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先輩の呼び出し(2年生の時)

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「ハース君はいるかな?」
 教室に顔を出したのは、先輩だった。ハースたちの一つ上の先輩だ。
 ハースの顔がこわばる。
 その表情に、周りのクラスメイトも緊張する。
 一体何が起こるのか、想像できなかった。

「先輩、なんでしょうか? アリスのことなら譲りませんよ」
 それはないだろう。
 クラスメイトは皆心の中で総ツッコミする。
 先輩の顔も困っている。
「いや、そうじゃなくて」

 ハースがホッとする。もちろんクラスメイトもホッとした。
「えーっと、どうやったらそういう風にヤンデレを突き詰められるのかな、って」
「え? 何ですか?」
 ハースがにこやかに聞き返した。クラスメイトたちは何だかヒヤヒヤした。
 この先輩は命知らずなのかもしれないと誰もが思った。

「えーっと、だから……どうやって、好きな相手をこう……囲い込めるのかなって」
 ああ、とハースがうなずいた。
「先輩、それは愛ですよ」
 真剣な顔でハースが告げた。
「愛?」
 先輩が首をかしげる。

「ええ。今はまだ先輩の愛が足りてないんじゃないですか?」
「愛、か……」
「先輩が愛を全面に押し出せば、きっと相手も応えてくれます!」
 ハースが力強く言い切ると、先輩がコクリと頷いた。
「わかった。頑張ってみるわ! ありがとう!」
 先輩が笑顔を見せて颯爽と去っていった。

 1か月後、その先輩の名前が学院に轟いた。先生から厳重注意を受け謹慎になったからだ。女生徒に対する迷惑行為のせいだった。

 あの会話を聞いていたクラスメイトの誰もが、やっぱり、と思った。当然の結末だとも思えた。
 しかも、ハースもこうなる可能性は十分予測していたはずだ。
 あの直後、ハースがぼそりと呟いていたからだ。
「ただし、相手が受け入れてくれる場合だけですよ」
 クラスメイトは、ハースにヤンデレと呼び掛けるのだけはやめようと心に決めた。
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