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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(6)
品種特性(5)
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茶葉の外観、そして浸出液で内質を観る“官能審査”終了後、一行は龍騎士団茶舗の訓練場にいた。
訓練場は広く、あちらこちらで種々の鍛錬に勤しむ人々が見える。
そんな中には筋骨隆々な『おちゃはかせ』もいた。
ツヅキの背丈ほどある大剣を振り回している。
あの人が旅の一行なら心強いのだがと、ツヅキは思った。
「心強くなくて悪かったわね」
メイがちくりと刺す。
「いや、あの人の方が外見でわかりやすいってだけさ。秘めたるものは皆様の方が大きい。ですよね、ウィーさん」
「何かわかりませんが、もちろんです~!」
「まあいいわ。これから証明してあげる」
メイはそう言うと、“杖茶杓”を取り出す。
「そっ、それではこれからっ、官能審査の最後“能力審査”を始めます!」
カップが慣れていない大声で言う。
一行は思わず振り向いた。
「あっ、あの、龍騎士団茶舗内で“能力審査”をする時はしゅ、周囲の人々に危険が及ばないよう、こうやって宣言します……」
「なるほどね、そりゃあ大事」
ツヅキがそう言うと、カップは恥ずかしそうに俯いた。
遠くで『おちゃはかせ』が、にこやかにこっちを見ていた。
「じゃあ、改めて。ウィー、あの人形をあちらの林の前に」
「承知しまっしたー」
ウィーも杖を取り出し、遠くに倒れていた人形に一振りする。
訓練の的に使われる人形が立ち上がり、空を滑って林の前に立った。
「ありがとう、ウィー。カップもさっきはありがとうね。では」
ぽつりと呟き、さっとメイが構える。
ウィーとカップがぱちくりと目を合わせる。
メイがくるりと杖を回して一振りした。
的に変化はない。
「……ん? ちょっと遅れがあんのか、その魔」
その時、人形の後ろの林が大きく薙ぎ倒された。
樹々が引き千切られ、細切れになる。林が大きく分断される。
茶舗の商館と訓練場自体が、もし巨大な結界で覆われていなければ(この結界は“オートラグ”からツヅキたちを隠すためのものだったが)、メイの魔法は林の向こう側の街並みを直撃していたに違いない。
「……どう? 心強くなったかしら」
「顔、引きつってるぞ。魔術を使わなくても心読める」
「ちょ、ちょっとコントロールできなかっただけよ」
「お嬢さま、甘味強かったですもんねぇ~」
「甘味の強さが魔力……とかにリンクしてるのか?」
「あっ、甘味や旨味が強いと魔力が、に、苦味や渋味が強いと物理的な力が強くなるんです」
「物理的って?」
「お、『おちゃはかせ』みたいな……」
「なるほど」
「次! ウィーやってみて!」
「はぁい」
メイがウィーを促す。
ウィーが杖を的に向けて構える。ウィーの技は、ぴくりと杖先を震えさせるに留まった。
人形はぴくんと揺れると、ぎゅるりと渦を巻いて小さなボールと化した。
そのままウィーはそのボールを手元に持ってくる。
人形は圧縮され、表面つるやかな球体と化していた。
「これは……どういうことなんだ?」
「ウィーの茶葉は香りがスゴかったでしょ? 香りが強ければ強いほど、イレギュラーな技が使えるようになるのよ」
「ただ林を吹き飛ばすだけじゃあない?」
「うるさいわね」
訓練場は広く、あちらこちらで種々の鍛錬に勤しむ人々が見える。
そんな中には筋骨隆々な『おちゃはかせ』もいた。
ツヅキの背丈ほどある大剣を振り回している。
あの人が旅の一行なら心強いのだがと、ツヅキは思った。
「心強くなくて悪かったわね」
メイがちくりと刺す。
「いや、あの人の方が外見でわかりやすいってだけさ。秘めたるものは皆様の方が大きい。ですよね、ウィーさん」
「何かわかりませんが、もちろんです~!」
「まあいいわ。これから証明してあげる」
メイはそう言うと、“杖茶杓”を取り出す。
「そっ、それではこれからっ、官能審査の最後“能力審査”を始めます!」
カップが慣れていない大声で言う。
一行は思わず振り向いた。
「あっ、あの、龍騎士団茶舗内で“能力審査”をする時はしゅ、周囲の人々に危険が及ばないよう、こうやって宣言します……」
「なるほどね、そりゃあ大事」
ツヅキがそう言うと、カップは恥ずかしそうに俯いた。
遠くで『おちゃはかせ』が、にこやかにこっちを見ていた。
「じゃあ、改めて。ウィー、あの人形をあちらの林の前に」
「承知しまっしたー」
ウィーも杖を取り出し、遠くに倒れていた人形に一振りする。
訓練の的に使われる人形が立ち上がり、空を滑って林の前に立った。
「ありがとう、ウィー。カップもさっきはありがとうね。では」
ぽつりと呟き、さっとメイが構える。
ウィーとカップがぱちくりと目を合わせる。
メイがくるりと杖を回して一振りした。
的に変化はない。
「……ん? ちょっと遅れがあんのか、その魔」
その時、人形の後ろの林が大きく薙ぎ倒された。
樹々が引き千切られ、細切れになる。林が大きく分断される。
茶舗の商館と訓練場自体が、もし巨大な結界で覆われていなければ(この結界は“オートラグ”からツヅキたちを隠すためのものだったが)、メイの魔法は林の向こう側の街並みを直撃していたに違いない。
「……どう? 心強くなったかしら」
「顔、引きつってるぞ。魔術を使わなくても心読める」
「ちょ、ちょっとコントロールできなかっただけよ」
「お嬢さま、甘味強かったですもんねぇ~」
「甘味の強さが魔力……とかにリンクしてるのか?」
「あっ、甘味や旨味が強いと魔力が、に、苦味や渋味が強いと物理的な力が強くなるんです」
「物理的って?」
「お、『おちゃはかせ』みたいな……」
「なるほど」
「次! ウィーやってみて!」
「はぁい」
メイがウィーを促す。
ウィーが杖を的に向けて構える。ウィーの技は、ぴくりと杖先を震えさせるに留まった。
人形はぴくんと揺れると、ぎゅるりと渦を巻いて小さなボールと化した。
そのままウィーはそのボールを手元に持ってくる。
人形は圧縮され、表面つるやかな球体と化していた。
「これは……どういうことなんだ?」
「ウィーの茶葉は香りがスゴかったでしょ? 香りが強ければ強いほど、イレギュラーな技が使えるようになるのよ」
「ただ林を吹き飛ばすだけじゃあない?」
「うるさいわね」
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