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1章 なんで月に町が? なにそれ魔法??

天才魔法使い、和泉心温!③

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 「では、ジュリエット様がご依頼されたことをするため、場所を移動しましょう」
そういわれ、心温はタラべコスパについていく。
 移動した部屋は、訓練した部屋の隣だった。
ホコリが床にたまっているのが分かる。
「ここの掃除です。心温様ならできるかと」
タラべコスパは、そう言いながら電気のスイッチに手を伸ばす。
だが、何回押してもカチッカチッと音を立てるだけで、電気は点かない。
「あれ……、おかしいな……」
どうやらここだけ停電しているようだ。
「タラべコスパさん、任せてください」
心温は自信ありげにそう言った。
そして、電気のスイッチに触れた。
「【ライトパワー】」
そして、もう一回スイッチを押すと――
パッと、電気がついた。
よし、アレンジ成功! と思い、心温はガッツポーズをした。
「では、このホコリを集めて、捨ててください」
やっぱりそういう事だ。と、心温はタラべコスパの言葉で確信した。
もちろん、プランは立ててある。
「【ウィンドボール】」
心温の広げた右手から、心温の顔より大きい風の球が現れる。
地味に、タラべコスパも驚いてる。
彼が先ほど出した【ウィンドボール】は、テニスボールほどのサイズだったからだ。
そして、【ウィンドボール】の後ろに左手を広げ、
「【ウィンド】」
と唱えた。
こうすることで、【ウィンド】で運ばれたホコリが、【ウィンドボール】の中に入るのである。
心温は、そう考えていた。
心温のもくろみ通り、ホコリが【ウィンドボール】の中にたまっていく。
 そして、もう【ウィンド】で運ばれるホコリがなくなった頃、心温はウィンドボールを顔の前に浮かべた。
そのあと、手で左右から【ウィンドボール】に力を込めた。
【ウィンドボール】がキュッと圧縮され、ホコリも圧縮される。
――それを続けること数分、【ウィンドボール】は消滅した。
中に入っていたホコリも、無い。
「タラべコスパさん、終わりました‼」
それはほんの数分の出来事だった。
タラべコスパは心温に話しかけられ、我に返った。
難なくこなしていく心温に呆然としていたのだ。
「え、あ、では、戻りましょう。ジュリエット様がアップルパイを作っていらっしゃいますから……」
だが、心温が訓練と掃除に使った時間は、たったの十数分。
アップルパイなどという手間のかかる料理が、完成しているわけないのだ。
 「ジュリエットさーん‼ 終わりました~」
心温は、元気な声を上げてリビングに戻った。
まだ驚いたままのタラべコスパをよそに。
案の定まだつながっている隣のキッチンでリンゴを炒めていて、リンゴにラム酒とレーズンを入れているところだった。
「あれまあもう終わったの? ちょうどいいわね。心温ちゃんにおつかいを頼みたいの。卵が二つしかなかったのよ。だから、卵を買ってきてくれる?」
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