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★Sideテオ★
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会場に入った瞬間、目が惹きつけられた。
会場に入るまでは、ピエルパオロが私をだまして連れてきたことに怒っていたはずなのに、そんな感情は一瞬で消え去った。
他にきらびやかな女性はいくらでもいるのに、私の視線は、そこから動かなくなった。
黄色の仮面をつけた、黒い髪の女性。私には、一人だけ輝いて見えた。
私の視線に気づいたピエルパオロが、微笑んで、私を彼女のもとに導く。
近づいた彼女は、まだ私に気づいていない。そのことに焦燥感すら覚える。
「初めまして」
私の声に、彼女が振り向く。
黄色の蝶を模した仮面から覗く、澄んだ瞳が、私の心を乱す。
今まで生まれてくることのなかった熱が、奥底から湧いて出てくるようだった。
彼女の視線も、私から動くことがない。
その瞳の奥に、私と同じ熱を見つけられる気がした。
「フィオーレ様?」
ピエルパオロが小さな声で彼女に話しかける。
彼女が、次期妖精王……。
フィオーレ様が、ピエルパオロを小さく睨む。
「名前は言わない約束よ?」
フィオーレ様に睨まれた青い仮面をつけたピエルパオロが苦笑して肩をすくめる。
ゆっくりと私に視線を戻したフィオーレ様は、また私をじっと見つめてくれる。
そのことに、喜びが湧く。
これはフィオーレ様のために開かれた仮面舞踏会で、本当ならば本当の名前を告げない約束だと言われていた。だけど、フィオーレ様から名前を呼んでもらいたかった。
「私のことはテオと」
本名を名乗ると、ピエルパオロが視界の端で肩をすくめたのが見えた。
フィオーレ様が小さく息を吐いて、にこりと微笑んだ。
「テオ様。初めまして」
フィオーレ様が美しい礼をとる。私は思わず、フィオーレ様の手をそっと取る。指先から、フィオーレ様の熱が伝わってくる。
「それでは、なんとお呼びすればいいのでしょうか、レディー?」
私が見つめると、フィオーレ様が恥ずかしそうな表情を浮かべる。愛おしい、という気持ちがどんなものか、初めて理解できた気がする。
「フィ……フィーと」
偽名だが、本名に近い名前を告げてくれたことに、私の口元はほころぶ。
「一曲よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
フィオーレ様が頷くのを確認すると、私はフィオーレ様をエスコートしてフロアに向かう。
「フィー、もしかして、彼が番なのでは?」
すれ違いざまにピエルパオロがフィオーレ様に声をかけてくる。
その視線は私を見ていて、どうやらフィオーレ様に対してではなく、私に言っているようだ。
フィオーレ様は答えなかったけれど、私は納得していた。
そう言うことならば、フィオーレ様に惹かれるのも、当然なのかもしれない。
妖精王には番がいる。
それは、話に聞いたことがあるだけだった。
番同士は惹かれあうはずなんだと、ピエルパオロが力説していたのを聞き流していた。
番という概念がないから、そんなものなのか、と思っていた。
だけど、今ならばわかる。
確かに、惹かれる。
どんな姿でも、私はフィオーレ様に惹きつけられるだろう。
フロアに出ると、フィオーレ様が体をゆだねてくれる。
それだけで、彼女に頼られている気がして、嬉しくなる。
フィオーレ様とのステップを楽しみたくて、家庭教師に習った時以上に気を付けて踊る。
これが、ほぼ初めての実践とはいえ、きちんとダンスを習っていてよかったと思う。
だけど、私の動きのスムーズさは、フィオーレ様が私に身をゆだねてくれていることも大きいだろう。
私はすっかり腕の中で、安心しきっているフィオーレ様に、幸せを噛みしめる。
ドン。
唐突な衝撃に、フィオーレ様の体を咄嗟に包み込む。フィオーレ様に怪我などさせたくなかった。痛い思いをさせたくなかった。
「失礼。あまりに無様なステップなので、ぶつかってしまったよ」
その言葉に面白そうにクスクスと下品に笑う赤い仮面の女性は、コラソン = マネン男爵令嬢。
そして、コラソンに密着して黒い仮面から不躾な視線をテオ様に向けるのは、ジョエル = グエッラ公爵令息。
フィオーレ様のところまで連れて行ってくれたピエルパオロが、気を付けるようにと忠告してくれた二人だ。
ジョエル殿は、嘘をついているに違いない。
番のはずなのに、相手がだれかわかっていないなんて、あり得ない。
こんなに愛おしいという気持ちが湧いてくる相手を置いて、他の女性にうつつを抜かすなど、できるはずもない。
