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第2章:Drug & Monsters Party
6.孤狼達の主
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≪前回のあらすじ≫
怪我をしたサクラに代わり当面の調理担当を決定する
第一回料理対決がアドルフ邸宅の一角を借り開催された。
=============================================
大国アルフェニアの中央都市モスグルン。
その中心街、カイル達が店を出したがっているエリアは通称セントラルと呼ばれており、その中でも政府、軍関連施設などの国家機構、更に有力貴族達居住地の集まる区画が、上層区画(アッパー)と呼ばれている。
上層区画(アッパー)は、その境界線は高い塀と幾重の門でくぎられており、さながらセントラル内に別の小さな国家が存在しているかの光景である。
上層区画(アッパー)の中でも中央に位置する一際大きな建物。
存在感のある白を基調とした堅牢な外壁が陽光を受け、一際気高い光を放っている。
その最上階のとある1室。
光沢のある黒革張り大きなデスクチェアに深く腰掛け、青と金の装飾が特徴的なカップとソーサ―でゆるりと茶を飲む人物がいた。
白を基調としたタイトな軍服に身を包み、化粧気は無いが、涼し気な印象を与える整った顔立ちと白い肌、通常より赤みの深い鳶色の瞳、そして青みがかった長い髪をアップスタイルに束ねたどことなく退屈そうな様子の美女。
彼女こそがこの部屋の主、『フェンリル』の頂点にしてこの国が誇る鬼才、ガンマ・グレイブヤードである。
そんな彼女の眼前、まっすぐ背筋を伸ばし、やや硬い表情で直立不動の者がいた。
紙の束を大型のクリップでボードに留めたものを小脇に抱えているのを見るところ
おそらくはガンマの秘書官であろう。
「失礼します」
彼女はどことなく緊張の見てとれる面持ちのままソロソロと、よく磨かれた高級天然木材拵えの天板に静かに書類の束の一つを置いた。
その過剰なまでにバカ丁寧な所作の節々には、上官であるガンマの気紛れかつ読めない独特の思考、気質への警戒を多分に含んでいる様子が容易に見て取れる。
そんな爆発物にでも触れるかのような秘書官の挙動とは全く対照的にデスクに置かれた紙の束を指先でツマラナサそうにパラパラとめくりながら、やや気だるそうにガンマは口を開いた。
「じゃ、さっそく報告を聞こうか」
「はっ、5番小隊、カルラ・イェーガ隊長及びルー・ガルー副長は、先日西方都市から救援要請のあった事案、異常発生している魔獣群の討伐任務に出発。先刻前より交戦を開始した模様。現時点での見通しでは約2週間程度後には帰還の目処が立つとのことです」
「ふむ、予定通りだね。6番小隊の試作兵器は持たせているのだろう?いい機会だ、しっかり実地テストをしてくる様、念を押しておいておくれ」
「畏まりました。次は.....。」
「結構。他の要件については、キミの持ってきた資料で概ね理解したよ。定例報告はもういい。代わりにここに書かれていない件で幾つか確認させてほしい」
今の秘書官とのやりとり、この短い間に驚くべき速度で卓上の分厚い資料に目を通し終わったガンマが紙面から顔を上げて彼女に問う。
「はい、どの案件についてでしょうか」
「そうだね、私が聞きたいのは3つ。まず1つ目、ファントッシュの行方は掴めたかい?そろそろアーテがキャパシティオーバーをおこして癇癪を起こしているころだろう。なにせ3番小隊には新たにあれこれオーダーを出したからね」
副長のキャパオーバーによる癇癪、あれこれオーダーを出したという言葉を発した際に含まれた声のトーンで秘書官はすぐに察した。
