カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

文字の大きさ
282 / 307
ラスト・コンテクスト Part2

プリマキナ・オルソグナス(24)

しおりを挟む
沈黙が続く。

「……どうやら、意見はまとまったようだな。今の我らには、静寂を愉しむ時間はあるまい。ツヅキ殿、よいかね?」

「ええ、オレは構いませんが……皆の方は?」

「聞いてたわ」

メイの声が心に響く。

「今のトコロ、ソレしかないと思う……いいんですよね、ヴァーシュ卿?」

「うむ、私とツヅキ殿でデル・ゾーネへ戻る」

「どうやって戻るんです?」

「方法は一つしかあるまい。神器の一つ、鏡を使うのだ」

“場重ねの鏡”……暗黒山脈と外部の遠隔地を直接繋ぐ方法は、確かにソレしかなかった。
デル・ゾーネの一行もかつて、その力で暗黒山脈までの距離と時間を短縮したのだ。

「横から申し訳ないんですがぁ……あ、デル・ゾーネのウィー・シュタッシュトルテですぅ」

「知っておる。どうしたかね?」

「恐縮ですぅ。あの、お二人がココから去るとなると戦力が大きく削がれると思うのですが」

確かに、ヴァーシュと急須――砲瓶――の使える“ゼルテーネ”であるツヅキがいなくなるのは、二人とはいえ大きな戦力の喪失だった。

「埋め合わせになるかはわからないが……U.J.Iの“身体の分けられる”彼女と、ヴェルメロスの少年たちが各々の力を発揮できるようにしよう」

「せ、生体偽装魔法ですか!?」

カップの声だ。
その声からは、珍しい魔法を見るコトができるかもしれない期待感が隠しきれていなかった。

「さよう、その後は皆の努力次第だ。すまない」

「わかりました……じゃあ、お願いします」

メイの返答を聞くと、ヴァーシュは詠唱を行い、杖を振った。

「よし、では行くぞ」

「ええ。皆、悪い」

「大丈夫よ。アイツは私たちが何とかする」

蜘蛛の“炎”が薄まりつつある。

ヴァーシュが目の前の空間に杖を伸ばす。
その先に小さな点が現れたかと思うと、ソレが拡大した。

拡大した先の空間は、静かな廊下だった。
“口頭試問”の際に歩いた廊下だ。

ヴァーシュは歩みを進め、中に入る。
ツヅキもソレに続いた。

二人が向こう側へ消えると、空間は閉じた。
ちょうど蜘蛛の“炎”も消え、雄叫びを上げる。
“再開”の合図だ。

「さあ! ココからが本番よ!」

「ああ! 飛べなくっても全力でやるぜ!」

メイの傍らのオクルスが答える。
メイは彼を勢いよく振り返った。

「え? もう飛べるハズよ? さっきの話、聞いてなかったの?」

「え!? ……マジじゃんか! “アズール”が起動するぜ! やった! さっきの話ってなんだ? コレのコトか?」

「ええ、ヴァーシュ卿が生体偽装魔法を行ったから……」

「マジかよ! マジありがとうじゃんか! おーい皆、アズールが使えるぞ! ジュディの姉ちゃんも動けるんじゃあねえか!?」

それぞれが各々の機械を確認し始めた。

「ちょっと待って。ドコから“通信”を聞いてなかったの?」

「ドコって……なんか鍵の破壊を急がないとみたいなトコまでは聞いたぜ? 結論はでたのか?」

「結論どころか、ソレがでたから、ヴァーシュ卿とツヅキくんは戻ったのよ?」

「戻ったってドコにだ!? ……マジでいないじゃあねえか!」

オクルスが、ツヅキらがいた方向を確認して言った。

「何か……やっぱりおかしいわ」

メイの背筋に冷たいモノが走る。
しかし雄叫びを上げ終わった巨体は、その心配と焦燥に対処するコトをコレ以上許してはくれなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

処理中です...