180 / 307
南山城国(12)
暗黒山脈(6)
しおりを挟む
「旧村域侵入後、事前資料の通りに、四方の山頂に巨人の姿を確認。加えて、上空に巨大な蛾か蝶のような影も視認しました。
影の通過後、異形の村民たちが出現したため、稚郎子(いらつこ)の国(=U.J.I)の装置を使用して視覚汚染を防御。その後は速やかに村域半ばまで到達できました」
「お主がこの国に戻らざるを得なくなったのはソレ以降か」
夢絃が口を開いた。
「はい。村民たちに悟られぬよう“印”も使用しておりましたが、上空の影には効果が少なかったようです。
影と共に村民たちとの戦闘も余儀なくされ、私の技量不足故に……こうして戻る事態と相成りました」
童仙は指をつくと、頭を下げた。
「よい。その他の旅の連れは、無事に村を抜けだせたとのコトであるからな。ソレに童仙……」
「はい」
「よう戻った」
下を向いていた童仙の目が見開かれる。
そして、思わず顔を上げた。
「稚郎子の国のモノを身につけておらぬ。相手に奪われたのであろうが、ソレなしであの村から帰るのは難しかったろう。盲(めしい、盲目のコト)となるも同然であるからな」
童仙は村で最後に聞いた声の主について、言うべきか迷った。
「……確かに、自分でも戻れるか不安でした」
「で、あろうなあ。幾度でも自らの茶園に戻れるとは言え、腹を召す練習などそうできるワケでもないからな。立派に召したのであろう」
権左が豪快に笑った。
夢絃は笑みこそ浮かべなかったが、その声音は少し慈愛を含んだモノとなった。
「して、いかがする。童仙」
「旅へ戻りまする」
「ソレはわかっておる」
「……村を再度、抜けようと思います。先のような失態は二度と致しませぬ」
「ソレがよい。だが用心せよ。お主の旅の連れは村を抜けたようだが、その後から村の雰囲気が妙であるようだ」
「恐れながら、妙とは」
「わからぬ。お主にはソレについても突き止めてもらいたい」
「委細承知いたしました」
童仙はそう言い、平伏した。
村で突き止めなければならないコトの中に自ら、“あの声の主の正体について”を含めながら。
◇◇◇
童仙は日の出と共に、旅路に戻った。
その駿足は飛脚よりも速く、かつての道をなぞらせた。
再びの旅路を下半身に任せながら、童仙は頭の中で昨夜の会話の終わりをなぞっていた。
『夢絃先生、皆が村を無事に抜けたというのは、村の見張りからの便りですか』
『いや、ソレよりも先にわかっていた。“まれびと”殿に短刀を持たせたであろう。アレは儂の分身なのでな』
『そのような術があるのですか』
『霊を分けるコト自体は容易い。その資格を得るのは易くないが喃。いずれお主にも教えよう、童仙』
影の通過後、異形の村民たちが出現したため、稚郎子(いらつこ)の国(=U.J.I)の装置を使用して視覚汚染を防御。その後は速やかに村域半ばまで到達できました」
「お主がこの国に戻らざるを得なくなったのはソレ以降か」
夢絃が口を開いた。
「はい。村民たちに悟られぬよう“印”も使用しておりましたが、上空の影には効果が少なかったようです。
影と共に村民たちとの戦闘も余儀なくされ、私の技量不足故に……こうして戻る事態と相成りました」
童仙は指をつくと、頭を下げた。
「よい。その他の旅の連れは、無事に村を抜けだせたとのコトであるからな。ソレに童仙……」
「はい」
「よう戻った」
下を向いていた童仙の目が見開かれる。
そして、思わず顔を上げた。
「稚郎子の国のモノを身につけておらぬ。相手に奪われたのであろうが、ソレなしであの村から帰るのは難しかったろう。盲(めしい、盲目のコト)となるも同然であるからな」
童仙は村で最後に聞いた声の主について、言うべきか迷った。
「……確かに、自分でも戻れるか不安でした」
「で、あろうなあ。幾度でも自らの茶園に戻れるとは言え、腹を召す練習などそうできるワケでもないからな。立派に召したのであろう」
権左が豪快に笑った。
夢絃は笑みこそ浮かべなかったが、その声音は少し慈愛を含んだモノとなった。
「して、いかがする。童仙」
「旅へ戻りまする」
「ソレはわかっておる」
「……村を再度、抜けようと思います。先のような失態は二度と致しませぬ」
「ソレがよい。だが用心せよ。お主の旅の連れは村を抜けたようだが、その後から村の雰囲気が妙であるようだ」
「恐れながら、妙とは」
「わからぬ。お主にはソレについても突き止めてもらいたい」
「委細承知いたしました」
童仙はそう言い、平伏した。
村で突き止めなければならないコトの中に自ら、“あの声の主の正体について”を含めながら。
◇◇◇
童仙は日の出と共に、旅路に戻った。
その駿足は飛脚よりも速く、かつての道をなぞらせた。
再びの旅路を下半身に任せながら、童仙は頭の中で昨夜の会話の終わりをなぞっていた。
『夢絃先生、皆が村を無事に抜けたというのは、村の見張りからの便りですか』
『いや、ソレよりも先にわかっていた。“まれびと”殿に短刀を持たせたであろう。アレは儂の分身なのでな』
『そのような術があるのですか』
『霊を分けるコト自体は容易い。その資格を得るのは易くないが喃。いずれお主にも教えよう、童仙』
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる