シャドラ ~Shadow in the light~

Crom

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第1章:Blue Blood Panic

3.始まりは突然に

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≪前回のあらすじ≫

何か月もまともな依頼(仕事)が無く、そろそろ生存&借金がピンチ。
相棒をおちょくって遊んでいたら新品のフライパンが壊れた。
妹激怒で更にピンチ。

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 「朝から誰かさんのせいで酷い目にあったなーー。」

 「その誰かさんってのはお前のことなんだよなぁ?あぁ?」

 うだつのあがらない昼下がり。
 今日も普段と変わらぬ愉快な漫才を繰り広げるカイルとリュウガは、今朝の出来事を思い出しつつモスグルンの中心部へ向かっていた。



 「とにかくっ、お二人は今私たちが置かれている状況を理解しているんですか?」

 朝っぱらからいい歳した男二人が床に正座させられて少女に説教をされているという奇妙な光景がそこにはあった。

 「お二人が最後に仕事をしたのはいつですか?」

 「・・・・・・・いつだったけかなぁ。ねぇ、リューガは覚えてる?」

 「さぁな。」

 真剣に思い出せない、といった様子のカイルとは違いリュウガは完全にそっぽを向いている。

 サクラは腰のベルトと一体になったポーチからよく使い込まれている手帳を取り出し、ダメな大人二人の代わりに「約一ヶ月前の盗賊討伐の仕事が最後です。それ以来依頼の1つも来ていません。」と答えた。

 「へぇそんなに経つのか(以来と依頼をかけてるのか?)それは確かにヤバイな。」

 「以来と依頼をかけてるの?上手い!座布団一枚!」

 反省の欠片も無く空気を読まず、思った戯言をそのまま口にする兄に対し、一瞬可哀相なモノを見る目になるサクラ、ため息をつくリュウガ。

 「気づかなかったんですか?ここ数日ほとんどパンの耳しか食べていないんですよ、私たち!炭水化物オンリーです。たんぱく質なんてもはや夢です。ビタミンですら厳しい状況ですよ!!」

 「改めて聴かされるとマズイ状況だな、これじゃあセントラルに店を移すなんざ夢のまた夢だ。」

 「確かに借金の返済引き延ばすのもそろそろキツイしなぁ。」

 「とにかくっ、もう仕事を待ってるような余裕はありません。この際なんでもいいですから仕事をもらってきてくださいっ!!」
 
 サクラがまだいまいちやる気がなさそうなカイルとリュウガを外に追い出そうとしたその時、静かに事務所の扉が開くのが見えた。
 
 そこには見るからに上質な生地でキッチリ仕立てられたスーツを着こなし銀縁の眼鏡をかけた男が屈強な護衛を二人従えて立っていた。
 
 「相変わらず汚い店だな、カイル・ブルーフォード。」

 「あぁ、お久しぶりですねぇアー君卿。わざわざこんな辺鄙なところへようこそ。」

 「アドルフ卿だ。店の汚さもそうだがお前の無礼さも相変わらずだな、カイル。」

 「いえいえ滅相もございません。昔のことをいつまでもネチネチネチネチ根にもって毎度毎度国家権力を盾にやっかいごとや無理難題を押し付けていかれるアドルフ卿に私ごときがご無礼を働くなどとてもとても。」
 
 「ふん、昔と今じゃあ立場が違う。今やお前はしがない傭兵崩れ、俺は政府の高官だ。身をわきまえろ。」
 
 心底忌々しいと感じているのだろうか、その感情をまったく隠すそぶりも見せずアー君卿こと、アドルフ・ヴァルトは苦々しい表情を見せた。

 「まぁ、昔なじみの挨拶はこの辺にしましょうかね。それで、ご用件は?」

 いつものふざけた雰囲気とは変わり、少し真顔になってカイルは尋ねた。

 「単刀直入に言おう。ある事件の解決に協力して欲しい。最近変死事件が多発していることは知って
いるか?」

 「血の無い死体事件。まるで干からびたかのように死体から血液が抜きとられているっていうあれ?」
 
 「・・・流石にに情報が早いな。緘口令を敷いているはずなのだが。」

 ある程度情報をつかんでいることは予想していたとはいえ、それでもアドルフは驚いていた。
 それほどまでにカイルの情報網は広いのである。

 「ここ2週間ほどでそんな変死事件が6件か。とりあえずはただの通り魔殺人と発表しているがそろそろ真実を隠すのにも限界、ってところなのかな?」

 「あぁ、我々としても警察隊を使い手は打っているのだが、あまり効果が見受けられない。そこで気に入らないが貴様らに仕事をくれてやろうというわけだ、この不景気に感謝したまえ。」

 「どうして治安部隊を動かさない?」

 それまで黙って話しを聞いていたリュウガが口を開いた。

 「警察隊で対処しきれないなら軍を動かすのがセオリーだろうが。そこまで状況を掴んでおきながらどうしてわざわざ俺たちのようなやつらに、お前のような立場の人間が直々に依頼をする?」

 「それはだな………」

 多少の逡巡の後にアドルフは重い口を開いた。
 
 「実は我々はこの一連の犯人を「吸血鬼」の仕業ではないかと睨んでいるのだよ。」

 「あれ?アドルフってそんなにメルヘンちっくな人だったっけ?吸血鬼なんてものはとっくに絶滅してる事なんて小さい子でも知ってるよ?」

 「真面目に聞きたまえ。残念ながらこれは事実なのだよ。ここ数日はずっと雨続きだったが事件の起きた六日間の夜だけは全て晴天で夜には月がでていた。そして被害者の死体の異様さ。それに月光の下で生き血を啜る人影をみたという目撃証言もある。伝説やメルヘンのために我々は動いたりしない。」
 
 はたから聞いていればとても信じられないような話だがアドルフは至極真面目に語り続ける。

 「そんな化け物を倒すにはこちらも化け物を使うのが道理だろう?」
 
 アドルフの言葉にカイルは黙ってただ妖艶に微笑んだ。
 美しい外見からそれは聖者のような、しかし少し見方を変えるとまるで悪魔のような笑みだった。
 
 「それに、貴様らのようなチンピラが何人闇に消えたところで誰も気にもしまい?」

 「・・・なるほど、よくわかりました。その依頼、引き受けましょう。ですからそんなにピリピリしないでくれませんかねぇ。」
 
 そんなカイルの言葉に答えるようにアドルフの護衛たちは腰の拳銃から手を離した。
 ただの一護衛を装ってはいるが、わざわざアドルフが連れてくるあたり、腕は立つのだろう。
 
 「賢明な判断だ。どのみちここまで話をした以上、お前たちに拒否権はない。」

 アドルフも少し安心したかのようにさきほどより落ち着いた口調で言った。
 立場上冷徹な政府の高官を演じてはいるが、昔馴染みのカイルに対し不意に本来の人の良さが出てしまうところがある。
 おそらくはカイルが依頼を断ったとしても何もしなかったであろう。
 そういうところがまたカイルにからかわれる要素となっているのだが。
 
 「あの・・・、ではまずはその目撃者の方にお会いして直接お話を伺わせて頂くことは出来ませんか?ただ吸血鬼といわれても正直よくわかりませんし。可能であればその方と面会させて頂きたいのですが。」

 アドルフのカップにコーヒーのお代わりを注ぎつつサクラが少し不安そうに尋ねた。
 
 「それなら心配には及ばない。目撃者ならばすでに君たちと面会している。」

 「どういう意味だ?」

 リュウガが怪訝そうに問う。

 「その目撃者とは私自身なのだよ。」

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~登場人物紹介~

・アドルフ・ヴァルト(new):偉い眼鏡。いわゆる貴族官僚。カイルとは旧知の仲。

・カイル・ブルーフォード:「なんでも屋 BLITZ」を営む。アドルフをイジル数少ない人物。

・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):「なんでも屋 BLITZ」のメンバー。アドルフをイジル数少ない人物。

・サクラ・ブルーフォード:カイルの妹。コーヒーを淹れるのが上手。
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