退屈しのぎにガンマがわざとそういう状況を作り出し面白がっていると。
「申し訳ございません。未だ3番小隊隊長の消息は掴めておりません。現場からは、高位悪魔召喚に失敗したと思われる痕跡が確認されていますが、それ以外に手がかりがなく。これといった進展が無い状況です。また、副長のビスクドール様はご明察のとおり、先日特大の癇癪を起こされ、また『人形工房』を半壊させてしまいました」
「確かに、悪魔をコアに封じ込めた新たな戦闘魔導人形を生み出す試行をする報告は受けていた。その直後の事故・・・と考えるのが至極楽な方法なのだろうけれど、あの偏執的に神経質で細かい彼がたかが召喚儀式に失敗したとは考えにくい。そうだな、他国への亡命の視点も含めて引き続き捜索に当たるように伝えておくれ。くれぐれも情報の取り扱いには注意しろとも。本部の豚どもに悟られるとあまり面白くない。必用であれば2番小隊に協力を仰ぐように。それと何とかアーテの機嫌を取っておくれ、さすがにこう頻繁に施設を破壊されては堪らない。方法?フフ、それはキミに任せるよ」
荒れ狂う3番小隊副長、アーテ・ビスクドールにガンマの言伝を伝えに行った時の反応を想像すると今から胃が痛い。
しかも彼女が2番小隊の隊長、副長を毛嫌いしている事を知っているだろうに。
平時でさえ伝え方に悩む内容であるのにそれを頭に血が上った状態の彼女に伝えに行くこっちの身にもなってほしい。
下手をしたらその場で手足をバラバラにされ肉マリオネットにされかねない。
そんな秘書官の内心の葛藤を見透かしているかのように、ガンマは小さく笑みを浮かべて静かに彼女の様子を観察している。
3番小隊にどうやってガンマの言伝を伝えようか、ひとしきり秘書官がぐるぐると思考をめぐらせた頃間伐入れず次の問いが飛んできた。
「さて、次だ。ガスパロの後任候補選出の状況は?」
「はっ、まだ8番小隊内で意見がまとまっていないようです」
「遅いね。さっさと明日までに候補者を選定させるよう伝えておくれ。ここのところ失態続きだ、これ以上もたつくようなら解体も視野に入れるとも。最後に例の件は、どうなっているかな?」
天板に肘をつき、心なしか身を乗り出すガンマ。
やはり本題はこれか。
「引き続きフランシスカ隊長自ら率先して対応にあたっております。また、サンプルの拡散状況についておおむね計画どおり進捗していると報告を受けております」
「ふむ、いいだろう。そちらは引き続きエリスに一任する。ご苦労さま、下がっていいよ」
「はっ、失礼します」
定時報告を終えた秘書官が退室したあと、ガンマはくるりと椅子を回転させ立ち上がり背後の窓から、外を眺める。
上層区画(アッパー)は丘の上に位置し、この建物の最上階からはモスグルン全域の景色が広く見渡せる。
虚空を眺めるその瞳は、一体その先に何を映しているのか。
「フフン♪、フフフん♪~」
「これは珍しい。何か良い事でもありましたかな、ガンマ様」
窓の外を眺めながら、上機嫌で鼻歌を歌う彼女に背後から声をかける者があった。
その声の主は、秘書官と入れ替わりに重たい扉を開けて入ってきた人物。
前線の重装機銃隊のモノとはまた違う、ある種時代錯誤にも見える白銀の鎧と外套の男。
長く伸ばされたダークグレーの髪は獣の毛並みを彷彿とさせるうねりを帯びており、その眼光は鋭い。
身にまとう気配と相まって、どことなく狼のような肉食獣をイメージさせる精悍な壮年の男性である。
そして、腰には漆黒の鞘に収められた豪壮の長剣が一振り下げられている。
その姿はさながら主君に仕える騎士そのものである。
「あぁ、ヴァンダインか。いや、何ね。もうすぐ面白そうなイベントが開かれる予定でね。楽しくってつい」
ガンマはまたしてもクスリと笑みをこぼす。
彼女の言う『イベント』の正体知っている彼は、その光景に新しいおもちゃを買ってもらいはしゃぐ子どもの様な純粋さと、底知れない狂気を感じとった。
濃密な知性に散りばめられた純粋さと狂気。
彼女は自らの執り行う凶事に一片の疑念すら抱いていない。
真の天才の考えは凡人には決して理解することはできないのだろう。
「カイル・ブルーフォードですか?」
何かを確かめるようにあえてヴァンダインは尋ねる。
「あぁ、そうさ。未来のことは誰にもわからない、と皆口をそろえて言うけどね時間とやる気さえかければ私は大概のことは予測できるんだよ。もちろん神のお告げとか超能力とかそんな類のものじゃなくて緻密な計算で、だけどね。でも彼は、カイルだけはいつも最後には私の予測を覆してしまう。今回の件で彼は必ず帰ってくる。それは分かる。その後彼が一体どんな動きを見せててくれるのか、実に興味深いよね」
「となると奴のことです、きっと考えなしの行動ではない。計画の一端を掴めば、間違いなく我々の妨害に動くでしょう。計画に支障が出るようでしたら、私が直接出向きますが」
「フフッ、かつての戦友にして弟子を手にかけるのに躊躇いはないのかい?君は結構義理堅人情に厚い人物だと思っていたんだけど」
「昔の話です。我々に牙を剝くというなら、容赦なく斬ります」
ガンマの投げかけた挑発するような言葉に対して、彼は強気に答えた。
主の意思に呼応するかのように手甲越しに触れられた、長剣の柄に埋め込まれている漆黒の宝石が鈍く輝きを放ったような気がした。
「流石、それでこそヴァンダイン。主の命令は絶対というわけだ?でも、そんなにギラギラしなくていいよ。知っての通り私は彼をとても気に入っているんだ。しかも彼は大切な研究のパートナーでもある。だから出来る限り丁重に扱って欲しいんだ。それに、もしあのカイル・ブルーフォードが本気を、己の身を省みずに力を振るったとしたら、君は彼を止められるのかい?」
「カイルは私が斬ります。二言はありません」
一瞬の沈黙の後に、ガンマは高らかに笑いだした。
「それは頼もしい限りだね」
ひとしきり笑った後、ガンマはそう呟くとヴァンダインに背を向け再び窓の外の虚空へと目線を移した。
「さぁ、今回の駒は「ブリッツ(BLITZ)」、「スカル」、「フェンリル」。そして「カイル」に「エリス」に「ヴァンダイン」か………。さて、物語を創るのは一体誰の剣
か、フフ………とても楽しみだよ」
何かを思考しながら机上のポットに手を伸ばし、2杯目の紅茶をカップに注ごうとしたガンマの手が止まる。
3度目もノック、次の来客のようだ。
「・・・今日はやけに多いな。ヴァンダイン、代わりに聞いておいてくれないかな。私は飽きた、少し外す。...........そうだ、最後に1つ。例の法案の件、しっかり追い込んでおくれよ。ここまできて否決されたらお話にならない。そのためにわざわざミシュラン家にまでちょっかいを出したんだから」
「はい、心得ております。決議投票期日まであと僅か、引き続き彼に働きかけを続けるよう念をおしておきます」
「ん、じゃあ後は任せたよ」
ヴァンダインの回答に満足したのか、ガンマは再び鼻歌を歌いながら、面食らう来訪者と入れ替わりにさっさと部屋を後にした。
同じモスグルンには居れども「フェンリル」の本部にてこのような会話が行われていることをまだカイル達は知る由もないのである。
=============================================
~登場人物紹介~
・ガンマ・グレイブヤード(new):若くして「フェンリル」を統括する鬼才。
科学者も兼ねており、自ら魔術、化学、工業を
掛け合わせた魔導兵器等数々の発明品を考案。
・ヴァンダイン(new):ガンマの副官。カイルが抜けた1番小隊の隊長を兼任。