フィオーレ様の番は、私だ。
絶対に、この下種からフィオーレ様を守り抜いてやる。
会場に入るまでは、ピエルパオロが私をだまして連れてきたことに怒っていたはずなのに、そんな感情は一瞬で消え去った。
他にきらびやかな女性はいくらでもいるのに、私の視線は、そこから動かなくなった。
黄色の仮面をつけた、黒い髪の女性。私には、一人だけ輝いて見えた。
私の視線に気づいたピエルパオロが、微笑んで、私を彼女のもとに導く。
近づいた彼女は、まだ私に気づいていない。そのことに焦燥感すら覚える。
「初めまして」
私の声に、彼女が振り向く。
黄色の蝶を模した仮面から覗く、澄んだ瞳が、私の心を乱す。
今まで生まれてくることのなかった熱が、奥底から湧いて出てくるようだった。
彼女の視線も、私から動くことがない。
その瞳の奥に、私と同じ熱を見つけられる気がした。
「フィオーレ様?」
ピエルパオロが小さな声で彼女に話しかける。
彼女が、次期妖精王……。
フィオーレ様が、ピエルパオロを小さく睨む。
「名前は言わない約束よ?」
フィオーレ様に睨まれた青い仮面をつけたピエルパオロが苦笑して肩をすくめる。
ゆっくりと私に視線を戻したフィオーレ様は、また私をじっと見つめてくれる。
そのことに、喜びが湧く。
これはフィオーレ様のために開かれた仮面舞踏会で、本当ならば本当の名前を告げない約束だと言われていた。だけど、フィオーレ様から名前を呼んでもらいたかった。
「私のことはテオと」
本名を名乗ると、ピエルパオロが視界の端で肩をすくめたのが見えた。
フィオーレ様が小さく息を吐いて、にこりと微笑んだ。
「テオ様。初めまして」
フィオーレ様が美しい礼をとる。私は思わず、フィオーレ様の手をそっと取る。指先から、フィオーレ様の熱が伝わってくる。
「それでは、なんとお呼びすればいいのでしょうか、レディー?」
私が見つめると、フィオーレ様が恥ずかしそうな表情を浮かべる。愛おしい、という気持ちがどんなものか、初めて理解できた気がする。
「フィ……フィーと」
偽名だが、本名に近い名前を告げてくれたことに、私の口元はほころぶ。
「一曲よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
フィオーレ様が頷くのを確認すると、私はフィオーレ様をエスコートしてフロアに向かう。
「フィー、もしかして、彼が番なのでは?」
すれ違いざまにピエルパオロがフィオーレ様に声をかけてくる。
その視線は私を見ていて、どうやらフィオーレ様に対してではなく、私に言っているようだ。
フィオーレ様は答えなかったけれど、私は納得していた。
そう言うことならば、フィオーレ様に惹かれるのも、当然なのかもしれない。
妖精王には番がいる。
それは、話に聞いたことがあるだけだった。
番同士は惹かれあうはずなんだと、ピエルパオロが力説していたのを聞き流していた。
番という概念がないから、そんなものなのか、と思っていた。
だけど、今ならばわかる。
確かに、惹かれる。
どんな姿でも、私はフィオーレ様に惹きつけられるだろう。
フロアに出ると、フィオーレ様が体をゆだねてくれる。
それだけで、彼女に頼られている気がして、嬉しくなる。
フィオーレ様とのステップを楽しみたくて、家庭教師に習った時以上に気を付けて踊る。
これが、ほぼ初めての実践とはいえ、きちんとダンスを習っていてよかったと思う。
だけど、私の動きのスムーズさは、フィオーレ様が私に身をゆだねてくれていることも大きいだろう。
私はすっかり腕の中で、安心しきっているフィオーレ様に、幸せを噛みしめる。
ドン。
唐突な衝撃に、フィオーレ様の体を咄嗟に包み込む。フィオーレ様に怪我などさせたくなかった。痛い思いをさせたくなかった。
「失礼。あまりに無様なステップなので、ぶつかってしまったよ」
その言葉に面白そうにクスクスと下品に笑う赤い仮面の女性は、コラソン = マネン男爵令嬢。
そして、コラソンに密着して黒い仮面から不躾な視線をテオ様に向けるのは、ジョエル = グエッラ公爵令息。
フィオーレ様のところまで連れて行ってくれたピエルパオロが、気を付けるようにと忠告してくれた二人だ。
ジョエル殿は、嘘をついているに違いない。
番のはずなのに、相手がだれかわかっていないなんて、あり得ない。
こんなに愛おしいという気持ちが湧いてくる相手を置いて、他の女性にうつつを抜かすなど、できるはずもない。
フィオーレ様の番は、私だ。
絶対に、この下種からフィオーレ様を守り抜いてやる。
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