少年と白蛇

らる鳥

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 教会と一口に言っても、其処で祀られる神は多数だ。
 大陸西側では中立神への信仰が主となっており、そして中立神は数が多い。
 教会を統合教会とする事で規模の大きな場所としないと、全ての中立神を祀る事は難しかったのだとか。
 個別に神を祀る場所としてが祠がある。
 田畑の近くに大地の女神の祠が、森の近くには森の女神の祠が、と言った具合に。
 中立神達が纏めて祀られる背景には、彼の神々は夫婦関係や家族関係で絡み合っており、同じ場所で過ごす事にも問題が無かろうとの判断があるらしい。
 大地の女神の旦那は食神だ。そして食神の妹が竈の女神で、その旦那が炉の神で、炉の神の兄は山の神でと言った感じである。
 同じ創造神から生み出されたんだから、神様って皆揃って兄弟姉妹じゃないのかと思うのだけど、まあ神様にも色々とあるのだろう。
 特に大きな教会になると、中立神達の像が並ぶ本堂とは別に、2つの部屋が用意されていた。
 秩序の神々と、魔の神々の為の部屋だ。
 中立神の信仰が盛んな地域では、秩序の神々への信仰も、魔の神々への信仰も別に抑圧されたりはしない。
 ただし幾つかの例外は勿論存在して、排斥されるその1つが前回の様な堕ちた神、邪神への信仰である。
 邪神への信仰は完全な禁忌だ。
 極稀に邪神に魅入られたり、或いは自分からその教えに身を染める人は居ると聞いてはいたけれど、まさか自分が目の当たりにするなんて思いもしなかった。
 その他の例外は禁忌って程じゃないけれど、例えば戦神の信者に関してはハッキリと嫌な顔をされたりする。
 戦神は勝利の加護を齎す神でもあるが、戦いを起こす神でもあるからだ。
 神々の争いの引き金を引いたのも戦神だし、その信者も積極的に戦争を起こそうと動き回るので、非常に迷惑な存在だった。
 それ以外にも、大地の女神を強引に我が物にしようとしたとか、神々の戦いの際には中立の存在にも戦いを挑もうとしたとか、無茶な逸話が多い神である。
 でもそれでも、全ての神の中で最も強い戦いの力を持つのは戦神であるとされていた。
 戦いの際に片腕を毒に侵されて引き千切り、隻腕となっても尚その地位は揺るがないと。

 神々の関係はさて置き、そんな感じで僕とカリッサさんは、今ライサの町の教会に来ていた。
 オリガの町の教会を戦場にして血で汚したお詫びと、ミステン公国を暫く離れるので、その旅路の平穏の祈願が目的である。
 お詫びに関しては、現場のオリガの教会が色々と打ち壊されたり穢されたりしてたので、此方の教会で改めて行う事にしたのだ。
 教会でのお祈りは、先ずその教会の柱となる大神に挨拶をして、その次に自分が信仰する神の像の元へ行く。
 柱となる神はその地域によって違うけれど、ミステン公国の教会では大地の女神が柱になってる。
 土地の恵みは人々の生活の豊かさに直結する為、中立神の中でも最も信仰されているのは大地の女神だろうと思う。
 海沿いの教会だったら、柱となるのは海洋神が多いそうだ。
 とは言え今回はお詫びなので、全ての中立神の像に挨拶を行い、その後はこの本堂の清掃を行う予定だった。
 ちなみにトーゾーさんとパラクスさんは旅立ちの為の準備をしてくれている。
 一応前回のオリガの町での事件は表沙汰にはされてない。
 少なくは無い犠牲者が出たけれど、あの件が表に出れば起こる戦争でもっと多くの被害が出る事になるだろう。
 故に今は犠牲者の遺族にも真相は伏せられている。
 そう、今は。
 でも遠からず真相が明かされる日は来るとパラクスさんの予想だ。ミステン公国とアイアス公国の戦争は多分もう不可避だろうから。
 そしてパラクスさん曰く、僕達はその戦争に参加するにしてもしないは別にしても、一度この国を離れた方が良いだろうとの事だった。
 盗賊ギルドからの情報によれば、ミステン公国には何らかの形で僕等のチームを抱え込みたいとの思惑があるらしい。
 対人白兵戦で無類の強さを発揮するトーゾーさん、そしてそのトーゾーさんの力を余すことなく発揮する場を整えられる無二の相棒パラクスさん。
 カリッサさんだってトーゾーさんが相手なら流石に分は悪いだろうけど、戦闘力は破格だし、何より高位の神官でもある。
 まあ僕はオマケだろうけど、戦争前にこのチームを抱え込みたくなるのは無理も無いと思う。

 僕等は戦争には参加する方向で考えて居た。
 ミステン公国って言われてもピンとは来ないが、ライサは僕の住む町で大切な人も沢山いる。
 冒険者なら他所の国にだって逃げれるかも知れないけど、宿のおじさん、薬屋のエルローさん一家、皮革職人のマーレンお爺さんに孫のモーレン、マルゴットお婆さんにマーレさん達なんかはそう簡単に国を出れやしない。
 他にも大商人のメルトロさんだってそうだし、シャーネさんとか娼婦のお姉さん達もだ。
 ガジルさんは冒険者だけど、その家族はやっぱり町を動けないだろう。
 ライサの町がアイアス公国に陥落させられたら、彼等はきっと無事じゃ済まない筈。
 その未来は僕には到底受け入れがたい物で、だから僕は戦う事に否は無い。
 トーゾーさんも新しい刀を手に馴染ませたいと言っていたし、何よりお気に入り娼館がライサの町にあるから戦争には参加するだろう。
 パラクスさんだって同様だ。ライサの町には守りたい物があるって言ってる。……兄弟弟子のエルローさんの事だろうか?
 カリッサさんは通常の戦争なら兎も角、アイアス公国に邪教の影があるなら其れを祓いたいそうだ。
 あと僕が無理をしそうで心配だから付き合ってくれるらしい。
 僕はそんなに無理をするタイプじゃないと思うのだけど、前回自分一人じゃどうしようもなくて助けを求めた手前、あんまり反論出来なかった。
 だから戦争までには戻って来るけど、それでも一旦はこの国を出る。
 僕達は個人の理由と意思で戦うのであって、ミステン公国の思惑に振り回される気はない。
 明日の昼にはライサの町を出発する予定だ。
 前回とは逆に今度は戦争に必要な物資を輸入する事になったメルトロさんの商隊に、片道だけ同行する事で話は既に纏まっている。
 今少し大変な立場になって居るメルトロさんにお願いするのは少し申し訳なかったけれど、彼は快く引き受けてくれた。
 滞在先でも商隊を通して、ミステン公国の状況は教えてくれると言うし、本当にメルトロさんには頭が上がらない。
 盗賊ギルドで技術を学ぶ暇が無かったのは残念だったが、訓練用の細工箱を貰ったので旅の間は此れで我慢しようと思う。
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