測される大きさなら、今から猪用の罠を作った所で、然して役には立たないと思われる。
さて、どうしよう。
田畑を覆う柵は役に立つ。アタックボアが柵を壊せない訳じゃ無いが、それは助走をつけた体当たりならばの話だ。
つまり助走さえ許さなければ、柵は十二分に相手の動きを阻害してくれる筈。
大事なのは明日の戦いで、アタックボアを一頭も逃がさない事。戦いの流れを予想しながら、自分とカリッサさんの配置を決めた。
……空を見れば、突きが昇り始めてる。
そろそろ戻ろう。カリッサさんがご飯を作って待って……、待ってるかなぁ?
我慢できずに食べてる可能性は、ちょっと否定出来ないかな。
季節的に早朝は、暗い。薄暗いじゃ無くて、まだ日が出ていないから普通に暗いのだ。
そしてとても寒かった。カリッサさんは未だ少し眠そうだが、身体を少し動かしながら解し、武器を握る。
ヨルムは、……うん、可哀想だから起こさない。今は僕の背中から、身体の中に入ってた。
「カリッサさん、昨日の話、覚えてる?」
しかしヨルムは良くても、カリッサさんにはちゃんと起きて貰わなければならない。
僕の問い掛けにカリッサさんは頷き、口を開く。
「大丈夫。1つ、叩き潰して殺さない。斬るならちゃんと斬らないと血を抜けなくて肉が不味くなる。2つ、逃がさないよう動く。退路を断つのはユー君だね」
1、2と、カリッサさんはニッコリ笑って指を立てながら、昨日の話した事柄を上げて行く。
うん、大丈夫そうだ。よし、そろそろ行こう。
折角早起きしただから、アタックボア達が居る間に行かなければ意味が無い。
額から、或いは肩口から、角を生やした猪達が畑を掘り返して漁ってる。
けれどそこに、堂々と乗り込んだのはカリッサさんだ。
僕と話して居る時の少し緩んだ雰囲気はどこかへ行き、凛とした空気を纏っていた。
食餌の時間を邪魔されたアタックボア達は怒り、身体の角を剥けて突撃の準備に入る。
並の冒険者なら、先ずは飛んで来る体当たりをどうにかして避ける事を考えるだろう。でもカリッサさんは違うのだ。
回避などまるで考えない、足を大きく開いた重厚な構え。所持する大剣の大きさも相まって威圧感が凄まじい。
知恵に乏しい魔物とて、その脅威は感じ取れるのだろう。
警戒を露わに、すぐには突撃しなかった。
僕にとってはとても好都合である。アタックボア達は、カリッサさんを警戒し、カリッサさんしか見てない。
その隙に僕は気配を消して周り込み、アタックボア達の退路を断つ。
そして僕が回り込んでしまえば、カリッサさんにアタックボア達との睨めっこを続ける理由は消える。
カリッサさんは唇に笑みを浮かべ、大きく一歩前に出た。
彼女の動きに、アタックボア達はまるで大きく引かれた弓から放たれる矢の様に、己が体の角を頼りに一斉に突撃を繰り出す。
其れは力強いが、しかし決して力任せでは無い、とても綺麗な振り下ろしの斬撃。
カリッサさんに突っ込んだアタックボアの一頭が、身体を縦に割られて絶命する。
そして切り返しが閃き、次は横から突っ込んで来ていた一頭が、頭部を割られて横に倒れた。
仲間を狩られた怒りと血の匂いに興奮して、アタックボア達の敵意は完全にカリッサさんに固定されたと言っても良い状況だ。
もしかしたらもう、撤退を考える事すら出来ない状態になってる気すらする。
だって僕も既に何度か矢を射ってアタックボアを倒したが、奴等は自分が死ぬ瞬間まで何処からか矢が来てると気付けてなかった。
矢のダメージは受けてるのに、其の痛みに依って沸き上がる怒りは、カリッサさんに対してなのだ。
まあアタックボアに無視された所で別に寂しくは無い。
少し上手く物事が運び過ぎてる気がするので、油断せず、気を緩めずに最後まで狩りつくそう。
1
あなたにおすすめの小説
貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~
みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。
何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。
第一部(領地でスローライフ)
5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。
お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。
しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。
貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。
第二部(学園無双)
貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。
貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。
だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。
そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。
ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・
学園無双の痛快コメディ
カクヨムで240万PV頂いています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる