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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(5)
ギャザリング(8)
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「貴方が『おちゃはかせ』?」
こちらに背を向け、馬車に荷物を運びこんでいる人物に、メイが問いかける。
上半身裸で、筋骨隆々の背中は少し汗ばんで光っていた。振り返る。30代後半ぐらいの男性だ。
「いかにも。私が『おちゃはかせ』だが、何の用かね」
「団長に言われて、来たのだけれど」
「何を?」
「あーっと、“旅団”のことなのですが、団長から聞かれてませんか?」
ツヅキが割り込む。メイの言葉足らずは、見知らぬ相手にとっては失礼なだけだ。
「ああ、それだな。おーい! カップ!」
入口の方を向いて、はかせが大声で呼ぶ。
フードを被った人物が声に気づき、こちらを向く。
「旅団の方々が来たぞ!」
小走りで、“カップ”はこちらに向かってきた。
「旅団に入るのは貴方じゃあないの?」
「ワシがか? 冗談だろ。誘ってくれるのは有難いが、ここを空けとる余裕はないよ」
「はかせは、倉庫の管理をされてるんですか?」
ツヅキがまたも話に割り込む。
「まあ、そう言えなくもないが……正確には配送の管理だな」
「どう違うんです?」
「“倉庫”の管理と言うと、動かないものを管理するのが主体となる。だが見ての通りワシの仕事は、このように物を積み込んでは何処かへ持っていってもらったり、逆に持ってきてもらったものを管理することだ。つまり物を動かすのが仕事なのだよ。もちろん、付帯業務として倉庫管理もあるがね」
「どう違うのかしら?」
メイも割り込む。
「お嬢ちゃん、中々に口が厳しいな。おまけに心も読めるときとる」
メイは能力を見透かされていたことに少し驚いたようだったが、すぐに態度を隠した。
「まあ、突き詰めれば違いはない。物の管理と言えばそれまでだ。しかしこの“茶舗”のお茶やそれに関するものも、動かしてこそ初めて意味を持つ。血液と同じだよ。意味とは“差”なのだ。そして“差”は流動的でなければ意味がない」
ツヅキは、はかせが『博士』と言われる所以に触れた気がした。
「実は、ワシは“茶舗”には所属しておらん。“茶舗”とは“ティー・ブリッジズ”という団体を形成していて、それで繋がっておる。だから業務委託だな、これは。この世界では茶は通貨とほぼ同義、その流れをより活動的にしていくことで、お茶とお茶を繋ぐ“橋渡し”をしているのだよ。尤も、ワシの目的はその流通網を掌握することで、世界征服の一歩とすることだがね」
最後にサラッとスゴいことを言っているのが気になったが、それ以前に皆はいつの間にか、一番前のめりに話を聞いているフードの人物の方が気になっていた。
その人物は皆からの視線に気づき、慌ててぺこりと頭を下げる。
「そうだったそうだった。カップ、挨拶したらどうだ」
その人物ははかせの方を向いてから、こちらに向き直すと、フードを外した。
緑色のくせっ毛。女性だ。
「かっ、カプーチェ・トルヒャーです。皆からは言いにくいので、かっ、“カップ”って呼ばれてます。ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
こちらに背を向け、馬車に荷物を運びこんでいる人物に、メイが問いかける。
上半身裸で、筋骨隆々の背中は少し汗ばんで光っていた。振り返る。30代後半ぐらいの男性だ。
「いかにも。私が『おちゃはかせ』だが、何の用かね」
「団長に言われて、来たのだけれど」
「何を?」
「あーっと、“旅団”のことなのですが、団長から聞かれてませんか?」
ツヅキが割り込む。メイの言葉足らずは、見知らぬ相手にとっては失礼なだけだ。
「ああ、それだな。おーい! カップ!」
入口の方を向いて、はかせが大声で呼ぶ。
フードを被った人物が声に気づき、こちらを向く。
「旅団の方々が来たぞ!」
小走りで、“カップ”はこちらに向かってきた。
「旅団に入るのは貴方じゃあないの?」
「ワシがか? 冗談だろ。誘ってくれるのは有難いが、ここを空けとる余裕はないよ」
「はかせは、倉庫の管理をされてるんですか?」
ツヅキがまたも話に割り込む。
「まあ、そう言えなくもないが……正確には配送の管理だな」
「どう違うんです?」
「“倉庫”の管理と言うと、動かないものを管理するのが主体となる。だが見ての通りワシの仕事は、このように物を積み込んでは何処かへ持っていってもらったり、逆に持ってきてもらったものを管理することだ。つまり物を動かすのが仕事なのだよ。もちろん、付帯業務として倉庫管理もあるがね」
「どう違うのかしら?」
メイも割り込む。
「お嬢ちゃん、中々に口が厳しいな。おまけに心も読めるときとる」
メイは能力を見透かされていたことに少し驚いたようだったが、すぐに態度を隠した。
「まあ、突き詰めれば違いはない。物の管理と言えばそれまでだ。しかしこの“茶舗”のお茶やそれに関するものも、動かしてこそ初めて意味を持つ。血液と同じだよ。意味とは“差”なのだ。そして“差”は流動的でなければ意味がない」
ツヅキは、はかせが『博士』と言われる所以に触れた気がした。
「実は、ワシは“茶舗”には所属しておらん。“茶舗”とは“ティー・ブリッジズ”という団体を形成していて、それで繋がっておる。だから業務委託だな、これは。この世界では茶は通貨とほぼ同義、その流れをより活動的にしていくことで、お茶とお茶を繋ぐ“橋渡し”をしているのだよ。尤も、ワシの目的はその流通網を掌握することで、世界征服の一歩とすることだがね」
最後にサラッとスゴいことを言っているのが気になったが、それ以前に皆はいつの間にか、一番前のめりに話を聞いているフードの人物の方が気になっていた。
その人物は皆からの視線に気づき、慌ててぺこりと頭を下げる。
「そうだったそうだった。カップ、挨拶したらどうだ」
その人物ははかせの方を向いてから、こちらに向き直すと、フードを外した。
緑色のくせっ毛。女性だ。
「かっ、カプーチェ・トルヒャーです。皆からは言いにくいので、かっ、“カップ”って呼ばれてます。ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
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