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United Japanese tea varieties of Iratsuko(6)
悪の夜(1)
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ムサシは、クローゼットの中に隠れていた。
あまり衣服の入っていないクローゼットは、隠れるのには快適だった。
そのため、咄嗟に入ったにも関わらず、余計な物音を立ててしまうこともなかった。
部屋の主はドアを開け、その端を確認しているようだ。
目印を付け、留守中に侵入者がいないかをいつも確認しているのだろう。
尤も、それを侵すようなへまをするムサシではない。
とは言え、主人が帰ってきたのは誤算だった。
思えば、今回の依頼は協力を持ちかけたヤツらがミスをしてばっかりだ。
俺の人選がおかしかったのか?
◇◇◇
「“ヴェルメロス”から亡命した技術者がターゲット?」
ムサシは思わず聞き返した。
「何か問題が?」
「いや、なかなかそんな類の依頼はないもんでね」
ムサシはフリーランスでグレーな仕事を請け負っている。元々、FBUにいた経験から、U.J.I内での“暗い立ち回りの仕方”には精通しているからだ。
そんなわけで、勿論、請け負ったことがないわけではないが、他国の名前が出てくる仕事の経験というのは、あまり多くはなかった。
請け負わないわけではないが、そういった内容にはそういった内容の専門家がいるものだ。
「……とにかく、報酬の問題だ」
「もう送金したよ」
通信相手はそう告げた。
相手は、現在放送中のあらゆるメディアの音声をリアルタイムに継ぎ接ぎし、入力した内容を発声してくれるソフトを用いて連絡をしてきている。まあ、この手の依頼をするヤツは皆、使っていやがるが。
ムサシは口座を確認する。
確かに、それ相応の額が振り込まれている。希望額一歩届かずという額が。
「残りは、仕事を終えてくれた後に送金するよ」
◇◇◇
「というわけで、お前にはターゲットを“透明にする”のを依頼したい。ジョン」
ムサシはメンバーズレストランで、食事を共にしている相手にそう告げた。
やや太り気味の、目線の鋭い男性だ。
「任せろ。報酬は全額後払いか?」
「いや、前金で半分だ。この店の支払いもつけとく」
「オーケー」
相手は、食事を進める。手元のワインを飲み干す。
ムサシが注ぐと、またも飲み干した。
「しかし、お前少し太ったんじゃあないか? 別に支払いがかさむのが嫌なワケじゃあ毛頭無いが、少し飲み食いしすぎだぞ」
「おいおいムサシ、俺たちの仕事だぞ? カロリーは消費するし、ストレスだって溜まる」
「……まあ、そうだな」
◇◇◇
「というわけで、お前にはターゲットの資料奪取を依頼したい。ジャック」
「相棒をもう一人、選んでもいいか?」
「構わないが、相棒分まで報酬はないぜ」
「勿論だ。それは俺の分で何とかする」
ムサシは詳しく聞かなかった。どうせ分けずに、用済みになったら相棒とは“手を切る”んだろ。
U.J.I環状メトロの構内で、背中合わせに座ってから1分。話はまとまった。
◇◇◇
そして、ジョンは決行当日にアル中状態で発見、現在入院中。
ジャックはその性格を相棒とやらに見抜かれ、路地裏で射殺体で発見された。
以上でムサシは、依頼した内容二つを自らの手でやり遂げなければならなくなったのだった。
勿論、最初から人に任せてハイ終わりとする予定ではなかった。自分でやらなければならない仕事も当然あったのだ。だから今夜の仕事は三つだな畜生。
あまり衣服の入っていないクローゼットは、隠れるのには快適だった。
そのため、咄嗟に入ったにも関わらず、余計な物音を立ててしまうこともなかった。
部屋の主はドアを開け、その端を確認しているようだ。
目印を付け、留守中に侵入者がいないかをいつも確認しているのだろう。
尤も、それを侵すようなへまをするムサシではない。
とは言え、主人が帰ってきたのは誤算だった。
思えば、今回の依頼は協力を持ちかけたヤツらがミスをしてばっかりだ。
俺の人選がおかしかったのか?
◇◇◇
「“ヴェルメロス”から亡命した技術者がターゲット?」
ムサシは思わず聞き返した。
「何か問題が?」
「いや、なかなかそんな類の依頼はないもんでね」
ムサシはフリーランスでグレーな仕事を請け負っている。元々、FBUにいた経験から、U.J.I内での“暗い立ち回りの仕方”には精通しているからだ。
そんなわけで、勿論、請け負ったことがないわけではないが、他国の名前が出てくる仕事の経験というのは、あまり多くはなかった。
請け負わないわけではないが、そういった内容にはそういった内容の専門家がいるものだ。
「……とにかく、報酬の問題だ」
「もう送金したよ」
通信相手はそう告げた。
相手は、現在放送中のあらゆるメディアの音声をリアルタイムに継ぎ接ぎし、入力した内容を発声してくれるソフトを用いて連絡をしてきている。まあ、この手の依頼をするヤツは皆、使っていやがるが。
ムサシは口座を確認する。
確かに、それ相応の額が振り込まれている。希望額一歩届かずという額が。
「残りは、仕事を終えてくれた後に送金するよ」
◇◇◇
「というわけで、お前にはターゲットを“透明にする”のを依頼したい。ジョン」
ムサシはメンバーズレストランで、食事を共にしている相手にそう告げた。
やや太り気味の、目線の鋭い男性だ。
「任せろ。報酬は全額後払いか?」
「いや、前金で半分だ。この店の支払いもつけとく」
「オーケー」
相手は、食事を進める。手元のワインを飲み干す。
ムサシが注ぐと、またも飲み干した。
「しかし、お前少し太ったんじゃあないか? 別に支払いがかさむのが嫌なワケじゃあ毛頭無いが、少し飲み食いしすぎだぞ」
「おいおいムサシ、俺たちの仕事だぞ? カロリーは消費するし、ストレスだって溜まる」
「……まあ、そうだな」
◇◇◇
「というわけで、お前にはターゲットの資料奪取を依頼したい。ジャック」
「相棒をもう一人、選んでもいいか?」
「構わないが、相棒分まで報酬はないぜ」
「勿論だ。それは俺の分で何とかする」
ムサシは詳しく聞かなかった。どうせ分けずに、用済みになったら相棒とは“手を切る”んだろ。
U.J.I環状メトロの構内で、背中合わせに座ってから1分。話はまとまった。
◇◇◇
そして、ジョンは決行当日にアル中状態で発見、現在入院中。
ジャックはその性格を相棒とやらに見抜かれ、路地裏で射殺体で発見された。
以上でムサシは、依頼した内容二つを自らの手でやり遂げなければならなくなったのだった。
勿論、最初から人に任せてハイ終わりとする予定ではなかった。自分でやらなければならない仕事も当然あったのだ。だから今夜の仕事は三つだな畜生。
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