カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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テラ・ドス・ヴェルメロス(12)

暗黒山脈(7)

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飛行装置“アズール”の蒸気が雪を溶かした地面に、オクルスは降り立った。

「大丈夫だ。来いよ」

オクルスが上空に呼びかける。
ソレを聞いて他の三人、アルマージュ、ララ、レインスも順番に着陸した。

「結構、雪が残ってますね」

「そうね。私たちの国、ヴェルメロスの春先ぐらいの雪の量ね」

ララが指先で雪をすくう。
レインスは膝に手を当てて、その雪に顔を近づけた。

「アルマージュ、用意した装備で行けそうか?」

「ああ、ヴェルメロスが北国で良かったって感じだ。暗黒山脈は全体的に雪景色なのか? 眩しくて、暗黒とは真逆って気がするぞ」

「いや、気温が低いのは暗黒山脈でも北部の部分だけらしい。ソレに暗黒山脈の“暗黒”は別に色合いからきてるワケじゃあない」

「ああ、ソレは知ってる」

「なんだよ」

「ヤバ、少し降ってきたわ」

レインスの声を聞いて、皆が空を見上げた。
ちらちらと白い粒が降下してくる。

「装備を急ぐか」


◇◇◇


ちらちらと降り始めた雪は、すぐに吹雪始めた。
数十m先はホワイトアウトし、見通しが悪くなっている。

一行は防寒具に装備を替え、雪の中を進んでいた。
降り立った地の雪の深さはせいぜい5cm程度だったが、今では膝下辺りまでとなっている。

先頭を行くオクルスの肩に、レインスの手が触れた。

「どうした?」

「進み始めて、どのくらい経ってる?」

オクルスが懐中時計を取りだす。

「2~3時間ってトコロだ」

「一旦、休まない? 結構初っ端から過酷すぎるし、すぐに吹雪いたってコトは逆に、その時がきたらパタリと止むっていう希望的観測もできないかしら」

「確かに希望的観測だな。でも、現実に則したオプティミズムな考えだとも思う」

「オッケー。じゃあ決まりね」

レインスが後方の二人にも、その旨を告げる。
ララとアルマージュの顔にも、安堵の表情が浮かんだ。


◇◇◇


「結構進んだか?」

主に赤みがかった金色の、暖色系の光が冷えた体に嬉しいテントの中で、アルマージュが装備を外しながら言った。
テントの中央では地面の上にオクルスが古い地図と製図器具のコンパス、方位磁針と懐中時計を広げている。

「いや、距離的にはそんなだ」

「旅としては難しい……ですかね?」

「いや、ララさん。こうなるコトはある程度予想してたから、大丈夫だよ。雪中行軍は安全第一」

「そうそう、だからこのテントも標準装備で持ってきたワケだし」

レインスが片手でテントを示す。

オクルスが開発したこのテントは、初めは小さな四角形の板だった。
地面に設置すると自動的に拡張し、今の形となった。

内部は暖かく、基本的な内装は既に配置されていた。
空調や照明、果ては食糧貯蔵庫や調理器具のような機械も動作していたので、ララは入ってみて驚いた。
開発者オクルス曰く「魔術と蒸気機関の合わせ技だよ」とのコトらしい。
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