カイルとは剣の師弟関係。
・秘書官(new):最近ガンマ付きとなった。
早速ガンマの退屈しのぎのとばっちりを被り悩んでいる。
怪我をしたサクラに代わり当面の調理担当を決定する
第一回料理対決がアドルフ邸宅の一角を借り開催された。
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大国アルフェニアの中央都市モスグルン。
その中心街、カイル達が店を出したがっているエリアは通称セントラルと呼ばれており、その中でも政府、軍関連施設などの国家機構、更に有力貴族達居住地の集まる区画が、上層区画(アッパー)と呼ばれている。
上層区画(アッパー)は、その境界線は高い塀と幾重の門でくぎられており、さながらセントラル内に別の小さな国家が存在しているかの光景である。
上層区画(アッパー)の中でも中央に位置する一際大きな建物。
存在感のある白を基調とした堅牢な外壁が陽光を受け、一際気高い光を放っている。
その最上階のとある1室。
光沢のある黒革張り大きなデスクチェアに深く腰掛け、青と金の装飾が特徴的なカップとソーサ―でゆるりと茶を飲む人物がいた。
白を基調としたタイトな軍服に身を包み、化粧気は無いが、涼し気な印象を与える整った顔立ちと白い肌、通常より赤みの深い鳶色の瞳、そして青みがかった長い髪をアップスタイルに束ねたどことなく退屈そうな様子の美女。
彼女こそがこの部屋の主、『フェンリル』の頂点にしてこの国が誇る鬼才、ガンマ・グレイブヤードである。
そんな彼女の眼前、まっすぐ背筋を伸ばし、やや硬い表情で直立不動の者がいた。
紙の束を大型のクリップでボードに留めたものを小脇に抱えているのを見るところ
おそらくはガンマの秘書官であろう。
「失礼します」
彼女はどことなく緊張の見てとれる面持ちのままソロソロと、よく磨かれた高級天然木材拵えの天板に静かに書類の束の一つを置いた。
その過剰なまでにバカ丁寧な所作の節々には、上官であるガンマの気紛れかつ読めない独特の思考、気質への警戒を多分に含んでいる様子が容易に見て取れる。
そんな爆発物にでも触れるかのような秘書官の挙動とは全く対照的にデスクに置かれた紙の束を指先でツマラナサそうにパラパラとめくりながら、やや気だるそうにガンマは口を開いた。
「じゃ、さっそく報告を聞こうか」
「はっ、5番小隊、カルラ・イェーガ隊長及びルー・ガルー副長は、先日西方都市から救援要請のあった事案、異常発生している魔獣群の討伐任務に出発。先刻前より交戦を開始した模様。現時点での見通しでは約2週間程度後には帰還の目処が立つとのことです」
「ふむ、予定通りだね。6番小隊の試作兵器は持たせているのだろう?いい機会だ、しっかり実地テストをしてくる様、念を押しておいておくれ」
「畏まりました。次は.....。」
「結構。他の要件については、キミの持ってきた資料で概ね理解したよ。定例報告はもういい。代わりにここに書かれていない件で幾つか確認させてほしい」
今の秘書官とのやりとり、この短い間に驚くべき速度で卓上の分厚い資料に目を通し終わったガンマが紙面から顔を上げて彼女に問う。
「はい、どの案件についてでしょうか」
「そうだね、私が聞きたいのは3つ。まず1つ目、ファントッシュの行方は掴めたかい?そろそろアーテがキャパシティオーバーをおこして癇癪を起こしているころだろう。なにせ3番小隊には新たにあれこれオーダーを出したからね」
副長のキャパオーバーによる癇癪、あれこれオーダーを出したという言葉を発した際に含まれた声のトーンで秘書官はすぐに察した。
退屈しのぎにガンマがわざとそういう状況を作り出し面白がっていると。
