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ラスト・コンテクスト Part3
越境(1)
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その廊下はオートラグ本部、大法廷へ続く道だった。
ツヅキには良い思い出がない。
背後を振り返ると、暗黒山脈を鏡が映していた。
だが、すぐにいつもの景色を映しだす鏡へと戻った。
廊下の真ん中に鏡が鎮座しているのは奇妙な光景だ。
ソレにしても、この鏡が“学校”ではなくココにあるのは準備が良すぎないか?
鏡の右上の端“も”少し欠けている。
その欠けの正体は、鏡自体が古いコトと、端の欠けが複数あるコトによって、知っていなければわからないモノだ。
「ツヅキ君、久しぶりだね」
声の方を向く。ヴァーシュではなかった。
メイの父親、デイル・ペイルンオーリンだ。
「ええ、久しぶりですね。デイルさん」
「その……娘は元気かな?」
「……。ええ、大丈夫です」
デイルは“旅”にでる前に、あわや存在を消滅させられそうになったツヅキを助けてくれた張本人だ。
だが、その行為自体は『オートラグ』に反対する行為だったので、ソレを悟られぬために自らの記憶を一時的に消している。
そしてどうやら未だ戻っていないらしい。
“団長”曰く『記憶が戻るスイッチ』があるらしいが……。
「デイル、すまない」
「問題ありません、ヴァーシュ卿。鍵の破壊ですね」
「ああ、準備はできているか?」
「ええ」
「ありがとう……。ツヅキ殿、急ごう」
ツヅキは頷く。
ヴァーシュは歩もうとして立ち止まった。
「おっと。デイル、もう一つだけ頼みがある」
「どうしました?」
ヴァーシュは懐から手紙を取りだした。
「コレを『茶舗』に届けてもらいたい」
「今ですか?」
「うむ、急ぎのモノなのだ。頼む」
「……わかりました」
デイルはソレを受け取ると、ツヅキの肩に手を乗せた。
「娘を頼んだぞ」
「なっ、何を言ってるんです!?」
デイルはその返事を聞いて、笑って走り去っていった。
「さあツヅキ殿、急ぐぞ」
◇◇◇
ヴァーシュが前に立つと、その大きな扉は開いた。
かつて口頭試問が行われた、大法廷だ。
当時は取り囲むようにオートラグの面々がいた法壇は、今は誰も座っていない。
そして証言台の位置には、巨大な機械が鎮座していた。
ツヅキはその機械に似たモノを見たコトがあった。
巨大なテスラコイルに、どことなく似ている。
中央の球体の真下には、椅子があった。
機械の前まで、二人は歩いていく。
「不思議なモノだな」
「え?」
「かつて私は、自分がこのような選択をするとは思ってもみなかっただろう。だが、今は自ら選んだ選択に後悔はしていない。私の基本原則は、大切な人々を守るコトだからだ。ツヅキ殿、キミも同じかね?」
「……まあ、そういう行動原理に近いとは言えると思いますが」
「ふむ。ならば、お互い理解できると信じたいな」
機械の前まで辿り着く。
いつの間にかヴァーシュは右手に杖茶杓を持っていた。
その先を少し、ピンと跳ね上げる。
ツヅキのバッグの口が開き、中からペンダントが飛びだした。
ヴァーシュはソレを受け取る。
「コレも、返ってくるとは思っていなかった」
ヴァーシュは一瞬間、ペンダントを眺めると、すぐに杖を収めた右手で目の前の操作盤をタッチした。
操作盤の表面から少し浮いた空間に、緑色に輝く魔術回路が顕現したかと思うと、テスラコイルの表面に紫色の雷が走りだした。
「ヴァーシュさん……?」
ヴァーシュは左手をツヅキに伸ばし、機械に向けて振った。
ツヅキは機械の椅子目がけて吹き飛ばされた。
ツヅキには良い思い出がない。
背後を振り返ると、暗黒山脈を鏡が映していた。
だが、すぐにいつもの景色を映しだす鏡へと戻った。
廊下の真ん中に鏡が鎮座しているのは奇妙な光景だ。
ソレにしても、この鏡が“学校”ではなくココにあるのは準備が良すぎないか?
鏡の右上の端“も”少し欠けている。
その欠けの正体は、鏡自体が古いコトと、端の欠けが複数あるコトによって、知っていなければわからないモノだ。
「ツヅキ君、久しぶりだね」
声の方を向く。ヴァーシュではなかった。
メイの父親、デイル・ペイルンオーリンだ。
「ええ、久しぶりですね。デイルさん」
「その……娘は元気かな?」
「……。ええ、大丈夫です」
デイルは“旅”にでる前に、あわや存在を消滅させられそうになったツヅキを助けてくれた張本人だ。
だが、その行為自体は『オートラグ』に反対する行為だったので、ソレを悟られぬために自らの記憶を一時的に消している。
そしてどうやら未だ戻っていないらしい。
“団長”曰く『記憶が戻るスイッチ』があるらしいが……。
「デイル、すまない」
「問題ありません、ヴァーシュ卿。鍵の破壊ですね」
「ああ、準備はできているか?」
「ええ」
「ありがとう……。ツヅキ殿、急ごう」
ツヅキは頷く。
ヴァーシュは歩もうとして立ち止まった。
「おっと。デイル、もう一つだけ頼みがある」
「どうしました?」
ヴァーシュは懐から手紙を取りだした。
「コレを『茶舗』に届けてもらいたい」
「今ですか?」
「うむ、急ぎのモノなのだ。頼む」
「……わかりました」
デイルはソレを受け取ると、ツヅキの肩に手を乗せた。
「娘を頼んだぞ」
「なっ、何を言ってるんです!?」
デイルはその返事を聞いて、笑って走り去っていった。
「さあツヅキ殿、急ぐぞ」
◇◇◇
ヴァーシュが前に立つと、その大きな扉は開いた。
かつて口頭試問が行われた、大法廷だ。
当時は取り囲むようにオートラグの面々がいた法壇は、今は誰も座っていない。
そして証言台の位置には、巨大な機械が鎮座していた。
ツヅキはその機械に似たモノを見たコトがあった。
巨大なテスラコイルに、どことなく似ている。
中央の球体の真下には、椅子があった。
機械の前まで、二人は歩いていく。
「不思議なモノだな」
「え?」
「かつて私は、自分がこのような選択をするとは思ってもみなかっただろう。だが、今は自ら選んだ選択に後悔はしていない。私の基本原則は、大切な人々を守るコトだからだ。ツヅキ殿、キミも同じかね?」
「……まあ、そういう行動原理に近いとは言えると思いますが」
「ふむ。ならば、お互い理解できると信じたいな」
機械の前まで辿り着く。
いつの間にかヴァーシュは右手に杖茶杓を持っていた。
その先を少し、ピンと跳ね上げる。
ツヅキのバッグの口が開き、中からペンダントが飛びだした。
ヴァーシュはソレを受け取る。
「コレも、返ってくるとは思っていなかった」
ヴァーシュは一瞬間、ペンダントを眺めると、すぐに杖を収めた右手で目の前の操作盤をタッチした。
操作盤の表面から少し浮いた空間に、緑色に輝く魔術回路が顕現したかと思うと、テスラコイルの表面に紫色の雷が走りだした。
「ヴァーシュさん……?」
ヴァーシュは左手をツヅキに伸ばし、機械に向けて振った。
ツヅキは機械の椅子目がけて吹き飛ばされた。
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