カメリア・シネンシス・オブ・キョート

龍騎士団茶舗

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ラスト・コンテクスト Part3

越境(12)

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童仙は相手から一定の距離を取りつつ、しかし立ち止まることなく様子を窺っていた。
相手は、自らの周りを動く童仙を常に視界の中心に収めながら、だがそのフードから覗く口元には余裕を湛えている。

相手は杖茶杓を軸に使った、魔力で実体化させた剣を両手で構えていた。
童仙は右手に刀を、左手で鞘を掴みながら、相手の隙を探す。

「その殺気刀身に満ちたる構え……元々、剣の道に精通している方だとお見受けいたします」

相手は何も答えないが、口元の歪みをやや増した。
童仙は刀を鞘に納め直すと足を止め、居合の構えを取る。

「いざ参る」

二人に分裂した童仙が左右から相手に襲いかかる。
その刃は、相手の眼前で止まった。

敵は魔力の剣を両手に構えた、二刀流となっていた。
それぞれの童仙の刃を、片手ずつで受けとめている。

「……流石。ですが、余裕は少し減じたようですね」

フードの口元はまだ笑みを湛えているが、その横には小さな汗が流れた。


◇◇◇


鍔迫っている童仙を、二つの影が杖を構えて狙っていた。
彼らが魔力を放とうとした瞬間、それぞれの元へ空を切って飛来するものがあった。

影が慌てて、ソレらを回避する。
飛んできたものが壁に穴を開けた。
一つはこぶし大の石だと確認できたが、もう一つは何も残していない。

飛来元を視線で追う。
フランシスとブレーズが立っていた。

「遠距離戦なら」

「………が……です」

「私たちが相手だってよ」


◇◇◇


「えぇいっ!」

ウィーは壁の一部を引き剥がし、敵の上へ倒壊させた。
息を切らしている。

「こ、コレなら……どうですかぁ……?」

その答えは、瓦礫の粉砕音で返ってきた。
フードはどういうワケかまだ無事なものの、筋骨隆々な腕にかけては既にビリビリに破け、脚の部分ももはやはち切れそうになっている敵が姿を現す。
壁の重みなど何のそのという感じで。

「くそっ、やりがいありますねぇ!」

ウィーは改めて杖を構え直した。


◇◇◇


「ぐぅっ!」

カップは吹き飛ばされた。
相手の攻撃を受けて、だ。

しかし相手も苦い顔をフードから覗かせる。
カップは攻撃を食らったのではなく、受けただけだったからだ。

敵が使っていたのはナイフだった。
カップは自らの周囲に防刃ベストのように、自らへの方向に反発する小さな重力圏を構成していた。
そしてそのマントは、上に流れている。

いや、カップたちは崩落した天蓋の端、つまり大法廷の天井の一部で戦っていた。
カップは重力を操作して、敵は何らかの方法で天井に“立っている”。

敵は俊敏に動きながらカップを斬りつける。
カップはソレらを防御しつつ圧されながらも、上手く受け流していた。
時に天蓋の端から端へ飛び回りつつも、防御を徹底する。

敵は舌打ちしたが、カップから一旦離れると、勝利の笑みを浮かべた。

カップが疑問に目を見開く。
すぐに敵の作意はわかった。

天井の至る所、天蓋があった場所の空中にも、無数のナイフが魔力で固定されている。
敵が指を鳴らすと、戦闘中に密かに配置されていたソレらが、一斉に落下し始めた。
眼下の旅団の仲間たちの頭上に向かって。

「させません!」

カップが杖を振るう。
ナイフは静止し、向かう方向を逆転させた。

敵がカップを斬りつける。
カップはすんでのトコロで避けたが、衣服の裾が切り取られてしまった。
無数のナイフに魔力を割いたコトによって、防刃ベストが消えてしまったのだ。

ナイフたちが天蓋から虚空に消えたか、もしくは天井に突き刺さったのを確認し、その透明のベストを回復させる。
敵は自らの衣服を捲ると、その内側の余りあるナイフ群を見せてきた。

カップは恐怖したが、唾を飲み込み意識を集中した。
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