「申し訳ございません。未だ3番小隊隊長の消息は掴めておりません。現場からは、高位悪魔召喚に失敗したと思われる痕跡が確認されていますが、それ以外に手がかりがなく。これといった進展が無い状況です。また、副長のビスクドール様はご明察のとおり、先日特大の癇癪を起こされ、また『人形工房』を半壊させてしまいました」
「確かに、悪魔をコアに封じ込めた新たな戦闘魔導人形を生み出す試行をする報告は受けていた。その直後の事故・・・と考えるのが至極楽な方法なのだろうけれど、あの偏執的に神経質で細かい彼がたかが召喚儀式に失敗したとは考えにくい。そうだな、他国への亡命の視点も含めて引き続き捜索に当たるように伝えておくれ。くれぐれも情報の取り扱いには注意しろとも。本部の豚どもに悟られるとあまり面白くない。必用であれば2番小隊に協力を仰ぐように。それと何とかアーテの機嫌を取っておくれ、さすがにこう頻繁に施設を破壊されては堪らない。方法?フフ、それはキミに任せるよ」
荒れ狂う3番小隊副長、アーテ・ビスクドールにガンマの言伝を伝えに行った時の反応を想像すると今から胃が痛い。
しかも彼女が2番小隊の隊長、副長を毛嫌いしている事を知っているだろうに。
平時でさえ伝え方に悩む内容であるのにそれを頭に血が上った状態の彼女に伝えに行くこっちの身にもなってほしい。
下手をしたらその場で手足をバラバラにされ肉マリオネットにされかねない。
そんな秘書官の内心の葛藤を見透かしているかのように、ガンマは小さく笑みを浮かべて静かに彼女の様子を観察している。
3番小隊にどうやってガンマの言伝を伝えようか、ひとしきり秘書官がぐるぐると思考をめぐらせた頃間伐入れず次の問いが飛んできた。
「さて、次だ。ガスパロの後任候補選出の状況は?」
「はっ、まだ8番小隊内で意見がまとまっていないようです」
「遅いね。さっさと明日までに候補者を選定させるよう伝えておくれ。ここのところ失態続きだ、これ以上もたつくようなら解体も視野に入れるとも。最後に例の件は、どうなっているかな?」
天板に肘をつき、心なしか身を乗り出すガンマ。
やはり本題はこれか。
「引き続きフランシスカ隊長自ら率先して対応にあたっております。また、サンプルの拡散状況についておおむね計画どおり進捗していると報告を受けております」
「ふむ、いいだろう。そちらは引き続きエリスに一任する。ご苦労さま、下がっていいよ」
「はっ、失礼します」
定時報告を終えた秘書官が退室したあと、ガンマはくるりと椅子を回転させ立ち上がり背後の窓から、外を眺める。
上層区画(アッパー)は丘の上に位置し、この建物の最上階からはモスグルン全域の景色が広く見渡せる。
虚空を眺めるその瞳は、一体その先に何を映しているのか。
「フフン♪、フフフん♪~」
「これは珍しい。何か良い事でもありましたかな、ガンマ様」
窓の外を眺めながら、上機嫌で鼻歌を歌う彼女に背後から声をかける者があった。
その声の主は、秘書官と入れ替わりに重たい扉を開けて入ってきた人物。
前線の重装機銃隊のモノとはまた違う、ある種時代錯誤にも見える白銀の鎧と外套の男。
長く伸ばされたダークグレーの髪は獣の毛並みを彷彿とさせるうねりを帯びており、その眼光は鋭い。
身にまとう気配と相まって、どことなく狼のような肉食獣をイメージさせる精悍な壮年の男性である。
そして、腰には漆黒の鞘に収められた豪壮の長剣が一振り下げられている。
その姿はさながら主君に仕える騎士そのものである。
「あぁ、ヴァンダインか。いや、何ね。もうすぐ面白そうなイベントが開かれる予定でね。楽しくってつい」
ガンマはまたしてもクスリと笑みをこぼす。
彼女の言う『イベント』の正体知っている彼は、その光景に新しいおもちゃを買ってもらいはしゃぐ子どもの様な純粋さと、底知れない狂気を感じとった。
