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「ゲームの設定って……ここまで影響があるんですね」
ティエリの大きなため息が、馬車の中に落ちる。
「そうね……まさか殿下の言動をコントロールして設定を補正しようとするなんて、思いもよらなかったわ」
設定は自分たちが行動すれば変えてしまえるのだと、思いたかったのに。
「殿下の命令に背けば……謀反ともとられかねないですしね。ミストラル伯爵家の存続については特にこだわりはないですが……処刑されてしまうと困るし」
ティエリの呟きに、私も頷く。
この国のNo2である殿下が発言したとなれば、私たちの行動は制約される可能性は高くなる。
ある意味、設定の補正方法としては、ベストな方法なんだろう。
「……でも殿下をコントロールできるなら、どうして俺らはコントロールしないんでしょう?」
ティエリの疑問に、確かに、と頷く。
「私たちが設定から逸脱しようとしているんだから、私たちをコントロールしたほうが手っ取り早いわよね」
「嫌、ですけどね。……殿下だって、今の状態は嫌でしょうけど……」
「殿下と……私たちの違いって……」
「間違いなく殿下には権力がありますが」
ティエリが苦笑する。
「そうね……。あ」
ふと、思い出す。
「殿下は、『ヴィダル学園の恋人』には一切出てこない人物だわ」
ゲームの設定とは、全く無関係なはずだ。
「モブ、ってことですか? 無関係だから、設定として動かしやすかったってことですかね?」
ティエリの口から出てきた“モブ”という言葉に、つい笑ってしまう。
「それを言ったら、私だってゲームの中では名前しか出てこないようなモブだけどね」
ティエリが目を見開く。
「サシャは、ゲームに出てこないんですか? ティエリをいじめていた、って言ってましたよね?」
「ええ。だけど、それはティエリの口から語られる話だけで、サシャの姿をゲームで見たことはないのよ。殿下の婚約者って設定でもなくて……ただ、意地悪な姉って設定だったわ」
「意地悪どころか、ティエリを猫かわいがりしてましたけどね」
ティエリが他人事のようにクスリと笑う。
「だって……本当に天使みたいで可愛かったんですもの」
私がムッとするのと、ティエリが、あれ、と声を漏らしたのは、同時だった。
「何?」
ティエリに水を向けると、ティエリが腕を組んだ。
「どうして、サシャは今でも、ティエリをいじめないんですかね? ……殿下がモブだから設定が動かせるなら……沙耶だって、自分の意思とは無関係に俺をいじめることがありうると思うんですが」
「……私が転生者だから? これもチートってこと? ティエリだって、設定と無関係に動いているわけだし……」
「つまりは、このゲームの設定は、転生者である俺たちのことはコントロールできない、ってことですかね?」
「……そうなのかもしれない。だから、唐突に殿下が私と婚約をしてティエリと私を引き離そうとしたんじゃないかしら?」
私の説明に、ティエリが大きく頷いた。
「それならば、俺たち自身が動くことに関しては、ゲームの設定とは違う未来の突破口があるかもしれない、ってことだ」
「そうね。私たちが……動かなきゃ、私たちの思う未来は手に入らないのよ」
「俺は、沙耶と一緒にありたいから、どんなに大変でも、チャレンジしますよ」
「……えーっと、あり、がとう」
こそばゆい気持ちで、私はティエリを見つめた。
……正直、ティエリとの未来はまだきちんと想像できてない。
だけど、自分の人生を、単なるゲームの設定に変えられたくない、と強く思う。
ティエリの大きなため息が、馬車の中に落ちる。
「そうね……まさか殿下の言動をコントロールして設定を補正しようとするなんて、思いもよらなかったわ」
設定は自分たちが行動すれば変えてしまえるのだと、思いたかったのに。
「殿下の命令に背けば……謀反ともとられかねないですしね。ミストラル伯爵家の存続については特にこだわりはないですが……処刑されてしまうと困るし」
ティエリの呟きに、私も頷く。
この国のNo2である殿下が発言したとなれば、私たちの行動は制約される可能性は高くなる。
ある意味、設定の補正方法としては、ベストな方法なんだろう。
「……でも殿下をコントロールできるなら、どうして俺らはコントロールしないんでしょう?」
ティエリの疑問に、確かに、と頷く。
「私たちが設定から逸脱しようとしているんだから、私たちをコントロールしたほうが手っ取り早いわよね」
「嫌、ですけどね。……殿下だって、今の状態は嫌でしょうけど……」
「殿下と……私たちの違いって……」
「間違いなく殿下には権力がありますが」
ティエリが苦笑する。
「そうね……。あ」
ふと、思い出す。
「殿下は、『ヴィダル学園の恋人』には一切出てこない人物だわ」
ゲームの設定とは、全く無関係なはずだ。
「モブ、ってことですか? 無関係だから、設定として動かしやすかったってことですかね?」
ティエリの口から出てきた“モブ”という言葉に、つい笑ってしまう。
「それを言ったら、私だってゲームの中では名前しか出てこないようなモブだけどね」
ティエリが目を見開く。
「サシャは、ゲームに出てこないんですか? ティエリをいじめていた、って言ってましたよね?」
「ええ。だけど、それはティエリの口から語られる話だけで、サシャの姿をゲームで見たことはないのよ。殿下の婚約者って設定でもなくて……ただ、意地悪な姉って設定だったわ」
「意地悪どころか、ティエリを猫かわいがりしてましたけどね」
ティエリが他人事のようにクスリと笑う。
「だって……本当に天使みたいで可愛かったんですもの」
私がムッとするのと、ティエリが、あれ、と声を漏らしたのは、同時だった。
「何?」
ティエリに水を向けると、ティエリが腕を組んだ。
「どうして、サシャは今でも、ティエリをいじめないんですかね? ……殿下がモブだから設定が動かせるなら……沙耶だって、自分の意思とは無関係に俺をいじめることがありうると思うんですが」
「……私が転生者だから? これもチートってこと? ティエリだって、設定と無関係に動いているわけだし……」
「つまりは、このゲームの設定は、転生者である俺たちのことはコントロールできない、ってことですかね?」
「……そうなのかもしれない。だから、唐突に殿下が私と婚約をしてティエリと私を引き離そうとしたんじゃないかしら?」
私の説明に、ティエリが大きく頷いた。
「それならば、俺たち自身が動くことに関しては、ゲームの設定とは違う未来の突破口があるかもしれない、ってことだ」
「そうね。私たちが……動かなきゃ、私たちの思う未来は手に入らないのよ」
「俺は、沙耶と一緒にありたいから、どんなに大変でも、チャレンジしますよ」
「……えーっと、あり、がとう」
こそばゆい気持ちで、私はティエリを見つめた。
……正直、ティエリとの未来はまだきちんと想像できてない。
だけど、自分の人生を、単なるゲームの設定に変えられたくない、と強く思う。
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