少年と白蛇

らる鳥

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 闘技会最終日の試合は、武器部門の決勝のみだ。
 無手部門と射撃部門の決勝は昨日終わり、優勝は想定通りに羅将と弓姫のフィオさんだったらしい。
 あー、そう言えば、すっかり無手部門と射撃部門の事を忘れていた。
 僕もカリッサさんも敗退した時点で、トーゾーさんが生き残ってる武器部門にしか興味が無くなったのだ。
 なのに何故今になってそんな事を思い出したかと言えば、遥か向こうの貴賓席から鋭い視線を感じるからである。
 凄い遠くの席なのに、フィオさんは僕の事を無茶苦茶見てた。
 ちらりと其方に視線を向けると、目の合ったフィオさんがニッコリと微笑む。
 うん、笑顔なのに怖い。試合見なかった事を怒ってるんだろうか……。
 いやまさか。確かに多少話をして打ち解けたけど、其処まで仲良しになった訳じゃ無いのだし、自意識過剰な勘違いは恥ずかしい。
「うん? どうしたユー君。震えているけど」
 僕の様子に気付いたカリッサさんが、此方を向いて問いかけて来る。
 いけないいけない。心配させてしまっただろうか。
「うーん、いえね、昨日の試合、武器部門以外は見忘れちゃったなぁって」
 僕の言葉に、視線の先を追いかけたカリッサさんが頷く。
 貴賓席のフィオさんは未だにこっちを見て微笑んでた。
「成る程、そうだね。ユー君は弓姫に大分気に入られてたみたいだし、それは少し不義理だったかも知れない。どこかで謝る機会があれば良いのだけど……」
 カリッサさんはそう言い、笑う。
 気に入られてるなら嬉しいけれど、謝る機会があるかどうかは難しい。
 何せ相手はこの国の重鎮で、僕に構ってる暇など無いであろう人。
 それに大会が終わってもまだ暫くは滞在するとは言え、僕等はやがてミステン公国へと戻る予定なのだ。
 再び接点を持てるとの期待はあまり出来そうになかった。

 
 トーゾーさんが舞台に立つ。
 当然野次の嵐だろうと思ってたのに、驚いた事にトルネアスの民衆は静かに、ただ固唾を飲んでトーゾーさんの入場を見守っていた。
 舞台の上で待ち受けていた剣聖は、火が付きそうな程に熱を帯びた視線をトーゾーさんに向けている。
 其処に込められた意思は僕には推し量れないけれど、少なくとも準決勝の大盾の様に他を見てるって事だけは無いだろう。
 僕は自分が酷く汗をかいてる事に気付く。
 季節はまだ冬を抜けていないと言うのに、何だかとても暑い。まるで剣聖の発する熱気が、此処まで伝わって来てるかの様に。
 なのに舞台の上のトーゾーさんはとても楽しそうで、且つ嬉し気な顔をしている。
 いや実際に嬉しくて仕方が無いのだろう。漸く念願のよそ見をして居ない本気の五将と斬り合えるのだ。
 剣聖とトーゾーさんは、短く何かの言葉を交わした。
 其処でどんなやり取りが交わされたのかは、あの舞台の登場人物では無い僕には知る由も無かったが、直後に開始に合図が下されて、弾かれたように飛び出した2人の剣士が切り結ぶ。
 2人の動きはとても速い。
 トーゾーさんが速いのは元々知っていたけれど、剣聖も全く後れを取らずについて行ってる。
 彼等の戦いは攻守がめまぐるしく入れ替わる。
 剣聖が2本の剣で、竜巻の如き連続した斬撃を見舞うけれど、避け続けたトーゾーさんが斬撃の1つに刃を合わせて受け流し、ほんの僅かに作った隙に突きの連打を捻じ込んで行く。
 とても荒々しい武と武のぶつかり合いなのに、攻めも、守りも、2人の動きはとても綺麗だ。
 攻守の入れ替わりにもあまりに澱みが無いので、もしかして本当は打ち合わせでもしてるんじゃないかなんて、馬鹿な考えが頭を過ぎる。
 だってそうでもなきゃ、あんな凄い攻防が続いてるのに、未だ2人とも無傷な事実が信じられないから。
 更にもう1つ信じがたい事に、斬り合いながら2人の動きは徐々に、でも確実に速さを増していく。

 大勢の観客が闘技場に詰め掛けてるのに、歓声の1つも上がらない。
 誰1人の例外も無く、剣聖とトーゾーさんの戦いに魅せられてしまっていた。
 強いって言葉には色んな意味があるけれど、僕の知る限りで最も強い人はトーゾーさんだ。
 そのトーゾーさんと互角に戦えるのだから、五将は本当に凄いと思う。
 弓姫であるフィオさんも、羅将も、敢え無く倒れはしたけれどトルネアスの大盾だって、僕より格上の存在である。
 総合的に見れば、トーゾーさんと五将はほぼ同格の存在に見えた。
 そしてトーゾーさんと五将が同格の存在だからこそ、やっぱり僕は断言出来るのだ。
 この試合も、勝利するのはトーゾーさんだと。

 少しずつ、少しずつ、剣聖の身体に傷が入り始めた。
 最初に斬られたのは薄皮一枚。けれど次はほんの少し肉が裂ける。
 一合ごとに、剣聖の身体を刻む傷は深くなって行く。
 速度勝負に剣聖が付いて行けなくなったわけじゃない。体力が尽きて来た訳でも無い。
 ただ剣聖の動きを見切ったトーゾーさんに、読み合いで付いて行けなくなって来たのだ。
 確かに五将である剣聖とトーゾーさんは同格の存在なのだろう。同じ領域に居る人間と競い合える喜びを、吊り上がったトーゾーさんの口の端が雄弁に物語ってる。
 では何故剣聖が一方的に押され始めたのかと言えば、理由はただ1つ。
 トーゾーさんが対人特化型の剣士だからだ。
 仮に魔獣退治の速度を競えば、多分剣聖が圧勝すると思う。トーゾーさんの扱う剣術は、敵が人型から遠ざかれば遠ざかる程に不得手とするから。
 けれどその反面、対人型生物との戦いに於いてはトーゾーさんの剣術は無類の強さを発揮する。
 故に真に同格であるのなら、トーゾーさんに斬り勝つには少しばかり不足なのだ。

 血を失い、振う剣閃が僅かに鈍った次の瞬間、胸をまっすぐに貫かれ、剣聖の身体が舞台の上に崩れ落ちた。
 トーゾーさんは刀を振って血を払い、布で刀を拭って鞘に納めると、倒れた剣聖に向かって一礼してから叫ぶ。
「治療を!」
 その声に弾かれたように舞台の傍らに控えていた神官が駆け寄り癒しの奇跡を施し始める。
 そしてトーゾーさんの勝利が告げられた。



 朽多 藤蔵(guest)
 age26 
 color hair 黒色 eye 黒色
 job 侍 rank6(中級冒険者)
 skill 朽多派一刀流9(10/8) 片手剣4 柔術6 野外活動3 気配察知6 その他
 unknown 闘気・中(発動時に体力消耗。身体能力、攻撃力、防御力を中上昇)
 所持武装 ドワーフ製の刀(最高) 中位魔獣の革鎧(高)



 朽多 藤蔵のステータスが更新されました。
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