濃密な知性に散りばめられた純粋さと狂気。
彼女は自らの執り行う凶事に一片の疑念すら抱いていない。
真の天才の考えは凡人には決して理解することはできないのだろう。
「カイル・ブルーフォードですか?」
何かを確かめるようにあえてヴァンダインは尋ねる。
「あぁ、そうさ。未来のことは誰にもわからない、と皆口をそろえて言うけどね時間とやる気さえかければ私は大概のことは予測できるんだよ。もちろん神のお告げとか超能力とかそんな類のものじゃなくて緻密な計算で、だけどね。でも彼は、カイルだけはいつも最後には私の予測を覆してしまう。今回の件で彼は必ず帰ってくる。それは分かる。その後彼が一体どんな動きを見せててくれるのか、実に興味深いよね」
「となると奴のことです、きっと考えなしの行動ではない。計画の一端を掴めば、間違いなく我々の妨害に動くでしょう。計画に支障が出るようでしたら、私が直接出向きますが」
「フフッ、かつての戦友にして弟子を手にかけるのに躊躇いはないのかい?君は結構義理堅人情に厚い人物だと思っていたんだけど」
「昔の話です。我々に牙を剝くというなら、容赦なく斬ります」
ガンマの投げかけた挑発するような言葉に対して、彼は強気に答えた。
主の意思に呼応するかのように手甲越しに触れられた、長剣の柄に埋め込まれている漆黒の宝石が鈍く輝きを放ったような気がした。
「流石、それでこそヴァンダイン。主の命令は絶対というわけだ?でも、そんなにギラギラしなくていいよ。知っての通り私は彼をとても気に入っているんだ。しかも彼は大切な研究のパートナーでもある。だから出来る限り丁重に扱って欲しいんだ。それに、もしあのカイル・ブルーフォードが本気を、己の身を省みずに力を振るったとしたら、君は彼を止められるのかい?」
「カイルは私が斬ります。二言はありません」
一瞬の沈黙の後に、ガンマは高らかに笑いだした。
「それは頼もしい限りだね」
ひとしきり笑った後、ガンマはそう呟くとヴァンダインに背を向け再び窓の外の虚空へと目線を移した。
「さぁ、今回の駒は「ブリッツ(BLITZ)」、「スカル」、「フェンリル」。そして「カイル」に「エリス」に「ヴァンダイン」か………。さて、物語を創るのは一体誰の剣
か、フフ………とても楽しみだよ」
何かを思考しながら机上のポットに手を伸ばし、2杯目の紅茶をカップに注ごうとしたガンマの手が止まる。
3度目もノック、次の来客のようだ。
「・・・今日はやけに多いな。ヴァンダイン、代わりに聞いておいてくれないかな。私は飽きた、少し外す。...........そうだ、最後に1つ。例の法案の件、しっかり追い込んでおくれよ。ここまできて否決されたらお話にならない。そのためにわざわざミシュラン家にまでちょっかいを出したんだから」
「はい、心得ております。決議投票期日まであと僅か、引き続き彼に働きかけを続けるよう念をおしておきます」
「ん、じゃあ後は任せたよ」
ヴァンダインの回答に満足したのか、ガンマは再び鼻歌を歌いながら、面食らう来訪者と入れ替わりにさっさと部屋を後にした。
同じモスグルンには居れども「フェンリル」の本部にてこのような会話が行われていることをまだカイル達は知る由もないのである。
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~登場人物紹介~
・ガンマ・グレイブヤード(new):若くして「フェンリル」を統括する鬼才。
科学者も兼ねており、自ら魔術、化学、工業を
掛け合わせた魔導兵器等数々の発明品を考案。
・ヴァンダイン(new):ガンマの副官。カイルが抜けた1番小隊の隊長を兼任。
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